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60.運命 〜Destiny〜

 

 一方その頃…



 カレンとミアだけが壁に吸い込まれ、たった一人その場に取り残されてしまったエリスは…必死になって隠し扉を探していた。


 だが、どこをどう探しても…隠し扉のようなものを見つけることはできない。まるで二人が、その場所に穴が空いて…異次元にでも吸い込まれてしまったかのようだった。



 このときエリスは、これまで味わったことの無いような焦燥を感じていた。


 もしあれが…『魔戦争』の昔から残っていた罠だったとしたら…

 もし、二人の身に何かあったのだとしたら…


 そう思うと、居ても立っても居られなくなる。



 『図書館ライブラリー』の外の方から、何かが炸裂するような音が響き渡った。

 エリスは知る由もなかったが、それは…パシュミナが『魔操者コンダクター』を葬った際の衝撃音だった。

 だが、それすらも…このときのエリスの耳には入ってこなかった。







「カレン!ミア!聞こえてたら返事してっ!」


 どんどんっ。

 壁を叩きながら、エリスが大声を上げる。しかし…相変わらず壁は何の反応も示さない。


 どうしよう…この壁を壊した方が良いのかな?


 エリスの焦りが頂点に達しそうになった…まさにそのとき!


 それまで沈黙を守ってきた『壁』に、再び大きな異変が発生した。




 変化は、急激だった。

 双子が居なくなったときと同様に、壁に複数の光の線がスッと走り出す。

 そして、壁の一角が…大きな『扉』の形に光り輝き出した。



 これは…もしや、さっきと同じ現象ではないか。


 そのことに気付いたエリスは、壁から一歩離れ…とりあえず成り行きを様子見することにする。




 すると、光の扉がゆっくりと開き…そこから弾けるように二人の人物が飛び出して来たではないか!


 もちろんそれは、先ほど行方不明になった…カレンとミアだった。






「カレン!ミア!無事だったのねっ!?……って、あれっ!?」


 二人の無事を確認してホッと安堵したのもつかの間…エリスの視界に、何かとんでもないものが飛び込んできた。


 その『とんでもないもの』の正体に気付いたエリスは…



「ええーっ!?うそーっ!?」



 思わずこの旅で一番の驚きの声を上げてしまったのだった。











 ---------------------------











 時は少しだけ戻る。




 正体不明の光に包まれたカレンぼくたちは、何処かに飛ばされてしまったようだった。

 どうやらミアねえさまは、ぼくと離れずに一緒に居るようだ。いつの間にか、互いに手をしっかりと握りしめ合っている。その温もりだけは…目をつぶっててもはっきりと感じることができた。


 光が収まったことを感じたぼくは、恐る恐る目を開けてみることにした。


 ぼくたちが居たのは、小さな部屋の中だった。

 その中心には、全身を型取った透明な人形マネキンが設置してあった。

 その人形マネキンは…様々な装飾品を身につけていた。


「ここは…もしかして、隠し宝物庫?」


 姉さまの問いかけに…この人形マネキンを観察していたぼくは、少し考えて頷いた。


 どうやらこの部屋は、姉さまの言うとおり『隠し宝物庫』のようだった。

 しかもここは、恐らく…レイダーたちでさえ知らない部屋だ。なぜなら、この部屋には…誰かに荒らされた形跡が一切無かったからだ。


 それらの事実は、この部屋が…『魔王軍』時代からの隠し部屋であるということを指し示していた。




 それにしても、なぜぼくたちはこの部屋に吸い寄せられてしまったのか。

 …その理由はすぐに分かった。


 この人形が身につけている数々の装飾品。

 その中に…明確にぼくの魂を刺激する一品があったのだ。




 それは、この人形の左腕に装着されていた『腕飾りブレスレット』だった。


 一見したところ他の装飾品と大差ない品物のように見えた。だけど…ぼくには明確に分かった。

 これは、ただのブレスレットじゃない。さっきからぼくを呼んでいたのは、間違いなくこれだ。

 ぼくは…このブレスレットに出会うために、この『魔迷宮』に導かれてきたのではないか。そうとまで思えた。


 見ると、隣に立つ姉さまも…別の装飾品に釘付けになっていた。

 姉さまがじーっと見つめていたのは、人形マネキンの右腕に嵌められている…これまた似たようなブレスレットだった。


 よくよく見てみると、姉さまが見つめている右腕のブレスレットには太陽の模様が、ぼくを呼び寄せている左腕のブレスレットには月の模様が刻まれていた。

 恐らく…左右二つで一揃いのブレスレットなのだろう。




 ごくり…

 ぼくは思わず生唾を飲み込んだ。


 これは、明らかに危険な状況だ。

 罠かもしれない。誰が仕掛けたどんな罠かも分からないけど…


 だけど、この場所から何も手にせずに立ち去るなんてことは、まったく考えられなかった。

 むしろ、このときこの場所でこのブレスレットに出会ったことに…運命すら感じていたんだ。



「…姉さま?」

「…うん、カレン」


 ぼくたちは互いに視線を合わせて…頷き合った。

 もう、とっくに答えは決まっていた。


 ぼくたちは意を決すると、そのブレスレットに…同様に手を伸ばしたんだ。








 パァァァァッ!


 ぼくたちがブレスレットを手に取った瞬間、目の前の人形や他の装飾品が明るく輝き始めた。


 やばっ!?

 もしかして、やっぱり罠だった!?


 思わず目を瞑って頭を抱え込んでしまう。だけど…そのあと特に何事も生じる気配はない。


 恐る恐る目を開けてみると…先ほどまであった人形や装飾品が、すべて目の前から消滅してしまっていた。


 どうやら…他の装飾品は、ぼくたちが選んだブレスレットを隠すための偽装ブラフだったようだ。


 …まったく。今回の件といい、入り口といい、色々と手の込んだ仕掛けだこと!




 安堵したぼくたちは…互いに手に持ったブレスレットを弄びながら、再度視線を交わし合った。

 …何も語らなくても、お互いの言いたいことはわかっていた。


「…どうする?」

「…どうするもなにも、姉さまはもう気持ちを決めてるんでしょ?」

「うん。カレンも?」

「もちろんだよ」


 ぼくたちは互いにプッと吹き出してしまった。

 生まれたときから一緒の二人だ。他の誰よりもお互いの気持ちが分かる。


「じゃあ…嵌めてみようか?」

「うん、いくよ…」


 ぼくたちは互いに頷き合うと…意を決して、同時にブレスレットを腕に嵌めたのだった。









 次の瞬間。


 ぼくの全身を、稲妻のような衝撃が突き抜けた。

 指先まで痺れるような、脳天を突き抜けるような…そんな強烈な衝撃。


 だけど…それは苦痛ではなく、むしろ…ずっと詰まっていたものが身体の隅々まで行き渡っていくような、そんな奇妙な感覚だった。



 これは…もしかして…


 さらにぼくは、このとき…身体の奥底から『何か』が湧き上がってくるのを感じていた。

 それは…これまでぼくがほとんど感じることがなかった『存在もの』だった。


 だけど、ぼくには…その正体が何なのか、すぐに分かった。

 それは…間違いなく…



『魔力』!!




 ということは…ぼくが身につけたブレスレット、それは恐らく…ぼくの運命の『天使の器オーブ』だったのだ。


 それであれば、このブレスレットに対してあれほどまでに強烈な引力を感じた理由が納得できる。


 『天使』の誕生については…何度も本で読んだことがあった。そこには、天使の目覚めについてこう書かれていた。


『魔法使いが、自身の運命の「天使の器オーブ」に出会った時。まるで魂が惹きつけられるかのような感覚を覚える』と。


 ぼくは…今まさにその感覚を味わっていたんだ。





 湧き上がってくる魔力が、ぼくの背中に集中していくのがわかる。

 そして…ぼくの背には、純白で巨大な『翼』が具現化した。


 横を見ると、姉さまもぼくと同じように…背中に純白の翼を携えていた。

 それこそが…まさに『天使』の象徴だった。



「姉さま…ぼくたち…」

「うん…どうやら…」

「「天使になっちゃったみたいだ!!」」


 ぼくたちは、お互いに手と手をつなぎ合わせて、歓喜を爆発させた。



 こうしてぼくたちは…思いがけず運命の『天使の器オーブ』に出会い、『天使』に覚醒することができたのだった。








 二人でクルクル飛び回りながら小躍りして喜んでいると、ぼくたちの身体が…すぐにまた光に包まれた。

 そして、来たときと同様にポンっと部屋から放り出されてしまった。





 『図書館ライブラリー』の一角に戻されたぼくたちの目の前には、心配そうな表情を浮かべたエリスの姿があった。

 無事戻ってきたぼくたちの姿に、最初ら安堵の表情を浮かべたエリス。だけど…すぐにぼくたちの背中に生えた『天使の翼』に気付いて「ええーっ!?」と大声を上げた。


 エリスのが驚くのも無理ないよなぁ。

 だって…いきなりぼくたちが消えたと思ったら、今度は『天使』になって戻って来ちゃったんだから。











「えーっと。ちょっと…これは、どういうことなのかな?」

「あははは…」


 呆気にとられるエリスに対して、ぼくは少し愛想笑いを浮かべた。

 横のミアねえさまが、ぼくの腕に手を絡ませながらケラケラと笑っている。


「エリス!見てよ!なんと…あたしたち、天使になっちまったよ!!」

「それは分かるけど…どうして?」

「それがね、さっきの隠し部屋が『天使の器オーブ』の隠し場所だったみたいで、しかもそれが…偶然にもぼくたちの運命の『天使の器オーブ』だったんだよ!」


 エリスの驚く顔を見て、カレンぼくミアねえさまはニンマリと笑った。



 正直、魔法は使えるようになりたいなぁとは思っていた。

 だけど…まさかそれすら飛び越して、いきなり『天使』になるとは思ってもみなかった。


「そっか…きっと『天使の器オーブ』に呼び寄せられたのね。私のときもそうだったんだぁ」

「へぇー!エリスもそんな感じだったんだ!」

「あ、でも私のときは壁に吸い込まれたりしなかったよ?」

「あはは、そりゃないだろうね!」



 そんな感じでぼくたちが和気あいあいと話していると…騒ぎを聞きつけた他の人たちが続々やってきた。



 まず最初に姿を見せたのは、ガウェイン、ウェーバー、そして彼らに抱えられた女性二人の計四人だった。


 ウェーバーが肩を貸しているのが、少し傷ついたパシュミナ。

 そしてガウェインが軽々と抱えているのが、パシュミナに良く似た少女…意識を失っているようだけど、恐らくこの人がパシュミナの妹さんなんだろう。


 よかった、無事に妹さんを救出できたみたいだ。



「エリスさん、どうしたんですか?すごい声が聞こえたんですけど…って、うわぁ!」

「なんだなんだぁ?…って、のわぁ!」

「ええっ!?王子と姫のその姿は…」


 彼らはぼくたちの姿を見て…目をパチクリさせたりして一様に驚きの表情を浮かべている。


 むふふっ。『明日への道程ネクストプロムナード』のメンバーを驚かせるなんて、中々の僥倖じゃないかな?



 続けてやって来たのは…ティーナたちだった。

 バレンシアがぼくたちに…というより多分エリスにブンブン手を振り、少し遅れて呆れ顔のティーナと頭のとんがり帽子を抱えたチェリッシュがやってくる。


「エリス!」

「ああっ!!バレンシア!ティーナ!!」


 その姿を認めたエリスが、ダッシュで二人の元に駆け寄っていった。


 あらら、なんか主役を取られちゃったなぁ。

 まぁでも仕方ないかな。


 涙を流しながら二人に飛びつくエリスを見てたら、もう以前のように…変な気持ちすら湧かなかった。

 これも、ぼくが成長した証かな?



 そして最後に…クルード王おとうさまヴァーミリアンおかあさまがやってきた。

 ぼくたちの姿を確認した二人は、その背に具現化した『天使の翼』に気付いて…



 そしてなぜか、二人揃って愕然とした表情を浮かべた。






 顔を真っ青にしてぼくたちに駆け寄ってくる両親。


 あはは、さすがに驚いたかな?

 それにしても…表情がえらい真剣だなぁ。


「二人とも!?その姿は…どうしたんだ!?」

「カレン!?あなた何とも無い!?」


 まるで飛びかからんばかりの真剣な眼差しと口調に、浮かれ気分だったぼくもさすがに…少し引いてしまう。


「え?大丈夫だよ?『天使』になることって、そんなに心配するようなことなの?」


 一応殊勝にそう答えたものの、ぼくには二人がなにを心配しているのかさっぱりわからなかった。

 むしろ…身体中に魔力が満ち溢れてくるような、充実した感覚さえあった。


「あたしたちは何とも無いよ。もしかして、『天使化』したことでカレンの『問題』も解決したんじゃないの?」

「そ…それだったら良いのだけれど…」


 ん?ぼくの問題?

 …一体何の話をしているんだろう。


 いつもの不真面目なお母様とは思えない真剣な表情に、さすがのぼくも不信感を抱き始めた。


「…さっきからなんの話をしてるの?ぼくは『天使』になって、こんなにも魔力が満ち溢れてるよ?ほら!」


 そう言うとぼくは、手に魔力を込めて…前方に勢い良く解き放った。


 ぼくの手から放たれた魔力は、すぐに巨大な鳥の形と化した。そして…まるで生きているかのように羽ばたきながら、図書館の壁に激突した。




 次の瞬間。



 どっごぉぉおぉおおぉぉぉぉん!!



 ものすごい爆発音と共に、魔力の鳥は大爆発を起こした。




「うひゃあ!」

「うわわわっ!」


 ぼくと姉さまはあわてて頭をガードして、飛んでくる石の破片から身を守る。




 …しばらくして、ようやく爆発の煙が収まってきた。


 あー、ビックリした!

 なんか凄い威力だったなぁ。

 あ、壁にすごい穴が空いちゃってる。

 みんなぼくの方を凝視してるよ…大騒ぎしてごめんなさい。



「あなた…魔力を出せるの?」

「ん?出せるよ?今見てたでしょ?」


 恐る恐る…といった感じで確認してくるお母様に、ぼくは意味が分からずそう答えた。


 本当にさっきから何を気にしているんだろう。

 よくわからなかったので、ぼくはもう一度…さっきの技を試そうとした。


 今度は力を抑えて…と。

 えいっ!!




 …プシュン。

 あ、あれっ?



 だけど、今度は…魔力がぼくの身体から放出されることはなかった。


 あれっ?

 おかしいなぁ…やり方が不味かったかなぁ?


 もう一度力を込めて魔力を発してみる。

 すると今度は、小鳥の形をした魔力の塊が…さっきよりもずっと小さいものだけど…最初と同じようにぼくの手から放たれて、飛んでいった。


 よーし、やればできるじゃないか!


「ほーら、見たでしょ?ちゃんと魔力は出せるよ?」



 そう胸を張って言うぼくの視界に、突如…『赤い霧』のようなものが入り込んできた。


 …んんっ?赤い霧?なんだこれ?



 ふと正面を見ると、ぼくを見ているミアねえさまと両親の表情が…愕然としたものに急変していた。


 …えっ?

 なんでそんな顔でぼくを見るの?



 ぼくは首を傾げながら…額から流れ落ちてきた汗を拭ってみた。





 だけどそれは、汗なんかじゃなかった。


 それは…真っ赤な血だった。







 そして、赤い霧だと思っていたのは…ぼくの頭から吹き出していた『血』だったのだ。








「きゃああぁぁぁぁぁあぁぁあ!!」



 ミアねえさまの絶叫が、『魔迷宮』の中に響き渡った。




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