#26 今頃ニートだったくせに
「その……聖歌隊っていつ活動してるんだっけ?」
「水曜日と金曜日の練習、それから週によって土曜の練習か日曜のミサ奉仕のどっちかです」
「なるほどねぇ——」
水曜日と金曜日の練習。これは時期によって深月もやってる。週によって土曜の練習。これもやってるときはある。
日曜のミサ奉仕?
「——深月、ミサ奉仕なんてやってたっけ?」
「やってないよ?クリスマス雇いのフリーターは自由参加だし、日曜の朝なんてベッドの中でお兄ちゃんをもふもふするのに一番いい時間なのに……」
なんとまあ意識の低いこって。
あとそれを生徒会室で暴露するな。
「まぁ、生徒会なんてのは会長の俺が召集かけない限り出席自由で、ただ生徒会室で駄弁りながらダラダラ作業してるだけだし」
「その召集も、しょーもない理由でしたりするしな」
「礼洋くんを連れ回すためだけに召集かけられたのは笑ったよね」
「えっちょっとまって何それ」
おい!それってよぉ!ベアトリスと初めて会った日のことか!?
「あれはね、史緒くんが礼洋くんを仕事だって騙して連れ回していつそれに気づくかって実験だったんだけど……最後まで気づかなかったね」
「いやぁ、あれは傑作だったわー!礼洋って本当鈍感だよなぁー!」
「礼洋くんって女の子に好意持たれても気づかないタイプだよね!」
なんだこいつら。
SWAで電気ショックの一発でもお見舞いしてやりたいところだ。でも、今それをやると加減間違えて重症にしかねないので、このまて有紗と話していた「世直し」で実験してからにしておこう。
でもまあ正直、今の今までそんなこととは思いもしなかったわけで。
しかし、男というのはかくも意地っ張りな生き物につき。
「——言いたいことは色々あるが、だ。ここでネタが暴露されたことによって、篠崎さんにこの手のドッキリの矛先がいく心配はなくなったな。よしよし、それはいいことだ」
なんてことを言ってしまうのである。
「なんだか——」
そんな割と内輪に盛り上がってしまっていた三馬鹿を尻目に。
「面白い方々なんですねっ」
篠崎さんが笑っていた。
「生徒会メンバーなんてぐらいだし、怖い人たちだと思った?」
「正直、思ってました——でも、そうじゃなさそうで、安心しました」
こうして見ると、篠崎さんって普通に美少女だよな……
学年での評判について、帰ったら花音にでも聞いてみよう。
「おうよ、特にⅥ学年なんてのはオレ含めてバカばっかだからな、肩の力抜いて楽しくやりましょうや。やることだけちゃんとやってくれれば特に制約とかないし」
「Ⅴ学年は変態ばっかりだしな」
これ、不安要素。篠崎さんに矛先が向かないか心配だ。
「ちょっと!それってわたしも入ってるの!?」
変態ばっかりⅤ学年の深月に詰め寄られ、小さく「当たり前だよなぁ?」とつぶやく。
毎晩のように年子の兄のベッドに潜り込んでる女子高生が何を言うか。
「——ま、まあそんな生徒会だけど、これから麻衣ちゃんが作ってくⅣ学年の"カラー"がどうなるか、楽しみにしてるね」
「はいっ!仮に変態でも、みつき先輩が一緒にいてくださるなら安心です♪」
「ハハッこやつめ〜」
あれ?篠崎さんってさらっと毒吐くタイプ?
「——ひどくないですか先輩、オレらが変態だなんて」
「そうですよ、僕は変態じゃなくて変人です。だいたい、生徒会一の変態はⅥ学年の先輩じゃないですか」
この世にはどうやら「妹萌え」というジャンルがあるようで。
その原理に則れば深月の変態性には大きなお友達の需要がある。俺にしたって、妹に嫌われてるよりは余程良い。
……という文脈から「需要のない」方の変態二人が反論をしてきた。
「……ったく」
そして、真尋のいうことは正しい。
「俺が同意せざるを得ないことを言うんじゃないよ、真尋のくせに」
生徒会で一番の変態なんて言われて、思いつくのは一人しかいないじゃないか。
「……生徒会一の変態がⅥ学年だって!?一体誰のことなん——」
「お前じゃい!」
人の妹に5股をかけ、あまつさえその事やそれに基づいた妄想を 兄に恥ずかしげもなく暴露する変態生徒会長、お前こそが生徒会一の変態だろうが。おい、我修院!
「なっ……なんだ君は。オレが生徒会に誘わなかったら今頃ニートだったくせに——」
「どっちにしたって公式記録は帰宅部なのでセーフ」
ニートはフリーターの対義語、というか部活や委員会に所属せず、フリーターですらない生徒のことを指す。ま、フリーターでもニートでも通知表の課外活動欄が空欄なことには変わりないんですけどね。
「——あっ、そういえば大村先輩、あの、お二人ともなんですけど……」
と、ここで篠崎さんが流れを変えるような一言を発してくれる。
「もしかして、Ⅳ学年の双子の大村さんのお兄さんとお姉さんだったりします?」
「え、知らなかった!?」
ものすごく「キョトンとした」という表現の似合う表情で言ってきたものの、そういえば篠崎さんと深月は聖歌隊で関わりがあったはずじゃないか。
「深月、言ってないのかよそれ?」
「だって、てっきり知ってるものと——」
「あの、私も、もしかしたら、とは思ってたんですけど、確信がもてなくて——大村さんって珍しい名字じゃありませんし」
まあ、漢字の組み合わせ的にありふれてそうな名字だよな。その割にはあんまり見かけない気がするけど。
それこそこれが我修院とかだったら、一発で兄妹だってわかるだろうし。
「有紗ちゃんや花音ちゃんとはあんまり喋ったりしない感じ?」
いやだからなんでキミがそれを尋ねにかかるんですかねぇがしゅーいんさん。その女の子(特に下級生)相手にがっつくところこそ、キミが変態呼ばわりされる所以なんですよー?