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ぼくは『お姫様(プリンセス)』じゃないっ!  作者: ばーど
第一章 太陽王子と月姫
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6.アナザーサイト 〜ミアの場合〜

 

 あたしの名前はミリディアーナ=アフロディアス=フォン=ハインツ。

 親しい人にはミアって呼ばれてたんだけど…最近は違う名前で呼ばれることが多いかな?

 …『カレン王子』ってね。


 正直、あたしはなんて呼ばれようと構わない。

 そもそも、いちいち訂正したりするのがめんどくさかったし。

 相手があたしのことを何と呼ぼうと、あたしは、あたしだから。

 弟みたいにムキになって否定したりもしない。



 あたしは、小さい頃から体を動かすことが大好きだった。

 お城の中だけでは飽き足らず、城の外に飛び出して、毎日泥んこになって遊び回ってた。

 よくマダム=マドーラには「女の子らしくするざます!」って怒られてたけど、あたしにはどうして女の子らしくしなきゃならないのかが分からなかった。

 正直、そんなのは弟のほうがお似合いだと思う。

 …そんなことを面と向かって言ったら、あいつは鬼のような形相で喰ってかかってくると思うけどね!



 あたしは、お母様と同じように誰かに縛られるのがイヤだった。

 あたしはあたしがしたい事をするし、気に入らないことはやらない主義だ。

 だから、別にあたしは、女の子らしい態度や格好が嫌いなわけではない。

 恋愛だってそうだ。

 女の子たちは競い合うように恋バナをしたがってたけれど、あたしは興味が無かった。


 …したくなれば、する。

 ただ、したくならなかっただけのことだ。


 すごく残念なことに、このことがどうしても他の人には理解してもらえなかった。

 だからあたしは説明するのも訂正するのも面倒になって、そのままカレンのフリして好き勝手にやってたんだ。




 あの…1年前の写真集『ハインツの太陽と月』のときだってそうだ。


 ファーレンハイトの街に突如襲いかかった魔災害は、あたしにとって他人事ではなかった。

 なぜなら…王宮であたしたち双子の世話を担当している侍女のベアトリスが、被害に遭ったファーレンハイトの街出身だったからだ。


 ベアトリスは、あたしたち双子を間違えることなく見分けることができる稀有な人物のうちの一人だ。

 普段は生真面目で比較的無口なんだけど、困ったときにはいつも…あたしのことを庇って助けてくれた。

 そんな、あたしにとっては数少ない味方と言うべき存在だった。


 ベアトリスは、自分の故郷が魔災害で大変なことになって、すごく悲しんでた。

 …あたしは、普段は寡黙な彼女が、深く傷ついて影で泣いているのを…黙って見てられなかった。

 だから、なにか力になろうと…そう思った。

 それで、たまたま城に戻って来てたサファナに相談したんだ。


 サファナはマダム=マドーラの娘だ。

 あたしたちとは小さな頃からきょうだい同然に育った。

 だから、困ったときにはなんでも相談できる…姉のような存在だった。

 しかもサファナは、両親に似ず…古い価値観に囚われない人物だ。

 実際、猛反対するマダム=マドーラを押し切ってファッションデザイナーになったくらいだから。


 そんなサファナが、あたしに良いアイディアを教えてくれた。

「だったら、なにか慈善事業でもすれば良いんじゃない?」と。




慈善事業ボランティアかぁ…。あたしそういうの苦手だから、なにをして良いかわかんないんだよねぇ」

「あはは、ミア姫らしいね!

 でもさ、難しく考えなくて…自分に出来ることやればいいんじゃないかな?」

「自分にできること…ねぇ」


 あたしは正直自分に何が出来るかわからなかった。

 だけど、サファナ話すことで…一つのアイディアが浮かんだんだ。


「…おお、いいこと思いついた!

 これなら…あたしでもいけるかも!」


 あたしは思いついたアイディアをサファナに披露した。

 それは、あたし自身をモデルとして写真集を作って、その売り上げを全て寄付する…というものだった。


「…へぇ、なかなかいいアイディアなんじゃない?

 王族が写真集出すなんて、前代未聞だしね。

 私は好きよ、そういうぶっ飛んだやつ。なんかワクワクするわ。

 そうねぇ…それだったら、写真家にも良い人に心当たりがあるわよ」

「ねぇ、だったらついでにサファナも手伝わない?」

「あら、私もいいの?

 全力尽くしちゃうわよ?」


 …こうして、あたしたちが企画した『写真集プロジェクト』がスタートしたんだ。






 紹介された写真家は、ボロネーゼ=ニコンという、真っ黒に日焼けしたマッチョな男だった。

 チリチリの短髪に、金ピカのアクセサリーを着けていて、正直サファナの紹介でなければ決して近寄らないタイプの人物だ。

 でもボロネーゼは…予想に反してすごく良いヤツだった!


「あぁら、アナタがサファナちゃんが言ってた子ね!」

「…って、オカマかよ!」


 そう。

 なんとこいつ、ムキムキマッチョの外見ながら…オネエ言葉を駆使するオカマちゃんだったのだ!

 こいつにゃあ、さすがのあたしも驚いた!


「ボーちゃん、この子がかの有名な…我がハインツの双子よ」

「イイわね!このナリで女の子なんだから…インスピレーションが湧くワァ」


 ボロネーゼの発言にあたしは驚いた。

 このオカマ、一目であたしを女だと見抜いたのだ。


「よく…あたしが女の子って分かったね」

「オホホ、だてにオカマ歴長くないワ。オカマなめんなよ!」


 うん、よく分からない理由だ。





 こうして幕を上げたあたしたちの写真集プロジェクト。

 あたしたち三人のチームワークは抜群だった。


 ボロネーゼが撮影に相応しい場所を探してくれた。

 その場所に沿って、サファナが衣装を用意してくれた。

 そしてあたしは…二人のイメージに感化されて、『双子の』モデルへと変身した。


 ボロネーゼはオカマだけあって、あたしの立ち居振る舞いに何の抵抗感も持ってなかった。

 むしろ、焚きつけるように…こう言った。


「ミアちゃん、アナタはなにものにも囚われない『自由の象徴』ヨ!

 男であろうと、女であろうと、アナタは美しいワ!

 さぁ、自由に羽ばたくのヨ!」


 あたしは、その言葉に…心が解放されたかのような気分になった。

 そうして、乗せに乗せられて…写真を撮りまくった。




 あるカットでは、あたしは『カレン王子』として…剣を持って、挑発的なポーズを決めていた。まるで、試合前のように。


 次のシーンでは、試合後だ。

 汗を拭いながら、握手しようと手を差し出している。

 …もちろん、輝くような笑顔を浮かべて、だ。



 別のカットで、あたしは『ミア姫』だった。

 川のほとりで、清楚な衣装を身につけて…水面を見つめながら片手を水につけている。

 ナチュラルなメイクで、物憂げな表情を浮かべている。


 次のシーンでは、少しだけ顔を上げて、恥ずかしげに…照れた笑みを浮かべていた。

 たぶん、ほとんどの男子がイチコロで堕ちるような笑顔だ。




 こうして出来上がった写真集『ハインツの太陽と月』。

 この作品には、あたしたちの持てる力の全てがつぎ込まれた。

 …正直、ちょっとやりすぎたかなぁと思わなくはない。

 だけど、後悔はしてない。




 最初は…王城の人たちにはナイショにしてたから、こっそり売るつもりだったんだ。

 だけど、発売された写真集は…売れに売れた。

 あたしたちが想定していた何倍も売れた。

 ファーレンハイトの街にも、かなりの額の募金をすることができた。



 そして…あたしたち双子の知名度は、爆発的に急上昇したんだ。







 初めの頃は、街にお忍びで出たときに、真っ赤な顔をした女の子がちょっと覗き見したりするくらいだった。

 だけど…

 それがだんだんエスカレートしていって、気がつくと、外出したら目をハートマークにした女の子たちに囲まれるようになっちゃったんだ。


 いやー、さすがにこれには参った。

 だって、どこに行っても「きゃー!カレン王子さまぁ!」だよ?



 最初の頃は愛想を振りまいてたんだけど、さすがにそれが毎日続いて…しかも出かけるたびに人だかりができるようになっては、さすがのあたしも参っちゃった。

 しかも、マダム=マドーラに写真集のことがバレちゃって、サファナ共々大目玉を喰らうことになってしまった。



 まぁ、ファーレンハイトの街の支援をすることができて、戻ってきたベアトリスに涙混じりのお礼を言われたときは、やって良かったと思ったけどね。









 ということで…これがきっかけとなって、あたしはあんまり外に出ることができなくなってしまった。


 だけど、皮肉なことにそれが逆に…多くの人たちに、あたしたちの『成人記念祭』を期待させる結果になったんだ。







 心配になったのは、カレンのことだった。


 弟は、小さな頃から病気がちであまり外に出ず、びっくりするくらい大人しいやつだった。

 幼い頃のあたしは、そんな弟のことが…正直あまり好きではなかった。

 だってあたしは…女に生まれたってだけで「おしとやかにしなさい」と言われ続けていたのに、あいつは男に生まれたってだけで、ちっとも男らしくなかったからだ。

「あんなんだったら、あたしが男として生まれればよかった!」って、何度思ったことか。


 …だけど、そんなあたしの価値観を変える出来事があったんだ。





 あれは、幾つくらいの頃だっただろうか。

 いつものようにヤンチャがバレて、マダム=マドーラの説教から逃げてたあたしは、苦し紛れにある部屋に隠れたんだ。


 がちゃり…と、ドアを開けて、ふーっと一息をつく。

 と、そのとき。


「…だ、だれ?」


 というか細い声が、部屋の中から聞こえて来た。

 あたしが振り返ると、そこにはベッドに入ったまま上半身だけ起こした状態のカレンおとうとがいた。

 …慌てて逃げ込んだ部屋。

 それは、実はカレンおとうとの部屋だった。


 あたしは、そのとき弟を見て感じた…不思議な衝撃を忘れられない。

 …そこには、『ミアあたしそっくり』だけど、あまりにも儚げで弱々しい…侵入者に対して訝しむような表情を浮かべた『か弱い、もう一人の自分』が居たんだ。


 あぁ、自分とそっくりなのに、こんなにもか弱い存在がこの世に在るんだ…


 あたしは何か胸の奥がキューンっとなるのを感じた。


 だけど弟は…あたしの姿を確認して「あ、姉さま…」と言って安心した表情を浮かべたあと、気が抜けたのか…そのまま意識を失って、パタンとベッドに倒れこんだのだ。


 このときあたしは「あぁ…こいつのことはあたしが守ってあげなきゃ!」って決心したんだ。



 その後、マダム=マドーラがやって来てお説教されそうになったんだけど、そのときには意識を取り戻していた弟が「姉さまはぼくのことを心配して看病しに来てくれたんだよ」と言って、あたしのことを庇ってくれたんだ。

 あたしと違って真面目で素直な弟にそう言われれば、さすがのマダム=マドーラもそれ以上責めることは出来ず、結局説教はうやむやになってしまった。


 そんなカレンの優しさが、さらにあたしの保護欲をかきたてたんだ。




 寝込むことが多かったせいか…弟は、あたしと違って、周りにかなり気を使うタイプだった。

 ただでさえ病弱なのに、自分に対してそんなにも気を使うことができるなんて…

 しかも、倒れる寸前に見せたあの…限られた人にだけしか見せないような、安心した顔。

 あんな表情を見せられて、冷たくすることなんて出来ようか!


 …この出来事が一つのターニングポイントとなって、あたしはカレンのことを保護対象として見るようになったんだ。

 もちろん、保護するということは…ときには厳しく接することも含まれてるんだけどねっ!




 だから、写真集のときに弟を巻き込まなかったのは、実はあたしなりの優しさなのだ。

 あんな気弱な弟が、モデルとなって写真撮影なんて耐えられるとは思えなかったから。


 だけど、さすがに『成人記念祭』はそうはいかなかった。

 ハインツ公国の子供で、15歳の誕生日…『成人記念祭』をしないものはいない。

 ましてや、一国の王子と姫である自分たちが『成人記念祭』をしないなど、絶対に考えられなかった。


 まぁでも、最初の頃は「ちょっとだけの間、ガマンしておしとやかな姫様のふりをしてれば良いか」と考えてたんだ。


 …ヴァーミリアン王妃おかあさまが、あのとんでもない『儀式』をするまでは。









 お母様があたしたちにかけた『禁呪』の効果は絶大だった。

 …ただし、カレンに対してだけだけど。


 まぁ正直なところ、あたしには何の影響もない。

 だって、元からあたしは何ものにも縛られない…自由な心を持っていたから。

 そして、そういう気持ちでいることが、どうやら正解だったみたい。

 だから、今日に至るまで一度もあたしに『禁呪』の呪いが発動したことはない。

 弟は発動しまくってたけどね!


 実は一度、『女装』にもチャレンジしたんだ。

 だけど…あたしには『禁呪』はまったく発動しなかった。

 さすがにお母様のかけた魔法だけあって、このあたりの塩梅はさっぱりわからない。


 …ちなみにこのことは弟には秘密だ。

 だって、聞いたらあいつ…「なんでぼくだけがーっ!」って発狂しそうだしね。







 そんなわけで、あたしたちはお互いを入れ替えた状態で『成人記念祭』に出席することになったんだ。

 あたしは、『カレン王子』として…

 そして(カレン)は『ミア姫』として、ね。





 弟は、自分が『ミア姫』として出席しなければならないと判明したとき、気が狂わんばかりに猛反発した。

 だから、一所懸命なだめて…説得したんだ。

「きっと今回だけだから、がんばろうよ」って。


 …もちろん、気休めだけどねっ。

 だいたい18歳まで解けない魔法だったら、それで済むわけないのにねぇ。





 あたしの説得の甲斐あって、無事に当日を迎えることができた。

 だけどこの日、驚きの事実が発覚する。

 なんと…カレンは、あたしたちが精魂こめて作った写真集『ハインツの太陽と月』の存在を知らなかったのだ!

 それはつまり、今日という日の大観衆のことを理解していなかったことも意味していた。


 (あいつ)には散々「だました!」だの「うそつき!」だの責められたけど、それは冤罪だと思う。

 だって…まさかあれだけ評判になって、王城の中がひっくり返るくらい大騒ぎになったあの『写真集』のことを、弟が知らないとは思わなかったのだ。

 …まぁ、なんであたしに写真集のことを聞いてこないのか気にはなってたんだけどね。



 もっとも、たとえ『写真集』のことを知らなかったとしても、今日という日を迎えてしまった以上もはや手遅れ。

 弟にはガマンして式典に出席してもらうしかない。

 とりあえず優しい姉としては、めいっぱいフォローしてあげるくらいしか出来ることはないんだけどねっ。



 そう思って、実際に舞台の上に上がってからは「スカートめくってみたら?」とか「手を振ってあげなよ」とか言って気をまぎれさせてあげたつもりだったんだけど…どうやら逆効果だったみたい。

 最後のほうになったら、だんだん死んだ魚みたいな目になってきて…しまいにはぶっ倒れちゃった!

 あははっ!



 仕方ないのであたしはカレンをお姫様抱っこして…

 観衆にめいっぱい笑顔を振りまいてサービスをしまくりながら、退出することにしたんだ。



 …まったく、変な弟を持つと、おねえさんも大変だよ!

 そのあとの記念パーティーもあたし一人で招待客ゲストの相手をすることになっちゃったしね。

 んまぁ、かわいい弟のためだ…仕方ないんだけどねっ!

 我ながら優しいお姉さんだわぁ、うふふっ。








 ーーーーーーーーーーーー










 『ハインツの双子の王子&姫の成人記念祭』が終わってから、幾日かが経っていた。


 この『成人記念祭』は、ハインツ公国において、もはや伝説となっていた。

 ハインツの双子…カレン王子とミア姫は、観衆に強烈なインパクトを与えていた。


 太陽王子…カレン王子。

 中性的なルックスで躍動感にあふれ、輝くような笑顔を持った…健康的な印象の美少年。

 妹をやさしくフォローする…まさに理想的な兄を具現化したような存在。

 観衆に手を振る姿に、国中の女性が悲鳴にも近い歓声を上げた。


 月姫…ミア姫。

 兄とよく似たルックするに、対照的に憂いを秘めた表情を浮かべた…儚げな印象の美少女。

 大観衆の前で気を失ってしまうほどのか弱さは、誰もが守ってあげたいと思うほど強烈な印象を与えた。

 その…わずかにみせた笑顔に、国中の男性のハートはわしづかみにされてしまった。





 だが、ハインツ公国の国民のほとんどは知らない。


 このとき、女性陣の心を奪い去った美少年『カレン王子』が…実はミアであることを。

 そして、男性陣のほとんどが夢中になった美少女『ミア姫』が…実はカレンであることを。











「どうしましょう…もし国民にすべてがバレたら、大変なことになりますぞ」

「しかも…あの日以来、カレン王子は完全に引きこもって人前に出てこなくなってしまったざます…」


 暗い表情を浮かべてそう口にするスパングル大臣。

 その横では、マダム=マドーラも同様の表情を浮かべながら補足する。

 言われたクルード王は、苦虫を100匹くらい噛み潰したような表情を浮かべて頷いた。


「うむ…、本当に困った。

 だがな、スパングル大臣。マダム=マドーラ。

 実はひとつ手を打ってあるのだが…」

「ほぉ!さすが国王!

 もう手を打っておられるとは!」

「うむ、それなんだがな…」


 クルード王は少し言いよどんでいるようだった。

 だが、意を決してその口を開く。


「…実は、あの二人に…『家庭教師』をつけようと思っておるのだ」

「家庭教師…ですか?」


 その言葉に反応したのはマダム=マドーラだった。

 それもそのはず、現在の双子の教育係は彼女だったからだ。

 まるで自身がダメ出しされたかのように感じたのだろう。

 そんな…マダム=マドーラの気持ちにいち早く気づいたクルード王が、すぐにフォローした。


「いやいや、決してマダムがダメだというわけではないんだよ。

 実は…これは、ある人物からの提案なんだ」

「ある人物…ざますか?」

「うむ。おぬしらは…わしが隣国であるブリガディア王国のジェラード国王と親友であることは知っておるだろう?」

「はい、確か…『魔戦争』の折に、共に戦った英雄仲間ですよね?」


 スパングル大臣の確認に、頷くクルード王。


「そうだ。

 ジェラード王とは、昔から悩み事についてはお互い相談しあう間柄でな。

 …それで、この前の『成人記念祭』に出席してくれたときに、実はうちの双子のことについても相談したのだ」

「ええっ!?だ、大丈夫なんですか?

 さすがにそれはまずいのでは…」

「なぁに、それは大丈夫だ。

 あいつは信頼できるやつだし…

 なにより、先方も同じような『秘密』を抱えておって、それを教えてもらっておるからな。

  そういう意味ではおあいこなのだ」

「はぁ…そうなんですか」


 さすがクルード王はふたりに…隣国の王の『秘密』については何も教えなかった。

 しかし、どうやら自国の『双子入れ替わり事件』と同じようなレベルの問題を、隣国ブリガディア王国も抱えていることを知り、少しだけ安堵の表情を浮かべるスパングル大臣。


「それで…まぁなんというか、お互いの抱える問題を解決する策として、ジェラード王が提案してきたのが今回の『家庭教師の派遣』というわけなのだ」

「ということは…招聘される『家庭教師』は、ブリガディア王国のジェラード王が推薦された人物…ということになるのですか?」

「そういうことだ。

 その人物の身元については、ジェラード王が保証してくれている」


 ほほぅ…とスパングル大臣が感嘆の声を上げる。

 ブリガディア王国は大国だ。

 その国王のお墨付きの人物であれば、まったく問題ないであろう。

 …しかし、国王から推薦されるとは、いったいどんな人物なのか。


「それで…どんな人物がいらっしゃるざますか?」

「…それが…」


 クルード王は、その答えを少し躊躇したあと…

 ゆっくりと口を開いた。




「…女の子だよ。

 しかも…15歳。

 双子と、同い年だ」



『えええええええええっ!?』




 クルード王の言葉に、ふたりの驚愕の声が重なった。




「そ、それは大丈夫なんざますか?

 むしろ、カレン王子の神経を強烈に刺激してしまうような気がするざますが…」

「う、うむ…。

 そのあたりはわしも気になるんだが、まぁ…いろいろあってな。

 ただまぁ、これ以上状況が悪化することは無いだろう思って、思い切って引き受けることにしたのだよ」

「はぁ…まぁクルード王がそうおっしゃるのでしたら」


 しぶしぶ…といった感じで引き下がるマダム=マドーラ。

 代わって、スパングル大臣が一歩前に進み出た。


「それで…いつごろその『家庭教師』どのはいらっしゃるのですか?」

「実は、3日後に来る予定なのだ。

 さきほどジェラード王から書簡が届いてな。

 だから、二人にはその…迎え入れる準備をして欲しいのだ」

「それはまた…急ですな」

「うむ、すまんな。

 ふたりにはこれからも色々と苦労をかけるが…よろしく頼むよ」


 おそらくは…ハインツ公国の中で最も苦労しているであろう三人は、顔を見合わせて大きくため息をついた。

 立場の違いはあれど、もはや同士とも言える三人。

 この三人に安らぎの日々が訪れることはあるのか…







 そんな三人の会話を、物陰に隠れてこっそりと隠れて聞いている人物がいた。

 その人物は…三人の話が終わるとゆっくりと影から出てくる。


 銀色の髪を後ろに束ねた…誰もが振り返るような美貌の美少年。

 そう、ミア姫だった。


「…へぇー、いいこと聞いちゃったな。

 家庭教師の女の子か…楽しみだな!」


 ミアはそう呟くと、ニシシと笑いながらこの部屋を後にするのだった。




これにて第一章は終了となります。

ここまでがプロローグのようなもので、次から実質的な本編となる第二章がスタートします。



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