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ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
最終話 女神の名のもとに
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女神の名のもとに

 トライアンフは停止して車体前後の装甲が分かれる。その分割された前部が持ち上がった。車体を持ち上げているのは車体下部が変形した腕だった。先端に付いた巨大な手が地面を押して、ジャッキアップさせるように車体を持ち上げている。同時に車体後部も展開を始め巨大な脚部を形作った。手が伸びきりストロークが限界に達すると、背中に当たる位置から噴射されたバーニアと、脚部裏側から伸びて地面を押すシャフトが車体を立ち上がらせる仕事を譲り受けた。

 操縦席と火器管制室は水平を保ったまま左右に分かれ、その間に大きな空間が空き、上半身が百八十度回転、腕部が左右に回り、トライアンフの変形は完了した。脚部、腰部、腹部まで完全に人の姿を成し、操縦席と火器管制室が両肩内側の位置にある。そこから肩と腕が伸び、四肢を備えてはいるが、人の胸と頭部に当たる部分が抜け落ちた形体となっていた。


 ヴィクトリオンは加速を付けてジャンプした。空中で格闘形体に変形すると、バーニアを噴かしてトライアンフの胸に空いている空間に着地した。そこで脚部、腕部、頭部を畳み、ブロック状の形体に変形すると、右の操縦席、左の火器管制室が内側にスライドして、ヴィクトリオンを左右から挟み込むように接続した。

 トライアンフの腹部と背面から部品が展開してヴィクトリオンに被さった。背面から展開されたパーツには巨大な頭部が乗っていた。頭部のバイザーが開き、赤いツインアイが輝いた。


「接続、オールグリーン」

「駆動系、オールグリーン」

「火器管制、オールグリーン」


 モニターに表示されたチェックシートを確認して、啓斗(けいと)、ミズキ、コーディが言った。司令室のモニターにも合体状況チェックシートが表示され、


「全て問題ありません」


 目を走らせてチェックしたマリアがレイナに告げると、レイナは頷いて、


「完成! ヴィクトリオントライアンフ強化合体形体!」


 右手を水平に掲げて叫んだ。トライアンフとの合体を完了したヴィクトリオンは全身から駆動音を響かせて大地に立った。


「啓斗!」マリアの声で通信が入り、「町が狙われてる。またロケットを撃ち込む気よ!」

「させるか! コーディ!」


 啓斗が叫ぶと、コーディは、


「カノン砲照準オーケー!」


 コンソールを操作して、そう返した。


「発射!」


 啓斗はトリガーを引いた。合体したヴィクトリオン右脚脛部に展開されたカノン砲が火を噴き、砲弾がジェノダイザーに命中した。被弾したジェノダイザーは大きく仰け反り、臨時救護所を狙っていたロケット弾は大きく目標を外し、虚空に向かい飛んでいった。


「やった!」啓斗は叫んで、「このまま行く! ミズキ!」

「了解! 前進オーケー!」


 ミズキの声を聞いて啓斗がスロットルを捻ると、合体した巨大ヴィクトリオンは大地を踏みしめ、ジェノダイザーに向かって走り出した。


「啓斗」レイナの声で通信が入り、「もう分かってると思うけど、ミズキとコーディは啓斗の補助をするだけよ。ヴィクトリオン強化合体形体になったことで、トライアンフ側の武装にもブルータルエフェクターが作用してるわ。ブルートに効果を発揮出来るようになった代わりに、ヴィクトリオン強化合体形体は啓斗にしか動かせないの。全ての決定権は啓斗にあるのよ」

「了解」啓斗は答えて、「レイナさん、ヴィクトリオン強化合体形体、っていう呼び名、長すぎませんか?」

「そうね、じゃあ啓斗が命名して、これは啓斗の機体なんだから」

「俺が? 分かりました……じゃあ、〈スーパーヴィクトリオン〉でどうですか?」

「受理したわ。ヴィクトリオン強化合体形体を今後、スーパーヴィクトリオンと呼称する」


 レイナの声はメンバー全員に通達された。


 片足を後ろに引いてカノン砲の直撃に踏ん張ったジェノダイザーは、ゆっくりとその体勢を戻しつつあった。


「ぶちかますぞ、ミズキ!」

「了解!」


 啓斗とミズキが通信して、スーパーヴィクトリオンは大地を蹴り、空中で背中のバーニアを噴かしながら右足を振る。繰り出された蹴りが、体勢を立て直しかけていたジェノダイザーの胸板に命中して後ろに蹴り倒した。


「追撃する!」


 啓斗は着地したスーパーヴィクトリオンを倒れたジェノダイザーの真上に跳び上がらせた。ジェノダイザーは背中と足裏のバーニアを噴かして地面を滑るように移動し、スーパーヴィクトリオンの足はアスファルトの路面を踏み砕いた。ジェノダイザーはそのまま起き上がり、十数メートルの距離を置いて二機の巨大ヴイメックマシンは対峙した。


 ジェノダイザーが先に動き、踏み込みながら右手の刃を振り下ろした。スーパーヴィクトリオンは機体を斜にしてその一刀を躱すと右腕を上げた。握った右拳に複数の突起が付いた前腕アーマーの一部が被さった。


「くらえ!」


 啓斗が叫びながら繰り出した拳はジェノダイザーの頭部にめり込み、クレーター状に頭部を穿った。


「コーディ! カノン砲!」

「オーケー!」


 啓斗とコーディのやりとりが終わると、スーパーヴィクトリオン右脚脛部のカノン砲が展開され、ジェノダイザーの胴体を下から狙う形になった。


「いけ!」


 啓斗がトリガーを引くとカノン砲が火を噴き、発射された砲弾はアッパーカットのように下からジェノダイザーを撃ち上げた。衝撃で宙に浮いた巨躯を、スーパーヴィクトリオンはさらに右脚で蹴り上げた。ジェノダイザーは放物線を描いて後ろに吹き飛んだ。

 回転して宙を舞いながら、ジェノダイザーは人型から恐竜型に変形し、ティラノサウルス型に姿を変えて着地した。着地と同時に抉るように地面を蹴って、ジェノダイザーは頭部を低くした前傾姿勢で突進する。


「うわぁー!」


 コクピットを衝撃が襲い啓斗は叫んだ。ジェノダイザーは首を横に倒して、鋭い牙が並ぶ巨大な口でスーパーヴィクトリオンの胴体に噛みついた。ジェノダイザーの勢いは止まらず、顎で咥えたままスーパーヴィクトリオンを押して突進を継続させる。


「コーディ!」

「分かってる!」


 啓斗の声に、コーディは右足脛部のカノン砲と左脚脛部のガトリング砲を同時に展開した。が、ジェノダイザーは恐竜の前足を伸ばしてカノン砲とガトリング砲の砲身を掴むと、自分から射線を逸らさせるように強引に銃口を外側に向けた。カノン砲が火を噴いたが、砲弾はジェノダイザーを逸れて空に向かって放たれた。ガトリング砲は砲身を強く握られているため、回転することが出来ずに不発に終わっていた。


「向こうの力のほうが強い!銃身を戻せない! 啓斗!」

「それなら!」


 コーディの声に、啓斗はスーパーヴィクトリオンの両手を、腹部に食らいつく恐竜の顎の隙間に入れて上顎と下顎を開きにかかった。


「ミズキ!」

「大丈夫、いける!」


 啓斗とミズキの通信がされる間に、スーパーヴィクトリオンの手で左右に開かれるようにして、徐々に上顎と下顎の間隔は離れていく。


「なにぃ?」


 啓斗が叫んだ。突如、ジェノダイザーの両顎は変形を開始し、人型形体の両腕に変化した。そのまま、手首でスーパーヴィクトリオンの前腕を掴み取り、左右に広げさせた。両腕以外の部分も変形し、ジェノダイザーは再び人型形体へと変形を遂げた。恐竜形体の前足は人型形体の腰に位置し、カノン砲とガトリング砲を掴んでいるままだった。

 スーパーヴィクトリオンは両腕を掴まれて左右に開かれ、身動きが取れない体勢にさせられていた。


「啓斗!」


 ミズキが叫んだ。ジェノダイザーのひしゃげた頭部の向こうから、恐竜の尾の先端部だった部品が持ち上がり、スーパーヴィクトリオンを向いた。その先端は穴が空いており、明らかに銃器の砲門を思わせた。


「させるか!」


 啓斗は合体ダイヤルを解除に回した。頭部から胸部を形成していた上下のカバーが開かれ、コアのヴィクトリオンが露わになった。啓斗がさらに変形ダイヤルを回すと、ヴィクトリオンの上半身が変形した。啓斗は、さらにスロットルを操作し、ヴィクトリオンはその両腕を前方に、ジェノダイザー頭部の上に掲げられた砲門に向けた。啓斗がトリガーを引くと両前腕部のマシンガンが唸り、撃ち出された銃弾が向けられていた砲門を破壊した。


「コーディ! 武器を! でかいやつ!」


 啓斗は叫んで、ヴィクトリオンの下半身も変形させて跳び上がった。


「ロケットランチャーを!」


 コーディは、スーパーヴィクトリオン左脚外側のウエポンベイからヴィクトリオン用ロケットランチャーをアームで真上に投擲した。ヴィクトリオンは空中でそれを受け取り肩に担ぐと、真下に位置するジェノダイザーに向けてトリガーを引く。ランチャーは装弾されていたロケット弾五発を全て吐きだした。ジェノダイザーは被弾し、頭部は破壊され、肩口から火柱が上がった。

 ヴィクトリオンはランチャーを投げ捨て、


「コーディ! 他には? 剣とか」

「あるよ!」


 啓斗の要請でコーディは、続いてヴィクトリオン用の剣を投擲した。滞空中に剣を受け取ったヴィクトリオンは逆手に持った剣を、ジェノダイザーの上半身に着地すると同時に突き立てた。


「うおぉ!」


 啓斗は、そのまま剣でジェノダイザーの機体を斬り裂きにかかる。ジェノダイザーは機体の各所から火花を散らし、小さな爆発も起こり始めた。

 ジェノダイザー背面、人の首の裏に当たる場所でハッチが開き、中からシャークブルートが跳びだしてきた。


「逃がすか!」


 啓斗はヴィクトリオンのキャノピーを開き空中に躍り出た。懐から通信端末を取り出して、


「マリア! 剣を!」

「右に!」


 啓斗の通信を聞き、マリアは剣を転送した。端末を投げ捨てた啓斗は、落下しながら自身の右側に転送された剣の柄を握ると、両手に構えて大きく背中に振りかぶった。

 シャークブルートは、落下してくる啓斗に気が付いたように背後を振り仰いだ。


「がはぁっ!」


 振り仰ぐと同時に、シャークブルートは叫び声を上げて脳天から股の下までを両断された。足元には、シャークブルートの立つジェノダイザー機体表面に高周波振動で震える剣先を付けて、大きく足を開いて屈み込んでいる啓斗の姿があった。

 ジェノダイザーがゆっくりと後方に傾いでいく。二つになったシャークブルートの体は、機体表面を転がり落ちながら空中に放り出され、青白い光に包まれて爆散した。

 啓斗がコクピットに戻ったヴィクトリオンは剣を離し、倒れていくジェノダイザーの機体を蹴って、スーパーヴィクトリオンの胸部空間へと戻った。


 ジェノダイザー・テラーファングは炎を上げ、小さな爆発を繰り返しながら廃墟の中に崩れ落ちた。

 啓斗はヴィクトリオンを再びスーパーヴィクトリオンへと合体変形させると、


「ミズキ、コーディ、最後だ」


 そう言って、スーパーヴィクトリオンの頭部を仰角に向けさせた。そのツインアイのメインカメラが捉える先には、廃墟上空に浮かぶブルート輸送船があった。


「行けるか? コーディ」

「オーケー、射程内だ」


 啓斗の声にコーディは答えて、右脚のカノン砲の狙いを輸送船に付けた。


「発射!」


 啓斗はトリガーを引き、カノン砲から砲弾が連続発射された。砲弾は輸送船のエンジン部に着弾し、輸送船は火を噴きながらゆっくりと高度を落とし、町から離れた荒野に墜落した。燃え上がる炎と沈みゆく夕日が、輸送船の残骸を赤く照らし上げた。


「啓斗」

「啓斗」


 右肩の操縦席からミズキが、左肩の火器管制室からコーディが、それぞれ微笑みながら通信で声を掛けた。啓斗は左右を見て、


「ミズキ、コーディ、ありがとう」


 そう言葉を返して微笑んだ。


 炎を上げて燃えさかるジェノダイザー。その横に立つスーパーヴィクトリオン。その姿を、町にいる誰もが見上げていた。町の人たちからは歓声が上がり、カズヤ、トモキと少年たちは抱き合って喜びを露わにしていた。瀬倉(せくら)はアヤと強く手を握り、微笑み合った。



 ヴィーナスドライヴのメンバーは臨時救護所に集合していた。カスミはソーシャと握手を交わし、ルカは泣きじゃくるアイリを抱きしめていた。タエもクミ、ミサ、コトミの三人を抱き寄せ、一緒になって泣いていた。リノはジュリの肩を叩いて微笑み、ジュリは照れくさそうにリノに向かって微笑みを返した。アキは、泣きながら抱きついてくるチサトを笑いながらなだめたあと、救護所まで来ていたヘッドクオーターズに向かい司令室に入った。

 司令室では、運転席から出て来たスズカを加え、マリア、サヤの三人が抱き合い、泣いていた。


「レイナ!」


 アキはレイナに声を掛けた。レイナはメインモニターを見上げて、アキに背中を見せていた。レイナは右手を顔に持って行く仕草をすると、振り返った。その表情は笑顔だった。払った右手の指から滴が床に落ちた。


「アキ……」


 レイナはアキの名を呼んで微笑み、アキも安堵したような表情を浮かべた。



「レイナ」


 カスミがレイナの部屋のドアを開け、顔を覗かせて呼んだ。


「カスミ」レイナはパソコンに向かってキーを叩きながら、「ノックくらいしてよね」

「早く来なさい。みんな待ってるわよ。ていうか、本当は待ってない。勝手に始めちゃった」

「いいじゃない」


 レイナはパソコンのディスプレイから視線を外さないまま言った。


「早く来ないと、お酒も料理もなくなっちゃうわよ。町の人たちも色々持ってきてくれて一緒に騒いでるから大丈夫だとは思うけど。アキは飲むし、ジュリとソーシャは食べまくってるわよ」

「ええ、日誌を書き終えたら行くわ」

「早くしてよね。司令官がいないと格好つかないから」

「カスミ」


 レイナは、顔を引っ込めかけたカスミを呼び止めた。


「何? ――うわっ」


 カスミはレイナに腕を取られ、部屋に引き込まれた。

 そのままレイナは体を密着させ、カスミの唇を自分の唇で塞ぐ。


「ん……レイナ……」


 カスミはまぶたを閉じて、レイナが抱きついてくるに任せた。


「カスミ……」ほどなくして唇を離したレイナは、「ありがとう」


 そう言って、赤い顔で微笑んだ。カスミも笑みを返し、


「その言葉、みんなに言ってあげてよ。特に、啓斗に」

「うん」

「啓斗にも、同じことしてあげたら?」

「バカ……」


 レイナは、はにかんだような笑みを漏らした。カスミはレイナの頬にキスをして、


「そうそう、啓斗が言ってた」

「何を?」

「シャークブルートを倒すところ、レイナにも見せたかったって。啓斗、ヘルメットしてなかったから、シャークを倒す瞬間の映像が残ってないの。啓斗、悔しがってたわよ」

「そう……」

「やっぱり、残念?」

「……ううん」レイナは首を横に振って、「いいの、もう」

「そう」

「うん、行こう!」


 レイナはカスミと一緒に部屋を出た。

 部屋のテーブルに残されたパソコンの隣には写真立てが置かれていた。ディスプレイには、レイナが書いた日誌の文面が映し出されている。



 私が戦う目的は何だろう。復讐だったのだろうか。それが果たされた今、私は何をして、何のために生きればいいのだろうか。

 答えは、仲間たちが教えてくれた。


 みんな、大切な誰かを戦争で、ブルートによって奪われている。彼女らの胸にも、復讐の炎が燃えさかっているのだろうか。

 私は違うと思う。みんな、誰ひとりとして、ブルートに対する復讐の言葉を口にしたものはいない。胸に秘めているのだとしても、それを表に出さないというのは、それが自分を突き動かす動機ではないと分かっているからではないか?


 もし、私たちのこの旅が、ひとつの物語であったとしたならば、それは決して復讐の物語ではない。

 どんな苦境にも弱音を吐かず、笑顔で明日に向かって歩き続ける、希望の物語であるはずだ。

 私たちは〈ヴィーナスドライヴ〉

 誰かの笑顔を守るために、悲しい涙を拭うために、人間の自由と平和のために、女神の名のもとに戦い続ける戦士。


                                            おわり

主要参考文献


「ゲームシナリオのためのミリタリー事典」 坂本雅之(著) ソフトバンククリエイティブ

「ゲームシナリオのためのSF事典」 森瀬 繚(監修) クロノスケープ(著) ソフトバンククリエイティブ

「最先端未来兵器完全ファイル」 竹内修(著) 笠倉出版社

「図解 戦車」 大波篤司(著) 新紀元社

「図解 ヘビーアームズ」 大波篤司(著) 新紀元社

「図解 軍用車両」 野神明人(著) 新紀元社

「カラー図鑑 兵器のギモン100」 白石光 大久保義信 坂本明 おちあい熊一 K.Numata(著) Gakken

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