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53.アナザーサイト 〜クルードの場合〜

 

 わしの名前はクルード。

 今はハインツ公国の公王をやっている。


 王というのは本当に大変な仕事だ。

 自分が収める国について、すべての責任を取らなければならない。たとえそれが…自分に一切責任が無いことでも、だ。


 だがそれでも、わしは王として生きているし、そのことに誇りを持っている。

 それが…王族として産まれたものの定めだと考えているからだ。




 …さて、そんなわしも普通の父親であり夫である。

 そして我が家庭は…一般家庭と変わらず、いやそれ以上に…様々な問題を抱えていたのだった。





 わしの妻ヴァーミリアンは、世間的には『七大守護天使』や『塔の魔女タワーオブテラー』と呼ばれる、偉大な魔法使い…『天使』だった。


 だが、本当のヴァーミリアンは…そんな人々の印象とは大きくかけ離れていた。



 実際の彼女は…その特殊な肉体構造のせいで、極めてか弱い存在だったのだ。

 それは…彼女の『生命維持装置』となっている『還らずの塔』から離れては長く生きることが出来ないほどに、脆弱なものだった。







 わしが彼女ヴァーミリアンの存在を知ったのは、18の時だ。

 当時は『魔戦争』が始まってすぐで、我がハインツも魔王軍の猛攻を受けていた。


 魔王軍は自分たちの侵攻拠点として、大きな塔を…ハイデンブルグの街のすぐそはに建設した。

 それが…例の『還らずの塔』だった。


 当時この塔には…『土龍アースドレイク』ベヒモスと、魔族の『魔傀儡マリオネット』フランフランが滞在していた。

 そして、塔のなかでは…様々な悪逆非道なことが行われていたのだ。




 ハインツに侵攻してきた魔王軍のうち、『魔傀儡マリオネット』と呼ばれたフランフランは最悪の存在だった。

 フランフランは…生き物の尊厳を蹂躙するような生体改造を趣味とする極悪非道な性格で、自ら改造を施した『魔改造生物』を意のままに操り、次々と人々を恐怖のどん底に陥れていた。


 だが…この魔族は、それだけでは飽き足らなかった。

 ハインツ侵攻の際、近隣から魔法の素質のある子供たちを拉致し、こともあろうにこの塔で『改造実験』と『洗脳』を行ったのだ。

 この魔族が子供たちに対して行った改造実験。それは…『あらゆるリスクを無視して人間の魔力を極限まで強化する』というものだった。




 この実験で、たくさんの才能ある子供たちが命を落とした。

 そんな…フランフランに拉致・改造され『実験対象』とされてしまった子供たちのなかに、一人の少女が居た。


 彼女の名は……ヴァーミリアン。



 そう。ヴァーミリアンは…フランフランの『人間の尊厳を無視した魔力強化実験』で奇跡的に生き残った……数少ない存在の一人だったのだ。







 拉致された子供たちを救出に向かったわしは、そこで…『魔傀儡マリオネット』フランフランよって改造され、生ける傀儡と化した哀れな子供たちに遭遇する。

 人間としての尊厳を奪われ、半分精神を破壊され、ただの操り人形となってしまったまま襲いかかってくる彼らを…わしは涙ながらに『成仏』させた。


 そんな中、フランフランの呪縛をなんとか断ち切り、唯一生き残ることができたのが……ヴァーミリアンだった。




 正気に戻ったヴァーミリアンは、進んでわしらに協力を申し出た。

「自分を…そして多くの仲間を弄んだ『魔族フランフラン』を、わたしは絶対に許さない!」と、まっすぐな瞳でわしに訴えかけてきたのだ。


 その心意気に打たれたわしは、ともに力を合わせてヤツらと戦った。




 繰り広げられる激しい戦闘。

 わしらは全力を尽くした。


 その結果…惜しくもフランフランは取り逃がしたものの、『土龍アースドレイク』ベヒモスを討ち斃すことに成功し、見事魔王軍を『還らずの塔』から撃退したのだった。


 …ちなみに取り逃がしたフランフランは、その後『断罪者テトラグラマトン・ラビリンス』のやつに成敗されたと聞いている。





 こうして、一応戦闘には勝利したわしらであった。

 だが…だからといってフランフランに弄ばれた命や、改造されたヴァーミリアンの身体が元に戻ることはなかった。





 当時15歳だったヴァーミリアンの肉体には、身の毛もよだつような魔改造が施されていた。


 彼女はフランフランによって…魔界の瘴気である『魔素』を体内に取り入れ、それを魔力に変換することが可能な肉体へと『改造』を加えられていた。

 その結果、彼女は…常識では考えられないレベルの魔力を手に入れた。だがそれには…あまりにも大きな代償を払う必要があった。


 なぜなら、彼女は…常に『魔素』を吸収・消費し続けていなければ生きていけない身体に改造されてしまっていたからだ。



 『魔素』とは、魔界にある瘴気だ。人間には猛毒で、その瘴気の中では一秒も生きていられないような代物だった。

 ゆえに、ヴァーミリアンは『魔素』を体内に取り込むたび…地獄のような苦痛に全身を貫かれていた。

 それでもヴァーミリアンは…常に魔素を体内に取り込んでいなければ命を保つことが出来なかった。生き延びるためには、その激痛を耐え忍ぶ必要があったのだ。


 ヴァーミリアンにとって、生きていくということは…毎日拷問をされているようなものだった。



 幸いにも…それを幸いというのかは分からないが…『還らずの塔』には『魔族』フランフランが用意した『魔界への穴ワームホール』というものがあった。

 これは、魔界とこの世界を直接繋ぐ異次元パイプのようなもので、人や物は行き来できないが、『魔素』だけは取り込めるという代物だ。これがあるおかげで、ヴァーミリアンは生きていくことができた。


 彼女は魔改造によって…『還らずの塔』という『生命維持装置』にしがみつくことでしか命を保つことができないような…とてつもなく儚く脆い存在にされてしまっていたのだった。



 およそ20年前に起こった『魔戦争』は…決して表に出ることのない様々な悲劇の爪痕をあちこちに遺していた。ヴァーミリアンも…そんな悲劇の対象の一人だったのだ。




 だが、そんな悲惨な状況であったとしても…

 ヴァーミリアンはなに一つ悲観していなかった。



 あれは、ベヒモスやフランフランとの激闘のあとのことだ。

 魔素を使い果たしそうになって『還らずの塔』の生命維持装置に繋がれたヴァーミリアンに、心配したわしは「なにか力になれることはないか?」と問いかけた。

 だが彼女は…苦しげに魔素を吸収しながらも、不敵に笑ってこう答えたのだった。


「大丈夫。わたしは生きているわ。生きていれば、なにも問題ない。わたしは…誰かに同情されたりするような生き方なんて、まっぴらよごめんよ」



 …過酷な運命に真正面から向き合う、誇り高くて素晴らしい女性に、わしは一瞬で恋に落ちた。







 だが、ここからが大変だった。


 一目惚れ?したわしは、必死になって彼女を口説いた。

 だが…なによりヴァーミリアン自身がわしの想いを受け入れなかった。


「あなたは王子、いずれ王となる男。それに対してわたしは…この塔でないと生きていけないような、役立たずの欠陥品。そんなわたしとあなたでは、絶対にうまくいきっこないわ。なにより…国民が許さないでしょ?」


 だが、それでもわしは諦めなかった。

 親友であるジェラードが、王という立場のため、最愛の冒険者仲間であったパメラと結ばれなかったということも…反面教師としてあった。

 わしは違う、きっと想いを貫き通してみせる、と。


 口説いて口説いて…ずっと口説き続けて…やがてわしは王になり何年も経ったあるとき、とうとうヴァーミリアンが折れたのだった。




 ヴァーミリアンがわしのプロポーズをようやく受けてくれたとき、わしは国民に対してすべてを…ヴァーミリアンの肉体の状態のことを周知アナウンスするつもりだった。

 だが、ヴァーミリアンが強固に反対した。

 さらには…あろうことか、わしとの結婚に条件を付けてきたのだ。


 それが…わしとヴァーミリアンとの間で交わされた『盟約』だった。






 『盟約』の中身はこうだ。


 まずヴァーミリアンについては…その身体の秘密を一切誰にも話さないこと。

 その上で、ヴァーミリアンは自由気ままに振る舞うので、そのことについてクルードは一切目を瞑ること。

 これは、ヴァーミリアンが『変人』のふりをすることで、『王宮』に常時滞在することが出来ない理由を別な意味で演出するとともに、致命的な欠陥を持つ彼女じぶんを妻に選んだクルード王わしが国民から責められないようにするための配慮だった。


 それともう一つは、『三つの契約』を遵守すること。

 『三つの契約』とは…これから先にヴァーミリアンが『盟約に基づく契約』と宣言した内容について、三つまではわしが絶対に守らなければならないという…『約束』だった。




 これらの約束事を守る誓い…『盟約』を立てることで、わしらはようやく正式に…夫婦となることができた。






 それからのヴァーミリアンは、本当に自由気ままに振る舞った。


 当然国の行事には一切参加せず、その理由を「だってめんどくさいんだもーん!」という、スパングル大臣も真っ青の一言で片付けた。

 本当は子供たちと一緒に過ごしたいはずなのに…育児を投げ出すフリをした。

 さらには、あの塔を中心にあらゆる噂を広め、数多くの魔法罠マギトラップをしかけて迷い込む人々を撃退し、かつ傍若無人に振る舞った。


 これらの積み重ねで、ヴァーミリアンは着々と変人としての名声を上げていったのだった。




 その結果…既に『魔戦争の英雄』や『七大守護天使』として名を上げていたヴァーミリアンのことを、人々が極端に悪く言うことは無かったものの…『七大守護天使随一の変人』という揺るがない評価を得ることに成功した。


 そのせいで…わしは「恐ろしい人を妻にした可哀想な夫」という評価は得たものの、「とんでもない女を妻にして、こいつは公王として相応しくない」と言われることだけは決して無かった。


 そういう意味では、ヴァーミリアンの作戦は完璧だった。


 …彼女が、悪評を得てしまうことを除けば。






 だがヴァーミリアンは、そんなことは一切気にしなかった。


「もともとわたしはあの魔族のせいで死んでいてもおかしくないような状態だったのよ。生きているだけでもうけもんだわ。それなのに…あなたみたいな人と結婚出来て、これ以上なにを望むと言うの?」


 そう言って、最高に素敵な笑顔で笑うのだった。






 その後…ヴァーミリアンが妊娠した。


 わしらは最初、心の底から喜んだ。

 双子だと分かったときは、さらに喜びが倍増したものだった。

 だが…やがて大きな問題があることに気付かされることとなる。



 まず最初に心配したのは、ヴァーミリアンの身体が特殊なことだった。

 彼女は…『魔素』無しでは生きられない身体だった。

 そんな身体が妊娠に耐えうるのか、あるいは無事に普通の子供が産まれてくるのか…それが心配だったのだ。


 そこでわしは、魔法の権威である…魔法学園の学園長ロジスティコスと、治癒魔法のスペシャリスト『聖女ジャンヌ』クリステラに相談した。


 すると、彼らは喜んでハインツに集まってくれた。クリステラなどは夫のパラデインと…当時はまだ幼かったレイダーまで連れてきた。


 そして彼らがヴァーミリアンのことを調べた結果、恐ろしい事実が判明した。


 それは…双子のうちの男の子の方に、異常な魔力反応が見られたことだった。




 最初に気付いたのはパラデインだった。パラデインは魔力感知のスペシャリストだ。その彼が「どうも魔力の流れがおかしい」と言い出したのだ。

 詳しく調べてみて、ようやく状況が正確に分かった。


 その結果、ロジスティコスとクリステラがお腹の中の男の子に下した病名は……


『難治性魔力閉鎖症』および『双発性魔力奪取症』…というものだった。






『難治性魔力閉鎖症』。

 これは、本来であればきちんと発散されていくはずの魔力が体内に留まってしまう…原因不明で治癒困難な病気だった。

 魔力が発散されないと…体内に取り残された魔力が暴れ出し、『魔力熱マギフィーバー』と呼ばれる高熱を発することになるのだという。



『双発性魔力奪取症』。

 こちらは世界で初めて確認された症例で、双子のうちの女の子のほうの魔力を男の子のほうが無自覚に吸い取ってしまうという病気だった。



 それぞれ個別の病気だけであればまだ幾ばくかマシだったかもしれない。

 だがその二つが重なることで…男の子のほうに大量の魔力が流れ込み、それが排出されることなく体内で暴れまわるという、恐ろしい症状が発生していたのだ。


 双子の…特に男の子のほうの命は風前の灯となっていた。



 ロジスティコスとクリステラはヴァーミリアンに、男の子のほうは諦めるように言った。

 今は『七大守護天使』である四人の力で、かろうじて命を保たれているような状態だったのだ。

 このままでは…男の子だけでなく、女の子やヴァーミリアンの命まで危なかった。


 だが…彼女は絶対に首を縦に振らなかった。


「そんなものは関係ない。わたしの命ある限り…この子たちは守ってみせる」


 ヴァーミリアンは魔力暴走を抑える苦痛が続く中でそう宣言したのだ。



 わしは、非常に難しい判断を迫られることになった。

 ただでさえ普通の身体でないヴァーミリアンに、双子の出産という極限の状況。しかも…胎児のうち一人は恐ろしい病気持ち…


 そんな悩むわしに対して、ヴァーミリアンはついに…『盟約』に基づく『一つ目の契約』の履行を宣言した。


 彼女が宣言した一つ目の契約の内容、それは…

「なにがあってもこの子たちは産む。だからクルード、あなたはそれを全力で支援しなさい」

 だった。



 その後…ロジスティコスやクリステラ、さらにはパラデインの支援もあり、なんとか双子が誕生した。


「あとわずか…何かが狂っていたら、間違いなく三人は命を落としていたであろう」


 ロジスティコスが大汗を流しながら言った台詞が、今でも心に残っている。

 事実、ヴァーミリアンは産後半年以上ろくに身動きすら取れないような状態であった。


 だが…それでも…


 二人はこの世に生を受けた。

 名前は、後から産まれた…複雑怪奇な病を持った男の子を『カレンフィールド』。

 その弟に魔力を吸い取られならも元気いっぱいの女の子を『ミリディアーナ』と名付けた。





 双子は…ヴァーミリアンの厳重な管理の元育てられた。

 姉の魔力を弟が吸い取っていることから、離して育てたほうが良いのではないかとヴァーミリアンに提案もした。

 だが、ヴァーミリアンは決して首を縦に振らなかった。


「あなたはこの…世界にたった二人だけの姉弟を引き離そうと言うの!?」


『一つ目の契約』を盾にそう言われると、わしには何も言うことが無かった。






 ヴァーミリアンは、双子…特にカレンには決して病気のことがバレないように…様々な手を施した。


 事情を知らないスパングル大臣が呼び寄せた魔法使いを、ヴァーミリアンの嫌がらせで追い出したのも…双子の病を知られないようにするためだった。

 あえてわしに魔法による罠を当てたのは、同じことを双子…特にカレンにすることで、行き場を失って体内で暴れている魔力を発散できないかと考えてのことだった。

 わしは…そんなヴァーミリアンの考えに同意して、あえて共に道化を演じたのだった。



 だが…残念ながら結果は全て芳しくなかった。

 ヴァーミリアンが慎重に双子の面倒を見ていても、時々カレンは発熱していた。

 これが…『魔力熱マギフィーバー』の特徴だった。


 小さい頃はまだ良かった。

 双子は幼いがゆえにそれほど魔力は高くなかったので、症状も深刻にならなかったのだ。


 だが…それもその場しのぎでしかなかった。

 このまま成長していけば、いずれ…魔力がオーバーフローしてしまうだろう。


 そこでわしらは、大きな賭けに出ることにした。



 それが…『禁呪』だった。








 ヴァーミリアンが考えた作戦はこうだ。


 まず…カレンに適当な理由をつけて『禁呪』を施す。

 この『禁呪』は、『魔食虫ガンガシャ』という魔法で…魔法使いの身体に巣喰うことでその魔力を食い続けるという…まさに魔法使い殺しの魔法だった。

 そのあまりの極悪さゆえに『禁呪』とされたのだが、今回のカレンのケースでは打ってつけと言えた。

 とりあえずその処置が上手くいけば…そのままロジスティコスの居る『魔法学園』に入学させ、研究施設の整った場所で…この病気を治す方法を研究させようと、そう考えたのだ。


 そこまでするのであれば、正直に本人に病気のことを伝えた方が良いのではないか?と、わしは提案してみた。

 だが…ヴァーミリアンはその考えに決して同意しなかった。どうしても…普通の子として育てたいと、そこだけは譲らなかったのだ。

 おそらくは…自分の置かれた過酷な状況が、せめて自分の子供くらいは自由に生きさせてあげたい…という強い想いに繋がっているのではないかと推測している。

 だからわしは、それ以上反対することができなかった。




 だが、ことここに至るとミアには完全に黙っているわけにはいかなかった。

 そもそもカンの良いミアは、薄々カレンの病気のことに気付いていたようだった。


 幼い頃から「カレンが元気になるまでは、あたしが王子様のふりをしてあげる!そしたら…お父様やお母様や国民に迷惑もかけないし、あの子が元気になったら入れ替わることが出来るでしょ?」と言って、誰に言われた訳でもないのに『元気いっぱいのカレン王子』を演じていた。

 最近ではカレン王子として『写真集』を出して復興支援をする等、カレンの評判が落ちないよう色々と手を尽くしてくれたりもした。

 わしらはそれを…困ったふりをしながら心の中で応援するという、いびつな状況になっていたのだった。



 それでもミアは、そんな両親わしらの気持ちにも気付いていたようだった。

 本当に…わしらにはもったいないくらい、良く出来た子だった。




「ミア…カレンのためにお前を悪者にすることになるが、それでも良いか?」


『禁呪』をかける作戦を実行する際、わしは思い切ってミアに打ち明けた。

 すると…あの子は笑いながら答えてくれた。


「そんなの全然構わないよ。あたしは…あいつのためだったら、どんなことでもガマンして受け入れるから。

 あ、でもね、男の子のフリも案外悪くないんだよ?」


 そう言うミアの言葉が…自分の母親と同種のものだということに、この子は気付いているのだろうか。


 わしは、誰にも見られない場所で一人泣いた。

 素晴らしい…本当に最高の妻と娘を持てたことを、神に感謝しながら。







 そうして双子に施された『禁呪』は、効果てきめんだった。

 それまで様々な手で発散してきたカレンの魔力が、まったく発動しなくなったのだ。


 ちなみにカレンに対しては、『制約の鎖コンストレイン』という禁呪をかけたと嘘をついた。

 もちろんこの魔法はかかっていたのだが、そもそも禁呪ではなかったし…あくまで『禁呪・魔食虫ガンガシャ』をかけるためのカムフラージュに過ぎなかった。



 いづれにしろこの処置の結果、カレンはみるみる元気になっていった。

 だが…これは一時しのぎであることは皆が分かっていた。

 根本的に解決するためには、やはり…設備の整った『ユニヴァース魔法学園』で、じっくりと検査する必要があった。



 そこで…次の手が打たれた。

 それが、家庭教師『エリス』の召喚だった。




 これまでわしらは、カレンの『秘密』…すなわち病気のことがバレないように過ごしてきた。

 だが、この先の魔法学園での生活を考えたときに、ミアだけではどうしても手が足りないと思えたのだ。


 カレンには、友人が必要だった。

 それも…魔法学園に入れるだけの素質があり、かつカレンの病気に気付かないような…そんな存在が。



 この件を相談したとき、解決策を提案してくれたのが、友人であるブリガディア国王であるジェラードだった。

 彼は言った。その問題を解決する最善の人物がいる。その少女であれば、きっとカレンの良い友人になってくれるだろう、と。


 そうしてジェラードが推薦してきたのがエリス殿だった。


 聞いて驚いたのだが、エリス殿はジェラード王の隠し子だった。

 しかも母親はパメラ殿だという。

 パメラ殿は、ジェラードが魔戦争のときに組んでいたパーティの一員で、平民出身の『治癒術師』だった。

 薄々と両想いであることは察していたが、立場の差から諦めたとばかり思っていた。

 だが…どうやらこっそり繋がっていたらしい。


「私は…クルードのように自分の想いを貫くことが出来なかった。そのことに対して言い訳をするつもりはないが…せめてお前たちのことは全力で応援したいのだよ」


 そう言って、彼は…あらゆる手を尽くしてエリス殿を『家庭教師』として派遣してくれたのだった。







 エリス殿は素晴らしい女性だった。

 なにも知らないのに…双子の最良の友人となってくれた。



 そんな彼女がレイダーたちと一緒に向かった『グイン=バルバトスの魔迷宮』から帰ってこない。

 それを、カレンが救い出したいと言い出した。



 これまでずっと引きこもりがちで、優柔不断だったカレンが、自らの意思でそう言ったのだ。


 薄々分かってはいたが、おそらくカレンはエリス殿のことを特別に想っているのだろう。

 そんな想いを察したヴァーミリアンも、なけなしの『盟約』による『二つ目の契約』を宣言してくれた。



 わしはこれで肝が座った。


 …全力で、我が子らを支援しようと。




 わしは本当に素晴らしい妻や子供に恵まれたものだ。



 わしは心の底からそう思いながら、これから始まる久しぶりの『冒険』に心を踊らせたのだった。

いよいよ次が最終章となる予定です。



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