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52.フレンズ集合!!

 

 ざわざわ…


 少しざわめく外の様子に、カレンぼくはぼんやりとしたまま目を開けた。


 どうやらいつの間にか眠っていたらしい。

 外が明るくなるまでぼーっとしていたのは覚えていたが、やはり寝不足だったのだろう。


 ぼくは冬の冷たい水で顔を洗うと、ぼんやりとしたままの心を目覚めさせた。



 それにしても…なんだか外が騒がしかった。

 どうやらお城の入り口のところで、女性がなにか騒いでいるらしい。時々大きな声が聞こえてくる。

 それに興味を引かれた城内の人たちがポツポツとそちらの方に向かっているのが窓からも見ることができた。

 気になったぼくは…とりあえず簡単な外着に着替えると、恐る恐る部屋の外に出てみることにした。






 部屋の外に一人で出るのは久しぶりだった。

 なんだかちょっとクラクラする。立ちくらみかな?

 たぶん…あんまりものを食べてないからだろうな。

 そう思いながらも、とりあえずぼくは騒動の起点となっている場所…お城の門の方に向かっていった。




 お城の入り口には、既に多くの野次馬が集まっていた。衛兵、侍女、その他お城で働く人たち…


 その中心にいるのは…二人の女性だった。



 一人は赤い髪の…少し背の高い、凛々しい顔立ちの女性。もう一人は黒いとんがり帽子にローブといった…いかにも魔法使い風のいでたちの女性だった。


 この二人のうち、どうやら赤い髪の女性のほうが騒ぎの張本人らしい。

 困った表情を浮かべながらなだめるプリゲッタに対して、大声で必死に食い下がっていた。



「だーかーら、なんでエリスに会わせられないのさっ!」

「ですから…何度も申し上げているとおり、エリス殿にお会いすることはできないのですよぉ」


 エリス!?どうしてここでエリスの名前が彼女の口から出ているの!?


 驚きながらも女性の騒ぐ声を聞くと…どうやらこの女性、わざわざエリスに会うためにこのお城まで来たようだ。

 それにしてもこの人、ものすごい剣幕で騒いでるなぁ…


 彼女の連れであろうか…とんがり帽子の魔法使いが、オロオロしながら赤毛の女性をなだめようとしていた。

 だけど赤毛の彼女は…その手をパシッと振り払うと、ぼくにとっては驚きの単語キーワードを口にしたんだ。



「会えないって言うなら、『バレンシアが来た』って伝えてくれよ!そしたら…エリスなら絶対出てくるからさっ!」







 バレンシア!?


 ぼくはその名前に聞き覚えがあった。

 たしか…バレンシアといえば、エリスの親友の一人ではなかったか。いまはプリガディア王国で商売をしていると聞いた記憶がある。



 そうか…わざわざプリガディアからハインツまで、エリスに会いに来たんだなぁ…

 ぼくは、病みそうなくらい疲れ果てた心に、心地よいものがスッと流れ込んでくるのを感じた。




 しかし、そうと分かれば話は別だ。


 ぼくは勇気を振り絞ると…傍観するのをやめて、人だかりになっている場所に向かって歩き始めたんだ。






 ぼくが近づいていることに気付いた野次馬たちが、ハッと息を飲むのが分かった。慌ててぼくのために道を開けてくれる。


「あっ、ミア姫様…」

「おぉ!あんなにおやつれになって…おいたわしや…」

「なんという焦燥具合…まるですぐに折れてしまいそうだ」


 そうやってヒソヒソと話す声が耳に入るけど、ぼくは気にせず歩を進める。

 そしてぼくは、渦中の真っ只中である赤毛の女性…バレンシアのそばにまでやって来た。





 最初にぼくのことに気付いたのは、金髪の魔法使いの女性のほうだった。

 ぼくの顔を見て…信じられないものを見たかのような表情を浮かべると、慌ててバレンシアの肩をバシバシたたきだす。


 叩かれたほうのバレンシアは、「なんだよチェリッシュ!邪魔しないでちょうだい…」と言いかけたところで、ようやくぼくが近寄って来ていることに気付いた。今度はバレンシアがその動きを止める。


 そして最後に…バレンシアをなだめていたプリゲッタが、ぼくに気付いて悲鳴のような声を上げた。


「あああっ!ミア姫様っ!」


 『ミア姫』という名を聞いて、バレンシアと金髪の魔法使い…チェリッシュの顔面が一気に蒼白になった。






「姫様!お部屋を出られて大丈夫なのですか?体調はおかしくないですか?」


 心配して近寄ってきたプリゲッタが、ぼくを支えるように腕を掴んでくれた。

 そんな彼女に感謝の意を込めて…頷きながら微笑み返す。


「大丈夫。ありがとうプリゲッタ。あとはぼくに任せて」


 そして…プリゲッタからやんわりと手を離すと、ゆっくりとバレンシアたちのほうへと歩み寄っていったんだ。







「やばいよ…バレンシア、とうとうお姫様まで出て来ちゃったよ!」


 顔面蒼白で冷や汗まで垂らしながら、チェリッシュが必死の形相でバレンシアの袖を引っ張っている。

 ぼくの顔を見つめたままぼーっとしていたバレンシアも、それでようやく事態を把握したようだ。だけど、それでも逃げるでもなく、少し怯えた表情で…ぼくに向き直った。


「も、申し訳ありません、お騒がせして…。あの…ミア姫様ですか?」

「あなたはバレンシアと言うのですか?」

「えっ!?あ、はい。そうです!」


 緊張しながら答えるバレンシアに、ぼくは…安心させるため少しだけ微笑みかけてみた。

 すると…なぜかバレンシアとチェリッシュは真っ赤な顔をして俯いてしまった。な、なんで?


 ちょっと納得いかない反応をされてしまったものの、気を取り直して…改めて二人に語りかける。


「え、えーっと。あなたの名前はエリスから聞いていますよ、バレンシア」

「ほ、本当ですか?」

「ええ。エリスの親友とお聞きしてます。ぼ…じゃない、わたくしにとっても、エリスは大切な友人です。そんなエリスの親友であれば、私にとってもあなたは友人のようなものです」

「おお…」


 ぼくの発言に感動したのか…嬉しさのあまり言葉も出ないバレンシアに代わってチェリッシュが感嘆の声を上げた。



 それにしても、彼女にエリスのことをどう伝えようか…

 勢いで出てきたのは良いものの、そこでいきなり行き詰まってしまったぼく。

 …しばしその場を流れる沈黙。




 そんな状況を変えてくれたのは、野次馬たちの後ろから放たれた…聞き覚えのある人物の声だった。




「どうしたんだい?こんなところで目立っちゃって。バレンシアらしくないじゃないか」



 再び野次馬たちが身を引いて、新たに道が出来た。

 そこからカツカツと歩いてきたのは……仮面を付け、フード付きのマントを目深に被った一人の女性だった。


 そう、その人物は……



「ティーナ!!遅かったじゃないか!」

「オ、オーナー!!」



 そう、彼女は…

 エリスのもう一人の親友であり、ユニヴァース魔法学園の生徒でもある…『片翼の美少女天使』ティーナであったのだ。






 とっさに不審人物と考えて近寄って来た衛兵に対して、彼女はサッと軽く手を上げた。

 そして…ゆっくりとフードを脱ぐと、顔に付けた仮面も外す。



 次の瞬間、衛兵たちがハッと息を飲むのが分かった。



 フードからこぼれ落ちる、黄金の滝のようなウェーブがかった金髪。

 天才芸術家が作り上げたような、完全無欠な造形の顔立ち。

 まるで雪解け水のように透き通った透明な肌。


「なっ…なんという美しさ…」

「うわぁ…ミア姫様に匹敵するほどの美貌だ…」

「なんてこったい、俺はいま奇跡を目の当たりにしてるぞ!二人の女神が地上に降り立っている!」


 ざわざわとざわめく衛兵たちを気にする様子もなく、ティーナは飄々と…バレンシアの横へとやってきた。



「悪かったねバレンシア。乗合馬車が遅れちゃってさ。それにしても…なんで城門で騒いでる?キミは衛兵に捕まりたいのかい?」

「あっ、オーナー助けてくださいよぉ!バレンシアが暴走しちゃって大変だったんですから!」


 半泣き状態のチェリッシュを優しく宥めると、ティーナは…凛々しい表情を浮かべたまま、ぼくのほうを向いてその口を開いたんだ。



「それで…これは一体どういう状況なんだい?お姫様・・・

「そ、それは…」


 再びぼくは答えに言いよどんでしまう。

 すると、今度はぼくの背後から助け舟がやってきた。



「騒がしいと思ったら、エリちゃんのお友達だったのね!」

「こんなところで立ち話も何だ。中に入りなさい」

「お父様…お母様…」


 そう、それは…クルード王おとうさまと、なぜかこの場にいるヴァーミリアン王妃おかあさまだったのだ。



「うわぁ、とうとう公王陛下と王妃まで出て来ちゃったよぉぉ」


 金髪の魔法使いチェリッシュの悲鳴に近い声が、ぼくの耳にも漏れ聞こえて来た。












 場所は変わり、ここは…主に非公式の会議などで使われるお父様の応接室。

 長方形のテーブルを中心に、カレンぼくを含めた七人の人物が椅子に腰掛けていた。



 ぼくらのほうは、クルード王おとうさまヴァーミリアン王妃おかあさまミアねえさま、そしてカレンぼく

 テーブルの反対側に座っているのが、ティーナ、バレンシア、チェリッシュの三人だった。


 この三人とエリスの関係については、ティーナが最初に詳しく教えてくれた。

 なんでもティーナは、エリスがここに来る前に働いていた…ブリガディア王国にある魔法屋『アンティーク』というお店のオーナーなのだそうだ。

 そのティーナが魔法学園に下宿することになり、オーナー不在となった魔法屋アンティークを現在任されているのが…ティーナの幼馴染であるバレンシアと、エリスの後釜として現在お店に雇われることになった魔法使い…チェリッシュなのだそうだ。


 ちなみにチェリッシュは今年の夏以降働き出したばかりなので、エリスとはまだ面識が無いとのこと。



 そして、この三人がなぜこのタイミングでハインツにやって来たのかというと…それはどうやら本当に偶然だったみたい。

 ティーナとバレンシアの間で「魔法学校の冬季休暇を利用して、こっそりエリスに会いに行こう!」ということを企んでいたのだそうだ。それがたまたまこの時期だったらしい。

 それでハインツに来てみたら、このような状況になってしまったとのこと。

 …それにしても、こんな偶然もあるんだなぁ。




 次は、ぼくたちが彼女らに状況を説明する番だった。

 お父様が優しい口調で…エリスが不在となっているこれまでの状況を、丁寧に説明したんだ。



明日への道程ネクストプロムナード』一行がやってきたこと。

 エリスが彼らの臨時メンバーとして雇われたこと。

 三日で帰ると約束したのに、一週間経った今でも戻ってきていないこと…



「それは…もしかして、良くない状況なんですかね!?」


 恐る恐るではあるが、バレンシアがクルード王おとうさまにそう問いかけた。

 だけどお父様は、もごもごと歯切れ悪い回答をするだけだった。それが逆に…バレンシアの不安を煽ったようだ。


「そ、そんな状況だったらあたしはこんなところでじっとなんてしていられません!

 ティーナ!チェリッシュ!今すぐ『グイン=バルバトスの魔迷宮』に行くよっ!」


 バレンシアがいまにも飛び出していきそうな勢いで、隣にいる二人に声をかけた。チェリッシュは「まーた始まったよ…」といった表情を浮かべている。


 だけど、ティーナがそんな鼻息荒いバレンシアをなだめてくれた。


「落ち着きなよ、バレンシア。キミが行ってどうするんだい?行ったところであの迷宮ダンジョンには『入宮エントリー』すら出来ないのは知ってるだろう?」

「そりゃそうだけど…ここでじっとしてるってのも…」

「大体、心配しているのはキミだけじゃないんだ。こちらにいらっしゃる公王陛下や王妃はもとより…エリスのことを『親友』と言ってくれた王子や姫だって心配なさっているんだよ」


 そう言われて、ハッとしたバレンシアがぼくたちのほうを見た。

 うんうんと頷くぼくや姉さま。

 その様子を確認して…ティーナふっと笑うと、今度は小首を傾げながらこちらに問いかけてきた。



「それにしても、レイダーが付いていながらこのザマはちょっと不可思議だ。曲がりなりにもあの男は…『英雄』とまで呼ばれるような男。簡単に後れを取るとは思えない。…公王、王妃、それに王子、姫。申し訳ないのですが、現在のこの状況に心当たりはありませんか?」


 ティーナの問いかけに、心当たりのまったくないぼくと姉さまは首を横に振った。

 だけど…お父様とお母様は、なぜか固まったままだった。


 あれれ?もしかして、…二人にはなにか心当たりがある!?


 だけどティーナは、うちの両親おやのそんな様子を気にした風もなく…あっさりと引き下がった。



「…そうですか。まぁいずれにせよ、ボクたちは…いまは待つしかない状況だね。どうする?バレンシア」

「どうするって…あたしは行くよ。ガウェイン師匠が居るから大丈夫だとは思うし、あたしが行ったところで何の役にも立たないとは思うけど……やっぱり心配だしね。

 なにより…親友のエリスに何かあるかもしれないってときに、あたしはこんなところでじっとなんてしてられないよ」



 そんな…迷い無く放たれたバレンシアの言葉に、ぼくは強い衝撃を受けていた。

 激しく…胸の奥を突かれた気分だった。


 バレンシアは、エリスの向かった迷宮へ向かうのだという。しかも、純粋に『エリスが心配だから行く』と言うのだ。


 そこに、迷宮に入れないかもしれないとか、行くだけ無駄だとか、立場がどうとか……そんな迷いや躊躇は一切無かった。

 そう。彼女は…友人のために行動を起こすことに、何のためらいもなかったのだ。




 それに対してぼくはどうだろうか…

 ただうじうじとして、一人で泣いたり、眠れなかったり、食事も喉を通らなかったり…


 そんなことをしたところで、何の役にも立たないことは誰の目から見ても明白だった。

 それよりも、迷い無く一瞬で決断したバレンシアのほうが、どんなに素晴らしいだろうか。

 ぼくには彼女の行動を…無謀だとか意味が無いなどと切り捨てることは出来なかった。



 その事実に気付いて、正直ぼくはかなり凹んだ。

 自分の不甲斐なさに、悔しさでいっぱいになった。


 だけど…そう思うと同時に、ぼくの心にメラメラと燃え上がるものが芽生えてきた。

 それは…忘れかけていた、熱い想いだった。






 そしてこのとき、ぼくはようやく気付いたんだ。


 ぼくに欠けていたのは…魔力や能力なんかじゃない。

 『一歩を踏み出す勇気』だったんだってことに。








 そうと分かってしまえば答えは簡単だった。

 そう。ぼくだって…エリスを大切に思う気持ちはなにも変わらない。

 むしろ…負けてない!!



 だったら、これからぼくが取るべき行動は一つだった。

 その行動が頭に浮かんだとき、ぼくは…今度こそ何の躊躇も無かった。


 そのときのぼくは、王子でも姫でもなかった。

 …ただの一人の男だった。


 だから、迷わずこう口にしたんだ。



「待って。ぼくも…行く!」











 ぼくの発言に、みんながいっせいに驚きの表情を浮かべてぼくを見た。


 そりゃあ急にこんなことを言われたら、誰だってびっくりするだろうなぁ。

 しかも発言したのは…姉さまおてんばではなくこのぼくだ。お父様なんかこの世の終わりみたいな顔をしている。




 だけど、ぼくはもうとっくに決心していたんだ。

 そしてこの決心は…もう揺らぐことはなかった。






「ちょ…あんたなに言ってんの?」


 普段だったら率先してとんでもないことを言う姉さまが、ぼくに対して慌てて確認してくるこの状況…なんだか滑稽だった。

 だけど、そんなものも今のぼくにとってはおかまいなしだ。

 心の奥底から、目に見えない力が溢れ出てくるのを感じる。

 その力に勇気づけられるかのように…ぼくは口を開いた。


「エリスは…ぼくにとっても大切な存在だ。

 だったら、親友のバレンシアが行くといっているのに、ぼくがいかない理由なんて無いでしょう?」


 ぼくの意思に変わりがないことを確認すると、姉さまは…ふっと笑いながら首を横に振るとあっさりと諦めてくれた。

 …もっとも、それには裏があったらしい。


「そっか…わかった。じゃあ私も行くよ!」

「ええっ!?」


 今度はぼくたちが驚かされる番だった。

 そりゃそうだ。双子ぼくたちが揃って「行く!」と言うなんて、誰も考えていなかっただろう。

 もっとも…普段から無茶ばかり言っている姉さまだったら、こういう風に言い出すことは十分ありえたんだけどね。



「ちょっと…姫様に王子様まで…ご冗談ですよね?」

「マズイよぉ!なんだかアタシたちの理解の範疇を超えた展開になってるんですけどっ!?」


 予想のはるか斜め上を行く事態に、本来関係無いはずのバレンシアとチェリッシュが完全に動転している。

 そんな二人を手で制しながら、ティーナが真剣なまなざしで…ぼくたちに確認してきた。


「王子様、姫様。…キミたちは、本気かい?」

「うん。本気だよ」

「もちろん!」


 胸を張って答えるぼくたちの顔をじっと見つめると…それまで険しい表情を浮かべていたティーナが、その表情を崩してふっと笑った。

 それはまるで、突如その場に可憐な花が咲き乱れたかのような…そんな素敵な笑顔だった。


「…ありがとう、ふたりとも。エリスの友人として礼を言わせてもらうよ。

 ただ、その気持ちは本当にありがたいんだけど…さすがに一国の王子や姫に出張ってもらうわけにはいかないんだ。

 そうでしょう?公王陛下、王妃」



 すると…これまで黙って話を聞いていたヴァーミリアン王妃おかあさまが、ニヤニヤしながら口を開いた。…まるで、最高に楽しいオモチャことを見つけた子供みたいな表情で。


「うふふ、なかなか面白い展開になってきたじゃないの」

「…へっ?」

「ちょ…ヴァーミリアン?」


 お母様のその…尋常ではない様子に、慌てて口を挟もうとするお父様。だけどお母様は、そんなお父様を完全に無視して話を続けた。


「…わかったわ。二人がどうしても行きたいというなら、わたしは止めない。その代わり…」


 ヴァーミリアンおかあさまは一呼吸置くと、なによりも楽しそうな表情を浮かべて言葉を続けたのだった。


「…わたしも一緒に行くわ。これでどう?」


「「「ええええー!!??」」」


 …今度はお母様の口から、予想だにしなかったとんでもない爆弾発言が飛び出した。








「ちょっと待て、ヴァーミリアン!それはさすがにまずいのでは…」

「そう?じゃああなたも行く?」

「いや、そういう問題じゃあ…」


 お父様の必死の説得の言葉に、お母様は顔色を変えた。まるで鬼のような形相で、お父様を睨みつける。


「…じゃあこれは、どういう問題だっていうの?

 うちの子たちが、大切な人のために力になりたいって言ってるのよ!?

 これ以上に重要な問題が他にあるっていうの?!」

「いや、それは分かるが…」

「それに、わたしが居ないとあの『迷宮』には入れないでしょう?」

「「えっ!?」」


 お母様の言葉に、ぼくたちは驚きの声を上げた。


 もしかしてヴァーミリアンおかあさまは…『グイン=バルバトスの魔迷宮』の中にまで『入宮(エントリー)』しようとしている!?

 でも、あの迷宮には「天使を四人揃えないと『入宮エントリー』できない」という制約があるはずでは…



「いや、さすがに天使がボクとあなたの二人だけではあそこには入れないんじゃないかな?」


 ぼくと同じ疑問を持ったらしいティーナが問いかける。するとお母様は…最高にいやらしい笑みを浮かべ、人差し指を左右に振りながら答えたんだ。


「うふふ…わたしにはね、それを突破する『裏技』があるのよ」

「「裏技っ!?」」


 そう言うと、ヴァーミリアンおかあさまはウインクをパチーンと返してくれた。






「…うーん、だがなぁ……」


 それでもまだ苦悩の表情を浮かべていたお父様。

 それはそうだろう。なにせ行き先は元『魔迷宮ラストダンジョン』だ。

 いくら魔王が居なくなったあととはいえ、どこな危険が潜んでいるのか分かったものではない。


 そんなお父様の様子にしびれを切らしたお母様が…突然態度を変えてきた。


「クルード!」

「へっ!?」


 いつもとは違う、お母様の表情。

 その顔は真剣で、真摯で…

 ぼくたちは思わず息を潜めてしまった。


「…わたしは今ここに、あなたとの『盟約』に基づく『三つの契約』に関する事項のうち…二つ目を宣言するわ」

「なっ!?なんだと!?お前正気か?こんなことで『盟約』を…」

「だまらっしゃい!

 それじゃあ言うわよ…『二つ目の契約』、それは…『これからエリちゃんを助けるまでは、王としての義務を忘れて、ひとりの父親として…子供たちを支援すること』!!

 …さぁ、これでどうかしら?」




 その言葉を聞いた…次の瞬間、お父様の表情が激変した。


 これまで穏やかだった表情が一変して、まるで野生の鷹のように鋭い目つきとなった。

 口の端がニヤリと持ち上がり…歴戦の猛者を彷彿とさせる精悍な雰囲気を醸し出し始める。


 そして最後に…お父様は頭上の王冠を手に握ると、それをゆっくりとテーブルの上に置いた。



「…承知した。

 ヴァーミリアンとの『盟約』に基づき、これからわしはエリス殿を助けるまでは、ひとりの父親として…おまえたちを全力で警護しよう!

 要約するとだな、つまり…

 『わしも行く!一緒に『グイン=バルバトスの魔迷宮』に潜ろう!』と言うことだっ!」

「「「えええー!!??」」」


 最後の最後に……とうとうお父様までもが参戦を宣言してしまった。


 …ちょっと、これから先ぼくたちは…どうなっちゃうの!?






 こうしてぼくは…予想外の展開により…


 エリスのお友達関係者であるティーナ、バレンシア、チェリッシュ。

 さらには『魔戦争の英雄』である『双剣ツヴァイクルード王おとうさま、『塔の魔女タワーオブテラーヴァーミリアンおかあさま、そしてミアねえさま


 この七人で…エリスを探しに『グイン=バルバトスの魔迷宮ラストダンジョン』に挑むことになったのだった。




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