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38.美少女コンテスト

 

 そしていよいよ…のちの世に伝説として語り継がれることとなる…今年の『収穫祭ハーヴェスト』がやってきた。

 ハイデンブルグの街の至るところでお祭り騒ぎが起こり、街全体がイベント会場になったような雰囲気となっている。


 初日は、マリアージュ通りにたくさんのぶとうが樽ごと持ち込まれて、広場でみんなで踏み潰すイベントが催された。

 こうして潰されたぶどうは、様々な工程と時間を経て、美味しいハインツ産のワインとなっていくこととなる。


 大量のワインが振舞われ、街中がぶどうの香りに包まれていた。

 酔っ払いたちが既に大量に発生しており、道の至る所で酒宴が開催されている。


 だが、日が傾くにつれて…人々の関心は、夜に開催されるイベントへと向いていった。

 それは…毎年恒例初日に行われる大イベント、『美少女コンテスト』だった。








 その日、エリスはミアに呼び出されていた。


 あれ以来少し沈み気味のエリスに、ミアが気を遣って声を掛けたのだろうか。

 とりあえずミアに指定された部屋へ、トボトボと歩いていく。

 しかし、道中もエリスの頭の中を占めていたのは…カレンのことだった。


 結局、あの日からまともにカレンと話す機会に恵まれなかった。

 どこかのタイミングで、カレンに謝ったうえで『精霊のダンス』に誘いたいと思っていたものの、『収穫祭ハーヴェスト』直前ということもあり、二人とも大変多忙で顔すらろくに合わすことができなかったのだ。


 ずっとモヤモヤと残っていたものの、それを払拭する機会が、二人の間についに訪れることはなかった。





 ミアに指定された部屋に着くと、なんとそこには…既に先客が居た。


「あらあら、エリスちゃんじゃない」

「エリスさんも、カレン王子に呼ばれたんですか?」

「…」


 そこに居たのは、バーニャ、シスル、さらにはベアトリスの侍女三人組だった。

 プリゲッタが居ないのは、たぶん『収穫祭ハーヴェスト』の司会進行役で忙しいからだろう。


「バーニャさんに、シスルさんに、ベアトリスさん!ってことは、皆さんミ…じゃなくてカレン王子に呼ばれたんですか?」


 エリスの問いかけに、コクコクと頷く三人。どうやらエリスだけ呼ばれたわけではないようだ。


 だが、それにしても…この三人と自分を集めて、ミアは何をする気なのか。



「おっ、揃ったね!忙しいところありがとう」


 エリスが部屋に落ち着いてすぐに、奥の扉が開いて…完全に男装したミアがやってきた。

 今日は…どこからどう見ても、立派な王子様よそゆき姿だ。


「ご機嫌麗しゅう、カレン王子。でも…急に呼び出されたりして、私たちに何か用なのですか?」


 一同を代表してバーニャが王子ミアに問いかける。

 するとミアは嬉しそうに微笑みながら、エリスたち四人に一通ずつの…手紙らしきものを手渡していった。


「えーっと…これは…招待状?」

「いいからいいから、ちょっと開けてみて」


 ミアに促されて、それぞれが招待状を開けて中身を確認してみる。

 エリスもご多分に漏れず内容を確認してみた。

 するとそこには、こう書かれていた。



「えーっと、どれどれ…『特別参加エントリー証書』?

 エリス=カリスマティック。あなたをカレンフィールド王子による特別推薦により、今回の…『美少女コンテスト』に、特別に参加する資格を、付与…しますっ!?

 って、ちょっと!?これ…どういうこと?」


 エリスは書いてある内容に驚いて、思わず声を上げてしまう。他の三人も似たような様子だった。

 …どうやら、他の三人の招待状にも同じようなことが書いてあるらしい。


 王子ミアは、最高にイタズラっぽい笑みを浮かべながら、凛々しくエリスたちにこう宣言したのだった。


「今回、私が『美少女コンテスト』の特別審査員になることになったんだ。

 もちろん、普通に審査員をするつもりだけど…それだけではつまらないから、無理を言って君たち四人を特別枠で出場してもらうことにした。

 コンテストは夜だから、それまでに十分準備をしといてくれたまえ!」


「「えええーっ!?」」



 エリスたち四人の…悲鳴に近い声が、部屋の中に響き渡ったのだった。









 ---------------







 あれから、エリスと話す機会が無かったなぁ…


 カレンぼくは部屋で大きなため息をついた。



 エリスとすれ違ってしまってから、ぼくはずっと頭の中が混乱していた。

 どうすれば良いか、ぜんぜん分からなかったんだ。


 ただ一つだけはっきりしていることは…ぼくの行動が、どうやらエリスを傷付けてしまったらしい、ということだ。



 誰かに相談しようにも、そんな相手が居るわけではなく…『収穫祭ハーヴェスト』の準備が忙しかったこともあり、ぼくは何も手が打てずにいた。



 そんなぼくは、もんもんとしながら『収穫祭ハーヴェスト』初日を一人で過ごしていたんだ。



 ミアねえさまやエリスはなんだか忙しそうだ。

 ついでに言うと、侍女たちも…特にバーニャなんかが「大変!大変よー!」と絶叫しながら、忙しそうに走り回っていた。


 一体何が忙しいんだろう…

 だけど、その理由が分かるわけでもなく、ぼくは一人でリビングルームで過ごしていたんだ。






 日も沈んでしまってしばらくした頃。外からプリゲッタらしき魔法拡声器マイクの声が聞こえてきた。


 …どうやら、『美少女コンテスト』が始まったようだ。

 ときどき観衆の大歓声が聞こえてくる。


 だけど、今のぼくは…そんなものにまったく興味が無かった。

 今はそれよりも…エリスにどう対応するかの方が気が気でなかったんだ。




 …そのとき。

 カタリと音がして、リビングルームの入り口の扉の下に、一通の手紙が投げ込まれた。


 誰だろう…侍女だったら絶対ノックして来るんだけどなぁ。


 ぼくは気になって、投げ込まれた手紙を確認してみた。

 …宛先に、ぼくの名前が書いてある。


 も、もしかして、エリスからの手紙かな!?


 大慌てでその手紙を開封してみると…

 そこには、一枚目には大きな文字で『残念!お姉さまからの手紙でした!』…と書かれていた。


 …ぼくは、無言でその手紙を叩きつけた。




 一瞬頭に血が上ってそんな行動を取ったものの、姉さまの手紙の内容が気になったので、拾い上げて読んでみることにした。




 どれどれ…

 最愛なる弟へ。おえっ!


 えーっと、今日の夜、必ず『美少女コンテスト』を見に来ること。

 理由は…同封のチラシを見れば分かる…って、これかな?



 ぼくは手紙に同封されていたチラシを拡げてみた。

 それは、どうやら今日の夜開催予定の『美少女コンテスト』の参加名簿のようだ。


 その中の…一番最後に『カレン王子推薦枠』という記載があった。

 ギョッとして、その人物の名前を確認すると…


「バーニャに…シスルに…ベアトリスに…エリスだってぇ!?」


 ぼくは…驚きのあまり一人で絶叫してしまったんだ。








 --------------------









『さぁー!これでエントリーナンバー24まで終わりました!

 全員素敵な女性ばかりでしたね?

 …え?私が一番カワイイって?

 ありがとうー!でも私プリゲッタには参加資格がないので審査されませーん!

 許してくださいねっ!

 …えーっと、冗談はそれくらいにして…

 観衆のみなさん!お待たせました!

 次からは…なんとなんと!カレン王子の特別推薦による、ハインツ城で働く侍女たちの出番となります!

 …そうです、私プリゲッタの同僚たちの登場なのです!』



 プリゲッタの軽快な司会に、一気にどっと湧く会場。

 ミアあたしは特別審査員の席で、ニヤニヤしながらこの状況を眺めていた。



 さぁ、いよいようちの侍女たちの出番だ!

 これまで何人もの美少女たちが出てきたんだけど、正直あたしにはどれもパッと来なかった。

 どれもこれも…型通りでつまらない女の子ばっかりだったんだ。


 さてさて、そんな中で我が侍女たちはどこまで善戦するかな。楽しみ!


 あー、あとバーニャに…なんか良い出会いとかが、これで出来ないかな?




『それでは…紹介します。

 トップバッターは、我ら四人の侍女のリーダー格!棒術の達人であり、綺麗好き掃除好きの…【打棒女傑】バーニャ嬢でーっす!』


 プリゲッタの紹介に合わせて、メイド服を着たバーニャがちょっとオドオドしながら登場した。

 前の方に陣取っている衛兵たちからヒューヒューと声が上がる。

 さらには「バーニャさま、がんばってー!」という黄色い声援まで聞こえてきた。あれは…城の下働きの女の子たちかな?バーニャは女の子には人気あるんだよなぁ…


 バーニャはそれで気を取り直したのか…手に持っていた棒をシュッシュと振り回し始めた。

 うわ…凄い棒術のテクニック。

 でもさ…それを『美少女コンテスト』の会場でやるかなぁ?



 一通りの演武が終わると、大歓声が上がった…主に一部の衛兵たちからは笑い声まで聞こえてくる。失礼な奴らだな!


 その歓声に、ぎこちない笑顔で応えるバーニャ。


 そんなバーニャに、最後のコメントを求めてプリゲッタが魔法集音器マイク片手に近寄っていった。



『バーニャさん、お疲れ様でした!いつ見ても素晴らしい棒術ですね!』

『は、はい…ありがとうございます』

『あちらの方に、あなたの熱烈なファンがいらっしゃるようですが…最後に何か一言!』

『あ、いつでも私はウエルカムなんで、よろしくお願いします!』


 あちゃー、バーニャってば舞い上がっちゃってわけわかんないこと言ってるよ。

 でも、観客は大爆笑だった。


 …まいっか、とりあえずこれでバーニャも目立てたしね。





『続きまして…ファーレンハイト蹴術の達人である、ベアトリスさんでーっす!』


 おっ、ベアトリスの登場だ!

 …しっかし、仏頂面だなぁ。

 せっかく綺麗な顔立ちしてるのに、なんであたし以外にはああなんかねぇ。



 ベアトリスは、とりあえず…といった感じで、メイド服を着たまま蹴り技を連発する。

 うわっ!スカートの中見えそうだよ!

 その度に、観客がドッと湧いていた。

 …あいつ、わざとやってんのか?



 淡々と演武が終わらせたベアトリスに、再びプリゲッタがマイクを持って駆け寄っていく。


『ベアトリスさん、お疲れ様でした!いやー、素晴らしい蹴術でしたね?』

『…ありがとう』

『ちょっとスカートの中が見えそうになっていましたが…大丈夫でしたか?』

『…私の蹴りは、そんなスキは作らないわ』


 その一言に、おおおーっ!と湧く会場。

 …湧く理由がわからん。



『はい、ベアトリスさんありがとうございましたー!それでは次の特別推薦枠は…期待の新人ルーキー魔道具使いマギクラフトのシスルちゃんでーっす!』


 プリゲッタの案内のあと、ツインテールにしたシスルがぴょこんと飛び出してきた。

 …んー、シスルはちっこくて可愛らしいなぁ。まーた衛兵あたりが大喜びしてるし。



 シスルは、手に持っていたカバンから何か機械を出すとそのまま地面に置いた。

 次の瞬間、そこからプシャーっと水蒸気スモークが吹き出す!


 …そして、そのスモークが収まると、そこには…可愛らしいピンクのドレスに着替えたシスルが立っていたのだ!


 うおおっ!凄い!


 あたしと同じように、会場も一気に盛り上がった。




 シスルがぺこりとお辞儀をすると、マイクを持ったプリゲッタが近寄っていった。


『いやー、シスルちゃん!凄かったねぇ!』

『ありがとうございます!これ…私の特製オリジナルの魔道具なんです』

『おー!さすが魔道具使いマギクラフトね!素敵な演出でしたよ!それじゃあ、最後に一言!』

『はいっ!あの…私、まだまだ新人侍女なんですが、皆さんに好かれるようにがんばるので、応援おねがいします!』


 わぁぁあぁぁぁ!

 面白おかしく歓声を上げる観客。


 しかし、何が応援よろしくなんだか。

 んまぁ…よく分かんないけど、これで少しはシスルも知名度上がったかな?






『さぁ…そして、最後の登場は…

 我らがハインツの双子の家庭教師である…魔法使いエリスさんでーっす!』


 さて、最後に真打ち登場だ!

 楽しみ楽しみ!


 プリゲッタの言葉に合わせて、他の三人と同じメイド服を着たエリスが壇上に登場した。


 おっ、どうやらエリスはあんまり目立たないように、あの服装にすることにしたんだな。







 …と、そのとき。



 あたしは舞台袖で、コソコソと会場を見ている人物が居ることに気付いた。


 その人物に気付いて、あたしは思わずニヤッとしてしまう。気分は、罠にかかった獲物を見つけたときの猟師だ。


 ふふふ、やっと来たか…遅いよまったく。


 あたしは特別審査員席から立ち上がると、その人物の方に歩いていった。

そして、そいつの腕をガッシリと掴んでやる。


さぁ、逃がさないよー!








 その間も、エリスのコンテストは続いていた。

 どうやらエリスは簡単な魔法を見せることにしたようだった。


 手に持った火打石ライターを片手に、簡単な魔法式を宙に描く。

 すると、炎がボワッと拡がって、それが虎の形となった。

 観客が歓喜の声を上げる。その歓声に、エリスは手を振って応えていた。




『はい、エリスさんお疲れさました!素敵な魔法でしたね?』

『はい…ありがとうございます』


 エリスが頭を下げると、衛兵あたりがこれまでに無い歓声を上げた。

 …うわぁ、こりゃ思ったより凄い人気だなぁ。

 エリスってそれなりに知名度あったんだ?


『…エリスさんは、衛兵に人気があるみたいですね?』

『いえいえ、プリゲッタさんほどでは無いですよ』

『えーっ、そうかなー?』


 プリゲッタのとぼけた声に、会場には笑い声とともに今日一番の歓声が上がる。


 と、そのとき。

 プリゲッタの視線があたしの方に向いた。

 …正確には、あたしが捕まえている人物に…




『あっ…あっ…な、なんということでしょう!

 ここで…驚愕のゲストが登場しています!』



 プリゲッタが驚きのあまり声を震わせている。


 よし、ここがチャンスだ!


 あたしはこいつ・・・の背中をドンっと押した。




 その衝撃で、こいつがフラフラと会場に足を踏み出す…






 その姿に、一番驚いていたのはエリスだった。

 慌ててこちらに駆け寄ってくる。



 さらには、フラフラ出てきた人物の正体に気付いた前の方の観客が、悲鳴に近い声を上げた。


 その驚愕は、徐々に会場中を伝播していく。





 慌てて走ったエリスが、あいつの両手を心配そうに掴んでいた。

 あいつは…戸惑うような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべている。



 よし、これで一つはうまくいったかな?


 あたしは自分の策が一つ見事に的中したことに、満足感を覚えていた。





 これで、あいつら仲直りすると良いなぁ。





『なんとなんと…!!

 我らがハインツの月姫、ミア姫が、この会場に来ています!!!』




 うおおおおおおおお!!!



 会場を揺るがすような大歓声が、一気に広場を突き抜けていった。





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