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(番外編)ミアは多感なお年頃?


たくさんの評価や感想ありがとうございます!

感謝の気持ちを込めて…おまけの番外編をアップします!



 あーなんだかむしゃくしゃするっ!


 ミアあたしは苛立ちを隠すことが出来ずに頭をボリボリ掻きむしった。


 むしゃくしゃする原因は…あいつだった。


 あいつ…そう、カレン!

 カレンの最近の態度が…なんだかあたしの癪に障るのだ。



 あの…『グイン=バルバトスの魔迷宮』から帰って来て以降、カレンの雰囲気が変わった。

 いいや、もしかしたらもっと前から少しずつ変わっていたのかもしれない。

 だけど、あのときの一件…カレンが生死の境を彷徨った挙句無事生還して以降、カレンの雰囲気が目に見えて変わったのだ。


 なんというか…万事に落ち着きを見せるようになった。

 以前ほど女装してても嫌がらなくなった。むしろ、正々堂々とした振る舞いで、からかってもあまり乗ってこなくなった。

 積極的に周りの人たちにも声をかけるようになった。


 …端的に言うと、なんだか立派になってきたのだ。



 その事実を、あたしは断じて認めたくなかった。

 あの…弱々しくて情けなくって引きこもりだったカレンが立派になったなんて…あたしの心が認めるわけにはいかなかった。


 だから、あたしはむしゃくしゃしていた。

 そして、この気持ちをどこにぶつけようかと考えて…当の本人にぶつければ良いのだと気づいた。


 よーし、ちょっとあいつの化けの皮んはがしてやろうかな!

 しかもそれは…本人をいぢくっても面白くもなんともない!

 だったら…やることは一つ、あれしかない!


 そう思い立ったらウキウキしてきたあたしは、意気揚々とカレンの部屋へと突入したのだった。







「ちょっ!?姉さま!?急にどうしたの?」


 部屋でのんびり本を読んでいたカレン。

 それがまたなんとも絵になっていて…イラっとしたあたしは、思わず近くにあったクッションを投げつけてやった。


「うわっ!な、何するの!?」

「うっさい!黙れ!ちょっとあんたの服貸して!」

「ええっ!?」


 そう言うが早いか、あたしはカレンを無視してスタスタと衣装が収納されたクローゼットに向かうと、そこに置いてある服を片っ端から手にとっては捨てた。



「…えーっと、姉さま?何しようとしてるの?」

「うっさいわ!…んー、これで良いかな?」


 あたしが手にとったのは、シンプルな女性もののワンピースだった。

 もちろんサファナがデザインしたものだけど、腰のあたりに花の模様が入ってて、落ち着い雰囲気を醸し出していたところが気に入った。


 うん、これならカレンに化けれ・・・そうだ。


 そう判断するが早いか、あたしはその場で服を脱いで着替え始めた。




「ちょちょちょ!!姉さま!嫁入り前の娘がなんてはしたないことをっ!?」

「あーもう、あんたはうるさいのよ!第一あんたは双子の姉に欲情するわけっ?」

「そんなん、するかーっ!!」

「あっそ、だったら黙って後ろでも向いてなさいよ」

「…はぁ、もう知らないよ?」


 カレンは盛大にため息をつくと、そのままクローゼットから出て行った。


 よしよし、分かればよろしい。




 こうして少しロングのワンピースに着替えたあたしは、結んでた髪を梳かして、軽く化粧を整えた。

 …はいっ。あっという間に『本物の』ミア姫様の完成!


 鏡で自分の姿を確認してみると、なかなかどうして立派なお姫様に見えるではないか。

 おそらく…ほとんどの人にはあたしがカレンと入れ替わったことに気づかないだろう。



「あのー…姉さま?何をするつもりなの?」


 そのときになってようやく…恐る恐るといった感じでカレンが問いかけてきた。

 あたしは…軽く紅を差した唇をニヤリと釣り上げ、ウインクしながらカレンに答えてやった。


「決まってるでしょ!あんたのフリをするのよ。だからあんたは今日一日、この部屋でおとなしくしてなさい!」

「ええーっ!?」

 情けない声を上げるカレンを尻目に、あたしは意気揚々と部屋から飛び出していったのだった。


 …久しぶりに聞いたカレンの情けない声に満足を感じながら。









 さーて、どいつから話しかけてやろうかな。

 あたしはウキウキしながら最初のターゲットを物色していた。


 今回あたしがカレンに変装した理由は実にシンプルだった。

 カレンがお城の人たちからどう思われているのか、本人の姿になって確かめてやろうと思ったからだ。

 カレンは超鈍感だから、たぶん自分が周りからどう見られているか知らないだろう。

 だから…あたしが代わりにそれを身を以て調査してやろう!というわけだ。


 正直スカートのせいで股がスカスカするのが落ち着かないので、こんな調査はさっさと切り上げたい。

 だからあたしは…手っ取り早く見知った人物から声をかけていくことにした。








 最初に見つけたのは、ほうきで通路を掃いていたバーニャだった。

 あたしの姿を見つけると、ニコニコしながら話しかけてきた。


「おやおや、姫様。今日はおひとりでお散歩ですか?」


 最近のバーニャは以前にも増して身体が大きくなっている。

 なんでも…盟友であったサファナの裏切り(・・・)にあったショックで暴飲暴食を繰り返したらしい。

 もはや並みの衛兵よりも立派な体格だった。

 ぷっくらしたほっぺたのサファナに片手を上げながら、あたしはストレートに聞いてみた。


「バーニャ元気?少し前まで元気なさそうだったけど」

「姫様、そうなんですよー!親友サファナが彼氏を作りましてね。ずっと私と一緒に独り身でいようねって誓ったのにですよ?もうショックで食事ものどを通りませんでした…」


 おいおい、それじゃあその素敵なボディはどうやって造られたのさ?


「あ、これはその…なんというか、女体の神秘です」


 胸を張ってそう言うバーニャを、あたしは冷たい目で見つめた。

 サッと目をそらすバーニャ。


 …ま、いいや。あたしはとりあえず当初の目的を達成することにした。



「ところでバーニャ。バーニャは私のことをどう思っているの?」

「えっ?そ、そんな…姫様困りますわ」

「はぁ?」


 なんだか急に変な態度を取りだしたので、あたしはちょっとびっくりして引いてしまう。


「いやだって…姫様ってば急にそんなことを聞いてくるから、もしかして私に気があるのかと」

「そんなわけ、あるかーっ!!」


 あたしは思わずバーニャの腰を叩いた。

 ぼいんっという音と共に、あたしの拳は豊満な肉体によって勢い良くはじかれてしまう。


「ちっ、防御力がアップしたわねぇ…」

「今日はなんだか姫様、いつもとイメージが違いますね」

「え?そ、そぉ?いつもどおりだけど…」

「そうですかねぇ?あ、そういえば質問されたのは姫様のことをどう思っているのか、でしたよね?

 そういう意味では…最近大変元気になられ…以前にも増して魅力的になられたと思いますよ。

 以前はか弱い印象で…まぁそれはそれではかなげで素敵だったんですけどねぇ」

「ふーん、そっかー…」

「はい、最近は色々と積極的になられて…周りの評判がとてもよろしいのですよ?」


 満面の笑みでそう言われると、なんだかカレンのふりをしてるのが悪いことのような気がして…

 あたしはバーニャに礼を言うと、さっさとその場を立ち去ることにした。



 そうか…バーニャもあたしと同じような印象をカレンに持ってたんだなぁ。


 そのことがあたしには…なんだか嬉しくもあり、さみしくもあったんだ。








 続いて見つけたのはシスルだった。

 なんだか子リスのようにクルクルと走り回りながら照明関係の魔道具を修理している。


「こんにちわ、シスル」

「わぁ!姫様!こんにちわ!」


 元気いっぱいに返事されたから、あたしはちょっとびっくりしてしまった。

 それにしても、明るい笑顔だなぁ…


「げ…元気だねぇシスル。今日は何をしているの?」

「あ、はい。魔道具の修理をしていました!姫様にお声かけ頂いて光栄です!」

「へー、そっかぁ…ところでさ、シスル。あなたは…私のことをどう思ってる?」

「えっ!?ひ、姫様のことですか!?それは…もう…あの、その、そ、尊敬してますっ!」


 少し頬を染めながら恥ずかしそうにそう答えるシスル。

 なんだなんだこの反応は…まるで恋する乙女ぢゃないか。


「そ、そう?ありがとう」

「いいえっ!私なんかに尊敬されても困られるかもしれませんが…でも本当に姫様は素敵でカッコいいと思います!私の目標です!」

「…え?そうなの?」

「はい!私も…少しでも姫様みたいに、優しく凛々しくなれるようがんばりますっ!」


 あたしはなんだかこれ以上シスルのキラキラした視線を見るのが耐えられなくなって、逃げるようにその場を後にした。


 なんなんだか、あの…シスルのカレンに対する評価は…

 まるで神様を信奉しているみたいな感じだったなぁ。



 若干毒気を抜かれてしまったあたしは、それでもめげずにヒヤリングを続けていった。








 結果、出てくるのは高評価ばかりだった。

 とくにここ最近の評判はすごかった。

 これまでは大人しく可憐なイメージが強かったのが、一気にカリスマ的な雰囲気が出てきたとまで言われた。

 これは衛兵の一人に言われたんだけど…そこまで言わせるってことはやっぱり変わったのかなと思った。



 それと驚いたのが…ほとんどの人があたしのことを『いつものミア姫と違う』と感じ取ったことだ。

 そんなにも雰囲気が違うものなのか…とあたしは半ば感心してしまった。



「そうですよ。ミア様ほどの覇気を放たれる方はそうめったにおられませんからね」


 そう言ったのは、さっきからあたしの横に張り付いているベアトリスだ。

 この子は、あたしがどんな格好をしてようと必ず気づく。ある種の才能だと思う…無駄使いだけどさ。


 …それにしても、今のベアトリスの発言は無視できない。


「ねぇねぇ。あたしって、その…覇気を放ってるの?」

「ええ、もちろん!まさに王の風格です。ただ、最近は…なんだか少しまろやかになった気がしますね」


 まろやか…まろやかねぇ。


 そう聞くと、まるであたしたちの評判が少しずつ逆転してきているようだった。


 カレンは…頼りなかった感じから立派なイメージに。

 そしてあたしは…覇王だか覇気だか知らないけど、そんなイメージからまろやかな感じに。



 …うーん、悔しいけど、少しはあいつのことを認めなくちゃいけないのかなぁ。



 そう考えたものの、どうしても釈然としないあたしは…とりあえず『女装』も飽きてきたので、スカートを両手でつかんでずかずかとカレンの部屋へと戻ることにした。


 途中すれ違った衛兵や侍女のプリゲッタが目を真ん丸にして驚いてたけど、もうどーでもいいや!









 カレンの部屋に戻ると、そこではカレンが…なんだか楽しそうにエリスと談笑していた。


 …この二人、あの一件から急速に接近している気がするんだよねぇ。


 なんか見た瞬間カチンときたので、近くにあったクッションをまたカレンに投げつけてやった。



「あ、姉さまおかえり…って、わっぷぷ!!」

「あらミア、すごく似合ってるね。本当に高貴なお姫様みたい!」


 いやいや、あたしは本当の高貴なお姫様なんだけどね…

 ギロリと睨み付けると、エリスはサッと視線を逸らした。



「それで…もう用件は片付いたの?それとももう…ぼくと入れ替わりを戻す決心がついた?」


 クッションを放り投げたカレンが、ニヤニヤしながらあたしに問いかけてくる。


 …こいつ、どうやらあたしが元に戻りたがってると思っていたみたいだ。

 くっそー、ぜったいカレンの思い通りにはさせないぞ!


 頭に来たあたしは、胸を張ってハッキリと言ってやったんだ。


「なんのこと?あたしは絶対に…元になんて戻らないよ?このまま魔法学園に行くからねっ!」

「えええっ!?ちょっと待ってよ、それだけは勘弁してよ!」


 くくく、カレンが泣きそうになりながらあたしにすがりついてこようとする。

 あたしはそんなカレンから身を逃がすと、そのまま足をかけて地面に転がしてやった。


 ぎゃふんとなさけない声を上げながら、地面に這いつくばるカレン。

 そんなあいつの姿を見て、あたしは…なんだか愉快な気分になった。



 なーんだ、こいつ。まだまだぜんぜんダメダメぢゃんか。



「ふふふ、なさけないやつ!そんな奴にまだまだ『王子様』は任せられないわ!もっと男らしくなれないなら、あんたなんか…18歳までずーっとその格好でいることねっ!」

「そ、そんなぁ…」


 あたしは声高らかにそう宣言すると、カレンはガックリとうなだれて地面に突っ伏してしまった。

 愉快になったあたしは、着ていたワンピースをぽいっと投げ捨てた。



 そうだそうだ。

 たしかにあたしが王子のフリを始めたのは、カレンの病気がきっかけだったかもしれない。

 それが…カレンがいまではこんなに元気になったのは本当にうれしい。


 だけど…病気が治った今は話が別だ。

 あの子が、あたしが認めるほど立派な男になるまでは、まだまだ王子様はあたしだ!

 あたしが完全に認めるような男になるまで…元に戻るのはおあずけだ!



 そう心が決まると、なんだか穏やかな気分になった。

 あたしはクローゼットに脱ぎ捨てていた男物の服に着替えると、あっけにとられたエリスを放置してそのまま部屋を出て行った。




 部屋の外には…いつものようにベアトリスが待機していた。

 さすがはベアトリス。いつでもあたしを第一に考えている。


「よーし、ベアトリス!街に出ようっ!」

「はい、ミア様。私はミア様が行くところには必ずついていきます」


 殊勝なことを言うベアトリスの頭を軽くなでると、あたしは意気揚々と…ハイデンブルグの街へと繰り出していったのだった。








今後は…侍女たちやその他の登場人物たちの番外編を、のんびりぽちぽちアップしようと思います!



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