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世界救うとかどうでもいいから異能の力を授かって!  作者: A46
Chapter2. その目の輝き、コランダム。
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#08 カードがご利用いただけなくて

「おいしい、でも、涙と醤油が混ざってやたらしょっぱい……」

「こっちが逆に心配になるくらいだったもの」

 なぜ、ベアトリスは涙を流しつつ寿司を頬張っているのか。




 時を遡ること約20分。家の近くのスーパーでのこと。

「ものすごい種類の多さね!それにとっても安いじゃない、大陸の向こうじゃ、やっぱりまだ高い外食なのよ、寿司って」

「遠慮せず食べたいもの買ってください、どうせ払うのベアトリスだし」

「ええ、そうさせてもらうわ。——何年ぶりかしら、寿司なんて」


 そこにはむしろノリノリでパック寿司を俺の持つカゴに入れまくるベアトリスの姿が!

 俺の持つカゴに、ベアトリスが割と乱雑にカゴに放り込んだパック寿司を、花音が綺麗に重ねていく。さながら餅つきか何かのようだ。

 支払いは大丈夫なんだろうか。


「ベアトリスさん、お寿司食べたことあるんですね」

「両親が日本で働いてるときに知り合ったくらいだもの。向こうでもロンドンに遊びに行くとよく連れて行ってもらったし、留学に来る前も2,3回日本に旅行に来たことがあって、そのときには回転寿司にも行ったわ」

「へぇ、ご両親は日本で知り合ったんですね」

「そうよ、フランス人とドイツ人が日本で知り合って結婚してイギリスに住んでるのよ、不思議でしょ」


 なんだこの国際的すぎるバックグラウンド。

 ヨーロッパではこういうのって普通なのか?


「ベアトリスさんのお母さんって、ドイツ人なんですね」

「そうよ、しかもポーランド人とのハーフ。パパが子供の頃からドイツ語ペラペラだったせいで、ママったらフランス人と結婚してるのにフランス語全然できないのよ。だから、ママに内緒の話をしたいときにはフランス語で会話するの。おもしろいでしょ?」

「普段家で何語で話してるんだよ……」

「姉妹同士では基本英語ね。親とは場合によりけり。ママと一対一ならドイツ語だし、パパは何語でも大丈夫だけど、向こうからはいつもフランス語で話しかけられるから、流れでフランス語になっちゃうわ」

「家族間の意思疎通に支障が出そうだな……」

「慣れればそうでもないわ、時々自分が何語喋ってるのかわからなくなる時はあるけど」


 地方から上京してきた人なんかは、無意識に標準語と地元の方言を切り替えていたりするらしい。一方の俺はというと、関東で、しかも県の1/3くらいを丸ごとだなんてぶっ飛んだ規模の学園都市で育った身だ。地元の言葉が標準語なので、そこはちょっと羨ましい。


 そんなこんなで、やたら大量のパック寿司と数本の飲み物をカゴに入れて、レジまでやってきた。


 順番が近くにつれ、ベアトリスが額に汗を浮かばせていく様がよく分かる。

 ただ、家を出る前に、SWA実験協力の「報酬」の第一回目を入れた封筒をベアトリスから渡された。それを持ってきているので、払えない心配はないだろう。ところで、まだ中身は見ていないのだが、いくら入っているのだろうか。どう考えても一枚二枚の厚さではない。


 ちょっと確かめるくらいなら……

 そう思って封筒を開け、中を覗いてみた。

 ……そして、そっと閉じてワンショルダーバッグにしまった。

 数ミリはあろうかという万札の束がそこに見えた。こんな大金を持ち歩いたことなどもちろんない。スーパーの中にはATMがある。一時的に俺の個人口座に入れてしまってもいいが、ここは余計な誤解を生まないよう明日にでも銀行に行って、いったん生活費用の口座にでも預けておこう。それが一番波風が立たない。


「いらっしゃいませ、お待たせしました〜」

 おそらくパートの主婦なのだろう。レジ係の中年女性が暢気な口調で俺たちに声をかけた。順番が回ってきたようだ。

 バーコードをスキャンされるお寿司たち。会計金額も容赦なく上がっていく。ベアトリス、最終的にほとんど値段見ず入れていたような……。


 結果として、会計額はギリギリ4桁で踏みとどまる、という形になった。


「ベアトリス、大丈夫なのか…?」

 さすがに心配なので、小声で聞いてみた。

「た、確かに、現金の持ち合わせはないけど……イギリス育ちの私にはこれがあるから問題ないわ…!」

 そういって彼女が財布から取り出したのはクレジットカード。確かに、欧米ではこういう日用品とか食料品でもよくクレジット決済すると聞くな。

 あれ?でも……

「お兄ちゃん、このスーパーって……」

「ああ、確か……」


「申し訳ありませんお客様、当店はカードがご利用いただけなくて……」

 そうでした。

 学園都市。いかにも先進的そうな響きのする言葉だが、裏を返せばつい10年ちょっと前までろくな交通機関もないド田舎だったのだ。まさにここもそうだが、そんなド田舎時代からある店では、ままあることだ。実際、買い物客も学園都市造成以前から住んでるであろう中高年や高齢者が多い。


「なん……ですと……!?」

「ベアトリスさん、とりあえずここはさっき貰ったので払うから、花音と一緒に袋詰めしといて!」

「い、イエスマイロード!」


 持っててよかった実験協力報酬。




 そして舞台は再び自宅。


「どうしてよ……スーパーでカードが使えないって……なんでこう日本人は……!」

「日本だとクレジットカードで買い物しすぎて多重債務になる人とかがけっこういるから、カード使うのにそこまで積極的じゃないんですよ」

「現金なんてスマートじゃないわ……」


 店を出たあたりからずっとこんな調子だ。ずっと件のスーパーでカードが使えない悪口を言っている。ただ、学園都市造成に伴って出店してきたチェーン店に対抗するため、一応割となんでも安めに設定されている。


「パパが言ってたことは本当だったのね。あぁなんかムシャクシャする……酒よ!酒はないの!?」

「未成年しかいないのにあるわけないでしょうが……」

「そうだったわ……それだって18歳で解禁だっていいじゃない」

「俺17歳だからどっちにしろ無理です」

「つれないわね……本当、この国って……」


 がっつり寿司を食べながらそう言うことを言っていくのか。


「別にけなしてるわけじゃないけど、私みたいなヨーロッパの人間からすると、日本って本当に不思議な国なの。カード使えないスーパーがあるわ、先進性のある国なのに英語能力は微妙だわ……良くも悪くも、"どうしてそうなった"の連続よ」


 ベアトリスの顔に笑みが戻ってきた。おかしいな。それだけのことなのに、なんでこんなに安心感があるんだろう。


「パパはね、日本にいるときのそんな感覚がすっごく気に入ってたみたい。日本に住んでたのは20年以上前だけど、今でもよく電子書籍で日本語の小説とか漫画とかバリバリ読んでるわ。旅行できたときも全部日本語で通じてたし」


 花音がお茶を持ってきてくれた。寿司屋のお茶が熱いのは、舌に残ったネタの脂分を洗い流して、もっと寿司を味わうためだとか聞いたことあるけど、どうなんだろう。


「当時の私からしたら、まるで宇宙人の言葉でも話しているように聞こえたわ。不思議ね、その宇宙人の言葉で今私が会話してるなんて」


 宇宙人の言葉、か。

 昨日、ベアトリスが電話で話していたときのフランス語を思い出した。確かに、学んだことのない言語というのは、何を話しているのか全くわからない。というより、それが本当に意味のある言葉なのか確証がもてない。中学生になる前は、英語だってそうだった。もっとも、今だって姉妹たちと喋るときのような英語をベアトリスに話されたら、ほとんど聞き取れないだろう。


「——そうだ、アヤヒロ。話は変わるんだけどね」

「なんです?」

「確かめたいことがあるの。もう一回、さっきのコイン撃つの、やってくれないかしら?」

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