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ヴィーナスドライヴ  作者: 庵字
第3話 エースナンバー〈10〉
13/74

ウインテクターの武装

「全員の搭乗を確認」

「よし、出発」

「了解」


 マリアがメンバー全員の所在を確認し、レイナが出発の合図の声を発すると、ヘッドクオーターズ運転席のスズカが答えた。

 ヘッドクオーターズはエンジン音を鳴らして前進を始める。その後ろにレジデンスが続く。さらにその後ろには、町で合流したもう一台の大型トレーラーが続いていた。〈ハンガー〉と呼ばれる車両だ。レジデンス、ハンガーそれぞれのハンドルは、コーディとアキが握った。

 啓斗(けいと)はミズキとともに、ヘッドクオーターズの司令室にいた。


「レイナさん、俺たち、どこへ向かっているんですか?」


 啓斗の質問にレイナは、


「とりあえず、近くの町に行くわ。ブルート出現の情報を集めるの」

「ブルートの情報、ですか」啓斗は少し考え込む表情をして、「あの、いきなりブルートの本部に殴り込みをかける、っていうのは?」


 レイナは、ふふ、と笑って、


「頼もしいわね。さすが、救世主ね」

「い、いえ。どうせなら、敵の本部をいきなり叩いたほうが手っ取り早いかと」

「啓斗、ブルートの本部は、もう地球にはないわ」

「えっ? どういうことですか?」

「ブルートの中枢はね、数年前くらいから少しずつ、地球を離れていったのよ」

「どうして?」

「さあ。もうこの地球で、地球人をいたぶるのに飽きたのかもしれないわね。徹底的にやられたから、地球は……」

「そ、そんな理由で?」


 啓斗は唖然とした表情になった。隣で、ミズキも神妙な顔を見せている。レイナは続けて、


「地球の他に、別の知的生命体のいる星をみつけて、そこを新たなターゲットにするため地球を離れたんじゃないか、という説もあったわ。本当のことは分からないけれどね。でも、ブルートの全員が全員、地球を出て行ったわけじゃない」

「はい、昨日いたような連中、ですね」

「そう、本体はいなくなっても、まだ多数のブルートが地球に残っているわ。まだこの地球で暴れ足りない、とでも言いたげにね。啓斗、私たちはね、この状況はチャンスだと思っているの」

「ブルートの本体がいないから、ですか」

「そう。今のブルートに組織立った縦横の繋がりは、ほとんどないわ。個人個人が好き勝手に暴れ回っている、愚連隊みたいな状態だと思われるわ。あいつらは、五百年前に飛来させた彗星の影響で地球人が自分たちに反抗出来る術を持たない、と、高をくくっているわ。啓斗、あなたのような人間が存在するなんて、夢にも思っていないはず。まだ、ブルートが組織としての(てい)を保っていて、もし、自分たちに反抗出来るような人間の存在が明らかになれば、すぐにその情報は全軍に通達されたはず。そして、啓斗はブルート軍の一斉攻撃に晒されていたはずよ」

「た、確かに、そうかも……」

「だから、私たちは、こうして各地を周りながら、ブルート出現の情報を聞き回る。そして、ブルートを発見次第、啓斗、あなたが確実にその場で倒す。愚連隊とはいえ、昨日のスパイダーとバットみたいに、(つる)んで行動している、横の繋がりを持つブルートだっているわ。もし、啓斗がウインテクターでブルートに攻撃を仕掛けて、し損じて取り逃がしてしまうようなことがあったら、あなたの存在が他のブルートに前もって伝わってしまうかもしれない」

「非常にやりにくくなりますね」

「そうなの。だから啓斗、私たちのやり方は、一見必殺。それしかないの。つらいことを強いているのは分かっているけれど、ここまで来たら、もう啓斗にも覚悟を決めてもらうしかないの」

「はい。分かっています。俺、やるって決めましたから……」


 啓斗は、口元を引き締めて、ベルトに指したナイフホルダーに手を当てた。


「はい、お茶どうぞ」


 と、オペレーターのひとりマリアが、グラスが三つ載ったトレイを持ってきて、テーブルに置いた。


「ありがとう、マリア」


 レイナに続き、啓斗、ミズキも、それぞれ礼を言った。


「啓斗」トレイを胸に抱きかかえるようにして、マリアは、「私、今朝当番だったから自己紹介できなかったね。私、マリア。サヤと一緒にオペレーターをしてるの。パーソナルナンバー〈7〉の二十歳よ。よろしくね」と、右手を差し出した。


「よろしく、マリア」


 啓斗も手を差し出し、握手を交わした。


「ハンガーから通信です」


 と、コンソール席に座るサヤが告げると、レイナは、「繋いで」と指示した。司令室内のスピーカーから、アキの声が聞こえ、


「レイナ、町には何時頃到着する予定だ?」

「そうね。……スズカ?」


 レイナの声、司令室でのやりとりは、マイクを通じてヘッドクオーターズ運転席にも伝わっている。スピーカーから今度はスズカの声が、


「そうだね、お昼までには着くね」

「だそうよ」

「そっか」再びアキの声が、「じゃあ、着いたら、ちょっと啓斗を貸してもらえるか? ウインテクターの装備の説明なんかをしたい」


 レイナは啓斗を向いて、「いい?」と訊く。

 啓斗は、「はい、もちろん」と答えた。



 次の町に到着し、三台のトレーラーを町外れに駐車すると、簡単な昼食をとり、ヴィーナスドライヴのメンバーは、情報収集、買い出し、ウインテクターの説明、の三班に分かれた。

 説明班はハンガーに集まっていた。メンバーは、啓斗、アキ、ミズキ、カスミ、コーディの五人だった。他のメンバーは、サヤひとりをヘッドクオーターズに残して、それぞれ情報収集と買い出し班に分かれて町へ向かった。

 開かれてスロープ状に地面と接しているハンガーの後部ハッチを上って、啓斗とミズキはハンガー内に足を踏み入れた。


「ここがハンガーですか」


 啓斗は、車幅いっぱいにスペースを取られた格納庫のような、そのスペースのぐるりを見回しながら言った。


「男の子は、こういうの好きだろ?」


 ツナギ姿のアキは、笑って言った。

 格納庫の奥には、幅三メートル、長さ五メートル、高さ一.五メートル程度の、シートが被せられた物体があった。格納庫の幅が四メートル程度のため、壁にほぼぴたりと付けられているその物体と反対側との壁の間は、一メートルほどしか余裕がない。


「あれ、何ですか?」


 啓斗はシートを被せられた物体を指さして言ったが、アキは、


「まあ、あれは後だ。まだ調整が終わってないしな。それより、啓斗、君が使う武器の説明をするぞ」


 と、後ろに立ったカスミと一緒に、剣やライフルといった武器類を持って外に出た。啓斗も、シートの物体を一度振り返ってから、ミズキと一緒にアキとカスミのあとについていった。

 外では、コーディが無骨な作業台のようなテーブルを出しており、アキとカスミはその上に武器類を並べた。


「これが、今、啓斗が使えるウインテクターの装備だ」


 アキは、並べられたそれらに手を向けて言った。台の上には、剣、ライフル。この二つは、昨日の戦いで啓斗が使用したのと同じものだった。その隣に、テニスボール程度の大きさの金属製のボールが数個。最後に、横三十センチ、縦四十センチ程度の僅かに表面が湾曲した金属製の板が置かれていた。


「基本、ウインテクターで殴ったり蹴ったりするだけでも、ブルートにダメージは与えられるんだが、武器を効率的に使ったほうがいいことは言うまでもない。ウインテクター及び、これらの装備は、ヘッドクオーターズにある転送室から、啓斗、君に転送される。転送位置は君の」と、アキは啓斗の胸を指さし、「胸に埋め込まれた受信機をゼロ軸とした相対座標で決められる。ほとんどの場合、こちらから転送位置を指示するが、現場の状況で、ここに転送してほしい、という要望があれば言ってくれ。前にも言ったが、転送位置にすでに他の固い物体があったりした場合は、干渉してエラーとなり転送出来なくなる」

「わかりました」


 啓斗が返事をすると、アキは、


「じゃあ、次に、武器の説明に移ろう」と、剣に指をさし、「まず、これが、高周波剣だ。ブルートが使っている武器を加工して作られたもので、やつらのバリアを無効化して斬りつけることが出来る。柄にあるボタンを押せば、刀身に高周波振動が加わり切れ味が増す。ただし、エネルギーを使用するから使いすぎるなよ」

「アキさん」と、啓斗が手を上げて、「この剣でブルートにダメージを与えられるなら、普通の人間がこれを使えばいいんじゃないんですか?」

「それは、もちろん不可能だ。この剣にも当然、握っている人間の遺伝子情報を読み取るという排除不可能な機能がある。啓斗、君だけがこれを持つことで、その読み取りをキャンセル出来るんだ」

「そういうことなんですか」

「そういうことだ、だから、分かるか?」

「何がですか?」

「この剣は、啓斗が握った状態じゃないと、効果がないっていうことだ。いくら啓斗でも、この剣を投げつけてブルートにダメージを与えることは出来ない。啓斗の手を離れた時点で、これはただの剣になってしまう」

「ああ、なるほど」


 啓斗が納得して返事をすると、アキは続けて、


「そして、その隣が」と、ライフルを指して、「マルチプルライフル。基本はアサルトライフルだが、威力を調整して、小型ハンドガン程度の小威力の弾丸を発射することも可能だ。もちろん、連射、単発、三点バースト弾に切り替えも出来る。ウインテクターの索敵機能と会わせれば、ちょっとしたスナイパーライフル並の狙撃も可能だ。昨日、啓斗がバットを撃ち落としたみたいなね。装弾数は、ワンマガジンで96発」

「そんなに? アサルトライフルの装弾数って、多くて30発くらいなんじゃ?」

「そこが、ブルートの武装の凄いところ。このライフルも、やつらの武器を拾って研究して作られてものだ。ケースレス、小型化されても威力の落ちない弾丸。当然、これらの技術は地球の兵器にも研究採用された、でも」

「そもそも、最初からブルートに効かない武器をいくらパワーアップしても無意味だった、と?」

「そういうこと。で、次が……」アキは金属製のボールを指し、「これが、ハンドグレネード。いわゆる手榴弾だな」

「手榴弾、こんなものまであるんですか。これもブルート側の武器ですか?」

「そうだよ」

「だったら」と、啓斗は、手榴弾を指さして、「これを爆発させれば、普通の人間でもブルートにダメージを与えられるんじゃないんですか?」

「駄目なんだ。これの起動スイッチは、タッチパネルみたいなところに指で触れるだけなんだが、その時点で使用者の遺伝子情報を読み取っている。棒なんかで間接的に触れても、一切反応しない。誘爆させてみようともしたが、駄目だった。こいつは、スイッチが押されて、中の材料が特殊な反応をしないと爆発しないんだ。外部からの爆発じゃ、ただ粉々になるだけだった。まったく、念の入ったことだよ」

「そうなんですか」


 啓斗は、グレネードのひとつを取り上げて手の中で回して、


「あ、ここがそのタッチパネルの起動スイッチですね」


 と、光沢のある滑らかな部分に人差し指で触れた。すると、グレネードは、ピッ、と電子音のような音を発し、外周に光の帯のようなものが回り出した。


「あ」啓斗が短い声を上げて、「あの、これ……」啓斗は手にしたグレネードをアキに差し出し、「もしかして……」


 アキは、外周を光が回るグレネードを見て目を丸くして、「お、おい……」と、後ずさった。


「啓斗!」「お前な!」


 後ろでミズキとコーディが叫んだが、


「ねえ、これ……」と、啓斗が振り向いてグレネードを差し出すと、アキと同じように後ろに引いた。


「捨てろ! 啓斗!」


 アキが叫ぶと、啓斗は、「えっ?」と呟いて、グレネードをその場に放り出した。


「馬鹿! もっと遠くにだ! 総員待避しろ!」


 アキが叫ぶと、ミズキとコーディは啓斗の手を引いてアキと一緒にハンガーの向こう側に走り込んだ。

 ひとり残ったカスミは、地面に転がったグレネードを拾い上げると振りかぶり、上方四十五度の角度で空に向かって放り投げた。碧空に吸い込まれていったグレネードは、地上数十メートルの高さで爆発、辺りに轟音を響かせた。カスミは投擲(とうてき)の直後、頭を抱えてその場に伏せていた。

 爆発音の反響が消えると、カスミは立ち上がって、


「みんな、大丈夫よ」


 と、ハンガーに向かって声を掛けた。恐る恐る、というふうに、アキ、ミズキ、コーディの順に車体の向こうから顔を出し、最後に啓斗も、ゆっくりとカスミのほうを覗き込んだ。


「バカ! 啓斗!」「お前! 触るやつがあるか!」「おい! どうせ死ぬなら、最後にやらせろ!」


 ミズキ、アキ、コーディは、揃って啓斗をなじった。


「ねえ、コーディ。今、何て言った?」


 ミズキの声に、コーディは、


「え、何も言ってないよ」


 啓斗は、頭を抱えてしゃがみ込んだまま、三人の言葉も耳に入らないかのように、「ごめんなさい!」と、ひたすら詫びの言葉を繰り返していた。

 アキの通信端末が鳴り、アキが応答すると、


「ねえ、今の凄い音、何?」


 スピーカーから、ヘッドクオーターズで番をしているサヤの声がした。


「何でもないよ」アキはそう言って通信を切った。



「最後のこれは、盾だ」


 台のそばに戻ったアキは、啓斗に装備の説明を再開した。啓斗は、盾を手に取り眺め回す。


「その裏にあるジョイントで、ウインテクターの腕装甲と接続することが出来る」


 アキの言葉通り、盾の裏側には、ウインテクターの装甲と繋ぐ部品があった。啓斗は、


「こ、これは、変なところいじっても爆発とかしないですよね?」

「当たり前だ! 盾だぞ! これだけは純地球製だ。ブルートの攻撃を防ぐのが目的だから、遺伝子情報とか関係ないからな。以上だ」

「あ、ありがとうございました」


 啓斗はアキに、ぺこり、と頭を下げ、ミズキ、コーディ、カスミにも、「お騒がせしました」と、同じように頭を下げた。ミズキは、


「もう、気をつけてよね。啓斗がこんなアホなことで死んだりなんかしたら、レイナ、ショック死するわよ、きっと」


 と言って、ため息をついた。啓斗は「はい」と、もう一度頭を下げて、カスミに、


「カスミさん、ありがとうございました。凄いですね、あの状況で、冷静な判断」

「ふふ、ありがと。伊達に年食ってないわよ」カスミは笑って、「気をつけるのよ」


 と、啓斗の横を通り、すれ違いざま啓斗の頬に唇を触れた。


「え?」

「ああっ! ちょっと! カスミ!」


 啓斗はカスミの唇が触れた位置に手を当て、ミズキは顔を真っ赤にして叫んだ。


「ふふ」カスミは笑って、「セックスは駄目だけど、キスくらいならいいんでしょ」と、アキに言った。


「ああ、構わんよ」アキは平然と答えた。


「じゃ、じゃあ」と、コーディが、「私も!」と、啓斗に向かって飛びついた。


「ちょっと! コーディ!」


 ミズキは啓斗とコーディの間に割って入り、二人の顔の接近を阻止すべく手で押さえつけていた。

 アキはカスミと一緒に装備を片付けながら、


「念のため、舌は入れるなよ。口の中も粘膜だからな」


 と、三人の様子を見もしないで言った。

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