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ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
第11話 集結! ヴィーナスドライヴ
51/74

合流

 クイーンアントブルートと、それが操る無人兵器部隊との戦いを終えたヴィーナスドライヴは軍施設に引き返していた。ブルートを追う手掛かりが途絶えたことから、別働隊と合流することを優先し、施設にある有線電話を使って連絡を取るためだった。


「あのタイヤ痕は、私たちを軍施設におびき寄せるための罠だったというわけね」


 ヘッドクオーターズ司令室でレイナが言った。それを聞いた啓斗(けいと)は、


「俺たちの中に生存者のふりをして入り込んで、無人兵器に襲わせるため、ですね。でも、どうしてレジデンスに入り込んだ時点で俺たちを襲わなかったんだろう?」

「無人兵器を、正確には、あの蟻型端末を遠隔制御するのに集中する必要があったのかもしれないわね。実際、ブルートと啓斗だけを病室に残して、あいつが啓斗を暗殺しようと目を開けて起きたと思われる時間に、無人兵器の動きが鈍ったわ。クイーンアントにしてみれば、自分たちにダメージを与えられる人間が誰か分からない。下手に手を出して返り討ちに遭うよりは、安全な場所から無人兵器に攻撃させたほうがいいと判断したのでしょうね」

「タイヤ痕を残したブルートヴィークルの行方は、まったく分かりませんね」

「そうね。ヴイメック化して、空を飛んで逃げたのかもしれないわ」

「でもこれで、残るブルートはあと二体ですね」

「いえ、そうじゃないわ。ミサが目撃したブルートは三体とも男性型だったそうよ。全員の声を聞いている。スタッグを含めたその三体が、まだ残っているということよ」

「もう少しで到着します」


 二人の会話の声が途切れたところで、コンソール席に座ったサヤが告げた。メインモニターには正面カメラの映像が流れており、軍施設の建物が西からの赤い夕日に照らされていた。


「今夜は、あそこに宿泊ね」


 レイナがモニターを見ながら言った。



 犠牲者たちを葬った墓に手を合わせ、「有難く使わせてもらうよ」と声を掛けてから、タエは調理場に入った。クミ、ミサ、コトミの三人は畑から野菜を採る。血に染まっていた台所の床は啓斗とマリアが掃除をした。

 カスミ、コーディ、ミズキは、格納庫に残されていた、もう一台にして最後のクラージュ戦車の手入れをしていた。


「おい、また持って行くのか?」


 同じ格納庫で武器の調達をしていたアキが訊いた。


「せっかくだから、ね」


 タオルで車体を磨いていたミズキが返すと、


「エンジン掛けるぞ」


 車体の中からコーディの声がして、ミズキは戦車から離れる。クラージュのエンジンが唸り車体が震えた。砲塔のハッチからカスミが出て来て、


「何も問題なし、っと」そう言うと車体から下りて、「コーディ、そのままヘッドクオーターズの荷台車に乗せちゃって」

「オーケー」


 と、コーディの声が返ってきて、クラージュは履帯で格納庫の床を踏みしめながら、ゆっくりと前進していき、格納庫に入れてあるヘッドクオーターズが牽引する荷台車の上に乗り上げた。


「皆さーん」格納庫に入ってきた啓斗が、「あれ? また戦車持って行くんですか?」

「何、啓斗」と、ミズキが、「アキといい、戦車嫌いなの?」

「いや、嫌いとかじゃなくて」

「ブルートには手も足も出ないけど、今日みたいに無人兵器を相手することがあったら、重宝するでしょ」

「そうだね。ミズキたちの戦いっぷり、かっこよかったよ」

「へへ、ありがと。クラージュ自体もかっこいいでしょ。フランス製だからか、どこか気品があるわよね」

「そ、そう? でも、戦車って、俺が知ってるのと、ほとんど形が変わってないんだね。五百年も経ってるっていうのに」

「それだけ」と、カスミが会話に入ってきて、「最初のデザインが完成されていたっていうことね。確かに今まで色々な独特な形の戦車が考案されて、作られもしたの。けれど、結局この形に落ち着いたってわけ」

「そうなんですか。でも、俺の知ってる戦車と比べると、ちょっと平べったいかな? 戦車って、もっとごついイメージがありましたけど」

避弾経始(ひだんけいし)よ」

「ひだんけいし?」

「そう、同じ厚みの装甲板でも、垂直に弾が当たるより、斜めに弾が当たったほうが装甲の厚みが増すでしょ?」


 カスミは、左(てのひら)に右手の人差し指を垂直に当て、続けて、斜めにした掌に同じ角度で指を当てた。


「……ああ! なるほど。四角形の横辺の長さよりも、対角線のほうが長くなるってことですね」

「そういうこと。それに、装甲板に斜めに当たれば弾を後ろに逸らしやすいでしょ」

「へえー、考えられてるんですね」

「そういう、装甲を斜めにして実質の厚みを増したり、弾を逸らせやすくする効果を避弾経始って言うのよ。啓斗の時代でも、当たり前に行われていた知恵よ。啓斗の時代よりも、より戦車を平べったくする技術が進んでいるっていうだけよ」

「あー、啓斗」と、格納庫に入ってきたサヤが、「いつまでたっても来ないと思ったら」

「サヤ? ……ああ! そうだった、ご飯が出来たから呼びに来たんだった!」



 軍施設の食堂に全員集合したメンバーは、黙祷をしてから「いただきます」をして食事を開始した。


「レイナ」と、箸を動かしながらマリアが、「チサトたちと連絡が取れたわ。明日の昼に、北にある小さな集落で落ち合うことにした」

「分かったわ」


 レイナが答えると、啓斗が、


「いよいよ、ヴィーナスドライヴ全メンバーが集合するんですね」

「楽しそうね、啓斗」


 ルカが声を掛けると、


「ええ、何だか、わくわくしますね。どんな人たちなんですか?」

「みんな、かわいいわよ」カスミが言って笑った。


「そ、そういんじゃなくって!」

「啓斗、ご飯粒を飛ばさない」


 ミズキは布巾でテーブルを拭きながら言った。


「そうだ、おい、マリア」アキが声を掛け、「チサトたちにはきちんと伝えたのか?」

「何を?」

「啓斗とセックスしちゃ駄目だってことをだ」


 啓斗とミズキは同時にご飯を吹き出した。サヤとクミは赤くなって俯き、コトミはミサの袖を引いて、


「今、アキ、啓斗と何をしちゃ駄目、って言ったの?」

「せ、せ――」

「言わなくていいの!」


 真っ赤な顔で答えようとしたミサの口を、クミも真っ赤な顔をしながら手で塞いだ。


「いけない、そのこと忘れてた」マリアは頭に手を当てて言った。

「啓斗、襲われるなよ」


 アキは言うと、何事もなかったかのように食事を再開する。


「お、襲う、って?」コトミは青い顔になって、「啓斗、襲われちゃうの? どうして?」


 訊かれたミサは、隣のクミに、


「襲うって、どういう意味? どうして襲うの?」

「し、知らないって!」


 クミは、もの凄い勢いでご飯をかき込み始めた。



 夜が明けて、ヴィーナスドライヴは一路合流地点を目指して進んでいた。


「あ、またバスです」


 啓斗が、モニターに映る走行しているバスを見て言った。バスはヴィーナスドライヴの一団とすれ違い、後方へと姿を消した。


「今日で、もう二台目ですね」


 そう言ってバスを見送る啓斗に、レイナは、


「方角からいって、私たちが向かう集落を出発したんでしょうね」

「向かう先は、俺たちがいた町、ですね」

「そうね。周辺の小さな町や集落から人を集めてるんでしょうね。タエが言ってたわね、町を大きくする計画があるって」


 バスの車窓からは、小さな男の子がヘッドクオーターズを指さして興奮した表情で何かを叫んでいた。


「あ、あの子、きっとヘッドクオーターズが運んでる戦車を見てるんですよ」と啓斗は、「俺たちって、どんなふうに見えてるんでしょうね? 三台のトレーラーが連なって、うち一台は戦車を引っ張ってる。何者だって思われてるんじゃないですかね」


 そう言って笑った。それを聞いたレイナも笑い、コンソールのマリアとサヤも微笑んだ。


「そうね」笑い終えてレイナは、「じゃあ、チサトたちも、びっくりされてるかもね。あの人たちのいた集落で出会ってる、いえ、目撃されてるはずだから」

「目撃?」

「そう、チサトたちも大型車両に乗って移動してるから」

「大型車両! ということは?」

「そう、それこそがチサトたちが別行動をしていた目的なの。彼女たちはね、新たなる大型車両の建造と、それを稼働させるために、独自に動いてもらっていたのよ」

「で、そ、その名前は?」

「名付けて、〈トライアンフ〉」

「トライアンフ! かっこいい名前ですね! どんな車両なんですか?」

「……」レイナは腕を組み啓斗の目を見つめて、「それは、見てのお楽しみ」

「またー!」


 啓斗は椅子からずり落ちた。



 ヴィーナスドライヴは目的地に到着した。そこは小規模の町の中で、ピンポイント的に破壊を免れた一角といった規模の、ごく小さな集落だった。三台の車両を停めてレイナたちは車外に降りた。


「マリア」と、レイナは一緒に降りたマリアに、「待ち合わせ場所は、どこなの?」

「トライアンフを停めておくからって、そこで落ち合うことになってたんですけど」


 マリアは、きょろきょろと周囲を見回す。レイナたちも同じように首を振るが、それらしい大型車両の姿はどこにも見えない。


「いないわね」


 レイナが言うと、ルカが、


「トライアンフって、ハンガーくらいのクラスでしょ? そんな大きなもの目につかないはずないわよね」

「みんな」と、レジデンスから出て来たタエが、「もうお昼になるけれど、どうする?」


 それを聞いたレイナは、


「町の中で食べましょう。チサトたちがいるかもしれないし――そうだ!」


 レイナは懐から端末を取り出し、ディスプレイを展開した。


「そうか、レーダー」それを見たマリアが言った。


「そういうこと」レイナはディスプレイを見て、「……アイリとチサトは町にいるわね」


 どれどれ、と、マリアもレイナの手元を覗き込む、啓斗もマリアの反対側からディスプレイを覗き、


「あ、〈12〉番と〈13〉番」


 啓斗が口にした通り、ディスプレイの上側、レイナの前方方向には、〈12〉と〈13〉の番号が振られた緑色のマーカーが灯っていた。


「でも、二人だけ? 他の三人は?」ルカは言ってすぐに、「あ、動いたわよ」


 ディスプレイ上の〈12〉〈13〉のマーカーは、徐々にレイナに向かって移動してきていた。



「おーい!」


 レイナたちも歩いて行くと、町の中から手を振って叫びながら女性が走ってきた。その後ろからも、ひとりの女性が駆けてきている。手を振る女性はアキのようなツナギ姿。後ろから追ってくる女性はミズキたちが普段着用しているものと同じ作業着を着ていた。


「チサト! アイリ!」


 駆けてくる二人に向かってそう叫んでレイナも走り出した。その後を追って、ついてきた啓斗、ルカ、マリアの三人も走った。


「レイナー! 久しぶり!」


 駆けてきたツナギ姿の女性は、そのままレイナの胸に飛び込んだ。女性を受け止めてレイナは、


「チサト、元気だった?」そう言って微笑みかけた。


「チサトぉー……」その後ろから、息せき切って作業着の女性が追いついてきた。


「アイリ」と作業着の女性にはルカが駆け寄って声を掛けた。


「ルカぁー、ひ、久しぶりぃー……」


「アイリ」と呼ばれた女性はルカに抱き留められた。


「チサト、あなたたちだけ? 他の三人とトライアンフは?」


 レイナが訊くと「チサト」と呼ばれた女性は、


「そ、それがね、レイナ。追っていったんだ」

「追っていった? 何を?」

「ブルートヴィークルだよ! マリアが電話してきた番号に掛けたんだけど、もう出発したあとだったのか、誰も出なくてさ。知らせようがなかった」

「それ、いつのこと?」

「今朝の九時くらいだった」

「もう私たちは施設を出たあとね」レイナは顎に手を当てて、「どうして、私たちの到着を待てなかったの!」

「私は止めたんだよ! でも、『このまま見過ごせるかよ!』って言って」

「それを言ったのは?」

「ソーシャに決まってるだろ!」

「やっぱり……」レイナは、はあ、とひとつため息をつくと、「急いで戻りましょう。チサト、アイリ、案内して。トライアンフを追うわよ」


 レイナたちはもと来た道を引き返して駆けだした。が、


「ま、また走るんですかぁー」


 アイリひとりだけは膝に手を突き肩で息をして、その場から動けずにいた。


「ア、アイリさん」啓斗は走り出しかけた足を止めて、「俺がおぶっていきますよ」


 そう言ってアイリの前に背中を向けて膝を曲げた。


「あ、ありがとうー」アイリは、倒れ込むように啓斗の背中に体を預けた。


「うっ……」


 アイリの豊満な胸が啓斗の背中に押しつけられて形を歪めると、啓斗は一瞬声を漏らしたが、


「じゃ、じゃあ、行きますよ」アイリをおぶって走り出した。


「ねえ」おぶわれたままアイリは、「もしかして、あなたが?」

「え?」啓斗は正面を見たまま答えた。


「救世主さん?」

「そ、そうです。よ、よろしくお願いします」

「うふ、こちらこそ、よろしくね」


 アイリは、お辞儀するように頭を傾げながら言った。そのためアイリの息が啓斗の首筋にかかり、啓斗は真っ赤になって、ぞくり、と体を震わせた。


「おう、師匠から聞いてるぜ」と、併走したチサトが、「結城(ゆうき)啓斗、だろ。私、チサト。師匠ことアキの手伝いでエンジニアやってるんだ。よろしく」

「はい、よろしく、チサトさん」

「おいおい、みんなのことは呼び捨てにしてるんだろ? 私のことも頼むぜ。啓斗」

「う、うん、わかった。よろしく、チサト」

「おう!」チサトは、ウインクして親指を立てた。


「私のことも」と、背中からアイリが、「呼び捨てにして」

「わ、わかりました――わかったよ、アイリ」

「私、看護師なんです。具合が悪くなったら、いつでも言ってね、啓斗」


 アイリは、啓斗の首に腕を回したまま、にこり、と微笑んだ。


「啓斗、遅れてる」マリアは啓斗の後ろにつき、アイリの背中に手を当てて足を速めた。


「マ、マリア。速い、速いよ!」


 マリアの加速を得て、アイリをおぶった啓斗は皆と同じスピードで併走した。

 先頭を走るレイナは端末を耳に当て、アキにヘッドクオーターズ発進の準備をしておくように告げていた。

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