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ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
第11話 集結! ヴィーナスドライヴ
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敵戦車を叩け

「もう」と、レイナも呆れた声を出して、「端末があれば、啓斗(けいと)が味方だってすぐに分かったのに」

「み、味方?」ソーシャは啓斗を見て、「そ、それじゃあ、も、もしかして……」


 レイナは頷いて、


「ヴィーナスドライヴパーソナルナンバー〈10〉ウインテクター装着者、啓斗よ」

「きゅ、救世主? で、でも、これ!」と、ヴィクトリオンを指さし、「これ、ブルートヴィークル!」

「違うわよ、これはヴィクトリオンよ。そうか、ソーシャは加わるのが遅かったからヴィクトリオンを見てなかったのね」

「ヴィクトリオン? これが……」ソーシャは白い機体を見てから啓斗に視線を移し、「そして、救世主……」


 ソーシャの啓斗を見る目は、先ほどまでとは変わっていた。


「レイナさん、その子が?」

「そうよ」と啓斗の言葉にレイナは、啓斗を見つめる少女の肩に両手を置いて、「自己紹介して」

「は、はいっ!」ソーシャは気を付けの姿勢になり、「ヴィーナスドライヴパーソナルナンバー〈19〉ソーシャです! 戦闘員です! 好きな食べ物は、卵かけご飯です!」

「戦闘員? この子が?」


 啓斗は目を丸くしてソーシャを見た。


「小さいけど、腕は確かよ」と、レイナはソーシャを見て、「年はいくつだっけ?」

「じゅ、十六です!」

「十六! もっと下かと、小さいから――あ、いや、ごめん」


 啓斗の言葉を聞いたソーシャは啓斗を睨んで頬を膨らませた。


「あ、で、でも、アキさんよりは大きいよね」


 取り繕うように啓斗が言うと、ソーシャは啓斗を指さし、


「当たり前だ! アキより背が低いやつがこの世にいるか!」

「いっぱいいるだろ!」

「それより、ソーシャ」と、レイナが、「トライアンフはどこに行ったの? ブルートヴィークルを追っていったってチサトとアイリから聞いたけど」

「そうなの! レイナ!」ソーシャはレイナを振り返って、「ブルートヴィークルが、この工業地帯に入り込んだの。でね、私がひとりで調査に来たの。たったひとりの戦闘員だからね。そうしたら、戦車部隊に襲われて」

「戦車に襲われた?」


 レイナの言葉に、ソーシャは「うん」と頷いて、


「全部無人機だったよ。それで、リノとジュリは私から戦車を遠ざけるために、トライアンフで応戦して戦いながら、そのままどっか行っちゃった。ていうか、戦車にうまいこと誘導されていったみたいに見えたけど」

「そうだったの。じゃあ、ここにはソーシャしかいないのね。とりあえず、戻ってから改めてここの捜索をしましょう。啓斗、お願い」


 レイナは親指でヴィクトリオンを指して、後席に飛び乗った。レイナのあとからソーシャも飛び乗る。


「ははは」啓斗は、後席でレイナの膝の上に抱かれて座るソーシャを見て笑った。


「な、何がおかしい!」ソーシャは真っ赤になって叫んだ。


「子供みたい」

「なんだと!」


 レイナに抱かれたままソーシャは腕を振り回した。レイナは笑みを浮かべてソーシャの頭を撫でてから端末を取り出して、


「カスミ、ソーシャと合流出来たわ。トライアンフはここにはいないそうよ」と通信した。


 啓斗は微笑みながらコクピットサドルに跨り、キャノピーを閉めた。


「レイナさん、トライアンフって、戦闘車両なんですね。戦車と戦ったって」


 後席との通信で啓斗はレイナに言った。


「そうよ、とうとうばれちゃったわね」

「何ですか、ばれちゃったって……さっき、ソーシャが言った、リノとジュリっていうのは、じゃあ?」

「そう、トライアンフのパイロットの名前よ」

「レイナ!」通信が入ってきた。サヤの声だった。レイナが答えるよりも早く、サヤの声はさらに、「攻撃されてる!」

「何に? ブルートヴィークル?」

「違う、戦車よ!」

「レイナ」通信にカスミの声が入り、「私たちはもうクラージュで出たわ。敵は無人戦車よ。数は三台」

「三台。戦車同士の戦いだと、勝てない数ですね」啓斗が言った。


「そうよ、啓斗、急いで!」

「了解!」


 カスミの声に答え、啓斗はスロットルを捻った。


「啓斗! 右! 何か来てるわ!」

「えっ?」


 レイナの声に従い右を見た啓斗は、キャノピー越しに飛行物体を視界に捉えた。それは、


「……スタッグ!」


 啓斗は叫んだ。ミズキとコトミ救出作戦時に遭遇したスタッグブルートだった。背中の鎧のような羽を広げ、その内側から空気を噴射して地上すれすれを低空飛行している。スタッグは右腕を振り上げた。


「まずい!」


 啓斗は左に舵を切った。同時にスタッグの腕が振り下ろされ、前腕から伸びた牙の先端がヴィクトリオンのキャノピーを掠めた。左の壁にぶつかる寸前に啓斗は右にハンドルを切り、ヴィクトリオンを道路中央に戻した。


「啓斗! 今度は前方上に!」


 再びレイナの声。啓斗が見上げると、左右の建物を結び道路を横断している細い橋の上に、コート姿の男が立っていた。高さ地上十メートル程度のその橋の上からコートの男が飛び降りた。その姿は地上に迫るに従い、うねるように変化し、スタッグと同じような外見に変身した。スタッグと違っていたのは両腕だった。左前腕には小さな盾のようなものを付けており、右前腕からは細長いシャフトのような角が伸びていた。角は先端部に行くに従い徐々に湾曲しており、角は先端で二股に分かれ、分かれたさらに先端はアルファベットのY字のような形状となっていた。

 コートの男から姿を変化させたブルートは、地上に着地する前にスタッグのように背中の羽を開き、空気を噴射させて飛行体勢に入った。そしてヴィクトリオンの正面に向かって水平飛行しながら右腕の角を突きだした。


「くそっ!」


 啓斗は急ハンドルを切り、ブルートの突きだした角との正面衝突を免れた。


「きゃあー!」


 車体が大きく揺れ、レイナに抱かれたソーシャは悲鳴を上げた。


「新たに出現したブルートを〈ビートル〉と呼称する」


 しっかりとソーシャを抱き、足を踏ん張って機体の揺れに耐えながらレイナが通達した。

 ヴィクトリオンとすれ違い後方に流れていったビートルは急旋回してスタッグと合流し、加速してヴィクトリオンの左右に並んだ。右はスタッグ、左はビートルと、ヴィクトリオンは二体のブルートに挟まれた。併走飛行しながら、スタッグ、ビートルとも右手を振り上げた。


「この道幅じゃ、逃げられないわ!」レイナが叫んだ。


「……あれしかない!」


 啓斗はコンソールを操作し、操縦をマニュアルモードに切り替えた。

 スタッグは牙を、ビートルは角を、それぞれ振り下ろしながら二体は同時にヴィクトリオンのキャノピーに迫った。啓斗は右スロットルを奥に、左スロットルを手前に同時に捻った。


「きゃあー!」


 ソーシャが悲鳴を上げると同時に、ヴィクトリオンは走行しながら車体中心を軸にスピンした。右タイヤが前進、左タイヤが後退の動きをすることで、超信地旋回(ちょうしんちせんかい)を行ったのだ。高速回転するヴィクトリオンは迫ってきた二体のブルートを弾き飛ばした。

 ヴィクトリオンは旋回を止め、路上に斜めになる形で停止した。弾かれたブルートは左右の建物の壁に激突、地上に墜落していた。しかし当然、バリアによりダメージは受けず、二体はゆっくりと起き上がりつつあった。啓斗は車体の向きを戻すと、操縦をオートに切り替えてスロットルを捻った。


「ソーシャ、大丈夫? ごめんね、遠心力で手が解けちゃったわ」


 レイナは座席下に落下したソーシャに声を掛けた。ソーシャは頭を床に付け、レイナに尻を向ける格好になっていた。


「おいこら! 啓斗、よくもやってくれたな!」


 起き上がりながらソーシャは叫んだ。


「だって、仕方なかったじゃないか」

「帰ったら、チ○コを思いっきり蹴り上げてやるからな!」

「えー!」


 啓斗の声に砲撃の音が被った。進行方向に工場の出口が見えてきており、砲撃の音は、その向こうから聞こえてきていた。それ以外にも、履帯が地面を踏む音や機械の駆動音も混じって聞こえる。


「ソーシャ、文句はあと」レイナが言って、「啓斗、ここを出たら、すぐに私とソーシャを降ろして。カスミたちの援護に行くわ」

「えっ? ヘッドクオーターズに入ったほうがいいんじゃ?」

「見て、あれじゃ無理よ」


 レイナが指をさした先では戦車戦が繰り広げられていた。カスミたちが搭乗したクラージュ戦車が無人戦車三台と交戦している。止まっていたら狙い撃ちにされてしまうためだろう、ヘッドクオーターズも常に戦場を動き回っていた。

 カスミ機はヘッドクオーターズを守りながらの戦いを余儀なくされているため、効果的な攻撃を繰り出すことが出来ていなかった。ヘッドクオーターズからも、開いたドアから対戦車ロケットを担いだマリアが姿を見せて応戦していた。


「分かりました」啓斗は了解して、「二人を降ろしたら、俺もカスミさんたちの援護に向かいます」

「啓斗はブルートの相手をしないとでしょ」

「ああ、そうだった!」


 コンソールの後部カメラ映像には、飛行して追従してくる二体のブルートの姿が映し出されていた。

 ヴィクトリオンは工場の出口を抜け出た。


「レイナさん、今、止めます」

「止まったら危険よ。少し速度を緩めるだけでいいわ」そう答えるとレイナは後席のキャノピーを開け、「ソーシャ、行けるわよね」

「もっちろん!」


 ソーシャはレイナを見上げ笑顔で答えた。


「え?」


 二人の声を聞いて、そう呟いた啓斗がヴィクトリオンを減速させると、レイナとソーシャは後席から飛び降りた。着地して地面を転がった二人は素早く立ち上がると、ライフルを構えながらヘッドクオーターズに向かって走っていった。

 二人を降ろすために減速したことで、ヴィクトリオンの後ろには二体のブルートが追いつき、迫ってきていた。


「こうなったら、ヴィクトリオンで!」


 啓斗は変形ダイヤルを回した。走行しながらヴィクトリオンは格闘形体に変形していく。啓斗は脚部をタイヤ状にした中間形体のまま上半身を回転させ、両腕前腕のマシンガンで二体のブルートに狙いを付けた。

 銃弾が放たれたが、二体のブルートは旋回してそれを(かわ)した。ヴィクトリオンは肩のバーニアを噴かし機体を浮かせ、脚部も完全に変形を完了すると、両前腕内側から飛び出たナイフを両手に握った。

 啓斗はナイフでブルートに斬りつけたが、左右のナイフとも躱され刀身は空を斬った。

 スタッグはヴィクトリオンの腕をすり抜け頭部に取り付くと、振り上げた右の牙をカメラアイに叩き付けた。


「あっ! くそ!」


 カメラアイの破壊は免れたが、コクピットのモニターにはノイズが走り、スタッグの体により視界も大幅に塞がれた。


「生身のブルート相手にヴィクトリオンじゃ駄目だ!」啓斗は言うと、「マリア! テクターの転送を!」

「サヤよ」と、通信が帰ってきて、「マリアは今、カスミたちの援護で……」

「サヤがやってくれ!」

「わ、私が?」


 サヤの頓狂な声のあとに、


「サヤ」と、マリアの通信が被り、「出来るわ。大丈夫」

「サヤ」啓斗はヴィクトリオンを走行形体に戻してブルートから逃げながら、「ゆっくりでいいんだ。俺はコクピットから出たら、じっと立ってる。動かないほうが計算も楽だろ」

「啓斗……」サヤは、ごくり、と唾を飲み込み、「分かった、やる!」

「その意気だ!」


 啓斗はヴィクトリオンを横滑りさせながらキャノピーを開き、車体が停止すると同時に外に飛び降りて直立する。


「いいぞ、サヤ!」啓斗は真っ直ぐに飛んで来る二体のブルートを見据えながら言った。


「啓斗……」


 サヤはコンソールに指を走らせ座標計算を開始する。ブルートは、それぞれ牙と角を振り上げながら啓斗にどんどん迫る。啓斗の額に汗が浮かんだ。


「行って!」


 サヤは叫びながら転送ボタンを押した。啓斗の体の周囲に光の筋が浮かび上がり、束していく。ブルートの牙と角が振り下ろされる一瞬前に、啓斗は真上に跳び上がった。空中に舞う啓斗の姿はウインテクターの装着を完了していた。


「やったぞ、サヤ!」啓斗はマスクの下で微笑みながら言った。


「啓斗!」サヤは目に涙を浮かべながら答えたあと、安堵のため息を漏らした。


「サヤ、このままライフルも頼む」

「了解!」


 答えたサヤが再び座標計算をして転送ボタンを押すと、着地した啓斗の前にマルチプルライフルが転送されてきた。啓斗はライフルをキャッチして構えると、二体のブルートに銃口を向けてトリガーを引いた。



「マリア!」


 ヘッドクオーターズの近くに来たレイナは両手を振って、ドアを開けて対戦車ロケットを構えているマリアに声を掛けた。

 レイナとソーシャの姿を確認したマリアは、足元に置いてあった対戦車ロケット砲と、換えのロケット弾数発をレイナに向けて放り投げた。ロケット砲はレイナが拾い上げ、予備弾をソーシャが回収する。すぐにレイナとソーシャは体を伏せ、レイナはロケット砲を敵無人戦車に向けて発射した。真っ直ぐに飛んだロケット弾は敵戦車に命中するも、装甲板に弾かれて後方へ逸れていった。


「ああー、命中したのに!」ソーシャが悔しそうな声を上げた。


「強烈に避弾経始が効いてるからね」


 レイナはソーシャから受け取った次弾をロケットに装填しながら言った。


「あの戦車、異様に平べったいね」


 ソーシャの言葉にレイナは、


「アメリカ軍が開発した無人戦車〈ソーサー〉よ。無人を前提として開発された戦車だから、搭乗員の居住性なんか関係なく極限まで平らに出来たのよ。人がいない分、余計に弾も詰めるしね。やっかいな相手よ」


 全部で三台の敵戦車ソーサーは、これまでもカスミ機やマリアからよる攻撃で被弾してはいたが、致命的なダメージを受けるまでには至っていなかった。逆にカスミたちのクラージュは、


「カスミ! このままじゃまずいよ!」ミズキの声が車内に響いた。


「分かってるけど、三対一は、さすがにきついわ。――ミズキ、左へ!」


 車長であるカスミの指示でミズキは左に舵を切った。一瞬前までクラージュがいた地面にソーサーが放った弾頭が着弾して轟音とともに土煙を巻き上げた。


「コーディ!」


 続けざまの指示でコーディが砲撃したが、砲弾はやはり極端に傾斜したソーサーの装甲に弾かれた。


「カスミ!」司令室からアキの通信が入った。「工場に入れ! ソーサーを誘導するんだ! 動きを見ると、そう複雑な戦術プログラムを組んでいるように見えない。引っかかるはずだ!」

「アキ! そんなことしたら、こっちも身動き取れなくなるわ」

「いいんだ! いくらか耐えれば、あとはレイナがいる!」

「そうか! アキ、分かったわ。ミズキ! 工場に向かうわ、そのまま前進して! コーディは撃ちまくって! 牽制になればいいわ」

「了解!」「了解!」


 二人は同時に答え、ミズキはアクセルを踏み、コーディは戦車砲を連射した。クラージュのあとを追って三台のソーサーも工場に向かって走っていった。


「レイナ!」


 アキの通信はレイナにも入った。レイナは、


「アキ、分かったわ、何をするつもりなのか」

「理解が早くて助かる」

「長い付き合いだもの」

「遅れるなよ。だが、あまり近づきすぎると、そっちが標的にされて、カスミの誘導が無駄になる」

「分かってる。つかず離れずね。行くわよソーシャ」

「りょーかい!」


 レイナも、ソーシャを従えて三台のソーサーのあとを追って走り出した。

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