後悔からの遠距離
出会ってから3年の月日は何かが変わっていった
それでもふたりは離れられずにいた
平凡で先が何も見えない退屈な日々に真由美は傲慢になっていった
そんなある日、罰が下ったかのようなふたりを引き裂く遠距離へ
時は三年目を迎えていた。
真由美は普通の人に普通の毎日が段々退屈になってきていて将来の話もしなくなった政司に不平不満だらけで傲慢さも目立ち始めていた
このまま仕事を辞めて家庭に入りたい、とか煮え切らない政司に
不満ばかり並べていてこのころストレスから暴飲暴食に走って体重は15キロ増加。デートもすっぴんで出かけるようになっていた
それでも政司とはずっと一緒にいるんだろうな、くらいしか思っていなかった
離れる勇気もなかったのだ
お互いに・・・。
そしてまた桜の季節がやってきた。
もう花見の話すら出ない今年もきれいだね、の会話だけ。
行こうと誘っても「寒いし・・・」とかで出かけようともしなくなっていた
自分のことは棚にあげ真由美は政司の心がわからなくなってきていた
それでもずっと一緒にいるんだろうな、くらいで好きではいるものの
今考えても何もできないのだからあと少しで政司の養育費が終わる、自分の
子供が自立する・・・その時考えよう、とくらいにしか思わなくなっていた時、
政司が真由美の家に泊まりに行くと言い出した
今までもよくあることだったけれどその日、真由美はなんだか思わしくない
予感がしていた
今日は楽しく過ごそう・・・
手料理を振る舞い一緒にお酒を呑んで一日が無事終わった。何事もなく・・・
翌日、朝食をすませ政司は「大事な話がある」と言い出した
真由美は聞くのが怖くて「嫌な話だったら聞かない」と言ってコーヒーをいれながら政司と向き合おうとしなかった
政司は「聞いて」と。
真由美はなんの話だか分からなかったけどとりあえずその場から逃げ出したかった
でも政司は話し始めた
「出向が決まった。来月からはとりあえず通いで、もう行くことになる」
なんで?今?いきなり?
真由美は出向の意味がよく分からず転勤ぐらいな感覚で思っていた
その話の続きにきっと一緒に来てくれ、と言ってくれるであろうと思っていたが、
今・・・どうしよう・・・でも行かなくては・・・行きたい・・・
行けない・・・
いろんな思いが交差してた中
政司が次に言った言葉は 「別れよう」 だった
予期せぬ言葉に真由美は息が止まりそうなくらい言葉を失った
「なんで・・・」
一緒に来てくれ、でもなく別れなんて・・・
いまこの時を回避しなくては、
真由美は慌てて笑いながら誤魔化した
「近いじゃん、新幹線ですぐ行けるし車でも行こうと思えば行けるし、
いつでも会えるから・・・
なのになんで別れる必要がある?もう嫌いになった?」
「嫌いじゃないよ、ただこれから今までみたいに定時では帰れないし休みも
出張やら接待やらで潰れるだろうから・・会う時間もなくなると思う
お前に遠距離は無理だと思う」
「大丈夫。行くよ、私たちはこれまでどおり何も変わらない」
そう言い放ちその話を無理矢理終わらせた。
政司は「今日はもうそろそろ帰るね」と言って夕食も一緒に取らず早々と夕方には帰っていった。
ひとり残された真由美は動揺を隠せなかった
政司に対して好きな気持ちも不安定なのは確かで、なのに失いたくない気持ちと彼が一緒に来て欲しいとは一度も言わなかった
この時すでにふたりは思い描く同じ未来を見ていなかった
少なくとも政司は突然自分が変わりたいと思っていったのだった
3月になり真由美の誕生日は0時ピッタリにおめでとうメールを一番にくれていたのに三年目の誕生日は0時には待っても来なかった。
間違いではないけれど朝、10時過ぎにメールがきた
-おめでとう。やっと同い年になったな-
真由美はすぐ政司に電話した
「なんで0時ピッタリに電話でもメールでもおめでとう言ってくれないの?
去年まで絵文字いっぱいで送ってくれてたじゃん」
「いま、送ったよ。ごめん、今まで寝てて起きてすぐあ、誕生日って思って
すぐ送った
「お祝いしてくれないの?」
「俺、金ないし・・・どこも連れていけないけど、うち来る?」
「もう、いい!」
電話を切ったあとその日、政司からは連絡はなく真由美はひとりぼっちで
誕生日を迎えた。
真由美 43歳
会いたければ行けばいいのに・・・
それでも会いに来てくれるかもう一度連絡が来ることを待っていた。
でも政司は何もアクションを起こさなかった
何か歯車が狂い始めていた
寂しさと怒りで政司に怒りを覚えた
3年経っても平日は毎日政司がモーニングコールをしてくれていた
一睡もできなかった翌朝、何事もなかったかのように政司はいつものように
「おはよう」と電話。
真由美はそっけなくそそくさと電話を切った。
4月になり政司は毎日家から出向先まで何時間もかけて車で往復していた
デートの予定は全然たたなくて未定のままやっと会えるとなっても
当日ドタキャンは当たり前で
家に行けば会えるけどすぐ帰らなきゃいけないので何しに行くのか・・・と
思いつつ会う頻度は減っていった
それでも自分の誕生日は何もしてくれなかったけど
政司の誕生日は盛大に祝おうと思い奮発してイタリアンのお店を予約した
政司に田舎に戻ってくる口実も兼ねて地元でのお祝い
高いシャンパンをあけても
美味しいものを食べてるのになんだか楽しそうじゃない政司。
真由美は普段一緒の写真をあまり撮らたがらなかったけどその日は一緒に写真を
撮った。
-楽しそうな顔じゃない-
久しぶりに政司の家に行き泊まった。
もう半分は荷物をダンボールに積めていた
ほんとに行っちゃうんだ・・・
真由美はいたたまれない気持ちで政司の腕に包まれて眠りについた
それからしばらくして
「家を決めてきたよ
ゴールデンウィークに引越しも決めたから一緒に手伝って。」
真由美は遠距離を貫く自信がなかった
時は一刻一刻とふたりを引き離そうとしている
別れを言われた日から真由美はひとり取り残されたような孤独感を
感じていた
そして引越しの日がやってきた
朝、真由美の家に政司が迎えにきた
マンションに着いたら友人、洋も手伝いに来てた
引越しセンターより先に真由美たちは政司の新居へ向かった
夕方には着いた
都会だ・・・
マンションも1LDKの広さだった。玄関に入るとなんとなく違和感を感じた
どことなく幸福感を感じられない部屋だ。
この違和感は直感だったことを後で知る事になる
届いた荷物を順にほどくと母親が生活必需品などは家にあるものを
積めていてくれてた
食器などは全てふたり分・・・一緒に住むと思ってたのかな・・・
ないのにな・・・
暗くなる前に照明器具を買いに一緒に出かけた
片付けを一段落させ近くの居酒屋で食事を済ませた
明日は買い物に出かけよう
そう言ってまだ片付いていない部屋でなぜかサイズを間違えて買った
新しいシングルベッドでふたりして眠りについた。
翌朝、再び片付けをしながらまた一緒に買い物に出かけた
家電製品や小物などすぐ必要な物を一緒に見て回った
50万円ほどの買い物だった
とりあえずカードできっておいて会社があとからキャッシュバックしてくれると
いうなんだか不信に思ったのでとりあえず領収書も取っておいたほうがいいよ、と真由美は言った
当然、家賃ももってくれるという7万円もするのに?
こんな中年にいまさら高待遇?
のらりくらりと会社勤めをしてきた彼に何の見込みがあるのか・・・
彼はこれからいったい何をするのか真由美には訳がわからなかった
買い物の帰りここが俺の新しい会社だよ、と言われ見上げるほどの
高層タワーだった。しかも最上階に近い・・
「ねえ、会社どうなってんの?支社なんてあった?」
「ううん、出向だから在籍は前のまま給与はちょっと落ちるけど
引越準備や交通費、家賃は新しい会社持ち。仕事内容はいままでと全然違うからね」
出向の意味を分かっていない真由美にはさっぱり分からなかった
政司は環境ががらりと変わりやりがいのある仕事につけてなんだか浮かれてい
るようにも真由美には見えた
田舎も自分も古いものは全て捨てて生まれ変わりたかったんだ
真由美は田舎に取り残された自分に何もなく政司が遠い存在に思えて疎ましく
思えた
連休も引越しの片付けであっという間に終わりひとりで田舎まで帰らなきゃ
いけない現実があった
政司が駅まで一緒に歩いて見送ってくれた
この姿を何度見なきゃいけないのか・・・これが遠距離なのか、
「また来るね」
そう言ってひとり電車に乗った
近いなんて言ったけど実際、交通費も時間もばかにならない
真由美は苦しくて寂しくて政司にすぐメールを送った
今まで言えなかったことをメールに託した
返事はなかった。
この時、政司はどんな思いだったんだろう
これからどうなるんだろう・・・どうすれば・・・
いろんな思いが込み上げてきて真由美は家に着くまでずっと泣き続けた。
しばらくしても
前の会社は退職祝いで飲み会やら誘われてたのに
今の会社に入って歓迎会をしてもらったという話は政司からは聞いたことが
ない
あまりに高待遇で来た割に仕事がついていけず周りからはよく思われてないのかも・・・
真由美には疑問は沢山あったが直接本人には聞けなかった
政司が行ってしまってからも真由美に毎日モーニングコールは続いていた
ただ仕事が終わってからの電話はあったりなかったり・・・
友達もおらず週末になると最初の頃はよく田舎に帰ってきていた
政司のいなくなった部屋は父親が使っており帰りづらくなっていたので
よく真由美の家かホテルで過ごしていた
それでも真由美は月に2~3回は頑張って政司の家まで通っていた
時に日帰りになっても2時間ほどしかいられなくても終電までには帰ったりしていた
いつも駅まで見送る政司の姿が辛かったけれど・・・
それでもひとりになって寂しくならないように、と休みの日にはまた行っていた
その頃は真由美も寂しかったのだ
行けば一緒にスーパーに行き食材を買って料理したり新居の周りを散策したり
新しいお店を見つけたり電車に乗って隣町に行ってみたりとても楽しかった。
ただいつまでもそんな楽しい日々は続かなかった
お互い時間はあるけれどお金と労力が続かなかった
次第にどっちが来る?って話になりそんな会話も面倒で結局行かなかったりで
当時は政司も近くにスーパーがあることで自炊をよくしていたので食事の心配は
さほどしていなかった
ふたりでよく行っていた近所の居酒屋へもひとりで行けるようになっていた
政司も徐々に仕事で帰宅時間が遅くなりほとんど夜は電話もなくなっていた
真由美も寂しさを紛らわすかのように仕事に打ち込んでいた
それでも毎朝の政司からのモーニングコールはまだ続いていたが
田舎にいたころに比べて家から会社が近いのもあり出社時間が遅く政司は
ギリギリまで寝ていて電話が、かかってくる頃には真由美はもう出かける時間で
バタバタしていてそんな朝の苛立ちから思わず
「いつも遅いしもう自分で起きれるから
明日からモーニングコールしなくていいから」と言ってしまった
翌朝から本当に政司からモーニングコールは二度となくなった
真由美はいつも思ってることが言えなくて言ってるつもりで
うまく伝わらなかったりで苛立ちを覚え突き放せばそれきりで
政司は真由美の期待をいつも裏切ってくれる
再びふたりに陰りが見え始めた。
遠距離が決まり一度は別れを決めた政司
失いかけて初めて政司の大切さを知って再びやり直そうと
決めたが都会に慣れていく政司に再び不満を覚え
田舎にひとり取り残された自分に焦りが隠せなかった
そして運命はどんどんふたりの歯車を狂わせていくのであった