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ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
第7話 狙われたミズキ
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ヴィクトリオン展開

 まだ客がいた店はタエとクミに任せ、レイナたちが乗り込んだヘッドクオーターズはバンを追って走り出した。啓斗(けいと)はウインテクターを装着し、ヴィクトリオンで出撃した。後席には強化外骨格を(まと)ったコーディが乗り込んだ。


「まさか、急にドライブに行きたくなったとかじゃないだろうな」


 ヴィクトリオン後席に座ったコーディが言った。その声は通信を通してヘッドクオーターズ、ヴィクトリオン操縦席にも双方向で伝わっている。


「端末を置いてヴィーナスドライヴを離れることはないわ。ミサやコトミはともかく、ミズキなら、絶対に」


 司令室に立つカスミの声が返ってきた。


「ああ……」コーディは力ない声で言った。


「啓斗、レーダー画面を送ったわ」


 マリアの声とともに、ヴィクトリオンのコンソールにマップ画面が表示され、マーカーが点灯した。


「マーカーがバンの位置よ」

「啓斗」マリアの声の後にレイナが、「ヴィクトリオンで先行して」

「了解」


 啓斗は返答した。カスミの声が続き、


「啓斗、もし、ただのドライブだったら、きつく叱ってやって」

「分かりました」


 啓斗はスロットルを絞りヴィクトリオンを加速させた。


 ヴィクトリオンと一般車のバンではスピード勝負になり得ない。バンはかなり早い時間に先行していたが、ヴィクトリオンは数分かからずにバンの車影を捉えた。ヘッドライトにバンの姿が浮かび上がる。



「あれは……」バンの運転席に座るフードの男は、バックミラーに映るヘッドライトの光を見た。

「普通の車じゃないな。あれが……」そう呟くと、男は懐から形態端末を取りだし耳に当て、「66(ダブルシックス)、おかしな車に追われている。間違いなくやつだ。場所は捕捉出来るな?」そう言うと端末をしまった。


 バンの荷台では、ミサとコトミが身を屈めたまま、ミズキの手足を拘束したロープの結び目を解こうと奮闘していた。



「コーディ、車内は見える?」


 ヴィクトリオンをバンの右横につけ啓斗が訊いた。


「いや、暗いから駄目だな。バンにはまだ無線を取り付けていなかったから連絡も出来ない」


 後席の左側キャノピー越しに望むバンを見てコーディは返し、さらに、


「しかも、ヴィクトリオンを見ても車を止めないということは、運転しているのは明らかにミズキじゃないな……よし、取り付いてみる」


 と、コーディは持って来た装備を足下のスペースから取り上げた。


「コーディ、それは?」


 啓斗が訊くと、コーディは、


「マグネットアンカーさ。ワイヤーの先端が強力な電磁石になっていて、車体に貼り付けて取り付くんだ」


 そう言ってワイヤーが内蔵された小手を右腕に装着した。手の甲の上部分に電磁石のアンカー先端が飛びだしている。コーディはコンソールのキャノピー開閉ボタンに指を掛けた。が、


「コーディ! 待って! 何か来る!」


 啓斗の通信に指を止めた。バンとは反対側のヴィクトリオンの右側から高速で迫ってくる物体があった。その物体は速度を緩めず、そのままヴィクトリオンに突っ込んできた。


「うわぁー!」「きゃぁっ!」


 機体が大きく揺れ、啓斗とコーディは悲鳴を上げた。ヴィクトリオンの体勢を立て直して啓斗が右を見ると、


「ブルートヴィークル!」


 激突した反動で、ゆっくりと離れていくブルートヴィークルの機影がキャノピー越しに確認された。



「ふふ、こんな機体まで持っているのね」


 ブルートヴィークルコクピットのモニターに映る映像を見てホーネットブルートは言った。モニターには、体当たりを仕掛けた白い機体のキャノピー越しに強化外骨格を纏った人間の姿も映し出されていた。そして、


「一気に行かせてもらうわ!」


 そう言うとコクピット下部中央にあるダイヤルを握り、回して押し込んだ。ホーネットブルートの手が触れた状態のままダイヤルに光の線が走り、(てのひら)をなぞるようにダイヤル上を移動した。



「どうしてブルートヴィークルが?」啓斗は突撃してきた敵機からバンに視線を移し、「まさか、あのバンにはブルートが?」

「啓斗! ヴィークルが!」


 コーディの声に啓斗はブルートヴィークルに視線を戻し、


「あ、あれは?」


 ブルートヴィークルに変化が現れた。機体表面に幾つもの光の筋が走り、そこから分割されるように機体のパーツが動き出す。平たい車両状だったブルートヴィークルは、その形状を変化させつつあった。分割されたブロックごとに大きくパーツが動く中、枝葉の部分も、細かい部品が収納され、また、新たに現れるなど、ディテールが変化していく。それらの動作は複合して数秒で終了し、ブルートヴィークルは出現時とは全く違う形状に変化を完了した。


「コーディ! あれが?」啓斗が叫んだ。


「ああ」と、コーディもその姿を見て、「〈ヴイメック〉だ!」



 午前中、レイナから受けたレクチャーで啓斗は、ブルートが有する特殊能力を教えられた、それが、


「ヴイメック?」

「そう」レイナは言って、「ブルートはね、ブルートヴィークルに自分の戦闘形態のデータを送り込んで、ヴィークルの形状を変化させることが出来るの。地球軍が名付けたその能力が、〈Vehicle Metamorphosic Changer 〉略して、VMECH(ヴイメック)

「そんな能力が」

「ヴイメックされたヴィークルは、パイロットであるブルートの能力に沿った形状になるわ。そのほとんどは格闘に有利な手足を有したものになる。全高八メートルクラスのね」



 ブルートヴィークルは四肢を得た人間に近い形状に変形を遂げていた。その左腕前腕からは長尺な針が突きだしている。胸の位置には左右二門ずつの砲門のような突起も備えていた。ブルートヴィークルは走行する代わりに背中から生えた四枚の羽の羽ばたきと背面バーニアの噴射で、低空飛行をしながらヴィクトリオンに迫る。


「レイナさん! ブルートヴィークルが変形しました!」


 啓斗の声はヘッドクオーターズ司令室に、ヴィクトリオンのカメラ映像とともに届いた。


「とうとう使ってきたか」


 モニターに映ったヴイメックを見てアキが言った。


「交戦中のヴイメックを〈ヴイメックホーネット〉と呼称する」レイナが通達した。


「ヴイメックホーネット……あれには、ホーネットが乗ってるのか。くそ!」


 啓斗はハンドルを切った。ヴィクトリオンは鋭くカーブし、ヴイメックホーネット機体からの砲撃を(かわ)した。


「啓斗! あまりバンに近づくと流れ弾が当たる恐れがある!」


 コーディが叫んだ。バンには今しがた放たれた砲撃により巻き上げられた土砂が覆い被さっていた。


「くそ……」

「啓斗!」レイナから通信が入り、「こっちも、もうすぐ追いつくわ。バンの追跡はこっちに任せて、啓斗はヴイメックを迎撃して!」

「りょ、了解!」啓斗は答えた。


「レイナ」と、アキが、「啓斗も言っていたが、あのバンにはブルートが? ミズキたちはブルートに掠われたのか?」

「その可能性が高いわね。でも、どうして?」レイナは眉を寄せた。



 午前中のレクチャーで、ブルートの特殊能力、ヴィークルを変形させるヴイメックの説明を聞いた啓斗は、


「全高八メートルの格闘形態? そんなものと、どうやって戦えと?」

「心配するな」と、レイナの隣に座ったアキが、「対抗策はある。ヴィクトリオンは、そもそもそのために作られたんだ」

「え? もしかして……」

「そう。ヴィクトリオンもブルートヴィークルを元に開発されたヴイメックの機体だ。格闘形態に変形出来るんだ」



「コーディ! 変形する!」

「了解!」


 啓斗が叫んでコーディが答えると、啓斗はコンソール中央にあるダイヤルを掴み、回して押し込んだ。

 大きな駆動音が鳴り、ヴィクトリオンの機体が震えた。左右のタイヤブロックが前輪部と後輪部に分かれ、前輪部はコクピットに、後輪部は後席に接続された状態となった。後席を軸にして、コクピットブロックが水平を保ったままシャフトにより後席の上方へ持ち上がる。ヴィクトリオンは二軸の後輪のみを地面に接して走行している状態となった。

 その間に前輪部が展開し、タイヤが肩の位置として、上腕、前腕が構成され、さらに前腕先端が展開して五本の指を備えた人間のような手首となった。

 コクピット前方のカウルパーツはコクピットに被さり、透明なキャノピーを覆い隠す。キャノピーには外部カメラからの映像が映し出されるようになった。カウルの先端が畳まれて胸部を形成する。

 後席も後方から装甲板がスライドしてきてキャノピーを覆い、カメラ映像が映し出されるようになる。コクピットと後席は上下の位置関係となり、コクピットが胸、後席が腰に位置した。


「啓斗! 来る! 後ろ!」


 コーディの声に啓斗はハンドルを切り、変形途中のヴィクトリオンは脚部がタイヤ形状のまま、カーブしてヴイメックホーネットが繰り出してくる針の突きを躱した。そのまま横になぎ払われた針をヴィクトリオンは両手で掴む。


「こいつ、変形を!」ヴイメックのコクピットで、ホーネットブルートは叫んだ。


「この!」啓斗はハンドルを操作し、ヴィクトリオンの上半身だけを回転させて手を離しヴイメックホーネットを投げ飛ばした。ヴイメックホーネットは空中で羽を羽ばたかせバーニアを噴かし、手脚を振って姿勢を制御して地面への激突を免れた。

 その間にヴィクトリオンの後輪部は展開し、腿、脛、足首を要する脚部へと変形を遂げた。両足で大地を踏みしめて立ったヴィクトリオンは、最後にコクピットに被さったカウル部が展開し、ゴーグル状の目を持つ頭部を形作った。


「行け! 啓斗!」


 コーディが叫び、啓斗は、


「はい!」


 低空飛行してきたヴイメックホーネットの突きだした針を躱し、カウンターにハイキックを叩き込む。ヴイメックホーネットは今度こそ地面に激突した。その横をヘッドクオーターズが高速で走り抜けていく。


「みんな! 頼みます!」


 啓斗はヘッドクオーターズを見送って、ヴィクトリオンの右腕を水平に上げた。自然、前腕部に装備されたマシンガンの銃口も前方を向き、立ち上がりかけたヴイメックホーネットを狙う形になった。啓斗がトリガーを引くとマシンガンが唸り、フルオートで銃弾が放たれた。

 ヴイメックホーネットは両腕を(かざ)して銃弾を受けた。そのまま羽ばたきとバーニアで上昇し、水平飛行に移る。啓斗の狙いはその動きを追いきれず、マシンガンの銃弾の軌跡は、ヴイメックホーネットを追いかけるように弧を描いて夜の虚空に消えていく。

 ヴイメックホーネットから砲撃が放たれた。うち一発が命中し、ヴィクトリオンは後方に仰け反った。


「啓斗、まだ来るぞ!」


 コーディの声に啓斗はヴィクトリオンの足を動かし、横にステップさせて砲撃を回避した。

 ヴイメックホーネットは、さらに上空に飛び上がり砲撃を仕掛けてくる。ヴィクトリオンもマシンガンで応戦するが、


「駄目だ、啓斗。射程が違う! この距離じゃこっちのは当たらない!」


 コーディの声に啓斗は射撃をやめ、


「それなら!」


 と、ヴィクトリオンの脚部をタイヤ形状にして地面を走らせる。今度はヴイメックホーネットの砲撃がヴィクトリオンの動きを追いきれず、砲撃はヴィクトリオンが後ろに刻む轍に着弾し続けた。

 ヴィクトリオンは加速を続けると肩のバーニアを吹かして僅かに浮き上がり、脚部をタイヤから脚に変形させると地面を蹴って跳び上がった。さらにバーニアを吹かし上昇、ヴイメックホーネットに迫る。


「何? こいつ!」


 ホーネットブルートはヴイメックを上昇させ、迫ってくる白い機体から更に距離を空けかけた、が、


「しまった!」


 ヴィクトリオンは右腕を振り上げ、ヴイメックホーネットの右足首を掴んだ。

 ヴイメックホーネットは羽の羽ばたきと最大限バーニアを噴射させても二機分の重量を支えきれず、二つの機体は下降を始めた。


「離せ!」


 ホーネットブルートは叫び、ヴイメック左腕の針を自機の右足首を掴む白い機体に向け突きだした。しかし、ヴィクトリオンの動きのほうが早かった。左腕前腕内側装甲が展開されて、そこから飛び出たナイフを左手で掴む。そのナイフを敵機の膝関節部に突き立て、刀身に高周波振動を加えるとナイフを真横に引いた。

 ヴイメックホーネットの右脚は膝から切断され、ヴィクトリオンはその右脚を(かざ)して突き出されてきた針を受けた。針は切断された自機の右脚を貫いたことで勢いが殺され、針の先端はヴィクトリオン頭部から一メートルほど手前で止まった。

 ヴィクトリオンが掴んでいた敵機の右足が切断されたことで、ヴィクトリオンは下降、ヴイメックホーネットは上昇し、両機の距離は遠ざかっていく。ヴィクトリオンは握っていた敵機の右足を投げ捨てると、肩のバーニアを吹かして姿勢を制御しながら右腕を突き出す。前腕部のマシンガンが火を噴き、銃弾はヴイメックホーネットの頭部と背中の羽を二枚吹き飛ばした。


 ヴィクトリオンはバーニアの噴射とともに、脚関節を曲げ衝撃を吸収して着地した。対してヴイメックホーネットは左側面を下にして、衝撃音を響かせながら墜落した。

 ヴィクトリオンは右前腕からもナイフを出して右手に握ると、両手にナイフの二刀流として走った。

 残された羽の羽ばたきとバーニアの噴射で起き上がったヴイメックホーネットだったが、迎撃態勢を整える前に左腕肘をナイフで斬り飛ばされた。ほぼ同時に、もう一方の逆手に持ち替えられたナイフが頭部を失った首に突き立った。ヴィクトリオンが腕を下ろすと、高周波振動の切れ味でナイフの刀身もヴイメックホーネットの胴体を縦一文字に斬り裂く。その過程でナイフはコクピットのホーネットブルートの体も縦に真っ二つにした。

 肩を軸に回転する腕で振り抜かれたナイフは、その刀身をヴイメックホーネットの腰部から引き抜き、ヴィクトリオンは最後に右足で敵機を蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされたヴイメックホーネットは背中から地面に激突し、機体各所から光の筋を浮かび上がらせて大爆発した。

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