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世界救うとかどうでもいいから異能の力を授かって!  作者: A46
Chapter1. ある男子高校生のひどい一日
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#03 臍の緒経由でたっぷり入ってるから

 服を着たリコが戻ってきて、制服のままだったので俺も着替えてきた。

 いつも通りのようでちょっと違う。普段より一人多い夕食。


「な、なにこれおいしいじゃない。カレーライスって、大学の学食のしか食べたことないけど、ほぼ別の食べ物よこれ」

「ありがとうございますベアトリスさん。さすがはリコ式レシピ、ですね」

「……学食のほぼ具無しカレーがひどすぎるだけです。」


 1年前の来日直後に初めて食べて以来、カレーライスはご無沙汰だったらしい。

 我が家の料理はリコのレシピを元に有彩が作ることが多い。リコにはどうやら天性の才能があるらしく、料理がとんでもなく上手い。だが本人が嫌がって定期的にはあまりやりたがらない。たまに気まぐれでやったとしても、大抵道具の片付けはせずに放置してある。

 そこから、生まれた図式が「リコのレシピで有彩が作る」である。

 もっとも、有彩単体の料理であってもそこらの主婦にひけを取らないと思うが。


「兄さん、ガラムマサラかけるですか?」

「おお、頼む」


 辛いのが平気なのはこの家では少数派だ。今は不在の両親を含めても俺とリコしかいない。


「ちょっと兄さま、せっかくのリコ式レシピで作ったカレーを……」

「あのレシピは本来のレシピよりガラムマサラを減らしてあります。そうしないと私と兄さんしか食べられなくなるので。はい兄さん、このくらいがちょうどいい辛さだと思います」

「どれどれ…うん、おいしい!ありがとうリコ」


 辛い、という感覚は味覚ではなく痛覚らしい。なので耐性が人それぞれなのはわかる。しかし「甘い」が対義語みたいになっているのはどうしてなのだろう。というか、大抵の味覚表現の対義語が「甘い」な気がする。甘味がすべての味覚の頂点だというのか。


 などと考えていたら、視界の端でベアトリスが悶絶しているのが見えた。


「ベアトリス?どうしたんです?」

「——からい……というか痛い……」

「ええ?」


 全兄妹仕様(命名:リコ)のカレーはかなり辛さを抑えているはずなのだが……


「ヨーロッパにはかりゃい料理なんてあんまりにゃいもん……」

「じゃあなんで学食のカレー食べようとしたんだ」

「あんまり辛くないから、って同じクラスのイギリス人に勧められて……」

「ああ、学食のカレーは辛い辛くない以前に、日によっては味がするかどうかってレベルの時があるからなぁ……」


 大学と中学・高校の学食は、場所は別だが業者が同じ。

 大学でも講義をしている先生いわく、何が美味しくて何が不味いか、全く同じらしい。ちなみに、唐揚げがとても美味しい。


「とにかく、お水のんで——」

「待って姉さま、こういうときは牛乳のほうがいいんです!」

「分かった、俺が持ってくる!」


 たかがカレーでなぜこんな大事になっているのか。

 とりあえず、「ベアトリスは辛いものが極度に苦手」という全く求めていない情報を得た。


「——落ち着きましたか」

「後から来るのは卑怯よ……」

「それがいいんじゃないですか、本当はもっと辛く作ってほしいんですよ?」

「やめて、しんじゃう……」


 歴史上、料理が辛すぎて死んだ人っているんだろうか。


「——それで、本題なんだけどね」

「落ち着いた瞬間それですか」


 数秒前までぐったりしていたベアトリスが起き上がり、真顔で言い放った。そして真顔のままサラダをもしゃもしゃと口に運んでいる。

 ……ドレッシングあるんだけどなぁ。


「アヤヒロに実験に協力してほしいって頼んだ、っていうのはもう皆に言ったわよね」

「ええ、まあ姉さまがモルモットだなんだ言ってましたし」

「でも、協力っていってもモルモットってことじゃないんですよね?」

「えっ……えっと、それは、その……」


 あろうことか、そこを聞かれて口ごもるのか。

 モルモットか、俺はモルモットになるのか!?


「やっぱりモルモットなんですね、包丁持ってきていいですか♡」

「おう深月は落ち着け」


 隣の席で包丁スタンバイしながら話を聞かれてはたまったものじゃない。


「あの、別に何か、解剖とかしようってわけじゃないのよ?最初は、ちょっとあるものを身体に取り込んで貰うんだけど……」

「その"あるもの"を全部ベアトリスさんにぶち込んで差し上げましょうか♡」

「私にはもう母親から臍の緒経由でたっぷり入ってるから問題ないわ。……そうね、もしかしたら、実際に見てもらった方が早いかも」


 見てもらう…?何のことだ。


「アヤヒロ、この家に何か"壊してもいいもの"ってあるかしら?」

「壊してもいいもの……ですか?」

「ええ、そうね……いらないチラシとかでいいわ。空きビンなんかがあると最高なんだけど、もし誤って怪我させたりしたらまずいし」

「もしお兄ちゃんに怪我させたら謝っても許してあげませんよ♡」

「上手いこと言ったつもりですか深月姉さん」


 この家では誰もがボケになり得るし誰もがツッコミになり得ます。さっき全裸芸(?)して今ツッコんだリコがいい例ですね。


「えっと、いらない紙類とかでいいってことですか?」

「ええ、そうね」

「じゃあお兄ちゃんの黒歴史ノートとかでいいんじゃない?」

「どうだ花音、黒歴史になる前に自分のを燃やしちまわないか?」

「わたしのは黒歴史になんてならないもん!」


 言ったな?そう言った者は古今東西例外なく黒歴史家になるんだよ。


「まあいい、俺の黒歴史をぶち壊してくれるんですね」

「ええ。それじゃあ、その黒歴史ノートとやらを持ってきてもらいましょうか」

「分かりました、ちょっと待ってて下さい」


 俺は二階へと駆け上がり、自室に自らの黒歴史を取りに行くことにした。


 ……あっ。

 妹たちがその黒歴史の内容をベアトリスに語ったりしていないだろうか……?

 していないことを祈ろう。


 黒歴史ノートは、自室の片隅のわかりづらい場所に封印してある。もちろん妹たちに見られないようにするためだ。

 だが、わかりづらい場所ということは、特徴的な場所ということ。妹たちにとっては難解でも、隠した張本人にはすぐに分かる。


 特に変わった様子もなく隠し場所にノートを見つけ、俺はリビングへと戻った。

「黒歴史の内容とか、話してないよな?」

「は、話してないよお兄ちゃん、この世界の裏側に位置する並行世界の…」

「はいストップ」


 深月はどちらかというと一緒に黒歴史を作っていた側だろうが。それなのにどうして嬉々としてバラそうとするんだ。


「とにかく、これですベアトリスさん」

「ありがとうアヤヒロ」

「中身は絶対見ないでくださいよ」

「うふふ、どうかしらね」


 見る気満々なんだろうな。


「それじゃあ、いくわよ。——それっ!」


 次の瞬間。6人の兄妹には何が起きたのか理解できなかった。

 ベアトリスが突然、受け取った俺の黒歴史ノートを縦に裂いて2冊の薄いノートにしたり、ページをビリビリに破いたりし始めたのだ。


「ちょ、ちょっとベアトリスさん!?何を——」

「これはまだ下準備よ。本番はここから」


 そう言うと、ベアトリスは(期待通り)見るも無残な姿になってくれたノートの破片たちを床に放りだした。そして、その上に右手をかざす。


「よく見ててね」


 すると。

 ベアトリスの左目が薄紫色に光りだす。

 次に、床にあるかつてノートだったものが、同じような色をした光に包まれた。


 正直この時点で理解の範疇を超えている。

 さらに理解の出来ないこととして。


 バラバラになったノートの破片が集まり出し——元に戻った。


「と、こういう感じ。私の言う"あるもの"を身体に入れると、こういうこととか、他にも色んなことが出来るようになるわ」


 周りを見渡す。妹たちも、何が起きたか解らない、という顔をしている。


「そ、それって——」


 ただ一人、


「異能の力、ってやつですかぁっ!?」


 現役黒歴史メイカー、花音を除いて。

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