表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
第12話 セクシャルヴィーナスナンバーワン
60/74

セクシー番長決定戦

 町には日が暮れる前に着いた。郊外にハンガーとトライアンフを残し、ヘッドクオーターズとレジデンスの二台に分乗して、レイナたちは町の出入り口に向かった。


「今夜は、久しぶりに店を開けるわよ」


 レジデンスの食堂でレイナは皆に宣言した。ヘッドクオーターズには運転手のスズカとマリアの二人だけを残し、残りのメンバーは全員レジデンスに搭乗していた。


「よし!」と、ジュリは拳を握り、「久しぶりに呑むか!」

「お前が呑んでどうする!」


 チサトはジュリに突っ込んだ。


「えーと、今日の店番は……」


 そう言ってカウンターの中に貼ってあるスケジュール表に目をやったタエに、リノが、


「今夜は、別働隊だった私たちが店に出ますわ。久しぶりですし」

「おお」と、チサトも、「それはいいね」

「私は厨房に立ちます」アイリが言った。


「ソーシャも、いい?」


 リノがソーシャに訊くと、ソーシャは、「もちろん!」と答えた。


「そうと決まれば、さっそく準備だ」


 ジュリは椅子から立つと共同の更衣室に向かい、そのあとからソーシャ、チサト、リノ、と続いた。アイリはタエ、クミ、ミサ、コトミと一緒に厨房に向かう。アキは、


「酒の補充が必要だな。ちょっと買ってくるか」


 酒棚を見回して呟いた。



 レジデンスは町の出入り口付近に停車し、メンバーは開店準備に取りかかった。


「さあて、仕事、仕事」


 そう言いながら、更衣室からジュリが店舗に変わりつつある食堂に姿を見せた。


「ジュ、ジュリ?」


 啓斗(けいと)は、出てきたジュリを見てカウンターを拭く手を止めた。ジュリは丈の短いホットパンツを履き、上半身はカラフルなビキニブラジャーのみという格好だった。


「おお、啓斗」ジュリは啓斗の前で立ち止まり、その場で一回転して、「どう? これ」


 くびれたウエストに手を置いて訊いた。


「そ、その格好で接客するの?」

「そうだけど、何か問題ある?」ジュリは小首を傾げた。


「相変わらずね、ジュリ」


 と啓斗の後ろでテーブルを拭いていたカスミが笑って言った。


「カスミも、こういうのにすればいいのに」と、ジュリは、「カスミだけじゃなくてさ、みんな、せっかくいいボディしてるんだから、ゆったりした服やスーツで隠してちゃ、もったいないよ。ねえ」


「え?」突然ジュリに話を振られた啓斗は、なおざりな手つきでカウンターを拭きながら、ジュリの体に向けていた視線を上げ、「な、何が?」

「啓斗も、そう思うでしょ?」

「……な、何が?」

「もう、話、聞いてた? ヴィーナスドライヴはスタイルのいい美人揃いだから、みんな私みたいな服で接客したほうがいい、って言ったの」

「そ、そう、だね……」

「あら、啓斗はビキニ容認派なの?」


 カスミが訊くと、啓斗は、


「い、いえ! 容認とか、そういうんでなくて……」

「ダメよ」カスミは啓斗とは違い、手際よくテーブルと椅子を拭き終えるとカウンターの中に向かいながら、「いかがわしいお店みたいになっちゃうじゃない。レイナが、いいって言わないわよ」

「いかがわしい、って……そういうことを考えるのが、いかがわしいよ。ファッションじゃんか、ねえ」

「え?」啓斗は、またしてもジュリに振られると、ジュリの体から視線を上げて言った。


「啓斗」流しで布巾を洗いながらカスミが、「早くカウンター拭いちゃって」

「あ、は、はい!」


 啓斗は、摩擦熱が起きるかという勢いでカウンターの上で布巾を往復させた。


「いよう、コーディ」


 ジュリが、外から店舗に入ってきたコーディに声を掛けて手を上げた。


「ジュリ、お前……」店番ではないため、いつもの作業着姿のコーディはジュリの姿を見て、「相変わらずだな」

「ねえ、コーディも付き合ってよ」


 ジュリはブラの肩紐を摘んで持ち上げた。


「私は、もう、そういうのやめたの」


 コーディはカウンターに肘を突いて言った。


「そういえば、コーディも前は、ジュリみたいな格好で店に立ってたのよね」


 カスミが言うと、啓斗が、


「え? そうなんですか?」


 コーディを向いて訊いた。コーディは、


「ああ、そうだよ。やめたっていうか、レイナにやめさせられたんだ」

「どうしてですか?」

「私みたいな金髪女性がビキニ着てると、必要以上に扇情を煽るから、だって」

「コーディはさ」と、ジュリは組んだ腕をカウンターに置いて、「エロいんだよ」


 そう言って笑った。ジュリが前屈みの体勢になりカウンターに体を預けると、ビキニに包まれた胸が腕に被さるようにカウンターテーブルに乗り、揺れた。


「何でジュリがよくって私がダメなんだよ。今でも納得いってないぞ」


 不満げな顔で言ったコーディに、ジュリは、


「だから、コーディはエロさが先に出ちゃうの」

「じゃあ、ジュリは違うっていうのか?」

「そう、私はね、健康的で健全な色気だから」と啓斗に向き、「啓斗も、そう思うだろ?」

「え?」啓斗は、ジュリがカウンターに体を寄せたことにより浮き上がったビキニと胸との隙間から視線を上げて言った。


「ふん、見てろよ」と、コーディは、「夏になったら、海辺の町に行って、砂浜で〈水着デイ〉をやるってレイナが言ってたからな。その時は大手を振ってビキニになってやる」

「あら、レイナ、そんなこと言ってたの?」


 カスミが訊いた。


「ああ、そうだぜ。で、だ。そのときになって、差が付くわけだよ」


 コーディは腕を組みジュリを見た。


「何が?」


 ジュリが訊くと、コーディは、「ふふん」と笑って、


「普段から、そんな露出の高い格好をしてたら、いざ水着というときに有り難みがなくなるってことさ。いつもは隠れている素肌が水着を着ることによって晒されるという、このギャップ。これがお客の心を掴むわけだよ」

「うちのお客は、ほとんど一見じゃない」


 カスミが言うと、コーディは、


「いいの! 気分の問題なの! 啓斗も、そう思うだろ?」

「え?」啓斗は、ジュリが前屈みになったことにより、ホットパンツから僅かに覗いているお尻の割れ目にさしていた視線をコーディに向けて言った。


「ギャップだよ、ギャップ」啓斗が自分を向くと、コーディは、「例えばだ、いつもは指令服でびしっと決めたレイナが、ビキニで司令室に立ってたら、いいだろ?」

「な、何でビキニで司令室に?」

「ビキニを着て、ウインテクター転送! とか指示を出すんだよ。交戦中のブルートを、スカラップと呼称する! とか言って。あ、スカラップって、ホタテ貝のことね。ホタテ貝のビキニを着て、言うの」

「コーディ、発想がおっさんよ」


 カスミは、ため息をついて言った。


「啓斗、今度、頼んでみたら? ビキニを着て指令を出して下さい、って」


 コーディが言うと、カスミが、


「ぶん殴られるわよ」


 そう言って、また、ため息をついた。


「ふふん、甘いな、コーディ」


 ジュリは目を閉じ、口元に笑みを浮かべて言った。


「な? 何が甘いっていうんだ、ジュリ」

「普段から、こういう格好をしている私が、ありきたりの平凡な水着を着るとでも思ってるのか?」

「な、何?」

「ふふ……」ジュリは目を見開き、カウンターから腕を上げ背筋を伸ばしコーディを見て、「私の水着は、紐だ!」

「ひ、紐?」


 コーディは叫んだ。啓斗は完全にカウンターを拭く手を止めて二人の会話に聞き入っていた。


「そう、紐! 布を紐で繋いでいるとかじゃない、全てが紐!」

「そ、そんなの、完全に見えるだろ!」

「甘いなコーディ、水着っていうのはな、隠すためのものじゃない、見せるためのものだ!」

「な、何だか、いいこと言ってやった、みたいな顔してるけど、完全に変態の言葉だぞ」

「どう? コーディに私の真似が出来る?」

「く、くそ……や、やってやる。紐だろうが、鎖だろうが、私だって、やってやる!」

「そうこなくっちゃ。コーディ、来るべき水着デイの日が、ヴィーナスドライヴにおけるセクシー番長決定戦の日になるな!」

「望むところだ!」

「セクシー番長って……」と、カスミは、「ちょっとかっこいいわね、私も参戦しようかしら?」

「え?」

「カスミも紐を?」


 コーディとジュリは揃ってカスミを見た。


「ふっ、面白い……」ジュリは手の甲で頬を流れる汗を拭って、「それじゃあ、もう全員紐だ!」

「おお!」と、コーディも、「ミズキも、ルカも、アキも、ミサも、全員紐だ!」

「水着デイじゃなくて、紐デイに変更だ!」

「ひ、紐デイ……」


 啓斗はカウンターに手を突き、前屈みになって呟いた。


「そんなの却下に決まってるでしょ!」


 出入り口から声が響いた。四人が向くと、


「あ、レイナ……」


 ジュリが小さく呟いた。出入り口には腕を組んだレイナが仁王立ちしていた。レイナは早足で中に入ってくると、


「ジュリ、着替えてきなさい」

「えー? 私はいいって――」

「やっぱり、ダメ!」

「そ、そんなー……」


 ジュリは、レイナが無言で指さすカウンター奥のドアに向かって、肩を落とし、とぼとぼと歩き、ドアを開けて出ていった。


「カスミ」と、レイナはカウンターの中に立つカスミに、「頼むから、やめてね」

「な、何を……?」


 カスミが恐る恐るといったふうに聞き返すと、


「紐」

「あ、当たり前じゃない、冗談よ、冗談……」


 カスミは額に汗を浮かべて、そう言いながら、そそくさとドアの向こうに姿を消した。


「それから、コーディ」


 レイナの背後で抜き足で外に出ようとしていたコーディは、


「は、はい?」


 と、レイナに呼び止められて動きを止めた。レイナは振り向かないまま視線だけを向けて、


「誰がホタテ貝のビキニを着るの?」

「き、聞いてたの?」

「水着デイのこと、もう一度考え直すわ」

「そ、そんな……」

「ほら、看板出してきて」


 レイナが言うと、コーディは、「は、はいっ!」と隅に置いてあったネオン看板を抱えて外に飛び出した。


「啓斗」

「ひっ!」


 レイナに呼ばれて啓斗は肩をすくめた。


「さっきから、同じところしか拭いてないわよ」

「す、すみませんっ!」


 啓斗は返事をすると、カウンター全面を大急ぎで拭き始めた。


「ねえ、啓斗」

「はいっ!」


 レイナは啓斗の横に立って、


「私のビキニ姿、見たいの?」

「え?」

「……な、何でもないわ。もうお客さん来るから」


 レイナは少し頬を染めると大股に歩いて、カウンター向こうのドアを開けて姿を消した。

 それと入れ違いに、リノが現れ、


「あら、啓斗」

「あ、リ、リノ」


 リノは薄いイエローの簡易なドレス姿だった。


「どう? 啓斗」リノは、スカートを摘んで少し持ち上げ、首を横に傾げて微笑んだ。

「す、すごくきれいだよ」

「本当? うれしいですわ」リノは、さらに笑みを湛えてから真顔になって、「あ、ところで、何かあったのですか?」

「な、なんで?」

「更衣室にジュリが飛び込んできて、慌てて着てる服を脱いじゃって」

「そ、そうなんだ」

「ジュリ、店の衣装あれしか持ってないから、素っ裸で、うんうん唸っていましたわ」

「さ、さあ、分からないな……」

「あ、いらっしゃいませー」


 リノが啓斗の背後に声を掛けた。今夜のお客第一号が出入り口から入ってきた。

 啓斗は布巾を掴んで流しに入れると、テーブル席についたお客に注文を取りに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ