「考察」 なぜ「漫画」や「アニメ」でなく「小説」なのか。
創作活動には数多のジャンルがありますが、自分の考えたキャラクターやストーリーを表現する手法としては「漫画」や「小説」が代表的だと思われます。
それらを公開する場も増えており、昔は個人のHPだったものが、今は「Pixiv」や「なろう」「Twitter」などに移り変わってきているように感じます。
特に、昨今は漫画・小説のアニメ化なども盛んであり、これらのSNS発の有名作品も出てきました。
さて。ここでタイトルのお題について。
このサイトを利用している我々は何故「漫画」ではなく「小説」を表現の舞台にしたのか。
そして、このサイトを閲覧している方々は何故「漫画」や「アニメ」ではなく「小説」を閲覧しているのか。
そんなことについて、ちょっとだけ自らの思いに賛同してくれる人がどれくらいいるのかな? と思ってこの文章を書いています。
優劣をつけるとか、問題提起をする意図は全くありませんので、あしからず。
表現者サイドの意図として、消極的なものの代表としては「絵がかけないから」というものがあるかもしれません。
それは技量的な問題もあるかもしれないし(私自身、そこまで絵が上手ではないので漫画を諦めたクチです)機材の問題もあるかもしれません。
例えば、アナログで絵を描くにしてもスキャナや画材、デジタルならばペンタブレットやドローイングソフトに金がかかります。初期投資としては、抜群に高くはないが安くもないです。
(例えばペンタブレットは最安価で一万。液晶タブレットクラスで十万~三十万。ドローイングソフトは、有名なクリスタで六千円程)
その点小説であれば比較的安価に始められます。私に至っては、初めからついている「メモ帳」を用いています。フリーソフトですらありません。
そして、小説を書く上ではPCスペックは要求されないので、PCの価格も抑えられます(ドローイングソフトだと一定のマシンパワーが必要となるので)
では、漫画を描ける環境にある作家は皆漫画を描くのでしょうか?
これについては、ある程度票の割れる質問になるのではないかと私は考えます。自分も、画力があったら漫画描いてたかもとは思いますし。
その根底にある考えの一つとして「小説よりも漫画のほうが情報量がある」とか「小説より漫画、漫画よりアニメのほうがいい」といったものがあるでしょう。
文字だけのもが小説、そこに絵を足して漫画、そこを動かして声とBGM付けてアニメ。みたいな。もっとも、アニメは個人制作は難題なのでここに並べるのが適切かどうかという問題もありますが。
主流の考えかどうかはさておいて、諸兄らにおいてもこのような意見は見かけたことがあるのではないでしょうか。
もっと身も蓋もない表現をすると「小説は漫画やアニメの下位互換」
この議論の是非はさておいて、今回は「じゃあ小説にしかないものって何よ?」ということでちょっと考えてみます。
繰り返しますが、別に優劣の決定や問題提起があるわけではなく「自分はこう考えてるんだけど、皆はどう?」くらいのゆるいスタンスなので、肩の力を抜いて読んでもらいたいのが実際のところです。
では一例として、いわゆる戦闘シーンの描写を以下に記してみます。
まあよくある主人公VS敵のボスみたいなものだと思ってください。
◇ ◇ ◇
例A
男は怒った。そして立ち上がった。そして右手の剣を上段から振り下ろした。
相手は盾を構えた。そして剣を防いだ。
◇ ◇ ◇
いかがでしょうか。
どちらかというと「これは小説じゃなくて、台本とかプロットじゃね?」といった感じですよね。
まあ我ながら簡略化しすぎたというか狙いすぎた感はありますが、こんな感じの小説もあるでしょう。
少なくとも、状況は把握できます。これだけでも、漫画やアニメは作れなくはないでしょう。(背景のストーリーがしっかりしている前提で)
ではこれを、ちょっとそれっぽくしてみます。
◇ ◇ ◇
例B
男は激情に駆られた面を上げ、絶鬼の如き表情を顔に貼り付け、右手に握られた玲瓏なる輝きを宿した剣を掲げ、神の鉄槌が如き一撃を振り下ろした。
相手は鋼鉄製の重厚で無骨で巨大な盾を構え、降り下ろされる天罰が如き一撃を受け止めた。
◇ ◇ ◇
漢字も増え、それっぽい表現も増えて、なんか小説っぽくなりましたね。むしろやりすぎたと思います、ええ。
でもやってることは例AもBと同じ、剣の攻撃を防いでるだけです。多分、漫画、アニメにしたら同じようなシーンになるでしょう。
なんなら、例Aの場合は(大迫力で)とか(集中線入れて)とか書いておけば十分絵には反映されるでしょう。
ここで、もう一つ同じようなシーンを描写してみます。
◇ ◇ ◇
例C
男は絶鬼の如き表情を湛えたまま面を上げた。そして、その右手に握られた剣で以って神の鉄槌を振り下ろす。
相手が巨大な盾を構える。玲瓏なる輝きを宿した剣とは対照的に鈍く光る鋼鉄製の盾に、天罰が如き一撃が突き刺さる。
◇ ◇ ◇
これも同じシーンです。剣を盾で防いだだけ。
じゃ、これらの違いって?
いろいろ変えちゃってるのですが、例BとCとで大きく変えたのは「音読したときの読みやすさ」を意図しています。
例Bの前半部は「~上げ、~貼り付け、~掲げ」と、母音の重複(え、の重複)があり、後半部は修飾語が連続していてなんか読みづらいです。
例Cは、文章をちょっと区切ってみたり、修飾語の場所を散らしたりして音読したときの違和感の軽減、この場合、母音が連続しないよう努めています。
また、剣の表現が後追いの形になっているので、前半を読んだだけでは普通の剣と盾なのですが、最後まで読むと「なんかすごそうな剣」と「鋼鉄の盾」っていう情報が後々付加されます。
こういった表現は、ある意味小説ならではなのではないでしょうか。流石に前半でモザイクつけて表現するなんて芸当はできないでしょうから。
という風に。
小説は漫画やアニメの下位互換ではなく、小説でしかできないこともあるんだよ的なことを言ってみたく例を並べてみました。
本当はもっと語りたいところもあるのですが、長くなってもしょうもないので今回はこれくらいにしておきます。
昨今の小説は、読みやすさを重視したものが多いといろいろ分析・評価されているようです。
コミカライズ、アニメ化の本数もすごいことになっているので、むしろアニメにしやすい作品を選んでいる=それが流行になっているという節もあるのでしょうか? ここいらについては流行に疎いのでちょっと分かりかねますが。
長々と述べさせていただきましたが、要するに、今時の若い感性についていけない老兵が「僕は小説に対してこんなこと考えてるんだけど、今でも賛同してくれる人っているかな?」という思いがあって今回筆を執った次第なのです。
老兵だから、こんなエッセイですら文章がきっと年寄り臭くなるのかもしれない。
何かご感想頂ければ幸いですし、連載小説のほうに興味を持っていただいて、それの感想を頂けましたらもっとうれしいです。
(最後の最後に結局宣伝です)