#27 また胸の話してる
「篠崎、麻衣……あれ?クラスメイトをニックネームで管理してるから本名とリンクしない……」
「シャーリーのことじゃない?」
「そう!そうだシャーリーちゃん!生徒会に入るんだね」
生徒会をあとにし、水球部マネージャーの有紗と文芸部の花音(もちろん両方フリーター)の下校と時間を合わせて、深月も含めた4人の帰り道。
同級生である双子に、篠崎さんのことを聞いてみた結果がこれである。
「二人は、同じクラスになったことあるのー?」
「私はまさに今年同じクラスですよ」
「わたしはⅡ学年のときだったかなぁ。珍しいね、二人とも同級生になったことあるなんて」
Ⅲ学年までは24人の10クラスだからなぁ。確率どのくらいだろう。数学得意な人計算して。
「大人しい子ですよね。あまり他の人と話してるのは見たことありませんし——この前化学の授業で実験を一緒にやったときは、花音の話で少し仲良くなりましたけど」
「わ、わたしの話!?」
「他に共通の話題ないもの」
Ⅵ学年でも、花音のことを知っている生徒はちょくちょくいるので、俺もたまに話題にしたりする。紹介してくれと言われることもあるが、そういう風に言う奴には紹介しない。
「むしろ、聖歌隊ではどんな感じなんだよ?」
「私の知ってる限りは生徒会室のあの感じだよ。Ⅳ学年の子同士だとけっこう喋るけど」
ふと、篠崎さんが微妙に毒舌っぽかったことを思い出した。思い起こせば、さっき生徒会室内の全員がカップ麺貪り食ってる様子を見て、しれっと「インスタント食品研究会」とかいえるのもなかなかのものよな。結果論だけど部屋にいたの全員先輩なのに。
だもんで、Ⅳ学年相手ならなかなか上手い話をしそうである。
「二人もやってみない?生徒会のフリーター」
「どうしましょう、権力握れるのは楽しそうですけど——」
「わたし、もう二つフリーターやってるからなぁ……」
制度上は生徒会役員でなくても会長選に立候補できるということを聞き、深月も結局フリーターとして生徒会に関わることにしていた。そして篠崎さんも「お試し」ということでまずはフリーターとして迎え入れられることとなった。
「しかしまぁ、もし花音が来年とか会長に立候補したらさ、実績とか関係なく男子票がバカスカ入りそうだよな」
「また胸の話してる……」
「胸とは誰も言ってないんだが」
「あっ……ほんとだ」
まあ胸なんですけどね。
この双子で生徒会長選挙の決選投票してみたい。
「生徒会長……全生徒の頂点……そんな権力を振るってみたい——」
「座から降ろされるぞ、っていうかシルヴェストルの生徒会長にそこまでの権力はない」
せいぜい生徒会室を半ば私物化できる程度だ。
学校には、災害時に備えて生徒全員分の非常食が備蓄されている。だが我修院が大量のインスタント食品やら缶詰やら冷凍食品やらスナック菓子やら飲み物やら(もちろんオール自社製品)を生徒会室に常備してあるので、生徒会だけなら一週間は余裕で学校暮らしができそうだ。
そして生徒会室には学校への寄付という名目で歴代のメンバーが様々な私物を備品として置いて行っている。先代会長(この方も結構な金持ちの家の生まれ)なんかも最新型のパソコンやら非公式ながらゲーム機などを持ってきて、それをそのまま残して卒業していたりするし、ベッドや寝袋なんかもある。我修院はといえば食糧以外にも最新の冷蔵庫だとか、ガスコンロやら電子レンジやら電気鍋やら様々な調理器具も持ってきていて、元々あった流し台がほぼキッチンとして成立している。
——けど、有紗がしたがっているのは別にそういうことじゃないだろう。
「生徒の頂点ってよりは、生徒の代表だからなぁ。何か決めるときだって、生徒の同意が必要なになってくるし」
「そんなもんですか。——意外と地味ですね、生徒会長って」
「あーちゃん、マンガに出てくる生徒会長がすごい権力もってたりするの大好きだもんね」
「シルヴェストルよりマンガの世界で生徒会長になりたい……」
兄・姉にあたる俺や深月にはいつも兄妹らしからぬ腰の低い態度をとる有紗だが、実は力とか権力とか暴力とか、そういう要素が絡むフィクションが大好きだったりする。この前花音とやっていたヤクザもののゲームも、週末に有紗にやらせたところ、人生初の徹夜を経験するほどハマったようなので、ちょうど今は本体ごと貸しているところだ。