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45.旧友との交流の形

 

 カレンぼくたちの目の前では、引き続きエリスとティーナの感動的?な再会が繰り広げられていた。


「ティーナ!どうじでごごに…」

「ほらほら、泣きながら喋らないでくれよ。せっかくの可愛いお顔が台無しだろう?」

「だっで…ひっぐ…」


 そう言いながら、『仮面の少女』ティーナに抱きついたままワンワン泣いているエリス。

 そんな彼女に少し戸惑いながらも、嬉しそうに頭を撫でるティーナ。


「ほっほっほ、珍しいものが見れたのぅ。『鉄仮面』ティーナが喜び戸惑っておるぞ?連れてきた甲斐があったというものじゃわい」


 ロジスティコス学園長が、なんだか嬉しそうに…横にいる二人の導師に話しかけていた。

 導師であるフローレスとクラリティも、驚いた表情を浮かべながら「あの『鉄仮面』があんな表情を浮かべるなんて…信じられません」や「あの子が笑ってるところを初めて見ました…」などと呟いている。

 …エリスの師匠は、魔法学園で一体どんな評価をされてたんだろう?



「いやー、なかなか良い光景だな」

「むふっ、エリちゃんとっても嬉しそうねぇ」


 一方、こちらクルード王おとうさまヴァーミリアンおかあさまは、その光景を満足そうに眺めていた。

 スパングル大臣やマダム=マドーラもハンカチで目元を抑えながら頷いている。


 …どうやら、事情を何も知らなかったのは、ぼくとミアねえさまだけだったようだ。



 結局その後、謁見式はうやむやになってしまった。

 エリスと師匠のティーナとの『感動の再会』で、形式的な挨拶はぶち壊しになってしまったからだ。

 …もちろん、良い意味で。



 あとから聞いた話だけれど、ロジスティコス学園長からクルード王おとうさまに事前に相談があったらしい。

 それで…エリスを驚かすために、こんな茶番を準備したのだそうだ。


 だったらぼくたちにも教えてほしかったんだけど、「おまえたちに先に教えたら、絶対にエリスどのに言うだろう?」と言われて、ぐうの音も出なかったんだ。






 それからは、とりあえずそれぞれが友情を深め合うことになった。


 ロジスティコス学園長は、なんでもヴァーミリアンおかあさまから「魔法勝負」を挑まれているそうで、何処かで魔法対決するらしい。「塔のそば戦おう!」と言い張るお母様に対して、「なんでわしがおまえさんのホームグランドで戦わないといかないんじゃ!」などと言い争いをしていた。


 お父様から聞いた話だと、お母様はロジスティコス学園長に会うといつも勝負を挑むのだそうだ。

 一応これまでの戦績をお母様に聞くと、「ずっと引き分けよ!引き分け!」と言っていた。

 …本当かなぁ?



 お母様たちと同様に、エリスも…久しぶりに会う師匠ティーナと親交を深め合っているようだったので、とりあえずぼくたちはリビングルームに戻ることにしたのだった。







「いやー、なんかびっくりしちゃったね!」


 ベアトリスの淹れてくれるお茶を飲みながら、ミアねえさまがぼくに話しかけてきた。ぼくは、半ば上の空で…その問いかけに頷く。


「…どしたの?ボーッとしちゃって。もしかしてヤキモチ?」

「は、はぁ?なんでぼくがヤキモチなんて焼くわけっ!?」

「いや、だってさ。いっつもあんた中心だったエリスのあんな姿を見せつけられて、内心穏やかじゃないんじゃないかなーって」


 …実は、姉さまの指摘は図星だった。

 ぼくはエリスが…師匠であるティーナに抱きついた姿を見た瞬間から、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていたのだった。


 ぼくは、当たり前になりすぎていて、すっかり忘れていたことがあった。

 それは、エリスにだってこれまで歩んできた人生があるという事実だ。


 ぼくが知っているエリス以外の顔があったり、ぼくの知らない友人が居ることがあるのも当たり前なのだ。

 だけど…そのことが、ぼくの頭の中からすっぽりと抜け落ちていたんだ。


 だからだろうか。エリスの…これまで見たこと無いような表情や態度を見て、ぼくは内心穏やかじゃなかった。



 それと同時に、「あぁ、エリスの師匠が男性じゃなくて良かった」という、意味不明な安堵感もあった。


 なんてつまらないことを考えてるんだろうな、ぼくは。





 と、そのとき。トントン、とドアをノックする音が聞こえてきた。

 ベアトリスが扉を開けると、エリスが…既に仮面を取って素顔を露わにしたティーナを連れて立っていた。



 部屋にやってきたエリスは、いつもと同じ普通の状態に戻っていた。先ほどの取り乱した様子は微塵も感じさせずに、少し照れ笑いを浮かべている。


「さっきはごめんなさい、公共の場で取り乱しちゃって…

 二人に、私の大切な友人を紹介するね」


 そう言うとエリスは、自分の横に立つ金髪の美少女の肩をつかんで前に押し出した。


「二人には話したことがあったと思うけど…彼女が私の師匠で、親友のティーナです」

「やぁ。ご紹介にあずかった魔法使いのティーナだ。ボクのことは呼び捨てでかまわないよ。…さっきはエリスが無様なところをみせちゃったね」

「な、なに言ってるの!ティーナ!」


 そうやって自己紹介するティーナは、ぶっきらぼうな言い方だったけど、なんだかそれが自然な態度で…先ほどまでのモヤモヤも何処へやら、ぼくは違和感なく彼女の存在を受け入れることができたんだ。


 だけど…そんなことを思ったのもつかの間、ティーナの口から不意に…予想外の言葉が放たれた。



「…あと、カレン王子。この前は驚かせてすまなかったね」



 まさか、その話を今ここでするとは思ってもみなかった。ぼくは、この発言にかなり戸惑ってしまった。

 だけど、ぼく以上に驚いていたのは…何も知らないエリスだった。


「ちょっと…ティーナ、それどういう意味?二人は会ったことがあるの?」

「いやー、なんというか…この前王子にバッタリ会っちゃったんだよ」

「一国の王子にバッタリ会うわけないでしょ!!」


 エリスに強く詰問され…渋々先日の経緯を話すティーナ。

 ちょっとだけ事実とは内容を変えて、「お城にふらっと来たら、たまたま中に入れて偶然ぼくに会った」というストーリーにしていたんだけれど、それは少しでも刺激を減らすための配慮だったのだろう。チラッと目配せしてきたので、ぼくも仕方なくその話に合わせて頷いたりする。


 それでも…お城に不法侵入してきたことは事実だったので、彼女はエリスにたんまり怒られていた。




 そんな様子を、笑いながら眺めていた姉さま。なんだかとっても嬉しそうだ。


「あははは、さすがエリスの師匠だね!気に入っちゃったよ!あたしはミア、改めてよろしくね!」

「どうもミア姫様。こちらこそ…いつもエリスがお世話になってます」

「ちょ、ちょっと、ティーナ!?」

「エリスだって、さっき保護者よろしくロジスティコスのじいさんとかに『いつもティーナがご迷惑をおかけしているようで、申し訳ございません』ってかしこまってたじゃないか」

「だってそれは…ティーナが『鉄仮面』なんて呼ばれてたからだよ!だから私、心配して…どうせろくに他の人とコミュニケーション取ってないんでしょ?」

「うっ、うるさいなぁ。バレンシアと同じこと言うなよな…」

「そういえばこの前、バレンシアが会いに行ったみたいね?貰った手紙にそう書いてあったよ。バレンシアは元気そうだった?」

「あーもう元気元気。元気だけが取り柄みたいな女だしね。…あ、そういえばなんか、魔法使いっぽい女の子を連れてたなぁ」

「ええっ?…もしかして新しく雇い入れた魔法使いさんかなぁ?」


 などなどと、突然目の前で始まるエリスとティーナの慣れた掛け合いに、置いてけぼりされてしまうぼくと姉さま。


 エリスがこんなにフランクな感じで話をしているなんて、なんだか意外だった。

 それとも…こっちが本当のエリスで、ぼくたちと一緒にいるときは、もしかして無理してたりする?



 そんなことを考えてしまうと、ぼくはますます胸の奥が苦しくなってしまったのだった。






 コトリ、コトリ。

 ベアトリスが部屋にいる全員分のお茶を置いていく。

 今は一通り挨拶も終わり、全員が落ち着いてテーブル席に座っていた。



「でも安心したよ。王子と姫が良い人そうで」

「ちょっとティーナ!初対面でいきなりそれは失礼よ…」


 優雅な仕草でお茶を飲みながら、遠慮なく率直な感想を言うティーナ。そんな彼女を慌ててたしなめるエリス。


「あはは、大丈夫だよエリス。あたしらがそういうの気にしないの知ってるでしょ?それに…エリスの友達だったら大歓迎だしね。カレンだってそうでしょ?」

「あ、うん。もちろん」


 ぼくが頷くと、安堵したのか…エリスがほっと一息ついた。

 んー、なんだかエリスはティーナの保護者みたい。ちょっと過保護な気もするけど。


「しかし…王子様と姫様には、これまた不思議な魔法がかかってるねぇ」

「えっ?分かるの?」

「そりゃあ、もちろん。こちとら腐っても本業だからね。一目見て分かったさ」

「…実はこの件で今日、ロジスティコス学園長に相談する予定だったんだ」

「ははぁ、なるほど。それは良いかもね。あのジイさん、魔法に関しては超一流だからね」


 そう言いながら、ぼくのことをじっと見つめるティーナ。

 しかし…ぼくが言うのもなんだけど、これほどの美少女に見つめられるのって、なんだか落ち着かない。


 しばらくは…心の中を見透かそうとするかのように、ずっとぼくの方を見つめていたティーナだったけど、不意に視線を逸らすとガラッと話題を変えてきた。


「そういえばさ、エリスは…もう自分の『天使の歌』を見つけられたの?」

「えっ?」


 ティーナからそう問いかけられて、返答に詰まるエリス。

 あ、そういえばそんな話があったなぁ。


「ううん。それが、まだなんだ…」

「そっか、まぁ焦ることはないよ。…あ、ミア姫様。ちなみにボクもエリスと同じく天使なんだ」

「「ええっ!?」」


 これまた突然の爆弾発言に、姉さまだけでなくエリスまで驚きの声をあげている。もっとも、ぼくは一度既に彼女の天使姿を見ていたから驚かなかったんだけど…


 どうやらこの人、突然話を変えるタイプのようだ。さすがの姉さまもペースを握られっぱなしである。


「ティーナ、話して良いの?それは秘密だったんじゃ…」

「魔法学園ではロジスティコスじいさんとかにもうバレてるから、いまさら平気さ。それに、そういう意味では、最近ではあんまり隠す意味が無くなってきちゃっててね」

「そ、そうなんだ…」

「まぁでも、キミたちがエリスの友達だから話したんだよ。だから、このことは秘密に頼むね」


 そう言うと、ティーナはぼくたち双子にウインクしてきた。

 んー、美女のウインクって様になるなぁ。



 この話に食いついたのは、姉さまだった。感嘆の声を上げながら目をキラキラと輝かせている。


「すごい!

 エリスだけじゃなくて、師匠のティーナもその歳で天使なんだ!

 いいなー!

 ますますあたしも魔法が使えるようになりたい!」


 ああ…そういえばそうだった。

『禁呪』を解く方ばかりに気持ちが行きがちだったけど、魔法が使えるようになることも双子ぼくたちの目標の一つだった。


 良い機会だったので、ティーナにぼくたちの秘密…双子ぼくたちにかけられた『禁呪』の話をすることにしたんだ。






「…ははぁ、なるほど。それでそんな格好をしてたわけか。てっきり好きでやってるのかと思ってたよ」

「なっ…!?」


 一通りの説明が終わったあと、最初にティーナが放った一言がそれだった。


 むーん、なんてこったい。












 ーーーーーーーーーーーー










 一方、こちらは別の場所。ハインツ城そばにある闘技場。

 ここで、今からまさに、ヴァーミリアンとロジスティコスの『頂上対決』が始まろうとしていた。

 観客は…クルード王と、フローレス、クラリティの両導師だけだ。



「さぁて…久しぶりにやりあいましょうかねぇ!これまで38戦38引き分けだったかしら?」


 指をポキポキ鳴らしながら、やる気満々で『天使』化するヴァーミリアン。

 背に具現化した純白の翼が荒々しくはためき、魔力がまるでオーラのように全身から吹き出している。



 そんな彼女に対してロジスティコスは、余裕しゃくしゃくといった感じでコキコキと肩を鳴らしていた。


「ほっほっほ、わしは38戦38勝だと記憶していたが…間違いだったかのぅ?」

「もうろくしたんじゃない?ジジイ!あたしの『天使の歌』は、七大守護天使最高の広域破壊力を持ってるんだからねっ!」


 バチバチバチ!

 ヴァーミリアンの周囲に、急激に電撃が飛び散りだした。


 その圧倒的な魔力を目の当たりにして、フローレスとクラリティの両導師が慌てて『天使』化した。闘技場の周囲に強力な結界を張る。


 やれやれ…といった表情を浮かべながら、ロジスティコスも背中から白い翼を具現化させて天使となった。

 今度は…ピーン!と張り詰めたような魔力がロジスティコスから発せられ、電撃踊る室内を貫く。



 …二人は徐々に近づいていった。

 向かい合う位置に来たとき、ロジスティコスが他の誰にも聞かれないようにヴァーミリアンに問いかけた。


「…ところでヴァーミリアンよ。おまえさんの子供にかけられたあの『禁呪』じゃが、まだ放っておいて良いのじゃな?」

「ああ、その件ね。手出しは無用よ。あたしの教育方針に口出ししないで」

「…旦那にも秘密か?」

「…そうよ。文句ある?」

「…いや、他人の教育方針に余計なことはせんよ」



 次の瞬間、二人は声高らかに『歌』を歌い出した。すると…ヴァーミリアンの右手に持つステッキが『巨大な槌』と化し、ロジスティコスの右手に持つ『古ぼけた金表紙の本』が淡く光り出す。

 とたんに、クルード王の横に控えていたフローレスとクラリティの顔色が変わった。


「なっ!?い…いきなり『天使の歌エンジェルソング』!?」

「まずいわ!あんなの同時にされたら…結界が持たないかもっ!?クルード王!危険なのでこちらへ!」

「う、うむ…わかった」


 クルード王が、導師二人の創り上げた…全力の強固な結界の中に入った、そのとき。


 二人の『七大守護天使』による『天使の歌』が発動した。





「踊れ雷よ…我が想いとともに。殲滅せよエクスターミネート!『雷神の鎚トールハンマー』!!」



「万物の知恵よ…学びの本よ、今こそ綴じられた頁を開けよ。検索せよイクスプロール!『真理の書物アガスティア・データベース』=『白の章ホワイト・ディバイド』!!」




 ヴァーミリアンの手に持つ『鎚』が、強烈な閃光を放った。

 バリバリバリ!

 そこから…目も眩むような激しい電光が放たれる。

 大地を焦がすほどの稲妻に包まれた巨大槌は…激しい電撃を放つ超巨大なハンマーへと変貌を遂げた。


「あれが…魔物の群れ千匹を一撃で葬ったという、七大守護天使ヴァーミリアンの『雷神の鎚トールハンマー』か。あんなものの前では、私の魔法防御壁も紙切れ同然ではないか…」


 うわ言のように導師フローレスが呟くのを、クルード王は聞いた。



 それに対し、ロジスティコスの足元には、巨大な魔法陣が出来上がった。

 そのまましゃがみ込み、地面に手を付くと、そこから…巨大な一冊の本がムクムクと起き上がってくる。


「あれは…ロジスティコス学園長の天使の歌…『真理の書物アガスティア・データベース』の中でも最高の防御力を誇る『白の章ホワイト・ディバイド』!真正面からぶつかる気ねっ!?」


 導師クラリティの絶叫が、クルード王の横で聞こえる。




 ヴァーミリアンが雷撃の超巨大ハンマーを振りかぶると、そのまま猛烈な勢いで…体ごとロジスティコスに突っ込んでいった。


「どりゃああああ!吹っ飛べぇぇえぇえ!!」


 対してロジスティコスは、左手を振って…目の前に具現化した巨大な本を開いた。

 すると、本からまた新たに魔法陣が飛び出し、ロジスティコスの前に展開する。


 そこに…激烈な電撃を身に纏ったヴァーミリアンが激突した。




 どががががががっ!!


 壮絶な破壊音が鳴り響き、強大な互いの魔法が激突し合ったを


 ヴァーミリアンの超巨大雷槌から放たれた電撃が、ロジスティコスの結界によって弾かれる。それが激しい音を立てながら、闘技場の地面を激烈に穿った。


「だめだっ!結界がもたない!」

「なんなのこの魔力!?ありえない…」


 天使になりながらも…まったくこの二人の『魔力の暴走』を抑えることができないフローレスとクラリティ。絶望感からか、その表情が苦悩に歪む。



「ったく、仕方ない奴らだ…このままではこの闘技場一体が壊滅してしまうではないか」


 それまで黙ってその様子を眺めていたクルード王が、そう呟くと一歩前に進み出た。

 腰に差した二本の剣に手を触れる。


「クルード王!?き、危険です!」

「そこにいては巻き込まれてしまいます!」


 だが、そんな導師二人の忠告にニヤリと笑顔を返すと、腰を落として抜刀の構えをする。


「「っ!?」」


 突如、クルード王から強烈な剣気が溢れ出てきて、フローレスとクラリティは言葉を失った。


「な…なんだあの剣気…とんでもないオーラだぞ…」

「こ、これが『魔戦争の英雄』の持つ力…」




 クルード王は、全身の気を腰に差す二本の剣に込めた。

 周囲を圧倒するようなオーラが、クルード王の全身から滲み出てくる。


「さーて、久しぶりに解放させるかね。…唸れ、魔双剣ハインツ!双・破・斬!!」


 クルード王がカッと目を見開くと、二本の剣を一気に抜刀した。



 次の瞬間…二本の剣から放たれた鮮烈な衝撃波が、魔力荒れ狂う闘技場の中を貫いた。



 クルード王の剣から放たれた衝撃波は、一太刀目が…なんと闘技場の天井を撃ち抜いた。

 さらに続けて放たれた二太刀目が、ヴァーミリアンとロジスティコスの魔力がぶつかっている魔力干渉面にぶち当たる。


 すると…それまで拮抗していた二人の魔法が、突如進行方向を変えた。

 ギリギリまで膨れ上がった魔力の奔流は、クルード王の剣撃によって弱まった方向…すなわち天井側へと一気に放出された。



 どごおおぉぉぉぉおおお!!



 まるで世界の終わりのような轟音とともに、天高く放たれてゆく二人の『七大守護天使』の極限の魔力…

 その光は、遠く離れた地でも見ることが出来たのだという。





 しばらくすると、ようやく魔法の発動が終わったのか…ヴァーミリアンとロジスティコスから放出される魔力が止まった。


 パラ…パラ…

 上から崩れた天井の残骸が、降り落ちてくる。


「…ちっ!」

「…ふむぅ!」


 二人の『七大守護天使』が、同時に息を吐いた。

 すると、二人の『天使の翼』がキラキラと崩れていき…そのまま大気の中へ溶け込んでいった。


 そして…辺りに静寂が戻ってきた。






「お…終わった?」

「…助かったの?」


 完全にただの解説者となってしまったフローレスとクラリティの両導師が、静まり返った闘技場の状況を見てそう呟いた。



「あなた…邪魔したわね?」


 通常の状態に戻ったヴァーミリアンが、怒気を発しながら夫であるクルード王に詰め寄ってくる。

 既に剣を収めていたクルード王は、諸手を挙げて降参の意を示した。


「…そう言うなよ、ヴァーミリアン。あのままほっといたらこの一帯は消滅してただろう?」

「…そんなの知らないわよ」

「ふぉっふぉっふぉ!これでまたワシの勝ちじゃな!」


 同様に歩み寄ってきたロジスティコスが、電撃で少し焦げたヒゲをさすりながら勝利宣言をした。そんな彼を不愉快そうに睨みつけるヴァーミリアン。


「やっぱりもうろくしたのね、ジジイ!」

「ふむん、お前さんの歌を防いだ時点でワシの勝ちじゃろ?」

「クルードの邪魔が入らなければ、あんたなんか黒焦げよ!」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…」


 クルード王の仲裁に、ふんっとお互いそっぽを向いてしまう。



「しっかし、派手にやってくれたな。この闘技場どうするんだ?」

「そんなの、このジジイが直してくれるわよ」

「なっ!?ここでもワシをこき使うのか?」

「だって仕方ないじゃない。私の魔法は破壊専門、あなたは万能型でしょう?だったら直すのはあなたの仕事じゃなくて?」

「むぅ…なんという自己中な解釈じゃ。さすがは『塔の魔女タワーオブテラー』」


 そうやってロジスティコスはブツブツ文句を言いながらも、手に持つ『古びた本』を掲げて再び天使化した。

 そして…高らかに『天使の歌』を歌い出す。


「………検索せよイクスプロール。『真理の書物アガスティア・データベース』=『大地の章エスタブリッシュ・オブ・ジアース』」


 すると…大地に巨大な魔法陣が自動生成されたかと思うと、今度は次々とそこからブロックが産まれ出てきたではないか。

 それが…ロジスティコスの指先での指示に従い、あっという間に崩壊した闘技場の天井を修復していく。


 その…人外とでも言うべき圧倒的な魔力の成せる技に、弟子であるフローレスとクラリティは、もはや空いた口が塞がらなくなっていた。




「…ところでロジスティコス。あなたが連れてきたエリちゃんのお友達、あの娘はなかなか美味しそう・・・・・ね。あなたの弟子より魔力ポテンシャルは上でしょ?味見しちゃっても良い?」

「ふぉっふぉっふぉ。よく気付いたのぅ、さすがヴァーミリアン。じゃが、あの娘は…まだワシにも真の力を見せておらん。たぶん乗ってこんぞ?」

「えー、そうなの?つまんないなぁ」


 ヴァーミリアンは、ぶっきらぼうにそう言い放つと、「あーもうお腹空いた」と喚きながら、この場を立ち去って行ったのだった。





(宣伝?)

 これまで特にアナウンスしてきませんでしたが…もし、エリスとティーナの過去について興味を持って頂いたのであれば、前作『私、魔法屋でアルバイトを始めましたっ!』を見ていただけると幸いです!

(なお、読んでいただかなくても本作を読む上では特に支障はありません)


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