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世界救うとかどうでもいいから異能の力を授かって!  作者: A46
Chapter3. 冬服期、カレーうどんは実に地雷であった。
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#14 納得はしてくれなさそう

 乗り場にやってきたトランスロールに乗り込むと、車内は俺たちと同じ白い制服でごった返していた。その中にぽつりぽつりとスーツ姿のサラリーマンがいる感じだ。


 それもそのはず、このトランスロールは、近くの(ちゃんとした電車の)駅を越えてシルヴェストル学院まで直通する便だ。厳密には大学への通学用なのだが、中学・高校の目の前でもついでに止まってくれる。


 駅で始発のシャトル便に乗り換えてもいいのだが、こっちの方が楽なのは言うまでもないだろう。

 ごった返しているとはいっても、東京の通勤電車のようなすし詰めではない。ギリギリ身体が接触するかどうかというところだ。どうせ十数分なので、別に耐えられる。


「なんかいつもより混んでる感じがする。大学生いないのにね」左隣から深月がそう言ってきた。

「新入生がまだ慣れてないからだろ。しばらくはちょっと遅れ出るかもな」


 トランスロールの乗り場に改札の類はない。乗ってからも、整理券の発券機や運賃箱はあるが、こと登下校中なら無縁の存在だ。


 というのも、学園都市内の学校に在籍する児童・生徒・学生は学園都市域内の公共交通機関が全て無料で使える。公立校なら公費で賄われるし、私立校なら学費に含まれているという。


 どちらの場合も、学生証がICカードにもなっているので、それで駅の改札も通ることができる。


 そんなわけでバスやトランスロールの場合、制服を着ていればただ乗ってただ降りれば良いのだが、入学したてだとそれが分からなかったりするみたいだ。学校で教えればいいのに。


 しかし、これ成人がコスプレ的に制服着てたらどうするんだろう。レアケースではあるだろうけど。


 ……ここでベアトリス(20)がうちの学校の制服着てるのを想像してしまうあたり、だいぶ毒されている。


 だいたい、あれ以来ベアトリスには会っていないのに、だ。兄妹で個人差はあれ、SWAも使ってはいる。だがベアトリスの指導がないので体のいい便利ツールくらいの用途ばかり。怪我がすぐ治るのはいいけれども。


「……バレても問題ないとはいうけどさ」

「…ふぇ?」

「やっぱり説明求められたら面倒なんだよなぁ」

「SWAのこと?」


 深月と二人で会話が進む。他の4人とは車内の混雑もあって場所が離れてしまった。


 隠し事はしない。大事なことは皆で決める。


 1男5女の6人兄妹で円満に過ごすためのルールだ。両親が家にいない今、大村家の実質的な家訓としても機能している。


 そうはいっても。

 もし6人がそれぞれ全く方向性の違う意見を持っていたら、皆でなんて決めようがない。そんな状態で兄妹で話し合っていても、結論が出ないだけでなく、家の中の雰囲気まで悪くなる。無理に一つの結論にすれば、誰かが泣きだすハメになる。


 だから——


「深月はどう?説明とかつけられそう?」

「納得はしてくれなさそう」


 俺はまず、深月一人に話を持っていく。アホの子みたいなところはあるが、それでも長姉であることには変わりない。


 実際、身体の悩みなど女の子特有の問題について、妹たちが相談する相手といえば深月だ。当然だ。俺にはそんな知識はないし、仮に知識があったとしても経験則だけは絶対あり得ないものだから。


 そんなわけで、妹たちからはけっこう頼りにされている深月の意見を、俺はよく参考にする。


 それと言っておきたいのは、これは隠し事ではないってことだ。どうせいつかは全員に対して言うことなのだから。


「……まあ、俺と深月はそんな感じか。でもまあ、これ個人の裁量でいいんじゃないかと思うんだよ」

「これ、って……SWAを外で使うかどうかってこと?」

「そう。外っていうか……人前?リコとか絶対スケボー絡みで使いたいだろうし」

「うん、それでいいと思うよ」


 この簡潔さ。素晴らしいね。

 俺は会議は嫌いだ。結論が決まっていない会議は得てして時間がかかり過ぎるし、かといってビジネスの場ではままあると聞く結論が最初から決まっている会議なんて、やる意味がないじゃないか。


 結論が決まっているなら、短く情報の共有と確認だけすればいい。深月と二人だと、それが出来る。


「でもさ、お兄ちゃん」

「ん?」

「その話、わざわざここしなくてもよかったんじゃないかな?」

「えっ……?」


 ここ。

 トランスロールの車内。

 周りにはたくさんのシルヴェストル生。


 もちろん小声で話してはいたし、内容を理解されるかどうかは分からないが、まあ聞かれてはいただろう。


「……ああ、これはやってしまったな」

「これは教育だねぇ」

「……お恥ずかしい限りで」

「今夜一緒にお風呂入ってくれたら許してあげる♡」


 俺と深月はよく、他学年から彼氏と彼女の関係に間違えられる。自分たちの学年からもたまに間違えられる。


「情報の共有と確認」だけで済む環境は、こうして形作られてきたのだ。

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