別離
修羅場を迎えたあの日から真由美は自分の愚かさを後悔した
自分を責めてはいつか政司が戻ってくる、そう信じて。
毎日々がとても長く何も考えられず「あの日」を境に抜け殻のようになっていった
政司がいなくなった・・・。
現実が受け止められずにいた
あの日のカーディガンを着たまま気づけば1週間が過ぎていた
仕事は休んだままだった
もう遠距離じゃないのに
政司が近くにいるのに会えないなんて・・・
でも政司は実家にはほとんど帰ってきていなかったのだった
戻ってきたはずなのに・・・
通勤がしんどいのとおばさんと一緒にいたいのとで
会社絡みでほとんど会おうと思えば毎日会えるくせにまだいたいのか・・・
初めて政司と出会ってから付き合い始めたばかりの頃を思い出していた
同じなんだろうな・・あの時みたいに・・・重ねってみえた
毎日毎日そのことばかりを考えていた
あの時、こうしていれば・・・なぜ行かなかったのか・・
もうすぐ4年目だったのに・・・あと数ヶ月でずっと一緒にいられたのに
どうして・・・
真由美は自分を責めては政司の心なさとおばさんのしたたかさとが次第に
複雑な心境になっていった
神様、政司とは初めから別れを用意されていた出会いだったのでしょうか
だったらなんの試練なのでしょうか
私は何も悪いことはしていないのにどうして・・どうして・・・
真由美は現実を受け止められずにいた
そして時が止まってしまったのだった
仕事には復帰したかのように思えたがまるで仕事にはなってなかった
いままで当たり前のようにしてきたことが突然できなくなっていた
朝、起きて仕事に出かけるが毎日同じ服
誰とも話さずボーっと過ごす
何もやらず時間がきたら直帰
着替えずお風呂も入らず食事も取らず携帯を片手にお酒を呑みながら
朝を迎える
また仕事に行く・・・
ついに仕事のやり方が分からなくなっていた
あまりに様子がおかしく何もできないので上司が見るに見かねて近くの
心療内科に付き添いで連れて行くが何も話せない、分からない。
大量の薬をもらい仕事を辞めた
それからは地獄だった
子供の食事も作らず自分の食事も取らない
安定剤と睡眠薬をお酒で流し込む
寝たのか寝ていないのかすら分からない
心療内科に行っても何も話せずまた大量に薬だけもらって帰る
友人の恵里と和絵が心配して交互に電話をくれるが泣いてばかりの真由美に
恵里が霊能力者を紹介してくれた
かつて自分が苦しい時に助けてもらったそうで
ただ電話で話すだけなのだが・・・鑑定料が1分250円だという
藁をも掴む思いで真由美は電話していたのだった
あのふたりが出会うために自分は初めから別れを用意された出会いだったのか
その意味は何なのか
あのおばさんは誰?
本当に好きなのか
今なおふたりの関係はうまくいってるのか・・・
何も見えない、分からない
真由美は必死だった
いつまで待てばいいのか・・・
毎日何時間も話してた
数十万も使っていた
真由美は無職。
貯金も底を尽きた
病院にも行けなくなっていた
1ヶ月廃人のように過ごしていた
生きてるのか死んでるのかわからないくらい・・
それでもなんとか命からがら持ちこたえた
12月になり街はクリスマスモード
毎年一羽まるごとチキンを買って一緒に食べていた頃を思い出した
今日ぐらい、いいよね・・・霊能力者に政司にメールを送ってもいいものか
確認して政司にメールを打ってみた
何度も悩みながら返信のいらないようなメールの内容で
-メリークリスマス
ずいぶんと寒くなってきたけど
風邪ひいてないかな?(必ずひいてると思う)
今年もあと少し無理せず仕事頑張ってね。-
すると盛り盛りのデコメールが返ってきた
かつて真由美が送っていたメールの絵文字を保存しておいて満載で使ってきた
-メリークリスマス
寒くなってきたねー
予想どおり風邪ひいてるよ
でも休む暇もないので頑張ってるよ
真由美も身体に気をつけて頑張ってな
あのチキンが恋しいね-
普通のメールなのに愛しさが込み上げてきて泣き崩れた。
チキン・・・覚えてたんだ
その夜、真由美は政司の家まで行ってみたが政司の部屋の明かりは一度も点くことはなかった
当たり前に過ごしていたクリスマス
街はカップルが行き交う中ただひとり取り残されているようだった
真由美にとって4度目のクリスマスはあのおばさんに奪われた
毎年一緒に過ごしていたお正月をもう思い出したくない
真由美は子供を置いて1週間ひとり旅に出かけた
霊能力者に南へ行け、と言われるがままに。
あまり気乗りはしていなかったけれどやるせない毎日から逃げ出したかった
借金しての旅行。
そうまでしてでも現実から逃げ出したかった・・・
あたりまえのように迎えていたクリスマス、大晦日、お正月。
真由美にとっては何もかもから逃げ出したかった
いつまでひとりぼっちなんだろ・・・
神様、そろそろ許してください。