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ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
第11話 集結! ヴィーナスドライヴ
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小さな戦士

「師匠! お久しぶりです!」


 ヘッドクオーターズの前で待っていたアキを見るなり、チサトは最敬礼して言った。


「挨拶は後でいい。早く乗れ!」アキはレイナたちを促して、「啓斗(けいと)はヴィクトリオンに」続けてハンガーを指す。アイリを下ろした啓斗はハンガーに走った。


 レジデンスの前では、タエ、クミ、ミサ、コトミの四人が手を振ってヘッドクオーターズとヴィクトリオンを見送った。


 運転はスズカ、コンソール席にはマリアとサヤが座り、司令室には、レイナ、アキ、カスミ、コーディ、ミズキ。負傷者がいることを想定してルカも乗り込み、そこにチサトとアイリも加わった総勢十一名を乗せて、ヘッドクオーターズは発進した。


「チサト、アイリ、案内して」


 レイナの声に、


「ああ、東のほうに向かってくれ」


 チサトが答えると、通信によりその声は運転席にも届き、スズカは東にハンドルを切った。併走するヴィクトリオンもそれに倣う。


「この先には、何かあるの?」


 レイナの声に、サヤが、


「ええと、大きな工場がありますね。もちろん、もう使われてはいませんけれど」

「そこって」と、カスミが、「ブルートが首都攻撃の際、一時的に前線基地にしたところじゃない?」

「そういえば、そうね」と、レイナも、「一週間かそこらの期間だけだったけれど」

「レイナさん」啓斗から通信が入り、「じゃあ、そこが、ブルートたちの本拠地?」

「いえ、もうとっくにブルートは引き上げて、人の手による調査も入っていないはずだわ。基地といっても、ほんの一時、たむろしていたというだけよ」

「見えてきました」


 サヤの声に一同はメインモニターに視線を向けた。様々な大きさのプラントや建物が建ち並び、それらが複雑にパイプや通路で繋がれた広い工場が映し出されていた。


「ブルートの前線基地なんて聞いたせいか、何だか禍々しく見えますね」


 キャノピー越しに工場を見て啓斗が言った。


「トライアンフは……」レイナはモニターの隅々に目をやって、「いないわね。レーダーに反応もなし、か」


 レイナが言うと、続けてマリアが、


「無線にも出ない。通話可能範囲外みたいね。大きな工場だから、隅のほうにいれば電波は届かないかも」

「レイナ」カスミが椅子から立ち、「ここからは、戦車とヴィクトリオンで行くわ。また罠ということも考えられる」

「罠……」サヤが呟いて、「じゃあ、トライアンフは、ソーシャたちは……」

「サヤ」レイナはサヤの肩に手を置いて、「そうと決まったわけじゃないわよ」

「そうそう」コーディも立ち上がり、「あのソーシャが、そう簡単にやられるかって」

「うん……」


 サヤは答えた。微笑んではいたが、その表情から不安そうな陰は消えていなかった。レイナは、もう一度サヤの肩を軽く叩いて、


「よし、スズカ、止まって。中は私とカスミたちで捜索する」

「了解」


 運転席からスズカの返事が返ってきて、ヘッドクオーターズは工場の出入り口手前で停止した。

 カスミ、コーディ、ミズキは、すでに強化外骨格を(まと)っており、アサルトライフル、対戦車ロケットなどの装備も準備されている。啓斗も一旦ヴィクトリオンを降りて司令室に合流していた。


「徒歩で行くんですか? 工場の道路は広そうだから、戦車でも入り込めるんじゃ」


 モニターに映る工場を見ながら啓斗が言うと、カスミは、


「こんな複雑な地形に戦車が入り込むのは得策じゃないわ。市街地での戦いで分かったでしょ。戦車は上からの攻撃や、狭い場所での戦いに滅法弱いのよ。人間のほうが建物の中も捜索出来るしね」

「なるほど。それもそうですね」

「マリア」と、レイナは、「ヘッドクオーターズから半径一キロだと、どの辺りまでカバー出来る?」

「この工場一帯は、ほぼカバー出来るわ」

「それじゃ、啓斗も同行してもらえる?」

「もちろんですよ」


 啓斗は答えた。


「レイナ」と、出撃準備を終えたカスミが、「啓斗も出すなら、ヴィクトリオンに乗ってもらったほうがいいわ」

「え? でも、狭い場所に入り込むのは」


 啓斗が言ったが、カスミは首を横に振って、


「それは戦車の話よ。機動力があって格闘形体にもなれるヴィクトリオンなら、こういう入り組んだ地形は、むしろ得意とする戦場のはずよ。私たちは屋内を捜索するから、啓斗はヴィクトリオンで道路からの捜索をお願い」

「分かりました。じゃあ、ヴィクトリオンの後席に誰か乗りますか?」

「はいっ」「はいっ」


 ミズキとコーディ二人の声が同時に手を上げたが、カスミは、


「いえ、こちらは生身だから、少しでも戦力を集中させたいわ。啓斗ひとりでお願い」

「分かりました」


 啓斗が答えると、二人は、「ちぇっ」と舌を打ちながら上げた手を下ろした。


「はいはい」と、今度はチサトが手を上げ、「私、乗りたい」

「駄目だ」アキが言下に却下した。「遊びに行くんじゃないんだぞ」


 その言葉にアイリも、上げ掛けていた手をそっと戻した。


「ヴィクトリオンの後席には私が乗るわ」


 レイナが言った。レイナも強化外骨格を纏っている。


「えー。レイナ、ずるいぞ」

「ずるいとかじゃないでしょ」チサトの言葉に耳を貸さずレイナは、「アキ、ここ、お願いね。啓斗、行きましょう」


 アキは、「ああ、任せろ」と答えた。


「気を付けて」サヤの言葉に手を上げて、五人は司令室を出た。


 カスミたち三人は近くの建物に入り、啓斗とレイナを乗せたヴィクトリオンは工業地帯内の道路を徐行していた。


「レーダーにマーカーの反応がないということは、ここにはいないということなんじゃないですか?」


 啓斗はコンソールのマップ画面を見て言った。画面には、自分の位置に〈10〉と〈1〉の緑色のマーカーが、少し離れた建物の中に〈4〉〈5〉〈6〉の数字が記された同じ緑のマーカーが点灯していた。後方には、ヘッドクオーターズの位置にも緑色のマーカーが点灯しており、レーダー範囲内に映るマーカーはそれで全てだった。


「そうね」後席でレイナは答え、「通信端末が壊れているか、もしくは電源が切れているという可能性もあるわ」

「電源切れって、ヴィーナスドライヴのメンバーともあろう人が、そんな――レイナさん!」

「どうしたの、啓斗」

「今、左の建物の出入り口に人影が」

「止めて」


 啓斗がヴィクトリオンを停止させると、後席キャノピーが開きレイナが飛び降りた。続けて運転席のキャノピーを開けて降車した啓斗に、


「啓斗は、ここで待機」と制して、レイナはライフルを構えて建物の出入り口に入っていった。


「大丈夫かな」啓斗はレイナが入っていった建物を見上げた。


「動くな」


 啓斗の背後から声がした。啓斗は身をよじらせかけたが、その動きはすぐに止まった。背中に銃口が突きつけられたためだった。


「な、何者だ――」

「喋るな」


 背後からの声と同時に、啓斗の背中をさらに銃口が押した。


「ゆっくりと両手を上げろ」


 啓斗はその声に従うしかなかった。声はさらに続き、


「膝を突け。そうだ。そのまま俯せになるんだ。……早くしろ、こっちを見るな。手は上げたままだ。そうだ」


 啓斗が言われるままの体勢になると、声の主は啓斗の背中を踏みつけ、


「貴様、ブルートだな」

「ち、違う――」

「喋るなと言ったろ!」


 啓斗の首筋に銃口が押しつけられた。銃はアサルトライフルだった。声はさらに、


「そうに決まってる。こんな得体の知れないマシンに乗って。ブルートヴィークルに似てるじゃないか」

「そ、それは、同じヴイメック――」

「だから、喋るな!」

「喋らなかったら身分を証明できないだろ!」

「黙れ、ブルート」

「だから、違うって!」

「本当か?」

「本当だよ!」

「ふーん……」声の主は一旦啓斗の首筋から銃口を離して、「じゃあ、確かめてやる」と、改めてライフルを構えた。


「ちょ、ちょっと、何するの?」


 ライフルを構える音を聞いた啓斗は、狼狽えながら叫んだ。


「ブルートなら、ライフルの弾丸を弾き返すはずだ」

「ブルートじゃなかったら死ぬだろ!」

「大丈夫、ちょっと肩を打ち抜くだけだから」

「や、やめてー!」

「動くと狙いが逸れて心臓に当たるぞ」

「ひー!」

「やめなさい」


 レイナの声が聞こえた。謎の声の主の背後からだった。動きを止めた声の主にレイナは、


「両手を上げなさい」


 声の主は大人しくそれに従った。


「ゆっくりと、こっちに振り向いて」


 声の主はその言葉にも従い、強化外骨格を纏ったその小さな体をゆっくりと振り向かせる。レイナの側からは後頭部しか見えていなかったヘルメットも振り向き、徐々に顔が見えてきて、


「……ソーシャ!」


 レイナが叫んだ。声の主もレイナの顔を見て、


「え? レ、レイナ? レイナ!」


 そう叫んでライフルを離した。ライフルはハーネスで肩から提げられており、「ソーシャ」と呼ばれた少女はライフルを揺らしながらレイナに駆け寄った。レイナもライフルの銃口を下げ、少女が抱きついてくるのに任せた。


「うわーん。寂しかったよ!」


 少女はレイナに抱きつくと、わんわんと泣き出した。


「ソーシャ、それより」と、レイナは啓斗を指さして、「あれは何なの?」

「え? ああ、忘れてた!」ソーシャはレイナの前に立ちライフルを構えると、「気を付けて、こいつ、怪しい」

「ひっ!」


 起き上がりかけた啓斗は、ソーシャがライフルを構えるのを見ると、またすぐにもとの体勢に戻った。


「ねえ、ソーシャ」レイナはため息をつき、「こういう場合は、相手の手は後頭部に当てさせるのがセオリーでしょ」

「指摘するの、そこですか!」


 地面に顔を付けたまま啓斗が突っ込んだ。レイナは、さらに、


「あの体勢だと、地面に何か落ちてたら拾われて反撃される恐れがあるし、手で地面を突いて立ち上がってくるかもしれないでしょ」


 と、両手を真上に上げ直立の姿勢で地面に俯せている啓斗を見て言った。


「そっか」ソーシャは納得した声を出した。


「啓斗、もう立っていいわよ」

「は、はい……」


 レイナの声を聞き、啓斗はゆっくりと起き上がった。


「レ、レイナ」ソーシャは尚も警戒を解かない様子で、「こ、こいつは?」

「ソーシャ、あなた、端末は?」


 レイナに訊かれると、ソーシャは、ばつが悪そうに、


「充電し忘れてて、バッテリー切れちゃった」

「……」


 啓斗は、首を傾げて誤魔化すように笑顔を見せる少女を絶句しながら見つめた。

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