#13 人を殴るためにボードを使いたくはないですよ?
【業務連絡】作者です。今回から試験的に1話あたりの文字数を2/3程度にしています。
更新頻度も3割り増しくらいに……なったらいいなと思いつつ。
嵐のような2泊3日も今は昔、学園都市に春が来た。
言いようによっては3月も十分春だが、年度が変わると実感する。
4月7日。今日はシルヴェストル学院の始業式の日だ。
普段なら5日に入学式、6日に始業式だが、今年は6日が日曜日なので1日ずれた。
シルヴェストル学院は完全中高一貫校だ。高校からの募集がなく、6年間同じメンバーで過ごす。
そのためか、中学の卒業式と高校の入学式が存在しない。入学式といえば中学の入学式で、卒業式といえば高校の卒業式を意味する。
ああ、中学3年3学期の終業式が終わった後、教室で通知表と一緒に卒業証書を渡される虚しさよ。
「卒業式も入学式もなくて、制服も同じで、学年も続きで、高校生になった実感がまるでありませんね」
「教室行ったら実感湧くよ」
隣を歩くのは有彩。同じところに住んでいる兄妹が同じ時間に同じ学校に行くのだ。別々に行く理由もない。
というわけで、登校はいつも6人一緒だ。
自宅から表通りに向かう、道の狭い歩道。ここを歩く時は横に2列×3組にならんで歩く。誰が決めるでもなく、自然にそういう風になっていった。でも、毎日違う妹が隣に来るので飽きない。
「40人、ですもんね」
「最初は人口密度高くて辛いかも。でも、教室自体もちょっと広めだし、すぐ慣れるよ」
さっき有彩が言っていたように、学年は連番だ。すなわち、高校生は4年生から6年生。学院公式表記だと、「Ⅳ学年」から「Ⅵ学年」。
そして、1学年は240人。
高校にあたる4〜6年生は40人6クラス。これは別に普通だ。だが中学生にあたる1〜3学年は24人の10クラスある。少人数できめ細やかな指導を行うためらしい。これが結構人気で、結構遠くから通ってくる生徒も少なくない。
「ねぇねぇ、あーちゃん。6クラスだったら同じクラスになれるかな?」
「ないです」
「えぇー寂しいよー、6年もあるんだから一回くらい同じクラスになりたいよー」
「双子は別のクラスにするのが暗黙の了解……って花音、私これ去年も言ってない?」
前列にいた花音が会話に入ってきた。「あーちゃん」は有彩に対する花音の呼び名だ。かれこれ13年ぐらい呼び名が変わっていない。
「でも、なんでなんだろうね?」
話しながら歩いていたら、路面電車のようなものの乗り場に着いた。次の便は数分後。サラリーマンや他校の生徒に混じって、シルヴェストルの生徒もちらほら。
シルヴェストルの白い制服はよく目立つ。汚れも目立つ。学食に一年中カレーうどんが置いてあるのが理解できない。けど、6年間頻繁に食べたら、物凄いエレガントにカレーうどんが食べられるようになりそう。ならなくていいよ。
「顔の判別がつかなくなってしまうから、と聞いたことがあるです」
「それ聞いたことあるよリコちゃん、僕の学年にも双子ちゃんいるけど、ぜんぜん見分けつかない!入れ替わったこともあるみたいなの」
隊列歩行が解かれたので、後列にいた下二人も双子談義に混ざってきた。
「でも、有彩たちって二卵生だよね?普通に見分けつくし」
「そうです、一卵性だと顔立ちとかほとんど全くと言っていいほど違いますから」
「一卵性だったら胸だってそんなに差がつくはずないもんねー」
「……紗加?今日は心なしか活きがいいですわね?学校で後輩ができるのがそんなに嬉しいの?」
「……ゴメンナサイ」
解説。
大村家の5人姉妹。生まれた順番で並べると、深月、有彩、花音、リコ、紗加。身長順も同じ。
問題はここから。
胸の大きさ順で並べると、こうなる。
花音、深月、紗加、有彩、リコ。
下の二人は制服の上からだと膨らみがあるのか判断がつかない。声に出しては言えないが、リコの胸に至ってはなんというか、こう、板々しいくらいだ。ちょっとふとましい男子の方があるんじゃないかというレベルだ。
なので、この二人は胸の話には割と敏感である。
「紗加、わたしは人を殴るためにボードを使いたくはないですよ?」
「ごめんなさい…リコちゃん関係ないじゃん……」
直接は関係のないリコまでこんなことを言い出す程度には。
スケートボードは大切に扱いましょう。
ちなみに、深月は高校2年生という年齢相応な感じで、紗加は2月に13歳になったばっかりってことを考えれば発育がいい方かな?といったところ。
花音?他学年男子の話題にも上るらしいよ、とだけ言っておこう。