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28.海風の通り抜ける場所 〜エリスサイト〜

 



「いやー食べ過ぎたわー!すぐには動けそうもないわ…エリスも休憩?」


 昼食のあと、お腹いっぱいで身動きの取れなかったエリスわたし。ビーチパラソルの下でぼーっとしながら海の様子を眺めていると…水着の上にパーカーを羽織ったサファナさんが、そう言いながら近付いてきた。


 ビキニにサングラスという格好が、なんだかサマになっている。さすがは大人の女性だ。


「はい。なんだかお腹いっぱいで…あと少し疲れちゃいました。初めての海水浴で緊張しちゃったんですかね?」

「ふふっ、なるほどね。おっ、ありがと」


 私が手渡した冷たいお茶をぐいっと飲み干すと、サファナさんは私の横にどっかりと腰を下ろした。

 そのまま、ふたり揃って海の方を眺める。



「…いやー。美少女が水辺で戯れる姿を見るのって、いいよねぇ。眼福だわぁ」


 海辺で遊んでいる双子カレンたちを見て、不意にそんなことを口にするサファナさん。

 …えーっと、それはどっちを見て言ってるんでしょうか?


「もちろん、カレン王子のことよ。こうやって見てると女の私ですら垂涎ものの美少女だもんねぇ。あれで男だっていうんだから反則よ」

「あはは…本人が聞いたら嘆きますよ?」

「…そうね、エリスはカレン王子の味方だからね。あなたの前では変なこと言わないでおこうっと」


 私は、カレンの味方…という認識をされているのだろうか?

 まぁ、気にはかけているからあながち間違いではないんだけど…ちょっと違う気もする。


「ミア姫はさ…せっかくカレンと同じ顔してるのに、なーんか色気が無いのよねぇ。世の中うまくいかないわよねぇ」

「あは、あはは…」


 返答に困った私は、苦笑いすることしか出来なかった。



「ところでエリス、あなたに相談があるんだけど」

「え?なんでしょうか?」

「…あなた、本格的にモデルやってみる気ない?」


 ええええっ!?

 私が…モデル!?


 私はびっくりして思わず間抜けな顔をしてしまった。

 …それにしても、どうしてまた急にそんな話が出てきたのだろう。そんな私の疑問を感じたのか、サファナさんがその理由を説明してくれた。


「いやー、せっかく『アフロディアーナ プラス』を立ち上げたのは良かったんだけどさ。イメージモデルだったカレン王子が…ご存知の通り嫌がってるから、新しい宣伝写真が撮れないのよ」


 ははぁ…ということは、とりあえず私を誘っておいて、もし私がOKしたら、それをダシにカレンを誘おうって魂胆かな?


 まぁそんなことだろうと思ったけどさっ。

 でも、それだったらミアに頼めば良いのに…


「それがさ、カレン王子に先手を打たれちゃって。『もし姉さまにアフロディアーナ役をさせたら、ぼくはもう二度と協力しないからねっ!』って、釘を刺されちゃってるのよねー」


 さすがカレンだ。もう手を打っていたらしい。思わず私は微笑んでしまった。

 私としても『アフロディアーナ』をやっているときのカレンは嫌いではないから、また復活して欲しいんだけどなぁ…


 だけど、それと私がモデルをやる話は別だ。

 それで話を受けるほど、私は自分に自信がなかったし…なにより私なんかではカレンの代わりは務まらないだろうから。


「お誘いありがとうございます。でも…やっぱり私には荷が重いです」

「そんなことないと思うけどなぁ…まぁいっか。気が変わったら教えてね!」


 そう言い残して、サファナさんはそのまま横になって目を閉じてしまった。すぐにスースーと寝息も聞こえてくる。

 よっぽど疲れてたのかな?もうすぐ23歳だってこの前嘆いてたし…って、それは関係ないか。


 せっかくの睡眠を邪魔しちゃ悪いかなって思った私は、そのまま立ち上がると、ビーチパラソルの下を後にすることにしたのだった。







 途中で海辺の方に目を向けると、ヴァーミリアン王妃がなにやら魔法を使って海の水を大量に振りまいていた。

 その濁流に巻き込まれて、吹き飛ばされてる双子カレンたち…


 あれ、大丈夫なのかな?


 私は少しだけ心配になったものの…巻き込まれると泳げない私は溺れてしまいそうだったので、心の中で謝りながら逃げるようにその場を後にしたのだった。

 …ごめんね、ふたりとも。









 波打ち際を少し歩くと、ごつごつした岩場に到着した。

 するとそこでは…麦わら帽子をかぶったクルード王が、釣糸を海に垂らしていた。


 うーん、どっからどう見ても普通のカッコイイおじさんだ。



「クルード王、こんなところで釣りですか?」

「おお、エリス殿か。そのとおりだよ。晩飯のおかずでも釣れれば良いなぁと思ってな!」

「へぇー。それで、何か釣れたんですか?」


 その問いかけには明確には答えてくれず、クルード王は最高に渋い笑みを返してくれただけだった。

 …これは釣れてなさそうだな。



 私が来たことで気分転換でもしようと思ったのか、はたまた釣ることを諦めてしまったのか…クルード王は釣竿をその場に置くと、岩場を飛び跳ねながらこちらの方に近付いてきた。


「ところでエリス殿。ハインツはどうかね?」

「はい、素晴らしい国だと思います。皆さん優しいですし…」

「そうかそうか。それじゃあ…うちの双子はどうだね?」

「私は…二人とも素敵な心の持ち主だと思います。どこの馬の骨とも知れない私なんかのことを、『友達』って言ってくれましたし…

 私、なにより双子ふたりに出会えたことに感謝してるんです」


 私は…言いたいことの半分も伝えられただろうか。

 本当は、こんな言葉では伝えられないくらい、色々な想いがあるのに。


「そうかそうか、それは良かった。実は…無理やりエリス殿をうちに連れて来てしまったかと気に病んでたんだよ」

「ええっ!?そんなことはありませんよ!

 ここへ来たのは私の意思ですし…なによりここに来て良かったなって、いっつも思ってます。

 だから私、クルード王に呼んでいただいたことにはすごく感謝してるんですよ?」


 それは、嘘偽りない私の気持ちだった。

 その言葉に、クルード王は…本当に嬉しそうな笑みを浮かべたんだ。


「そうか…ありがとな、エリス殿。こらからもふたりのことを、よろしくな」



 それだけを言うと、クルード王は置いていた竿の方に戻っていった。

 …お魚、釣れると良いな。









 岩場を後にした私は、今度は別荘のほうに足を向ける。

 すると…道の途中で何かをおんぶして歩いているベアトリスさんを見つけた。


 何をおんぶしてるんだろう。

 そう思ってよく見てみたら…抱えていたのはなんと、意識を失っているミアだった!


「わわっ!だ、大丈夫ですか?」

「…ヴァーミリアン様にやられて気絶しただけなので、大丈夫です。ミア様は私が介抱しますので」

「あらら…なにか手伝いましょうか?」

「…結構です」


 うーん、ベアトリスさんってなんか取っ付きにくいんだよなぁ。

 私は仲良くしたいと思ってるんだけど…


 それにしてもミアは、さっきのでヴァーミリアン王妃に失神させられてしまったらしい。逃げてごめんね。


「あ、じゃあもしかしてカレンも?」

「カレン様はヴァーミリアン様が介抱してるわ。気になるなら早く行くといい」

「あ、ありがとうございます。

 あ、えーっと…」


 だけどベアトリスさんは、私の言葉を待つことなく、そのままスタスタと別荘の中に入ってしまった。


 うーん、一筋縄ではいかないなぁ。

 …それにしても、女の子とはいえミアを軽々と抱きかかえるなんて、凄いパワーの持ち主なんだなぁ。









 ベアトリスさんと別れたあとは、気になったのでカレンたちが居るはずの海辺のほうに向かってみた。

 すると、砂浜では…気絶したカレンと介抱するヴァーミリアン王妃の姿があった。

 介抱する…といっても、足でお腹を踏んづけてるだけなんだけど。


「ヴァーミリアン様、その…それは大丈夫なんですか?」

「あら、エリちゃんじゃない。なんか前にお腹踏んづけたら水を吐くって聞いたことがあったんだけど…吐かないわね」

「あの、お言葉ですがヴァーミリアン様。カレンはただ目を回して気絶しているだけに見えますが…」

「あらそぉ?じゃあ意味ないわね」


 そう言いながら、カレンを蹴っ飛ばすヴァーミリアン様。

 だ、大丈夫かな、カレン。



 それからヴァーミリアン王妃は…とりあえず意識を失ったカレンを片手で持ち上げると、そのままサファナさんが寝てる隣のパラソルに運んでいった。…華奢な身体なのに凄い。


 ちなみにこんな芸当は、魔法と魔力による筋肉増強で簡単に可能なのだそうだ。

 便利だなぁ魔法って。…あ、私も魔法使いだった。



 ヴァーミリアン様にぽいっと放り投げられてしまったカレン。さすがにそれは可哀想だと思った私がビーチベッドに寝かしつけていると、カレンはうなされて「うーん、もう無理…」とつぶやいていた。

 可哀想に…なにをされたんだろうか。



「エリちゃん悪かったわね、面倒見てもらっちゃって。うちの子たちは軟弱だから困るわぁ」

「はぁ…なかなかスパルタですね」


 そう言いながら、ヴァーミリアン様は飲み物を片手に…自分の座っているパラソルに私を手招きした。

 少しだけ躊躇したものの、「とって食ったりしないわよ」とニヤニヤ笑いながら言われてしまったので、逆らうこともできず…素直に従うことにした。



「エリちゃんあなた、まだ『天使』の力をちゃんと使えないんだって?」

「え?…あ、はい」

「私が教えてあげよっか?」


 突然の…予想外の申し出に、私は少しだけ戸惑ってしまった。

 だけど、戸惑ったのは「なぜ今こんなことを聞くのだろう」ということだけで、答えは自然と心に浮かび上がってきた。


「あの…すごく素敵な申し出、ありがとうございます。

 でも、私は今回ミアとカレンの家庭教師としてハインツここに来ているのです。

 なので、本当にありがたいお話なのですが、遠慮させていただこうかと…」

「あらまあ、本気?あなたは自分の『天使の歌』を…早く見つけたくないの?今のままだと、ただの魔力が多い魔法使いと変わらないわよ?」

「…正直に申し上げると、私はその点についてはそんなに焦っていないのです。『天使の歌』も、そのうち使えるようになるかなぁって程度にしか考えていなくて…」


 私の言葉に、ヴァーミリアン様は目をまんまるにして驚いているようだった。


 それはそうかな…と思う。

 だって、普通の魔法使いは血眼になって天使になろうと…より強力な魔法を使えるようになろうとしているものだったから。


「『七大守護天使』の一人である私に教わるなんて、願っても叶わないようなことなのよ?それに、もう私の気が向くことは無いかもしれないのよ?それでも…答えは変わらない?」

「…ありがとうございます。でも、私の素直な気持ちとしては…今は双子ふたりとの時間を大切にしたい気持ちが強いのです。

 その、変な言い方になるかもしれませんが…今この瞬間を、ふたりと一緒に過ごしたいのです。だから…」

「そっか…。エリちゃんはここでこのフラグを折っちゃうのね」



 ヴァーミリアン様は意味不明なことを言いながらふふふっと笑うと、そのまますっと立ち上がった。


 お断りして気を悪くしてしまったかな?

 一瞬そう思ったものの、ヴァーミリアン様が私を見る目は…なんだかとっても優しかった。


「それじゃあ仕方ないわね。そしたら、改めて…うちの子たちをよろしくね!そんじゃ、私は旦那のところに行ってくるわ」

「あ、はい…どうもすいませんでした」


 そう言うと、ヴァーミリアン様はそのままスタスタと歩いて行ってしまった。

 去り際に「これは案外拾い物だったかもしれないわね…」と呟いていたような気がしたけど、意味がわからなかったので聞き間違いだったかもしれない。









 それから私は、カレンとサファナを交互に団扇で仰いであげたりしながら、ゆっくりとした時間を過ごした。

 海風が通り抜けるこの場所は、潮騒の音だけが聞こえてきて、穏やかな気持ちにさせてくれる。



 それにしても…こうやって見るカレンは、本当にすごい美少女だ。

『ハインツの月姫』と呼ばれているのが良くわかる。男の子だけど。


 …だけど、これを本人に伝えるとすごく嫌がるんだろうな。

 せっかく綺麗なのに、もったいないなぁ。



 私はそんなことを考えながら、カレンの銀髪に手を伸ばして…そっと触れてみた。

 銀色シルバーブロンドの髪が太陽の光に反射して輝く様は、まるで月の光を彷彿とさせる美しさを放っていた。

 なんだか一度触ると手放し難くて、ついつい何度も触ってしまう。


 そんなふうにしてカレンの髪を撫でていると、カレンが「ん…」と言いながらまぶたがピクピクさせた。

 慌てて手を引っ込める私。どうやらお目覚めのようだ。


「うーん…あれ、エリス?」

「あ、目が覚めた?身体は大丈夫?」


 ようやく目を覚ましたカレンに、私は冷たいお茶とタオルを手渡した。

 うん、どうやら顔色は回復しているようで、ちょっと安心。


「あぁ、ありがとう。ぼくは気を失ってたのか…姉さまは?」

「ベアトリスさんが別荘のほうに連れていってくれてるから大丈夫よ」

「そっか…」


と、そのとき。



「ふぁぁぁあ…よく寝た。あれ?あなたたちも休憩してたの?」


 タイミング良く、隣で寝ていたサファナも目を覚ましたようだ。身体を起こして大きな伸びをしている。


 ミアのほうは大丈夫だったのかな…?

 そう思ったのと時を同じくして、「おーい!」という声とともに、向こうの方から…ベアトリスに連れられたミアが歩いて来るのが見えた。

どうやらみんな完全復活したようだ。よかったよかった!



 こうして再び集合した私たち。

 元気もだいぶん回復してきていたので、ミアの号令でまた色々と再開することにしたのだった。

 だけど…さすがに体力を使うようなことは、もうこりごりかな?










 それから私たちは…貝殻を拾ったり、打ち上がった変なものを投げつけたり(主にミアが)、星砂を探したりして過ごした。

 そうして過ぎていった時間はすごく楽しくて…あっという間に日が暮れてしまった。




 みんなで見る夕焼けは本当に美しくて…

 私はこの光景を一生忘れないように、心に刻みつけたんだ。










 夕食はクルード王特製シーフードカレーだった。

 結局魚は釣れなかったそうなんだけど、そのまま素潜りして魚や貝をゲットしたそうだ。


 だったら最初からそうすれば良いのにさ…と、ミアから言われたクルード王は、「男のロマンがわからんやつだ!」と悲しがってた。


 …チラッと横を見ると、カレンが物知り顔で頷いてた。



 たぶんわかってないのに無理して頷いてるんだろうなぁ。

 変なところで意地を張らなくてもいいのに、ね。




結局二話でもまとめられませんでした…

海編は次でおしまいの予定です。


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