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世界救うとかどうでもいいから異能の力を授かって!  作者: A46
Chapter1. ある男子高校生のひどい一日
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#02 カレーの具にしてもいいですか

「ただいまー」

「あ、えっと……おじゃまします。——この日本語、初めて実生活で使ったかも」

「はーい、おかえりなさーい」


 俺とベアトリスが玄関をくぐり、ドアを閉める。すると、玄関に少女が一人出てきた。もちろん5人いる俺の妹の一人——三女、今度高校一年になる双子の妹の方、自称重度・実際は中軽度の中二病患者、花音だ。


「お兄ちゃん、連れて帰ってきたい人って……」

「ああ、この人だよ。思維大学の留学生のベアトリス」

「はじめまして、ベアトリスです」


 花音が目を丸くしている。そういえば、メッセージでは国籍はおろか性別も名前も言ってなかった。突如外国人留学生が兄に連れられて家に来たのだ。面食らっているのだろう。


「まあ、突然外国人連れて来たら驚——」

「そのお洋服!どこで買ったんですかっ!?」

「えっ…?」


 花音は目をキラキラさせて、ベアトリスの服装に食いついた。まあ中二病患者あるあるとして、実際にゴスロリとか興味あるみたいだし。クラシカルロリィタなんて用語を知っているのも花音が原因だ。


「これ、お姉ちゃんがパリで買って送ってきたものなの。だからどこの店とかわからないし、そもそも日本で買えるかも定かでないの。ごめんね」

「ぱ、ぱり……」


 一昔前の深夜アニメなら、何かかわいい擬音でも口から発して卒倒するところだろうか。でも花音は、一瞬ふらつくだけで踏みとどまった。


「こらこら花音、初対面の人に聞くところそこかよ…」

「ごめんなさい……かわいかったからどうしても気になって……」

「かわいい…?私白人だからアジア人より劣化早いと思うわよ?」

「ベアトリスもそういうこと言わない。——とにかく、上がってくださいな。立ち話もなんですから」

「ええ、ありがとう」


 ベアトリスが丁寧に自分の靴を揃える。ドールのような服を着た西洋人のベアトリス。そんな彼女が脱いだ靴を揃える姿に奥ゆかしさを感じる。


「今のが花音ちゃん?」

「そうです。5人の妹の3番目」

「あの子、何か病気持ってるの?さっき歩いてるとき、チュウニビョウとかって……」

「いや、あれはものの例えみたいなもので、本当に病気なわけじゃないから安心してください」


 さすがに中二病は知らなかったか。

かくいう俺も、以前はそんな片鱗を見せたこともあった。なので、好都合といえば好都合か。なまじベアトリスが中二病を知っていたら、色々思い出したくないことを聞かれそうだ。


「花音、他はみんなリビングにいる?」

「うん、今日はカレーだよー♪ 有彩ちゃんのカレーはいつも楽しみなんだぁ♪」

「有彩のカレーは辛さが足りない」

「しょうがないじゃん、うちで辛いの平気なのお兄ちゃんとリコちゃんだけだし」

「まあそうなんだけどさ」


 なんの変哲もない会話。リビングへ続くドア。どこもおかしくない日常の光景。

そこに、ベアトリスという存在が胸騒ぎを添加する。

まるで戦いにでも向かうような気分で、ドアノブに手をかけた。


 ドアを開ける。平静を装う。


 次女の有彩がカレーを作り、末っ子の紗加が食器を準備し、長女の深月がソファでくつろいでいる。三女の花音は自分のすぐ後ろ。

さっき、うっすらとシャワーの音が聞こえていた。四女の依子——通称リコが入浴中か。


 そんなよくある自宅の風景が……崩れた。


 リビングにいた3人の妹が一斉にこちらを向いた。一斉に俺へと視線が集まる。別にそれだけならままあることだ。だけど今日は、なんとなく冷たさのようなものを感じる。


「これが、アヤヒロの妹ちゃんたち?」

 そんな俺に、後ろからベアトリスが呑気に尋ねてくる。

「カノンがここにいて、2, 3, 4…一人足りなくない?」

「オ、オフロニハイッテルミタイデスヨ……」

「なるほど、そしたらそれで全員ね」


 辛うじて声帯や口は動いている。けれど、今の自分自身以上に「固まっている」という表現が似合う人を俺は知らない。

 そうこうしていると、ソファに寝そべってタブレットで遊んでいた深月がこちらに近づいてきた。


「——おかえり、お兄ちゃん♡」

「……タダイマ」


 深月の目が笑っていない。


「今日は、我修院先輩に連れられて遊んできたんだよね?」

「……ソウデス」

「それで、ナンパでもしてきたの?」

「ドチラカトイウト、ギャクナンニチカイ。サキニコエヲカケテキタノハコチラノべあとりすサンデ……」

「はじめまして、ベアトリスよ」


 空気を読んでください。

 日本人の「空気を読む」という行為は、西洋人からすると理解を超えているという言説があるのは知ってます。日本語と日本文化の勉強だと思って空気を読んでくださいベアトリスさん。


「殺してもいいですか♡」

「随分物騒なことを言うのね」

「お兄ちゃんに何したんですか?」

「何って、ちょっと彼をスカウトしようとしただけよ」

「スカウト…?」

「ええ、素質がありそうだったから、私の実験に協力をしてもらおうと……」

「なるほど、私の大好きなお兄ちゃんをモルモットにしようとしてたんですね、生きたまま八つ裂きにしてもいいですか♡」


 信じてください、普段はこんなこと言う娘じゃないんです。ただ、ちょっと俺に対する愛が重いときがあるくらいで……


「お、落ち着け深月」

 やっと片言じゃなくても喋れるようになった。

「落ち着いてなんていられないよ、お兄ちゃんがモルモットにされるところだったんだよ?ベアトリスさんだっけ、カレーの具にしてもいいですか♡」

 やめてそんなカレー食べたくない。


「いやだから、実験ってそういうことじゃ……そうだ、アヤヒロ!"あの子"を出してみて」

「あの子、って——ああ!」


 あの子。

 俺を「呼んだ」という天使の置物。

 体をさすって探すと、いつの間に入れたのか、ズボンのポケットに入っていた。


「どうやら、こいつが俺を呼んだみたいで——」


 その時、不思議なことが起こった。

 何かに気づいたような、はっとした表情を見せた。その場にいた妹たち全員が。


「なに、それ……天使?ちょっと見せて」

 数歩離れたところにいた深月が、手を伸ばして近づいてきた。目にはハイライトが戻ってきている。さっきベアトリスを殺そうとしていた(?)ときには、目の光が完全に失われていたのに。

「やっぱり。みんな素質あるっぽいわ」

 ベアトリスが耳打ちする。


 そして、不思議なことはそれだけで終わらなかった。


「誰か、今わたしを呼びました!?」

 風呂に入っていたはずの依子=リコがそう言いながらすっ飛んできた。


 全裸&びしょ濡れのままで。


「ベアトリス、この場合やっぱりリコも……」

「いやいや待ってアヤヒロ、何でスルーするの?」

「え、何がです?」


 この時点で俺は、というか兄妹の誰も何がまずいのか気づいていません。


「えっ、だって裸で……」

「えっ」

「えっ」


 ここでやっと気付く大村兄妹御一行の図。

 リコの顔が瞬間湯沸かし器で沸かしたのかというほど一瞬で真っ赤になる。ぼんっ、と頭から湯気が出るのが見える見える。


「ふぁぁぁぁ!服着て来ますぅぅぅ!!」

 全裸のリコが再び風呂場へ走っていく。そして、転ぶ。びしょ濡れのまま来たから、床が濡れていたのだ。お約束の展開ごちそうさまでした。


「今日もドジっ子だな、リコは」

「随分派手に転んだけど、怪我してないかなぁ?」

 花音はこういうときの面倒見がいい。中二病なのに面倒見がいい。心優しい中二病患者、なかなか新しい……新しくない?


「あなたたち、な、なんでそんな平然としているの!?」


 一方、ベアトリスはまだ赤面しているままだった。


「ああ、このうちじゃよくあることだから」

「よくあることって……興奮したりしないの?」

「お兄ちゃんを興奮させて何がいけないんですかぁ?ベアトリスさんをそういう身体にしてもいいですか♡」


 どういう身体だ。

 深月がわざと興奮させようとして似たようなことをすることがある。でもそれでは興奮しない。わざとらしさがあるのはダメみたいですね。

 シスコン?褒めても何も出ないぞ。

 変態?紳士の嗜みですよ。


「ま、まあとにかく、これは大収穫ね……一度に6人も見つけちゃったわ。誰か一人だけでもOKしてもらえれば……はぁはぁ」


 なんかハァハァしている。変態淑女がいる。

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