結ばれる運命
恋に傷つき臆病で慎重だったふたりも
久しぶりに心ときめかせこの先長い人生と向き合う中
ゆっくりでいい、と思う心とは裏腹に早る気持ちは猛スピード
だった
翌週末になり真由美は政司に連絡もせずひとりでミュージカルに出かけた。
帰りの切符もすでに購入していた
途中下車せず自分の住んでいる街までの特急列車の切符を手にして
やっぱり政司には会うのはよそう、と決めていた
ミュージカルを見終えたあと改札口で政司に断りのメールを送った
-いま、終わって駅からメールしてる
特急列車の切符もう買っちゃった
特急だから政司くんの街は止まらないから
また今度ゆっくりご飯行けたら食べに行こうね-
すると政司からすぐ返事がきた
-これ俺の電話番号だから電話して。-
真由美は初めて政司の電話番号を知った。
行かないと決めてあえて途中下車できない特急列車の切符を買ったのに声を聞いた途端、気持ちが揺らいだ
・・・会いたい・・・
真由美は電話もせず切符をあらたに買い直した
政司の住む街までの切符を。
電車に乗ると真由美は初めて政司に電話をかけた
「もしもし
いま、電車に乗ったよ
二十時頃そっちに着くかな」
「切符どうした?買い直したの?」
「うん。大丈夫だよ。そこの駅って家から近いのに初めて行くから待ち合わせ場所どうしたらいい?」
「とりあえず着いたら電話して。車でむかえに行くから」
真由美は電車の中でいろいろ考えていた
カフェで勤める自分は制服姿でプライベートで初めて会う私服姿を見て
どう思うのだろう?政司の好みすら分からない
鉄板焼・・と言っていたけど政司の住む街はそんな高級な店も洒落た店も
ないはず・・・
車で迎えに・・・なんの車に乗ってるんだろう・・・
食事中の会話はどんな話をしたらいいのだろう・・・
食事のあとは・・・
いろいろなことが頭の中を駆け巡っていた
あと少しで到着する
会った時のリアクションは?一度は断ったものの第一声はなんて声かけたら
いいのだろう?
答えを見いだせないまま駅に到着した
自分の住んでる街よりもはるかに小さな駅だった
人もいない、タクシーも停まっていない
改札口をでたらすぐロータリーだった
真由美は政司に電話して着いたことを告げるとすぐ目の前に車が停まっていた
白い車・・・・
普通のサラリーマンだから・・・そんなに期待はしていなかったけどその期待をさらに裏切るほどのポンコツ車だった
しかも学生時代に先輩が乗っていたようなヤンキー車に近い・・・古い・・・
四十を過ぎて痛い
しかもここでそれに乗らなくてはいけないなんて・・・
でも笑顔で迎えられた政司に真由美はそんなことは自ら打ち消した
政司の住んでいる街は週末なのにガランとしていて駅からすぐの住宅街の中に車を走らせコインパーキングに車を停めた
鉄板焼・・・とはほど遠いお好み焼き屋?そんな感じだった
たしかに鉄板焼にはかわりはないけど・・・
老夫婦でやってるお店だった
どこにでもあるお好み焼き屋?という感じで真由美のテンションはことごとく
下げられた
味も普通すぎて食べた直後でも思い出せないくらいインパクトがなさ過ぎた
真由美はそれでもよかった
これが普通の人なんだ、そう思いどこかで物珍しさもあってかその日はまた
無人に近い駅まで送ってもらいひとり電車に乗って帰った。
ほんとにご飯だけ食べて帰った
何を話したのか思い出せないくらいある意味ショッキングで何もなかった。
次会う約束もせずに・・・
でもそこからふたりは急接近しだした
電話は毎晩何時間も話し続けてた
お互い途中寝落ちしながらも・・・話し続けた
やがて電話代も重むし、ということもあり自然と大晦日を迎える日まで
ふたりは毎日会うようになった
政司は真由美の店にはもう行かなくなっていた
仕事が終わるとわざわざ真由美のいる隣町まで車を走らせて家の近くまで来ていた
真由美は会いたいけれどつきあうのかどうかわからない政司を子供には会わせたくなくてまだ家には上げず家のすぐ近くの空き地に車を停めてただ話すだけだった
お互い仕事で疲れているのにただずっと一緒にいたいだけで離れたくなくて
帰りたくなくて・・・
毎日沢山話しても話しても話し足りなくてむしろ話なんかどうでもよかったのかもしれない何もなくただ話すだけで朝まで一緒にいた・・・
政司のポンコツ車の中で。
毎日、毎日・・・数週間が過ぎていた
ある日、政司は真由美の仕事場近くにきて睡眠不足が続き仕事にならない
このままでは長く続かない
「つきあってほしい」ときちんと言葉にした
真由美は待ってました、とばかりにすぐオッケーの返事をした
何かが吹っ切れたかのような、でも将来についてとか子供のこととかお互い
しがらみを抱えた上での交際がスタートした
そう、ゆっくりでいい・・・
真由美は自分にそう何度も言い聞かせた
この恋が永遠のものであるかのように・・・
政司なら信用できる
何かが変わる、とさえ思っていた
大晦日の夜、またいつものように長電話していた
気づいたら年を越していた
「初詣に行こうよ」
という話になり元旦の日、政司が真由美の家の近くに迎えに来た
元旦の昼間、昼食をしようとお店を探すがさすがにどこも空いておらず
結局、ファミレスになった
政司とは食の運が悪い。
真由美は子供といつも行く神社があったがそこは政司とは行かず家族で、
と思っており政司に神社はまかせた。
たどり着くまでドライブ的な感じで車を走らせていた
真由美は目的地のないドライブは死ぬほど退屈で嫌いだった
ただ一緒にいたくて我慢したというより結果、ドライブになっていた
気が付けば外は暗くなっており慌てて初詣に行こうとして
政司の家の近くで同級生の家だという神社に行った。
もう夕食の時間だった
政司の家の近くで先輩がやっている焼き鳥屋さんに行こうと言われここが自分の家だから、と駐車場に車を停めて歩いてすぐだった
気づけば呑みすぎて政司も呑んだから家まで送れないといいちょっと家に
寄る?と言って両親が住んでいる家に入るということは・・・とか考えつつもマンションに向かって歩いていた
酔っていながらもドキドキして真由美は両親に自己紹介的な挨拶を考えていた
すると玄関入るとすぐに政司の部屋だった
そう誰にも会うことすらなく・・・
ひとつクリアすると今度はいくら両親がいるとはいってもいまこの部屋は
二人きりで・・・帰るにしても時間はもう遅いしどのタイミングでどうやって帰るのか・・・
この空間をどう過ごしたらいいのか・・・いろいろな妄想をしてるうちに
不覚にもふたりとも寝落ちしてしまっていた
ひとつのベッドに寝てしまった。もちろん何もなかったのだが・・
初めて来た家に両親にも挨拶もせずいきなり泊まってしまったのだ
なんて不純な中年女子。
いけないとわかっていながらもそれでもただ一緒にいたかった
むしろ、両親に紹介されることを待っていた
自分の置かれている立場を忘れてて・・・
真由美の仕事は正月休みを取っていて気が緩んでいたせいもあり子供が待っているにもかかわらず帰りたくなかった
現実に戻されたくなかったのだ
幸い、カレーを大量に作って出かけていたから子供にはそれを温めて
食べるように伝えて今日も帰れない・・・と言いその日もまた帰らなかった。
駄目な母だとわかっていながらも女として抑えられなかった
そう何度もどこにも出かけずひとつのベッドでふたりきりで過ごして
気づけば何日も泊まっていた
さすがに顔も見せないが誰かがいる気配もわかりどこにも出かけないのを
見かね母親が食事を作ってくれだした
真由美は同じ母として何やってるんだろ・・・情けない、とすら思いはじめていた。
そんな中、さすがに何度も政司は真由美を求め続けたがなぜか真由美は
力づくで拒み続けていた
一緒に寝ているのにも関わらず・・・
真由美はつきあっていながらも年甲斐もなく関係を持つのが怖かったのだ
まだ政司のことも知らない自分のことも何も知らない
再婚という文字が頭に浮かび始めていた
焦ってはいけない、まだ自分のことも何も解決できていない
子供には・・・なんていうのか・・・
久しぶりの恋に政司は焦り真由美は戸惑いを感じていた
ただ一緒にいたいだけなのか・・・
きっとその頃はやっと寂しさから逃れられてそれでも失うのが怖くて
いつまでたっても寂しいのが怖いふたりだったに過ぎない。
仕事始めの1日前に真由美はやっと家に帰った
お泊り続きで子供の手前、ばつが悪くて顔が見れなかった
それから真由美の家の近くの空き地で会うことはなくなりお互いの仕事の
休みが重なる前の日に彼の家に行くことが続いた
1月11日の朝、いつものように政司の母親が部屋にこもりっきりのふたり分の朝食を置いて両親とも出かけた。
そしてついにふたりは将来のことをいろいろ語り合いいつかは結婚を誓い
結ばれた。
政司は前妻との間に子供はいないが連れ子だった子供を自分の養子にいれ会うことはないが二十歳になるまで養育費を払っているという
まさに真由美が考えている自分の子供が自立するまでのあと3年だった。
しがらみを抱えてるにもかかわらずふたりが出会ったのは運命とさえ思っていた
片時も離れたくないとまるで若者の恋人たちのように毎日毎日離れられずにいた
これが永遠でもあるかのように・・・