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40.精霊のダンス

 そしていよいよ迎えた最終日。


 この日に行われるのは、『精霊の儀式』。

 この儀式は、カレンぼくたちのご先祖が実際に体験したという…精霊との遭遇にまつわる一連の出来事を追体験するものだ。


 表向きの儀式は夜に執り行われるんだけど、内部的にはお昼からこの儀式は行われていたんだ。




「さて、お前たちも成人したことだし…そろそろ『収穫祭ハーヴェスト』の真実を話しておこうかね」


 ぼくとミアねえさましか居ない部屋の中。そこでクルード王おとうさまがそう口を開いた。


「『収穫祭ハーヴェスト』の…真実?」

「うむ、カレン。この『収穫祭ハーヴェスト』の起源である…初代ハインツ公王の身に起こった、王家のみに伝わる真実だ」

「へー、なんだか面白そうじゃん!」

「それがな、ミア。実はそんなに面白くも楽しくも無い話なんだよ」


 そう言うと、クルード王おとうさまは…ぼくたちの先祖様のことを話し始めたんだ。





 …お父様の話によると、この『精霊の儀式』にあるような精霊との出会いは無かったのだそうだ。

 真実は、この地にやってきたご先祖様が、現地の女性を妻として娶った…という、ただそれだけのことらしい。

『精霊』だの『豊穣の約束』などは、全部後世の作り話とのことだった。

 …なにげに、衝撃的な事実なんですけど。



「なーんだ、つまんないの!」


 クルード王おとうさまの説明を聴き終えて、ミアねえさまが発した第一声がそれだった。


「まぁそう言うなよ。この伝承にはな、いくつか大事な教訓が隠されているんだ」


 ゴホンと咳払いを一つすると、お父様は説明してくれた。


「まず第一に、昔の人たちはこの地で生きて行くのに大変苦労をしていた、ということだ。

 こんな伝承に心の拠り所を求めるほど、ご先祖たちは痩せた土地での生活に困窮しておったのだよ」

「あぁ…なるほど…」

「うむ、カレン。だからそういった過去の人たちの苦労を忘れてはいかん、というのが第一の教訓なのだ」

「へー、じゃあ第二は?」

「第二はな、そういった実態を理解した上で…わしら王族はあえてその『作り話』に乗っかっている、ということだ。

 わしらは真実を知っている。だけど真実を正しく伝えるだけでは誰も幸せにならんときもある。

 そんなときには…こんな伝説も必要なのだよ。たとえ作り話だったとしてもな。

 そうすることで公国の民が安心できるのであれば、わしらは喜んでウソつきにならないといかんのだ。

 …わかるかな?」


 うーん、なんだか難しい話になってきた。

 姉さまなんかは本当につまらなそうな顔をしてる。


 そんなぼくたちの様子に気付いたお父様が、最後にウインクしながらこう教えてくれた。


「まぁ、そういう小難しいこともあるがな。最後の教訓としては…これを教訓というのかは微妙だが、初代のご先祖様は、現地の女性と結婚して幸せに暮らしたっていうことなんだよ」

「それが…どんな教訓?」

「ようは、王族だろうがなんだろうが、自由に恋愛して結婚すれば良いってことさ」


 そう言うと、クルード王おとうさまは…ぼくのほうを見ながらニヤリと笑ったのだった。








 その日の夜。

 いよいよ『精霊の儀式』が始まった。


『青年』役を演じている王子ねえさまが、マリアージュ通りの中心から行進を始めた。

 片手に松明を持ちながら、真剣な表情でゆっくりと歩みを進める。


 そのあとを…クルード王おとうさまを中心とした一団が続いてゆく。

 ぼくは半透明の布を被って周りの目から隠されながら、クルード王おとうさまに導かて歩いていた。

 『精霊ぼく』の出番はもう少し先だ。今はただついていくだけだ。



 沿道は、王子ねえさまの勇姿を一目でも見ようとするたくさんの人たちで溢れかえっていた。

 …圧倒的に女性が多い気がするのは、やはり王子ねえさま人気からだろうか。


「カレン王子様、本当に綺麗…」

「松明の明かりに銀髪シルバーブロンドが反射して、幻想的…」

「やっぱり、『青年』役はカレン王子しかいないわねぇ」

「あぁ、あんな王子様に迎えに来てもらいたい!」


 …などと、主に女性たちの囁く声が、ぼくの耳にも聞こえてくる。

 本当に姉さまは人気だなぁ。




 マリアージュ通りをゆっくりと行進し続けた一行は、やがて…白鳥公園にある舞台に到着した。今回はここで『精霊の儀式』が行われることになっていた。

 既に公園内は…一万人を越す観客で超満員だ。

 壇上に上がったぼくたちは、事前にリハーサルしたとおり所定の場所に散らばっていった。ぼくもあらかじめ決められていた場所に身を隠す。


 実は『精霊の儀式』といっても、たいしたことはしない。

 単に、ぼくと姉さまが『青年』と『精霊』に扮して、言葉を交わしながら…豊穣を意味する『ぶどうのオブジェ』を手渡すだけだ。実質ものの10分で終わってしまう。


 その程度の内容なので、ふだんはそんなに観客は来ないんだけど、どうやら今年は特別なようだった。






『それではこれから、精霊の儀式を開催する!』


 魔法拡声器マイクを使って、クルード王おとうさまが厳かに…『精霊の儀式』の開催を宣言した。

 ちなみにこの儀式の司会進行は、王様であるお父様の役目だ。


 お父様の開始宣言に合わせて、ぼくたちのご先祖さまである…『青年』に扮したミアねえさまが一歩前に進み出た。

 いよいよ…『精霊の儀式』と呼ばれる演技の始まりだった。







『あぁ…この痩せた土地!ここで私たちはどうやって生きていけば良いのか!』


 へー。姉さまの声ってよく響いて案外良いな。しかも、演技も板に付いていてちょっとだけかっこいい。

 そんな感じで…姉さまにしては真面目に『青年』の演技をこなしてゆく。



 『青年』役の姉さまは色々とセリフを口にしながら…やがてぼくが隠れている場所の前にやってきた。

 ここでいよいよ、ぼくの登場だ。


 姉さまからの合図に合わせて、黒子をしていたベアトリスが…ぼくの全身を覆っていた薄手の布をサッと引き離す。



 そして、『精霊』に扮したぼくが、スッと立ち上がって前に歩み出た。





 次の瞬間、会場がものすごい歓声に包まれた。

 それまでほとんど声を出すことなく見守っていた観衆が、まるで地響きのように凄い声を上げている。


 このときのぼくは、真っ白でヒラヒラの…ノースリーブのワンピースドレスを身につけていた。

 頭には花のティアラを被り、清楚に見える薄手の化粧まで施している。

 はっきり言って、ちょっと恥ずかしい。


 正直ここまでする必要があるのかってくらい手の込んだ『精霊』になってしまったんだけど、サファナたちがものすごい気合を入れてセットしてくれたから、今回は仕方ないかな。



 まだざわめきが収まらない会場を無視して、ぼくさらには一歩前に踏み出した。


『青年よ…』


 ぼくが小さな声でそう口にすると、それまで大歓声を上げていたのがウソのように…一気に会場がシーンと静まり返った。

 ちなみに小さな声でもぼくのセリフはマイクで拡散されているから安心だ。


『あなたがこの地に根付くというのであれば、私はあなたに…このぶどうの豊穣を約束しよう!』


 そして、手に持っていたぶどうのオブジェを丁重に姉さまに手渡す。


「…カレン、あんたその格好似合ってるじゃん」

「…うるさいよ、姉さま」


 オブジェを手渡された姉さまは、そのまま天高く掲げた。


『さぁ!これで来年の豊作は約束された!ハインツの栄光にを!民の未来に幸あれっ!』


 クルード王おとうさまの宣言と同時に、周りで魔法花火が打ち上がる。

 それに合わせて、観衆からの大歓声が上がった。

 …ちなみにこの花火は、プリゲッタの仕事だ。



 最後に、ぼくと姉さまが抱き合って、この儀式は終了だった。


 ぼくたちが抱きしめ合った瞬間、会場がこれまでにないほど盛り上がった。

 会場のあちこちで、「どわー!」「ぐわー!」「きゃー!」といった怒号や悲鳴が巻き起こっている。

 今まで聞いたことの無いくらい、爆発的な歓声だった。



「あーあ、なんであんたなんかとこんなとこで抱きしめあわなきゃなんないんだかねぇ」

「それはこっちのセリフだよ」


 ぼくを抱きしめたまま言う姉さまの暴言に、ついカチンときてしまう。

 …もちろん、顔には笑顔を浮かべたままだ。


「はやくあんたに『青年』役を交代してもらいたいよ。…そしたら今度は、あたしが『精霊』役かな!?」

「…だったら結局今とたいして変わらないじゃん」

「そ、それもそうね…」

「はぁ…姉さまはもうちょっと考えてから発言してよね」

「むむっ!あんたいつの間にそんなに生意気なことを言うようになったの?…足踏んづけるよ?」

「もう…いいから姉さまは黙ってて」


 ぼくたちは笑顔を貼り付けたまま、そうやって悪態を付き合っていたんだ。


 まさか…ぼくたちがそんな会話をしているなんて、観客たちは知る由もないだろうな。

 でも、世の中の現実なんて大体こんなもんだと思う。夢を壊してごめんなさい。





 こうして…三日間に渡る『精霊の儀式』は、無事全ての公式イベントが終了したのだった。









 儀式が終了すると、広場に集まっていた観衆が徐々にバラけていった。

 あるものは街へ繰り出し、またあるものはこの場に残り、これからの時間を過ごす準備をする。

 …そう。これから、『もうひとつの』収穫祭ハーヴェストが始まるのだ。


 それは、公式には一切アナウンスされないイベント。

 若者たちの、恋と愛を育む時間。




 サファナやボロネーゼに聞いたところによると、『もうひとつの収穫祭ハーヴェスト』と言われるこの非公式イベントは、大きく二つの内容に分かれているのだそうだ。


 一つは、出会いを求める若者たちが集う『裏収穫祭』。

 そしてもう一つが、相思相愛のカップルが踊る『精霊のダンス』だった。


 …ちなみに、ボロネーゼ曰く『真・収穫祭』というのもあるらしいんだけど、詳しい内容は聞かなかった。

 …だって、なんか聞くのが怖かったんだもん。



 独り身の若者は、なんとか意中の相手を『精霊のダンス』に誘おうとするし、既にカップルとなっている二人は…やはり『精霊のダンス』を踊って愛を深め合う。

 こうして、ハイデンブルグの街は、三日間で最大の盛り上がりを見せるのだそうだ。





 そしてこのときぼくは…

 エリスと交わしたある約束を果たすために、お城の最上階にあるバルコニー目指してお城の階段を駆け上がっていた。


 バルコニーには、エリスが先に到着してぼくのことを待っているはずだった。

 そう…若者たちが愛を誓い合うために踊る『精霊のダンス』を、この場所で一緒に踊るために。




 階段を一段ずつ登るたび、ぼくの呼吸は少しずつ荒くなっていく。それは…階段登りという運動のせいだけではなかった。


 たぶん、ぼくはすごく幸せな気分だった。

 これまでの人生の中でも、一番嬉々としていたかもしれない。

 …こんな幸せなことがあって良いのだろうか、そう思うくらい楽しかった。


 友達が出来るということは、こんなにも良いものだったのか。

 …確かにこれまでもサファナのような近しい存在は居たけれど、彼女は友達というより年の離れた姉って感じだったし、他の侍女とは心の距離を近付けることができなかった。

 そう言う意味では、ぼくにとってエリスは…初めてできた友達と呼べる存在なのかもしれなかった。



 だけど…そう思うと同時に、ぼくは自分自身のこの気持ちに少しだけ疑問が湧いていた。

 …なんでこんなにも幸せな気分になっているのだろうか、と。


 友達が出来るってことは、嬉しいことだということは頭では理解していた。

 しかし、こんなにも楽しいものなのだろうか。誰もが、こんな気持ちを抱いているのだろうか。


 それとも…この気持ちは……他の違う何かなのだろうか。



 結局その答えが出る前に、ぼくはバルコニーに続く扉の前に到着していた。









 目の前にある扉を、ゆっくりと開ける。

 すると、ぼくの目の前に…一気にハイデンブルグの夜景が広がった。




 その景色の中心には……誰も居ない!?


 …このとき。なぜかぼくは、この先に居るはずのエリスが消えてなくなってしまう幻想を見た。

 ぼくの気持ちが高まっているこの瞬間に、エリスが遠くに行ってしまうような…そんな幻想。


 もしかしたら、幸せすぎて不安なのかもしれない。こんなに楽しいことが長く続くわけが無い、うまくいくはずがないっていう思いから…そんな幻想が浮かんでしまったのかもしれない。

 それくらい、ぼくのこれまでの人生は…望み通りにいかないことばかりだったから。


 だけど、今日は違う。


 そんな幻想が一瞬浮かんだものの、それはやっぱり幻想で…


 そこには、エリスが確かに存在していたんだ。




 エリスは、手すりにもたれるようにして、ハイデンブルグの夜景を見下ろしていた。

 目の前の広場には、たくさんの若者がたむろしているのが見える。

 だけど、若者たちが騒ぐ光景は…ぼくの目にほとんど入ってこなかった。


 なぜなら、ぼくはいま…エリスに釘付けだったから。






 ぼくの到着に気付いたエリスが、勢い良く振り返った。


「あっ…カレン、『精霊』のお役目ご苦労さま!」


 そう言いながらエリスは、いつものようにぼくに笑いかけてくれた。




 今日のエリスは、水色のドレスを着ていた。初めて見る色のドレスだ。

 髪の毛はアップにしていて、とても大人びて見える。

 夜景をバックにした彼女は、今まで見たことが無いような雰囲気を醸し出していた。


「う、うん…ありがとう」

「ここの夜景って、本当に綺麗だね。ミアが気に入ってるのもわかるなぁ」

「へぇー。そ、そうなんだ」


 ぼくは、自分の声が裏返ってしまうのを感じた。

 いけない…何か普通に話しかけないと。


「き、今日のドレスは素敵だね、エリス」

「えっ、そう?…ありがとう。

 このドレスはね、実は…私にとって大切な思い出のあるドレスなんだ」

「へぇー、どんな思い出なの?」

「えーとねぇ…私が生まれ変わった日に身につけてたドレスなの」

「…エリスが、生まれ変わった…日?」

「そう。私が、エリス=カリスマティックになった日」


 そう言うと、エリスはちょっとだけ寂しそうな表情を見せた。

 だけどそれは、ほんのわずかな時間のことで…

 少し頭を振って顔を上げたときには、もう…いつものエリスに戻っていた。



「そんなことより、踊りましょう?」


 そう言ってエリスはスッとぼくの近くに歩いてくると、戸惑うぼくの手を握りしめてくれた。


 ちょうどそのとき、白鳥公園のほうからなにかの音楽が流れてきた。どうやらダンスタイムが始まったようだ。


 その音楽に合わせるようにして、ぼくたちは…ぎこちなくだけど、その場で踊り始めたのだった。





 絡まり合う、ぼくたちの指。

 エリスの指は、細くて少し冷たかった。

  時々その指に力が入る。

 ぎゅっと手を握りしめられると、ぼくはこの上ない幸せな気分を感じた。


 時々、顔がビックリするくらい近くになった。少し荒くなったエリスの呼吸音が聞こえてくる。

 …それは、エリスの吐息がかかるくらいの距離。

 ぼくを見つめるエリスは、輝くような笑顔で…ぼくはまともに目を合わせることが出来なかった。


 クルリと回ったエリスを抱きとめる。

 その腰に手を回す。

 …エリスの腰って、思ったより細いんだな。

 なんだか妙に意識して、ドキドキしてしまう。


 このまま…ぎゅっと抱きしめてしまいたい。

 こんな時間がずっと続けば良いのに…

 ぼくは、踊りながらそんなことを考えていたんだ。



 エリスは、想像していたよりもはるかにダンスが上手だった。

 ぼくは、王家のたしなみとしてマダム=マドーラなんかに指導されてきてたんだけど、そんなぼくに引けを取らないくらい自然と踊っていたんだ。


 どこでこんなダンスを覚えたんだろう…

 一通り踊り終わったタイミングで、そんなぼくの疑問に…エリスは何も言わずとも答えてくれた。


「カレン…私ね。実は…元ブリガディア王国の貴族だったんだ」

「…えっ?」


 突然明かされた、エリスの過去。

 それは…彼女がこれまで頑なに語ることを避けていたことだった。


「そ、そうなんだ…」

「うん。詳しくは話せないんだけど、私の育ての親がブリガディア王国の貴族でね。

 …もっとも、ある事情で家を出なきゃいけなくなっちゃったから、今の私はただの平民なんだけどね」


 そっか…

 それで、これまでぼくがエリスに感じていた数々の違和感が、少し解消された。


 きっと、先日見かけた老夫婦がエリスの育ての両親なのだろう。


「このドレスはね、その…育ての親に買ってもらったものなの。だから、特別な日以外は着ないようにしてたんだ」


 そう言って、懐かしそうに昔を振り返るエリス。だけど、ぼくのほうはそれどころじゃなかった。

 いま何気に…サラッとすごいことを言われた気がする。


 だって、ぼくとのダンスが、エリスにとって特別だって言われたようなものだったから。



 でも、ぼくが相手で本当に良かったのかな?

 そんな不安が湧いてきたころに、エリスが空気を察したかのように…まさにそのことを口にしたんだ。



「でも、カレンと踊れてよかったなぁ」

「そ、その…エリスは、『精霊のダンス』を踊る相手はぼくで良かったのかな?」

「え?うん、もちろんだよ。カレン以外には考えられなかったけどなぁ…カレンは嫌だった?」

「と、とんでもない!!」


 ぼくは、顔中が真っ赤になるのを感じた。

 も、もしかしてこれは…エリスの愛の告白っ!?


「あーよかった。これで私たちは『親友』になれたのかな?」


 半ばパニック状態になっていたぼくに、エリスが衝撃的な一言を発した。


 し、…親友?

 どういう…こと?


「だって、『精霊のダンス』を踊った二人は、永遠の友情が約束されるんでしょう?」

「…えっ?」

「…えっ?」


 ぼくはエリスの言った言葉の意味が分からなくて、思わず変な声を出してしまった。だけどそれはエリスも同じだったようだ。

 ぼくたちは、お互いに顔を見合わせてしまう。



「えーっと、エリス。それは誰に聞いたのかな?」

「それは…ミアだけど。…もしかして私、いま変なこと言ったかな?」

「う、ううん。そう言うわけじゃ無いんだ」


 少し不安そうな表情を浮かべるエリスに慌てて打ち消したものの、ぼくの心中はそれどころではなかった。



 …まただっ!!!

 また、姉さまにやられたっ!!



 そう。エリスがぼくを誘ってきたのは、姉さまからウソの情報を与えられていたからだったのだ!

 たぶん「『精霊のダンス』を一緒に踊ったら親友になれる」とかそんな感じの話を聞かされていたのだろう。


 …どうりでなんだか変だと思ったんだ!



 それにしても、これはひどい!

 いくらなんでも、あんまりだ!


 緊張から解放されたぼくは、全身の力が抜けてしまって…その場に崩れ落ちてしまった。



「ちょっと!カレン?大丈夫?」

「う、うん、大丈夫。…ちょっと疲れが出ただけだから」


 ぼくは頭を抱えながら、なんとかそうエリスに答えたものの…ぼくの心のダメージは、けっこう大きかった。


 くっそー!姉さまめ…

 明日会ったら、許さないぞ!



 まったく、姉さまにしてやられたのは本当に悔しい。

 なにより、独り相撲をしてたみたいで、自分がちょっと恥ずかしい!


 …だけど、エリスとこうして仲直りできたのは、確かに姉さまのおかげだったりするので…


 親友、と言ったときのエリスは、本当に嬉しそうだった。


 だからまぁ、今回だけは許そうかな。

 それに…なによりエリスとは『親友』になることができたからね!




 ぼくは…エリスがそばで心配してくれている様子に満たされた気分になりながら、そんなことを考えていたんだ。





 こうして…色々あった『収穫祭ハーヴェスト』は、すべて無事に終了したのだった。





 …姉さまの、ばかーっ!!



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