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世界救うとかどうでもいいから異能の力を授かって!  作者: A46
Chapter4. シルヴェストルの龍は6人組だとか
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#19 財布ごと置いてけって言うなんて

 しかし、次の瞬間——


 ベアトリスは、その拳を片手で受け止めていた。左目が紫色に光っている。SWAを発動させているみたいだ。


「口が動いてるな……何か言ってるのか?」

「そうだね、でもまだ音声までは拾えないの」

「まあ仕方ないよ、俺なんて魔眼自体できないし」

「すぐ出来るようになるよ……あっ!今度は殴り合い!」


 鏡を見ると、5人ほどの屈強な(あるいは、ゴリラ)高校生集団VSベアトリスの構図で、乱闘が始まっていた。


 田舎特有の、面積が店の何倍もありそうな駐車場がリング、といったところだ。

 今でこそ大規模学園都市として急速に発達してきている一帯だが、開発が始まる前はド田舎だったようで、こういうコンビニはちらほらとある。


「お兄ちゃん……ベアトリスちゃん、速くない?」


 となりで花音がそう言ってきた。

 そして、花音の言う通りだ。


 ベアトリスが、速い。

 人ならざる敏捷性でもって立ち回っている。敏捷値いくつだ。


「ああ——俺たちはSWAって納得できるけど、あの高校生からしたらわけわからんだろうな」


 もし自分があの高校生の立場で、初対面の若い女性にこんなに素早く動かれようものなら気味が悪くて攻撃どころじゃなくなりそうだ。


 おまけに、片目が紫色に光っているときた。そうなってくると、初対面ならいよいよ化け物かと疑いたくもなる様相であろう。 というより彼奴等はそこに気づいているのだろうか?気づいていたとして、突っ込もうとは思わないのか?


「それにしても、ベアトリスちゃん反撃しないね」

「そうか——?」


 特に注意深く見ていなかったので、花音に指摘されてから集中して見てみる。


「ホントだ」


 ベアトリスは相変わらず、SWAアシストを使って俊敏に動いている。しかし、彼女はただ高校生の攻撃を避けているだけで、反撃する素振りを見せない。


 映像を見ていると、時折高校生たち・ベアトリス双方の口が動いているように見える。何か言い合っているのだろうが、音が聞こえないのでわからない。


 ——いや待て。

 なにもSWAを使えるのは花音だけじゃない。


 俺のSWAで音声を拾ってもいいんじゃないか。


 でも、出来るだろうか?

 いつの間にかこんなにレベルアップした花音でもまだ出来ていないことが。


 ——まあ、やってみるだけタダか。


 経験上、SWAの発動というのはそこまで難しく考えるものではない。

 やりたいことをちょっと集中してイメージするだけでいい。


 俺は物陰から顔だけ出し、乱闘の位置を目視で確認した。


 そして、イメージ。見えないケーブルで鏡まで繋がった見えないマイクを、乱闘会場まで飛ばして、スイッチオン。


 無意識に、耳のあたりに集中力を向ける。




 〈——まだやるの?体力あるのね〉


 ノイズがひどい。むしろ声よりノイズの方が大きい。

 だが、間違いなくベアトリスがそう言ったのが聞こえた。


「今、声が聞こえた——!?」

「やってみたらできた。音質ひどいけど」

「ありがと!集中しちゃうと音声まで手が回らなくて」

「なるほど」


 花音は、さまざまにSWAを使えはするものの、あまり一度に色々出来るタイプではない、ということだろうか。


 〈おう、いいのかァ?早く金出さなくて。金どころじゃ済まなくなンぞぉ?〉

 〈ええ。そっちがその気なら——いいわ、こういうのはどう?私があなた方に倒されたら、私を好きにしていいわよ。その代わり、あなた方が私に負けたら、そっちのあり金を私が頂くわ。そのくらいの覚悟なんでしょ?財布ごと置いてけって言うなんて〉


 なんだろう、今ベアトリスを煽ったのが高校生サイドのリーダー格らしいが、なんとも小物臭のする台詞である。


「お兄ちゃん——これ、まずくない?」

 隣で花音が心配そうに尋ねてきた。


「ベアトリスも、相当な自信だよな。好きにしていい、だなんて。それにさ、ベアトリスとかあらゆる拘束が無意味そうじゃない?」

「それはそうかもしれないけど……」


 手錠をすれば鎖を噛み砕き、縄で縛られれば紐の主観時計を超高速回転させて腐らせたり。


 〈くっそ……何だこいつ、動き速すぎねェか!?〉

 〈まるで人間じゃねーみたいな動きしやがって……〉


 おう、今更か。

 ところで、異能者って人間なんだろうか。


 嗚呼やめて、人間じゃないなんて言わないで。人外6兄妹とか悲しすぎますって。まるでイジメじゃないですか。イジメかっこ悪い。


 〈……さて、気分がノってきたから、私も本気を出していいかしら?〉


 相変わらず軽やかに動きながら、ベアトリスがそんなことを言い出した。


 〈ハッ、どうせ速えぇだけで、たいしたパワーなんてねぇだろ、そのほっそい腕じゃよお〉


 いや、だからさ。

 なんでさっきからそんな負けフラグめいたことわざわざ言うのさ。


「ベアトリスちゃんって、腕細くて羨ましいよねぇ」

「あんまり細いと折れそうじゃない?」

「お兄ちゃんって、腕太いの好きなの?」

「程度による」


 あんまりガチムチな腕してる女の子ってのも、なんだか俺が弱々しく見えそうでなぁ。

 あっ、あくまで俺の恋愛対象としてどうかって話ですよ。女子アスリートとかかっこよくて尊敬してますよ。念のため。


 〈困ったわ、隙があんまりないわね〉

 〈おらおらどうしたァ!?やっぱビビってンダルォ!?〉


 高校生のうちの一人が、やけにヒャッハー感のある台詞で、依然ハイスピードで動き回るベアトリスを挑発する。


 〈そう——〉


 ベアトリスの目つきが変わった。

 どこか楽しそうなのは変わらないが、どこか狂気を帯びた印象を受ける。


 〈そんなに言うなら、最初はあなたにするわ〉

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