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ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
最終話 女神の名のもとに
69/74

決戦開始

「でも、どうして、わざわざジェノダイザーを輸送船に乗せて、上空から飛来なんてしたんでしょう?」


 マリアの疑問に、レイナは、


「急襲するためよ」

「急襲?」

「そう、普通にジェノダイザーで町に侵攻したら、あんな巨大なもの、すぐに気付かれて住人に避難する時間を与えてしまうわ。避難する間を与えずに町を攻撃するには、一旦大気圏外に脱出して直上から飛来すればいい」

「なんてこと……」


 マリアは強ばった表情で、モニターに移るジェノダイザー・テラーファングを見た。


「本来なら」と、レイナは続けて、「もっと町を復興させてから襲うつもりだったんでしょうね。そのために、シャークは都市再生委員会に身を置いた。全ては自分の欲望を、多くの人が暮らす町を巨大機動兵器で蹂躙するという欲望を満たすために」

「なんてやつなの……」


 それを聞いたサヤが呟いた。


「レイナ!」アキが叫び、「トライアンフとハンガーを現場に!」

「そうね。アキ、ハンガーを頼むわ」

「了解」


 アキは司令室を出た。


「リノ」


 レイナの声はトライアンフ操縦席に通じ、


「レイナ」リノの声が返ってきて、「出るのですね」

「そうよ、ハンガーについていって」

「了解ですわ」


 リノはトライアンフのハンドルを握った。



「チサト!」

「師匠、いつでも出られますよ」


 ハンガーの運転席に跳び込んだアキが言うと、即座にチサトの声が返ってきた。


「じゃあ、すぐ出ろ!」

「了解っ!」


 チサトはアクセルを踏み込みハンガーを発進させた。その後ろからトライアンフが続く。

 司令室のモニターに、走り去るハンガーとトライアンフの後部が映った。


「頼むわよ……」レイナはそれを見送ると呟いて、「スズカ!」

「はいよ!」


 運転席から返ってきたスズカの声に、レイナは、


「ヘッドクオーターズも出るわ。カスミたちの援護に向かう」

「オーケー! そうこなくっちゃ!」


 ヘッドクオーターズ運転席でスズカはハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。


「レイナ」レジデンスにいるルカから通信が入った。「ヘッドクオーターズも出るのね」

「ええ、レジデンスのこと、みんなのこと、頼むわよ」

「レイナ!」

「レイナ!」


 クミとコトミの声が聞こえ、


「……レイナ」


 遅れてミサの声も続いた。


「みんな、いい子にするのよ。タエの言うことをよく聞いて――」

「変なこと言わないで!」


 クミの叫び声がレイナの言葉を遮った。


「レイナ、もう帰ってこられないようなこと言わないでよ……」


 続いたクミの声には、すすり泣く音が混じっていた。


「ごめん……」


 レイナは俯いて謝った。


「レイナ」タエの声が入り、「いい材料が手に入ったから、うまい夕食作って待ってるよ」

「ええ。そうだ、タエ、盛大にパーティーにしましょうよ。町の人たちも呼んで」

「いいね。祝勝パーティーってことだね。じゃあ、いつも以上に腕を振るわなくっちゃ」

「そう、楽しみにしてるわ」

「レイナ!」アイリの声がして、「あのね、その……わ、私……」

「ありがとう、アイリ」レイナは微笑んで答えると、「みんな、ちょっと行ってくるからね」

「レイナー!」


 コトミたちの声がヘッドクオーターズを見送った。

 レジデンスとの通信が切れると、サヤが、


「レイナ」

「どうしたの? サヤ」

「私も、行っていいんだよね」

「当たり前じゃない。頼りにしてるわ」

「……うん!」


 サヤは、コンソールを向いたまま笑顔で答えた。



 ジェノダイザー・テラーファングは咆哮を上げると地面を踏み、ゆっくりと前進を開始した。路上に乗り捨てられた車を、街灯を蹴散らし、アスファルトに亀裂を走らせながら進む。足を踏み出すたびに揺れる長い尾が左右にせり建つビルにぶつかり、砕かれたガラスやコンクリート片が路上に降り注ぐ。ジェノダイザーの進路は多くの人が住む居住地域に向かっていた。


啓斗(けいと)!」カスミが叫んで、「啓斗はヴィクトリオンに! 今、アキたちがハンガーで運んでるわ。早く合流して!」

「でも、あいつは?」


 啓斗は、迫る恐竜型の機動兵器を指さした。


「何とかするわ! 早く!」

「分かりました。気を付けて、みんな!」


 啓斗はそう言うと大きく手を振った。カスミたち五人も手を振り返したのを見届けると、啓斗は端末のディスプレイを見て走り出した。〈3〉と〈13〉アキとチサトのパーソナルナンバーが重なった緑色のマーカーの方角に向かい、ビルの間の狭い路地に飛び込んだ。


「カスミ! 何とかするたって、どうするの? あれ?」


 ミズキが後退しながらアサルトライフルのトリガーを引いて訊いた。コーディたちも同じように射撃を開始するが、銃弾はジェノダイザーの機体に到達する前にバリアで弾かれている。


「あそこまで走って!」


 カスミは、ジェノダイザーの進行方向に見える、道路側に大きく傾いているビルを指さした。

 ミズキたちは射撃をやめて走り出す。カスミは、


「早く! 追いつかれるわよ!」


 ジェノダイザーは足を踏み出すサイクルを上げ、歩行から走行へと徐々に加速しつつあった。その巨大な足が路面を踏みしめるたび、アスファルト片が舞い、車は跳ね、街灯は倒れる。

 カスミたちは、敵機動兵器が鳴らす轟音の足音に掻き消されないよう、叫ぶほどの声のボリュームで会話をしていた。

 ミズキたちは、カスミが指示した傾いたビルの中に滑り込んだ。殿(しんがり)を務めていたカスミが最後に到着すると、


「ありったけの手榴弾を出して!」


 ミズキたちは腰に提げたホルダーから手榴弾を取り出した。



「アキ、そっちの道はトライアンフでは無理ですわ!」


 リノがハンガーに通信して言った。先行するハンガーが通ろうとしている道には、道路を横断した頑強そうな歩道橋が架かっていた。車高の高いトライアンフがくぐり抜けるのは不可能な高さだった。


「私は迂回して行きます」

「わかった」


 リノの通信にアキが答えた。ハンガーはそのまま歩道橋をくぐり、トライアンフは右折して別の道を走行した。時折自動車とすれ違い、道の左右には逃げ惑う人々の走る姿が見える。



「せーの、で行くわよ……」


 カスミたちは傾いだビルの一階に並び、手榴弾を構えていた。


「ねえ、どこに投げればいいんだ?」


 ソーシャが訊いてきたが、カスミは、


「そんなの考えてる暇も、計算してる暇もないわ、柱の辺りに適当にばらまいて!」

「りょーかい!」

「いい? せーの!」


 カスミの号令で、五人は一斉に手榴弾を起動させて周囲に放り投げると、出入り口に走った。カスミとコーディは、さらに手榴弾を数個ばらまきながら走っていた。


「逃げるわよ!」


 ビルから飛び出たカスミたちは、ジェノダイザーの進行方向に向かって走り出した。


「ビルの中にいる間に、かなり距離を詰められたな」


 走りながらコーディが振り向いて言った。


「間に合って!」


 ミズキが祈るような声を出した、その瞬間、五人の背後で爆発音が響いた。カスミたちが手榴弾をばらまいたビルが道路側に倒壊し、反対側のビルにぶつかって止まった。それはちょうどジェノダイザーの進路を塞ぐ形になり、目の前に倒壊してきたビルにジェノダイザーは鼻先をぶつけた。

 カスミたちは立ち止まり、振り向いてその様子を目にすると、


「やった!」ジュリが拳を握った。


「喜んでもいられないわ! もう私たちは丸腰なのよ。ヘッドクオーターズまで武器を取りに行くわよ」


 カスミは叫ぶと、他の四人とともに再び走り出した。


「カスミ!」


 走りながらミズキが上空を指さした。そこには、地上十メートル程度の高度を飛行する物体があった。


「あれは、ブルート?」

「ビートルだ!」


 同じように見上げて、カスミとコーディが叫んだ。


「あの輸送船から出て来たみたい」ミズキが言った。


「どこへ行くんだ?」


 ジュリの疑問には、カスミが、


「もしかして、啓斗のところに……」



「?」


 走りながら啓斗は、背後上方から聞こえる風切り音を耳にして振り向き、


「なにぃ?」


 そう叫ぶと、急停止してその場に伏せた。

 急降下しながら振り下ろしたビートルブルート右腕の角が、啓斗の頭上を振り抜けた。

 ビートルは羽を閉じると着地して、啓斗に相対した。


「マリア! 剣を!」


 啓斗が通信すると、右に剣が転送されてきた。踏み込みながら叩き付けてきたビートルの角を啓斗は握った剣で受けた。啓斗は角を払い、両手で柄を握って真横に剣を振った。が、刀身は、ビートル左腕前腕にある甲虫の外装のような形状をした小さな盾で防がれた。


「くそ、どけ!」


 啓斗は剣を構えながらビートルの横を走り抜けようとしたが、ビートルは素早く横に跳んで啓斗の進路を塞いだ。



 倒壊したビルに進路を塞がれたジェノダイザーは、二、三歩後退して停止すると、機体表面に幾つもの光の筋を走らせた。恐竜型の頭部は上顎と下顎で上下に分割され、上顎が右側、下顎が左側に首の付け根の胴体部ごと開くように移動して、人の両腕のような形を成した。恐竜の足は爪が折りたたまれるように変化して、膝から下の脛部のようになり、その上に繋がっていた恐竜の胴体後部も分割されて大腿部を構成した。長い尾も折りたたまれ、恐竜胴体の一部とともに人の胴体の形に変化していく。最後に頭部がせり出し、ジェノダイザーはその姿を変えた。


「あ、あれ!」

「変形した……」


 走りながら視線を後方に向けて、ソーシャとジュリは指をさした。

 恐竜型から人型へと変形したことにより全高を増したジェノダイザーは、その右腕を頭上に掲げた。右腕前腕の恐竜の上顎だった部分から、剣のような刃がせり出すと、その刃を進路を塞ぐビルに向けて斬りつけた。ビルは真っ二つに折れ、辺りに轟音を響かせながら塵芥と化し、道路に散らばった。

 ジェノダイザーはそのまま直立した姿勢になり、肩口のハッチを展開させた。そこに開いた穴から、発射音とともに何かが射出された。


「しまった!」


 カスミはその飛翔物を見送った。それは、


「ロケット弾?」


 同じように見送りながらミズキが叫ぶ。ジェノダイザーから発射されたロケット弾は、人が住む居住区方向へ向かって飛んでいき、中層程度のビルに命中した。ビルの壁が弾け、飛び散ったコンクリート片が落下していく。


「急ぐわよ!」


 カスミを先頭に、ミズキたちはヘッドクオーターズへ向けて足を速めた。



「レイナ!」ルカの声で通信が入り、「今の音は?」

「ジェノダイザーがロケット弾を撃ってきたわ」

「町に?」

「ええ、そうよ……」


 レイナは答え、外部カメラが捉えた町の様子が映るモニターを見ながら苦々しい表情になった。映像には、降り注いだ瓦礫の中を走り回る人々の姿が映し出されている。


「スズカ、急い――」

「レイナ!」サヤの声がレイナのそれに被り、「二発目が!」

「なに――」


 レイナが言い終えぬうちに、轟音がヘッドクオーターズの車体を揺らした。ジェノダイザーが放った二発目のロケット弾が町に着弾した音と衝撃だった。


「レイナ!」運転席からスズカの声が入り、「瓦礫で進路を塞がれた。迂回する!」


 スズカはハンドルを切った。

 レイナはマップ画面となっているメインモニターを見た。カスミたちとの距離は一向に縮まっていない。レイナは拳を握ると、軽くテーブルを叩いた。


「レイナ」再びルカの通信が入り、「私たちも行くわ」

「ルカ! あのね――」

「市民の救助とか、避難誘導とか、何か出来ることはあるわ。もう向かってるからね。それじゃ」


 レイナに何も言わせないうちに、レジデンスからの通信は切れた。



「やっぱり駄目だ、師匠」


 ハンガー動力部のハッチを開けて顔を突っ込んでいたチサトは、顔を引き抜くなり言った。


「くそ……」


 それを聞いたアキは舌打ちをした。

 ハンガーは、ビルから剥がれ落ちて落下した瓦礫に正面から衝突してしまい、動かなくなっていた。外に出て処置を施そうとしたアキとチサトだったが、エンジンが完全にやられ、ハンガーは走行不能状態に追いやられてしまっていた。


「チサト、来い!」


 アキはハンガーの格納庫に入ると、後部ハッチを開けてスロープ状に地面に倒した。そして搭載されているヴィクトリオンの運転席キャノピーを開ける。


「師匠、ヴィクトリオンは啓斗にしか」

「分かってる、だから……」コンソールを操作していたアキは運転席から出ると、ヴィクトリオンの後方に走り、「タイヤをニュートラルにした、私たちで押していくんだよ」


 そう言ってヴィクトリオンの背面に両手を付け、格納庫の床に足を踏ん張った。


「よ、よっしゃ!」


 チサトもアキの隣に走り、同じようにヴィクトリオンを押し始める。


「とりあえず、スロープまで押せば、転がって外に出せる……」

「ぐぐ……」


 アキとチサトは歯を食いしばりながら全体重をヴィクトリオンに掛ける。ヴィクトリオンのタイヤは、ゆっくりと回り始め、格納庫の床を転がった。

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