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ぼくは『お姫様(プリンセス)』じゃないっ!  作者: ばーど
第一章 太陽王子と月姫
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4.ぼくが『お姫様(プリンセス)』になった訳

 ぼくたち双子が目を覚ましたのは、翌日になってからのことだった。



 ぼくと姉さまは、同じ部屋に寝かされ、ほぼ同時に目が覚めた。


「…生きてる?」


 姉さまの第一声がそれだった。


「うん…なんとか。

 って、いくら破天荒なお母様でもそのまま放置はしないでしょ?」

「そうだと良いんだけどね…いよっと!」


 掛け声とともに、姉さまがベットから飛び跳ね立ち上がる。

 こうやって見てると、本当に男にしか見えない。

 実際、胸もあるのかないのかわからないくらいだし。

 …ゲホンゴホン。


「んー、身体に異常は感じられないなぁ」

「本当に?」


 その言葉に安心して、ぼくもゆっくりとベットから立ち上がった。

 屈伸してみたり、手をグーパーしてみたりする。

 んー、なんともなさそうだ。



「あの『禁呪』は…一体なんだったんだろうね?」

「さぁ…」

「フハハハハハハ!

 かわいい双子たちよ、説明してあげよう!!」


 そのとき、バターンと大きな音をたてて扉が開かれ、ヴァーミリアンおかあさまが登場した。

 いきなり扉が開け放たれたので、ついビクッとしてしまう。

 …きっとこの人は、入るタイミングを探っていたんだろうなぁ。


 突然の出現に驚いているぼくたちの様子に満足げに頷くと、ゆっくりとお母様は室内に入ってきた。

 遅れて、憔悴しきった表情を浮かべたクルード王おとうさまと、マダム=マドーラが入室してくる。

 ふたりは、本当に申し訳なさそうな顔で、ぼくを…ぼくだけを・・・・・見つめていた。


 なんでぼくだけを見ているの?

 …この時点で、ぼくは最高にイヤな予感がしていたんだ。





「…で、なにがどうなってるの?」


 気を取り直した姉さまが、お母様に詰め寄る。

 お母様は、ふふんっと鼻で笑うと…とんでもないことを説明し始めた。


「まず…禁呪『制約の鎖コンストレイン』」は発動したわ。

 あなたたちにはバッチリ魔法はかかってる。

 ただ、ちょっぴり失敗したんだけどね」

「ちょっぴりって?どんな風に?」


 姉さまを押し退けて、ぼくがお母様に質問をする。

 もう、イヤな予感しかしない。



「…逆にかけちゃったのよ、魔法を」

『えっ!?』


「だーかーら、逆にかかっちゃったの!

 ま・ほ・う・が!

 わかりやすく言うと、ミアに男らしくしなきゃならない呪いが、カレンには女の子らしくしなきゃならない呪いがかかっちゃったのよー!」

「えっ……」


 いまこの人は、なんと言ったのか。

 ぼくが…女の子らしくならなきゃいけない呪いをかけた!?

 …ってことは、もしや。


 …ぼくは。



 この魔法がかかっている限り…




 『女の子』のふりをして行きて行かなければならない、ってこと!?







「えええええええええっっ!?」


 ぼくは、驚愕のあまり大声を上げてしまった。

 だけど、驚きの声を上げたのは、ぼくだけだったようだ。

 姉さまは平然とした顔をしていた。

 たぶん「なーんだ、それだったら問題ないや」って思ってたんだと思う。

 そりゃそうだ、姉さまにはなんの影響もないようなものだから。

 だけど、ぼくにとっては…とてもではないが受け入れられないことだった。


 あまりのショックにガタガタと震えるぼくに代わって、姉さまが質問を続けた。


「で、もしその…あたしが女の子らしくしたら、どうなるの?」

「全身に苦痛が走る…予定だった・・・・・

「えっ?」


 驚愕に自分を失っていたぼくは、その言葉に自分を取り戻した。


 まだ…なにかあるのか!?


 とてつもなくイヤな予感がしたぼくは、後ろにいるクルード王おとうさまとマダム=マドーラを見た。

 …サッとぼくから目を逸らす二人。


「予定だったってことは…実際はどうなるの?」

「えっとね、すこーしだけ魔法に『おまけ』を加えたのよ」


 おまけ?

 …おまけとは、一体なんだ?


「『おまけ』がなにか知りたいって顔してるわね?

 よーし、じゃあ教えてあげよう!

 まずミアのほうね。

 ミアはね…女らしくしようとすると…燃えるわ」

「…はい?」


 意味がわからないといった表情を浮かべるぼくたちに、ヴァーミリアンおかあさまは姉さまを指差しながら説明してくれた。



「わかりやすく言うとね…。

 ミアが女の子っぽくなろうとすると、心の底から燃えるような熱い闘志が湧き上がってくるのよ。

 だから、男っぽいかっこうや仕草をしないと我慢できなくなるわ」




 その説明に、ぼくは絶句してしまった。 



 な、なんだそりゃ!!

 そんな奇妙奇天烈な魔法、聞いたことがない。

 …もはやこれは魔法ではなく呪い以外の何ものでもない。


 だけど姉さまは、「おっしゃー!」と歓喜しながらガッツポーズをしている。


 そりゃ姉さま(あなた)はうれしいでしょうよ、女っぽくするの嫌がってたからねっ!

 実質いままでと大して変わらないだろうし、むしろ男っぽくすることを合法的に許可されたようなものだし。


 だけど…それであるならば。

 ぼくにはいったいどんな「呪い」がかかっているというのだろうか。

 恐る恐る…ぼくは聞いてみることにした。


「じゃ…じゃあ、ぼくには?」

「カレン。あなたはね…。男らしくしようとすると…『失神』するわ」

「…えっ?」


 いま、この人はなんと言ったか?

 失神…する?



「えーっと、わかりやすく言うとね…。

 男らしくとか、男っぽい格好とか仕草をしようとすると…

 そりゃもう『可憐に、可愛らしく、男の子が守ってあげたいと思うような感じ』で、失神するのよ」





 …………はぁ?







 ぼくは、ヴァーミリアンおかあさまが言ったことを、もう一度頭の中で理解しようとした。

 言葉の意味をひとつひとつ咀嚼し、かみ締めるように脳の隅々にまで行き渡らせる。


 …そうして、導き出された結論。

 それは…


 ぼくに代わり、姉さまが正確に答えてくれた。


「ねぇねぇ、お母様。

 それじゃあ、(こいつ)が男らしくしようとすると、気絶しちゃうってことだよね?

 そうするとさ、こいつ…ずっと女装してないと失神しちゃうってこと?」

「そうそう!それ!そういうことなのよ!

 そっちのほうがわかりやすかったわね!」




「ちょ、っっっと待てええええええぇぇぇっぇぇぇぇぇぇっぇえっぇぇ!!」


 ぼくは、そのふざけた内容に、頭の中がすべて吹き飛びそうになった。

 体中の血液が沸騰しそうになりながら、ヴァーミリアンおかあさまにつかみかかろうとする。


 だが、その瞬間…

 おそるべき『禁呪』が発動した。

 ぼくの意識がふっと遠くなる。



 そしてぼくは…

 本当に可憐に…

 まるで、か弱い貴婦人が、なにかに驚いたときのように…

 綺麗な花びらが、風に舞い落ちるかのように…

 その場に、崩れ落ちたのだった。


 その…あまりの可憐さに、その場に居た全員が「あぁ、この人を大切に守ってあげなきゃ」と強く思った…らしい。

 正直ぼくには、どうでもいいことだった。






 こうしてぼくは、「女装しなければ意識を失ってしまう」という、とんでもない『呪い』をその身に宿すことになったのだった。







 その後、ぼくは…何度も何度も『男の子っぽい服装』や、『男らしい仕草』を試みた。

 だけど…その度に『禁呪』が発動して、ぼくは可憐に意識を失った。


 何度も何度もチャレンジして…

 意識ある限り、色々な態度や服装をしてみて…

 そして、この『禁呪』が、どうにも抗えないものであると、ぼくはようやく理解したんだ。








 ----------







「どうするざますか?このままですと、来週の『成人記念祭』にカレン王子は出れないざますわよ?」


 マダム=マドーラの困ったような言葉に、この場に居る一同はため息をついた。

 そう、ハインツ公国の国民全部が楽しみにしている、双子の『成人記念祭』は、もう来週に迫っていたのだ。


 この時点で『成人記念祭』は、近年あるどんな祭りより盛り上がる気配を見せていた。

『ハインツ公国の双子』といえば、もはや近隣で知らないものは居ないほどの有名人となっていた。

 世界的に見ても、知名度においては世界一の大国ブリガディア王国のレドリック皇子に引けをとらないだろう。


 そんな双子の『成人記念祭』


 すでに会場の準備は進められている。

 首都ハイデンブルグの宿屋は全室満員であるらしい。

 …それだけ、国民の注目度が高いといえた。

 いまさら「ミア姫だけ欠席」など、とてもではないが許されないだろう。


「うーむ、困った…。といっても、カレンが女装して出てくれるとは思えないからなぁ…」


 クルード王が憔悴しきった顔で、そうつぶやく。

 最近ストレスからか、かなり頭髪が薄くなったように見える。

 …元がかなりの色男だっただけに、かなり哀愁が漂っていた。


 実はあれからクルード王は、なんとか魔法が解けないかと、国内にいる魔法使いを呼びよせたりしたのだ。

 しかし、その結果は芳しくなかった。

 全ての魔法使いが、ヴァーミリアンの施した『禁呪』を解くことはおろか、どんな種類の魔法がかけられているのかさえ読み解けなかったのだ。

 …もっとも、ハインツ公国で最強の魔法使い…どころか、世界でも最高と呼ばれる『七大守護天使』と称されるヴァーミリアン王妃がギブアップしたほどのものなので、この結果は致し方ないだほう。

 クルード王も正直期待はしていなかったが、状況は予想以上に酷いものだった。

「…こんなにこんがらがった魔法の術式は初めて見ました…。

 まるで、何本もの糸が複雑に絡まった上に、ロウでガチガチに固めて、さらにそれを何重にも巻いたような感じです。

 しかも、その糸の一本一本が鋼鉄よりも強度を持っている…。

 さすがはヴァーミリアン王妃がかけられた魔法ですね」

 呼び寄せた魔法使いのうちの一人にこう言われ、さすがのクルード王も頭を抱えたものだった。

 その結果、双子にかけられた魔法を解除する方法については、ほとんど諦めていた。



「あれからカレン王子は何度も、その…男装を試みたようです。

 でも、何度やっても…それはまぁ可憐に失神なさってましたよ」


 スパングル大臣の言葉に、同意の頷きを返すクルード王。


「…そのようだな。

 そして、しまいには心が折れてしまったらしい。

 今では部屋に鍵をかけて出てきやしない」


 はぁぁ、と深いため息をつく一同。

 重苦しい沈黙が、その場を支配する。


 だが、そんな空気を吹き飛ばした人物がいた。

 それは…カレン王子の双子の姉、ミア姫だった。



「…わかった。あたしにまかせて!」


 落ち込んだ場の空気を一掃するかのように、ミア姫が立ち上がってそう宣言した。

 …そんな彼女を胡散臭そうな目で見るクルード王、マダム=マドーラ、スパングル大臣。


「ちょっと、そんな疑い深い目で見ないでよ!まかせてってば!」


 ミア姫はそう宣言すると、華麗に身を翻して部屋を飛び出していった。







「おーい、カレーン。弟よーい。ねえさんが来たぞー。空けておくれよー」


 どんどんと(カレン)の部屋の扉を叩くミア。

 だが、まったく中から返事がない。


「ったく、いつまでもうじうじと…。仕方ないなぁ」


 ミアはそう独り言をつぶやくと、こっそり作っていた合鍵を使って弟の部屋の扉を開けた。







 ---------





 がちゃり。


 扉が開く音が聞こえて、布団の中で丸くなっていたぼくはハッとなって飛び起きた。

 そこには…なぜか部屋に入ってきた姉さまが居た。


「姉さま…どうやってこの部屋に」

「そりゃ、あんたと双子だからね。あんたのことはなんでもお見通しよ」


 答えになってないことを言ってごまかすミア(ねえさま)

 あぁ、こりゃ合鍵作られたな…

 ぼくはため息をつくと、それ以上の追求は諦めて、姉さまと向き合うことにした。

 …侵入を許した時点で、ぼくに逃れるすべはなかったのだから。


「あんた、痩せたね…。なんか、幻想的な美しさになってるわよ」

「ほっといてよ。こんな姿を人に見られるくらいだったら、ずっとここに引きこもってたほうがましだよ」


 ぼくはなるべく全身をふとんのなかに入れて隠すようにしていた。

 スカートをはいている姿など、たとえ双子の姉であっても見られたくなかったから。

 そんなぼくを哀れむような目で見つめると、姉さまは重い口を開いた。


「あんたの気持ちはわかるよ…。

 あたしだってスカートはくのイヤだもん」


 いやいや!!姉さまは女でしょ!!

 心の中でそんな突込みをする。


「…だけどさ、『成人記念祭』はどうするの?」

「どうするって…どうしようもないよ。

 ぼくは男の格好をしようとするだけで、意識を失っちゃうんだ。

 参加できるわけがないよ…」

「だったらさ、良いアイディアがあるんだけど」


 姉さまが満面の笑みを浮かべてぼくに説明しようとする。

 …言わんとしていることは、想像がつくけどね。


「あたしがあんたのふりして、あんたはあたしのふりをすればいいのよ!

 どう?これで解決じゃない?」

「ぜっっっったい、いやだ!!!」


 どうせそんなことだろうと思った。

 ぼくが女装して人前に出るなんて…ぜったいに無理だ。

 ぼくは姉さまに背を向けて、しっしっと追い払った。


「用がそれだったら、もう出て行って。ぜったいいやだから」

「カレンのばかっ!!!」


 ぱしーーん。


 いきなり頬を平手で叩かれて、ぼくは呆然としてしまった。

 ぼくを殴った姉さまは、目に涙を浮かべたままぼくを睨み付けている。


「…えっ?」

「あんたはそれでいいかもしれない!

 だけど…お父様やお母様はどうなるの?

 自分の子供を国民に紹介できない国王なんて、その存在価値すら疑われるわっ!」

「いや…そんなの自業自得だと思うけど…」


 そもそも、クルード王(おとうさま)が変なことを考えなければ、こんなことにはならなかったのだ。

 それで悩んでいるのなら、ぼくは自業自得だと思う。

 そんなぼくの様子を見て、この切り口では攻めきれないと察した姉さまは、作戦を切り変えてきた。


「だったら…国民はどうなるのよ?

 きっとみんな楽しみにしている。

 あんたは、そんな国民の期待を裏切るの?」

「ぐっ…」


 痛いところを突かれた。

 ぼくは姉さまの言葉に対しての反論に詰まってしまう。

 そんな隙を見逃さず、姉さまは一気に畳み掛けてきた。


「だいたい、あんたはこの国の次期国王なのよ?

 それが、国民の期待を裏切るようなことをしていいわけ?」

「ぐぬぬぬ…」


 反撃ができずに歯軋りするぼくに、姉さまはトドメとばかりに決定的な言葉を言ってきた。


「だいたいさ、この1回をガマンすればいいだけじゃない!!

 そもそも、18歳になったらこの魔法は解けるんだからさ。

 それとも…それすらも耐えることができずに、あんたは国民の皆様をがっかりさせるわけ?」

「あーもう、わかったよ!!わかったよ!!

 姉さまのいうとおりでいいよ、出ればいいんでしょ?」


 ぼくのその言葉に、姉さまは満面の笑みを浮かべた。

 ぼくにはその笑顔が…邪神の笑みのように感じた。


「おぉ、わかってくれたか!

 さすが弟よ!

 そしたら、あとの段取りはあたしにまかせといて!

 うまいことやっとくからさ!」


 姉さまはうれしそうにそれだけを伝えると、飛び跳ねるようにそのまま部屋から飛び出していった。


 姉さまが出て行った後の扉を見つめながら、ぼくはため息とともに独り言をつぶやいた。


「…姉さまにしてやられたかな。

 でもまぁ、1回だけなら仕方ないか。

 どうせ『成人記念祭』っていっても、2~300人くらいだろうしなぁ。

 それくらいなら、我慢すればいっか…」





 だけど、ぼくはこの考えが甘かったことを思い知ることになる。





 この時点で、ぼくは知らなかった。


 このイベントの総指揮を、姉さまが取っていたこと。

 衣装関係は、例の有名有名ファッションデザイナーのサファナがすべて用意していたこと。

 そして…



 例の「写真集」によって、ぼくたち双子の知名度が猛烈に上がっていたことを。







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