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鎌鼬{{かまいたち}}

これも、友達にお題を出され、辞書から適当に選んだキーワードを元に掌編小説を書いてみよう、という試みの一つでした。

「これ、何だ?」

と、古い研究室の中で、古谷が俺に向かって聞いた。研究室は、最近奇妙な亡くなり方をした畠山博士のもんだった。そして、かつて、独立するまでは助手をやっていた俺と古谷が、研究室の整理を頼まれたってわけだ。研究室は奇妙なもので埋まっていた。奇妙な書類、奇妙な剥製、奇妙な資料。全てに埃が積もっており、息するのもままならなかった。古谷が手に持っているのは、なにやら奇妙な動物の標本であった。

 俺は、資料の本の一つを叩き、埃を落とした。部屋中に埃が舞った。

「さあ、なんだろうな」

 ここの研究室を受け持っていた畠山博士は、まあ普通で言うところのような変人だったので、俺はあまり気にも留めなかった。俺たちが助手をしていた頃も、なにやら怪しい研究をしていたし。しかし、少しはその標本が気になり、俺は少ししてから見た。その標本は、まるでいたちのようであったが、何かが違った。爪は長く、鋭く、まるで何かを切り裂こうとしているように輝きを放っていた。標本は真新しく、最近作ったものらしい。俺は、標本のケースについていた汚い字で書かれた字を読み取った。

「か、鎌鼬?」

確かに鎌鼬と書かれていた。

「しかし何故?」

と、俺は独り言を言った。これは面白いジョークか? 鎌鼬といえば、三匹の妖怪。一匹目が風を起こし、二匹目が肉を切り裂き、三匹目が血が出ない余蘊に薬を塗る。風が吹いて人が傷つく現象をを、昔の人達はそうやって説明してきたんだ・・・・・・。でも、今は科学によって解明されたんだ。小型の旋風の中心部の真空地帯によって傷は出来るのだ。鎌鼬なんて存在しないはずなんだ・・・・・・。なら、この標本は何だ・・・・・・?」

「おい、黒川! 何やってるんだよ、仕事しろ仕事! 俺はこの研究所で弟子をしてたってことの所為で、独立しても就職に何年もかかったんだぞ! 変人の研究所出身だって事でな。だから、できることならこんな研究所には一分たりとも居たく無いんだよ!」

と、古谷が研究所の反対側から怒鳴った。

「そうか、すまんすまん」

俺はそう言ったが、ついその標本の周りにある資料に興味を持った。

 鎌鼬・・・・・・。資料には、有り余るほどの情報が、しかも最近のものがあった。俗に鎌鼬と呼ばれている旋風の中の、肉眼では見えない「実際」の状況の解説入り図解や、神話での鎌鼬の生態。寒冷になる地方の山間部を中心に、ほぼ全国で語られてきたつむじ風の中に潜み、人間を斬る妖怪。両腕が鎌。鎌鼬のほかに、構太刀、飯綱とも呼ばれることがある。傷は軽い切り傷から骨まで見える傷まで、様々らしい。下半身に傷を受けることが多く、鳥山石燕の妖怪絵では高い場所で回転しているものの、主に地面すれすれの場所に発生するらしい・・・・・・。

 ・・・・・・などなどと、それまでは俺だって少しは聞いたことがあった。しかし、驚きなのは、鎌鼬が実在して、博士は捕獲に成功したという記述だった。

「何だこれ・・・・・・」

と、俺は口から漏らさずにはいられなかった。

 まさか・・・・・・? いやいや、そんなはずがない。大体、言い伝えでさえ、鎌鼬は疾風の如く現れ消え、捕まえるなど不可能だろう。俺は寒気がした。後ろに振り返ったが、部屋の反対側には口笛を吹きながら仕事をしている古谷がいるだけであった。

「何だ、気のせいか・・・・・・」

とつぶやいて、俺はまたノートを見始めた。

 気になる記述がもう一つあった。早く他の二匹を捕まえないと大変な事になるという記述だった。三匹揃ってこその鎌鼬、揃わなければ大変なことになる、とノートにはそう書いてあった。

 俺は、ゆっくりと雑記のページをめくった。俺はぎょっとした。そのページには、真っ赤な血がページ全体にかかっており、下に書いてあった文章はとても読めたものではなかった。俺の背筋は、まるで凍ったようだった。まさか、書いている間に何か博士に起こったとか?

「いやいや、やはりどう考えても非現実的だ」

と、俺は自分に言い聞かせるように言った。

 大体、神だか妖怪だかわからないものに襲われるなんて、馬鹿げている。博士も、面白いことを書くなら、人の背筋を凍らせるようなことはしないで欲しい。それにしても、さっきからのこの寒気は何だろう? 振り返っても何かが居るわけじゃなし。だが、不安になった俺は、標本と資料を古谷に見せにいった。

「お前、仕事をせずにこんなものを見てたのかよ!」

「いや、そう言わずに。ちょっと見てよ。この雑記」

 古谷は俺にせがまれて、いやいや雑記を見始めた。俺と同じところで混乱した顔をし、鎌鼬の標本を見たりしてた。そして、最後の血のページではぎょっとしたが、

「まあ、博士のことだ、赤インクでもこぼしたんだろう」

と言って済ました。

「なあ、博士の死因ってなんだったか知ってるか?」

と、俺は恐る恐る聞いた。

「さあ・・・・・・確か、部屋で無惨に斬り捨てられていたらしいぞ。死体はばらばらになっていて・・・強盗のしわざって片付けられたがな」

古谷はぎょっとして俺を見た。

「まさか?」

 またしてもあの寒気がした。俺は後ろへと振り返ったが、何もいなかった。

「なあ、黒川・・・・・・俺ちょっと大学のキャンパスの方にいって、これを見せてくるわ。俺は雑記とかその他の資料を持つから、お前は標本を持っていてくれないか?」

「ああ、いいよ・・・・・・」

俺は標本を持ち上げた。見れば見るほど奇妙なものだ。よく見ると鼬の爪は少し赤みがかかっていた。博士は特別な保存液を使っていたから、普通のものじゃ何百年置いても色なんて絶対にかからないはずだ・・・・・・いや、待てよ! 確か博士は鉄には赤みがかかるといっていたな・・・・・・じゃあ、この標本の動物の爪には鉄が!? だとしたら、本物の鎌鼬か!?

「何だか寒気がするな・・・・・・」

古谷はそういい、後ろを振り返った。次の瞬間、何か閃光のような物体ぼ動きがあり、古谷の首は胴から離れ、部屋の反対側の壁へと飛んでいった。血が古谷の首から噴出し、古谷の胴体は崩れ、あたりは朱色で染められた。

 動きを止めた閃光は、二匹の鼬のような、ハリネズミのような毛皮を持った生き物に見えた。俺は何故か、一瞬にしてこの二匹は鎌鼬のもう二匹だと感じた。

「ギャルルルル!」

気味が悪い声をあげながら、鎌鼬の二匹は飛び掛ってきたが、さっきよりは断然遅く、俺は部屋を飛び出て廊下を走った。

 部屋を出る前に、残りの二匹は、まるで力を蓄えるかのように、古谷の死体を切り刻んで食べているのが見えた。走る俺にも構わずに。

「何なんだ、あの様子は・・・・・・もはや神などではなく、妖怪としても相当格が低い、ただの人食いだ・・・・・・」

 三匹揃わないとただの殺人妖怪になるのか? 確かに、博士はこの標本の一匹を殺してしまったために切り刻まれたのだし・・・・・・。

 俺は研究室の建物を出て、急いでキャンパスの道を走った。後ろで、研究室の棟が崩壊していくのが聞こえた。今日は休みのまっ最中であり、学生も教員もいなかった。俺は自分の鼓動が強く強くなるのがわかった。

「どうするんだ、俺!」

 俺はそう呟き、心臓が張り裂けそうになるほど走った。

 しばらく走り、俺はとりあえず建物の影に隠れた。標本を握った手は汗ばんでいた。少し静寂があって、聞こえるのは俺の息だけであった。気味悪い静かさだった。

「くそっ、あんなのが街に出て行ったら・・・・・・!」

 それ以前に、俺はこれからどうすればいいんだ!?

 俺はキャンパスの広場を見た。さっきの二匹が飛んできて、匂いですぐに俺の居場所がわかったらしく、俺の方へと向かってきた! しまった!

「うわっ、来るなあああ!」

 俺は叫び、逃げながら思わず標本を投げ捨てた。

 標本は鼬の一匹にあたり、その一匹はそのまま落ちて標本の下敷きになった。標本に当たった一匹は動かなくなった。死んでしまったのだろうか。

 最後の一匹は仲間の死体を見て、怒り狂ったかのように俺に向かって飛んできた。しかし、さっきとは違い、攻撃は一閃だったので、かろうじて最初の一発をかわした。

 しかし、飛んだ先はさっき投げ捨てた標本があった! 俺は転んだ。

 起き上がろうとすると、もうすでに遅く、鎌鼬の手の鎌は、深く深く俺の腿へと突き刺さり、太く温かい筋肉を両断した。鋭い激痛が俺の体中に走った。

「ぐわぁあああああああ!」

俺は悲鳴をあげた。痛さのあまり涙が出てきた。

 足の傷は出血が酷く、赤い血と肉の合間に骨まで見えていた。真っ赤な血がレンガ敷きの地面を染め上げた。

 俺は起き上がれなかった。

 最後の一匹の鎌鼬が、方向を転換し、俺に向かって飛んできた。そして、鎌は深く俺の頭に―――


 鎌鼬は、人を殺しても死んだ他の二匹が戻ってくるわけがなく、ただ永遠に殺戮を繰り返すだけとなった。残りの一匹は、広場に転がった男の無残な死体を後にし、気味の悪い声をあげながら街のほうへと飛んでいった。


お題はホラーで、キーワードは「和名」、「叩く」、「図解」でした。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、同じような企画で小説を書いている売国有罪という者です。僭越ながら感想を。  まず読んで思った事は、誤字が多い、という事です。ちょっとこれは多すぎます。文章作法も気になる質なの…
[一言] ぬーベー思い出しました。それの救いが無いバージョンでした。
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