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ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
第11話 集結! ヴィーナスドライヴ
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死闘ヴィクトリオン

啓斗(けいと)ぉ! 来たぁー!」


 後席でレイナの膝の上に座ったソーシャが、レイナにしがみつきながら叫んだ。ヴイメックスタッグは背中の羽を開き、バーニアを噴かして突進してきた。ヴィクトリオンは後退しつつナイフを握って上体を捻り、振り下ろされた右腕の牙を(かわ)した。同時にナイフを斬りつけたが、その刃はスタッグの左の牙で防がれた。


「くそ! 高周波ナイフでも!」


 啓斗は唇を噛んだ。高周波振動するナイフはヴイメックスタッグの牙と接していたが、接触面から激しく火花を散らすのみで、牙を切断するには至らなかった。ヴイメックスタッグが左腕を振るとヴィクトリオンの右腕は振り払われ、がら空きになった胴体に右腕の牙が突き出された。啓斗はバックステップで攻撃を躱しながらマシンガンを撃ったが、ヴイメックスタッグは真上に飛び上がって弾丸を回避した。



 カスミたちはファージとの交戦を再開していたが、戦況は芳しくなかった。


「きゃぁー!」「ひぃー!」


 サヤとアイリの悲鳴が響き、司令室が揺れた。アイリはルカに抱きしめられ、アキとチサトはテーブルに捕まって揺れに耐えていた。


「今のは」と、チサトが、「被弾しただろ?」

「ああ、多分」


 アキは答えて額の汗を拭った。


「アキ!」運転席からスズカの声がして、「左後輪をやられた!」

「走れるのか?」

「何とか。でも速度はかなり落ちる。狙い撃ちされる。もう限界だよ!」


 ドアからミズキが、外ではカスミが対戦車ロケットで応戦していたが、ファージはそれらを巧みに躱し、また、命中しても弾は逸らされ、有効なダメージはまったく与えられていなかった。


「戦車でも勝てなかったのに、生身で勝てるわけないじゃん!」


 カスミにロケット弾を投げ渡しながらコーディが叫んだ。


「泣き言を言わない――伏せて!」


 カスミが言うと二人は地面に伏した。その頭上をファージの機銃の弾が飛び抜けていく。


「砲でヘッドクオーターズを、機銃で私たちを同時に狙ってきている。大したものだわ」

「感心してないで!」


 カスミとコーディは、機銃掃射がやむと顔を上げて言った。


「――来ます!」


 サヤが叫んだ。それを聞いたアキは、


「何? また何か来るのか?」

「もう勘弁して……」


 チサトが床に崩れ落ちた。


「違います!」と、サヤは、「メインモニターを見て下さい!」


 その声に、司令室の一同はマップ画面となっているメインモニターを見上げた。


「ああっ!」


 チサトは声を上げ、アキは、


「あ、あれは……」


 と呟いた。モニターの端には緑のマーカーが点灯しており、その横には〈17〉と〈18〉二つの数字が表示されていた。マーカーはどんどん接近してきて、


「通信入ります」


 サヤの声の直後に、


「お待たせしました、皆さん」


 と女性の声で通信が入ってきた。


「リノ!」


 アキが叫んだ。


「おー、アキ」と、通信で別の女性の声が、「久しぶりだねー。元気だった?」

「ジュリ! 挨拶はいいから! 早く何とかしてくれ!」


 アキの叫び声に「ジュリ」と呼ばれた女性の声が、


「オッケー」


 と答えた。


「機影、捉えました。サブモニターに出ます」


 サヤが言うと、右サブモニターに一台の大型車両の姿が映し出された。その車両の天面が展開し、大型のカノン砲がせり出した。その車両の運転席では、


「ジュリ、この距離で、もう撃っちゃうのですか?」

「行けるね」


「リノ」と呼ばれた女性とジュリの会話が成され、ジュリは目の前に下ろした狙撃用スコープを覗き手元のトリガーを引いた。カノン砲が火を噴き、射出された弾丸がファージの砲塔に命中した。弾は曲面の避弾経始が効き後方に逸れたが、ヘッドクオーターズを狙っていたファージの砲塔は被弾の衝撃で激しく揺れ、砲の発射は阻止された。


「カスミ! 今の!」


 それを見たコーディは言って、カスミも、


「ええ、ジュリね。見て、トライアンフが来たのよ!」


 そう言って、彼方に見える大型車両トライアンフを指さした。

 砲撃を受けたファージは砲口をトライアンフに向け射撃したが、砲弾はトライアンフに届かず、手前の地面に着弾した。


「ファージの砲じゃ、届かないんだな」ジュリは言って、「でも、正々堂々殴り合ってやんよ! リノ! 全速前進!」

「えー、せっかくアウトレンジから撃ち放題ですのにー」


 リノは口を尖らせながらアクセルを踏んだ。

 トライアンフはファージに迫り、さらにジュリはトリガーを引く。カノン砲からの砲撃はファージの本体から伸びた履帯のひとつに命中。その履帯は砕け散った。多段間接を持つアームで持ち上げられたトライアンフのカノン砲は、ファージのさらに上から狙いをつけることが出来ていた。

 ファージは残る三つの履帯部を動かして平面でYの字を作り走行を続けたが、トライアンフからの更なる砲撃を受け履帯のひとつがまたも破壊された。残る二つの履帯だけでは、それ以上走行することは出来ず、ファージはその場に擱坐(かくざ)した。


「とどめだ」


 ジュリは言うとコンソールを操作し、トライアンフ天面を展開して大型ガトリングガンを出現させた。ガトリングガンは擱坐したファージに狙いをつける。ジュリがトリガーを引くと高速回転したガトリングから放たれた弾丸がファージに降り注ぎ、ファージは弾丸の雨を浴びて完全に停止した。


「啓斗!」アキから通信が入り、「トライアンフが来た!」

「トライアンフが!」啓斗は答えたが、「でも、ブルートには!」


 ヴィクトリオンはヴイメックスタッグと斬り合いを演じていた。が、片腕のヴィクトリオンは防戦一方で、しかも両腕から繰り出されるスタッグの牙を完全に受けきることは出来ずに、機体の各所にダメージを負っていた。アキの通信は続き、


「トライアンフはヴィクトリオンの武装を積んでいる! それを使え!」

「武装を?」


 啓斗はスタッグの牙を躱した隙にバーニアを噴かして飛び上がり、トライアンフに向かった。


「リノ!」


 アキの通信を受けたリノは、


「はい、何がよろしいでしょう」

「アサルトライフルがいいんじゃないか?」


 ジュリの声を受けて、


「では」


 と、コンソールを操作した。トライアンフ側面に張り出したブロックが開き、アームに支えられた一丁のアサルトライフルがせり出てきた。ヴィクトリオンサイズの巨大なライフルだった。

 飛び上がったヴィクトリオンを追って、ヴイメックスタッグも羽を広げて飛行していた。その距離は見る見る縮まっている。


「間に合わないよー!」


 後席でソーシャの悲鳴が上がった。


「啓斗! だっけ?」


 ジュリの通信が啓斗に届き、啓斗が、


「はい!」


 と返答すると、


「投げるぞ」

「えっ?」

「受け取れ。リノ」

「はい」


 リノが返事をしてコンソールを操作すると、ライフルを支えていたアームが振られ、ライフルがヴィクトリオンに向かって投擲(とうてき)された。


「うぉぉー!」


 啓斗は叫び、ヴィクトリオンは持っていたナイフを捨てて投擲されたライフルをキャッチした。背後では追いついたヴイメックスタッグが牙を振り上げていた。ヴィクトリオンはバーニアを噴かすと同時に両脚を振って機体を捻り、ライフルの銃口をスタッグに向けた。スタッグの牙が振り下ろされるよりも、ヴィクトリオンがトリガーを引くほうが僅かに早かった。フルオートで射出された銃弾は、ほぼゼロ距離でヴイメックスタッグに浴びせられ、その頭部、右腕を吹き飛ばした。尚も射出され続ける銃弾はスタッグの機体を穿ち、装甲を撃ち抜き、コクピットに座るスタッグブルートを蜂の巣にした。

 アサルトライフルがマガジン内の銃弾全てを吐き出し、銃口から火を噴くのをやめると、バーニアの噴射が止まったヴイメックスタッグは引力に従い崩れ落ちるように落下。地面を滑り、機体の各所から光を放ちながら爆発、四散した。

 ヴィクトリオンはバーニアで姿勢制御しながら着地した。傷だらけになった白い装甲に、ヴイメックスタッグが爆発炎上する炎が映し出されていた。


「や、やったー! 啓斗ー!」


 後席でソーシャは叫びながらレイナに抱きついた。レイナもソーシャを抱き返しながら微笑む。


「や、やった……」啓斗もコクピットでため息を吐きながら言って、「あ、ありがとうございます! ……えーと……」

「ジュリだよ」

「リノです」


 トライアンフから二人の声が返ってきた。


「ジュリさん、リノさん、ありがとうございました!」


 啓斗はコクピットで頭を下げた。


「何だよ、かたっ苦しい呼び方はやめようぜ。呼び捨てでいいよ」

「そのとおりですわ」


 ジュリとリノは、更にそう返した。


「わかりました。ありがとう、ジュリ、リノ……」


 啓斗は言葉を止めた。コクピットが揺れていた。


「な、何だ?」


 啓斗は周囲を見回した。揺れているのはヴィクトリオンだけではなかった。トライアンフも、ヘッドクオーターズも、地面に立っているカスミとコーディも揺れていた。轟音が響いた。


「工場から!」


 サヤが叫んだ。工場の敷地内から、建物をなぎ倒しながら巨大な物体が浮かび上がった。


「あれは!」モニターに映るその物体を見たアキは、「輸送船だ! ブルートの!」

「輸送船?」


 啓斗は、それを聞いて叫んだ。

 全長五十メートルを超える、ブルートヴィークルと同じような意匠に彩られた禍々しい巨大な輸送船は、尚もまっすぐ浮かび上がり、地上数百メートル程の高度にまで上昇した。上昇を終え輸送船は一瞬だけ静止すると、背面に並ぶノズルを噴射させて水平飛行に転じ飛び去った。その軌道は徐々に上向きになり、弧を描くように上空に吸い込まれていった。


「ど、どこへ?」


 啓斗の声に、アキが、


「あの輸送船は単独で大気圏突入と突破が出来るんだ……」

「大気圏突破? じゃ、じゃあ、あの輸送船は宇宙へ?」

「分からない、が、あの軌道を見るに、間違いないだろう」


 アキがいう間にも、輸送船はどんどん上空へ飛び上がり、一筋に伸びる雲を残して碧空の彼方に消えた。それを見送ったレイナは、


「あれを飛ばすために、私たちを工場内に近づけたくなかったのね」


 それを聞いた啓斗は、


「あ! もう一体のブルート、ビートルは? もしかして、あれに?」


 その答えは誰も持たなかった。その場にいる誰もが、輸送船が飛び去った空を無言で見上げているだけだった。

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