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27.うーみーっ!


ここから新章スタートとなります。

本章は各話毎のオムニバス形式になる予定です!



 


「海に泳ぎに行きたーーい!」


 ミアねえさまが突然そう宣言したのは、夏も終わりに近い、とある日のことだった。


『文化交流会』で色々と…姉さま曰く「ひどい目にあった」ので、そのストレスを海で発散したいと駄々をこね始めたのだ。



 最初のうちは、カレンぼくたちも無視してたんだけど、あまりにもしつこく言うので…とうとうクルード王おとうさまが折れてしまった。

 その結果、ぼくたちは晩夏の海へと海水浴に向かうことになったのだった。






 そしてぼくたちは…ハイデンブルグの街から馬車で2時間ほどのところにあるハインツ王家のプライベートビーチへと向かっていた。

 今回は、一泊二日の予定だ。プチ旅行って感じかな?

 他の一般の人達に見られるわけにはいかなかったので、自動的にこの場所になったのだ。



 ちなみに、ぼくや姉さまの事情が事情なので、行くメンバーも厳選されていた。


 クルード王おとうさまミアねえさまカレンぼくの三人以外はエリス、サファナ、ベアトリスだけしか呼んでいなかったのだ。

 …さすがにこのメンバーだったら安心かな?


 最初ぼくは参加するつもりは全く無かったんだけど、姉さまに強引に誘われたら断れなくなって…あとは参加メンバーを確認した上で渋々同意したんだ。


 …まぁ、エリスが海と聞いて嬉しそうにしてたから、仕方なかったんだけどね。








 道中は、クルード王おとうさまの御する馬車でのんびりと移動していた。

 馬車の中ではトランプなんかして行楽気分だ。


「ちょっと、お父様ー!もうちょっとうまく馬を操ってくれない?こんなに揺れてるとトランプが散らばっちゃうんだけどー?」

「そんな運転、できるかー!」


 せっかくのお休みにわざわざ大変な御者までやってるってのに、姉さまの理不尽な要求に振り回されるクルード王おとうさま

 なんだか可哀想…



「しっかしベアトリスってば、無表情だからババ持ってるか分かんないね」

「…ありがとうございます、サファナさん」

「その点、エリスなんかはすぐに顔に出るから分かりやすいんだけどねぇー」

「ええっ!?私って分かりやすいんですかっ!?」

「自覚なかったの?めちゃくちゃ分かりやすいよ?」

「がーん、ミアにまでそんなふうに思われたなんてショック…」

「ちょっとー!それどういう意味ー!?」



 あぁ…なんか平和だなぁ。


 揺れる馬車の中でそんなことを思いながら、ぼくたちはババ抜きに興じていたのだった。


「あ、カレン。それババだよ?」

「やりぃ!カレンあんた罰ゲームね!」

「…げっ」


 前言撤回。

 やっぱりちっとも平和じゃないや。











 青い空。

 白い入道雲。

 夏も終わりだというのに、まだまだギラギラと輝いている太陽。

 真っ白な砂浜。


 …ここ『メルキュール海岸』はハインツ王家が所有しているプライベートビーチだ。

 そのため、一般人の姿は一切無く、本当に自然なままの美しいビーチがそこには残っていた。

 もちろん、他の人の目はないので…諸事情があるぼくたち双子も安心して楽しめる場所だった。






「うーみー!!」


 到着した瞬間、姉さまは馬車から飛び降りて、海へと駆け出していった。

 そして服を着たまま海に飛び込んでいる。

 一応、心配したベアトリスが姉さまの後についてはいるものの…



 ちょ…一応女の子なんだから、もうちょっとおしとやかに出来ないのかな?

 あーあ、ベアトリスに海の水かけてるよ。

 侍女も大変だなぁ…



 そんな姉さまを見て、エリスが大笑いしていた。

 なんだかんだで、やっぱりみんなが笑顔でいるって、良いね!




「よーし、とりあえずあそこにある別荘に荷物を運ぶぞー!海はそのあとだ!」


 お父様の号令で、姉さまとベアトリスを除いたぼくたちは馬車の荷物を別荘に運ぶ手伝いをした。


 男の子としてかっこいいところを見せないと!

 そう思ったものの、サファナはおろかエリスよりも荷物持てなかった…とほほ。


 ってか、戻ってきたベアトリスが山のように荷物抱えてるし!すごい筋力パワー


「あーあの子、ああ見えて蹴術の達人だからね。お尻蹴り飛ばされないように気をつけなさいよ」


 げっ…そんなの知らなかったよ。

 てか、姉さまもいつの間にか戻って来てるし。

 戻って来たなら荷物運び手伝って欲しいな!


「えー、あたし女の子だから重いもの持てなーい」


 …。絶句。






 さて、ようやく荷物運びも終わり、お楽しみの海水浴タイムとなった。


 ぼくは当然泳ぐつもりはなかったんだけど…


「あ、カレン王子。実は…この前勝手に写真使っちゃったお詫びも兼ねて、あなた専用の水着を作ってきたのよ」


 げっ、サファナ余計なことを…

 そんなの着たくないし!


「大丈夫よ!ちゃーんとカレン王子が着ても変じゃないようなのデザインしてきたからさ!」

「そういう問題じゃないんだけど…」

「あ、そうそう!エリスの分も持ってきたから安心してね!」

「ええっ!?私のですかっ!?私、泳げないですよ…」

「そんなの大丈夫!カレン教えてくれるから!」


 ちょっと!

 なに姉さま勝手に言ってるのさっ!

 まぁ確かにぼくはお父様に泳ぎ方を習ってるから泳げるけどさ…


 あ、でもエリスが興味津々だ…

 チラッとこっちの顔色伺ってるし。

 …うーん、まいったなぁ。





 そんなわけで、結局ぼくも水着に着替えることになってしまったんだ。










 遠浅で強い波の来ない『メルキュール海岸』は、海水浴にはもってこいの場所だった。


 向こうの方では、姉さまがベアトリスやサファナと一緒に…腰まで海に浸かってボール遊びをしている。




 そんな様子を横目に、ぼくとエリスはゆっくりと海の中に入っていったんだ。


「わわっ!冷たいっ!」

「あはは、すぐに慣れるよ。エリスは海に入るの初めて?」

「う…うん。なんだかお風呂とは違うね…」


 サファナが用意してくれた水着は、案外悪くなかった。

 ノースリーブの丈の短いワンピースのような上着に、下はショートパンツというタイプの水着だったのだ。なんでもタンキニ…という名前らしい。

 これだったら呪いは発動しないし、ぼくの精神的にもギリギリ許容範囲だ。さすがサファナ、プロだなぁ。


 ちなみにエリスの水着は、青色に花の模様が入った…ビキニにフリル付きのスカートが付いた可愛らしいものだ。

 …こっちもサファナのセンスの良さが光ってる。

 なんか、真正面からちゃんと見れないや。


「ちょっと…カレンあんまりじっくり見ないでね。恥ずかしいから…」

「あ、ごめん。そんなつもりじゃ…。あ、いや、変な意味じゃなくて…」


 いけないいけない、なんか変な空気になっちゃった。



 そんなわけでぼくとエリスは、二人で泳ぎのトレーニングを開始したのだった。



「じゃあ…まずは顔をつけるところから始めてみようか。一緒に潜ろう!せーのっ!」


 さぶーん。


「うわー、しょっぱいね!」

「あはは、そりゃ海水だからね!塩水だもん」

「そうなんだけど…なんか新鮮」


 そう言いながら笑うエリスの表情は、とっても輝いていた。

 なんでも、昔は身体が弱くてほとんど外出も出来ないほどだったらしい。

 ぼくもそれに近い幼少期を過ごしてきていたので、そういう意味ではぼくたちはなんとなく似ているのだと思う。

 以前からエリスに感じる不思議な気持ちは、そのへんの親近感なのかなぁ?




「へいへいへーい!そこ、なにイチャついてんのさー!」


 そう言いながら絡んできたのは、やっぱりミアねえさまだった。

 ちなみに姉さまは、ぼくと似たような水着を着てたんだけど…ぼくのよりも少し男の子っぽく見えた。

 …どうせならぼくのをこっちにしてくれれば良かったのに。


「なぁに?姉さま、もうボール遊び飽きたの?」

「んー?別に。あんたがエリスに変なちょっかいをかけてないか心配して見に来ただけよ」


 はぁ…なに言ってんだか。

 呆れ顔のぼくを無視して、姉さまは今度はエリスの方に近寄っていった。


「どぉー?カレンに変なとこ触られたりしてない?」

「するかーっ!」

「ほんとぉ?お母様の禁呪を悪用してたりしない?」


 ぼくの絶叫などどこ吹く風の姉さまに、苦笑いを浮かべるエリス。


 そんな彼女を見てニヤリと笑った姉さまは、突然エリスに抱きつくように飛びかかった。


「エリス、スキありぃ!!」

「えっ?わきゃっ!?」


 ざっぱーん。

 そして、そのまま二人海中に倒れこんでいった。


「わっぷ!ちょっとミア!?いきなりなにするのっ!私泳げないんだからねっ!」

「あははは!びっくりしたー?」


 そう言って姉さまはエリスとじゃれあい始めたんだ。



「あらあら、今度はエリスが餌食になったのね」


 いつの間にかサファナが、片手にボールを持ったままぼくの横に立っていた。

 ちなみにサファナはけっこう派手なビキニだった。さすがファッションデザイナー、スタイルには自信があるみたい。


「さっきは誰か餌食になったの?」

「んー、ベアトリスがなんかやられてたわ」


 そう言ってサファナが指差す先を見ると、ワンピース型のスポーティな水着を着たベアトリスが、プカプカと海面に浮いていた。


 …一体なにをされたんだろうか。







「おーい!メシの用意が出来たぞー!」


 そんなとき、浜辺でバーベキューの準備をしていたクルード王おとうさまからお呼びがかかった。

 ちなみにお父様は、短パンにポロシャツ姿といったいでたちだ。


 なんでも「この歳になるとなぁ、泳ぎとかはもうどうでもよくなるんだよ。ははは」…ということらしい。

 それにしても…そんな格好をしてると、どこからどう見ても普通のおじさんにしか見えないなぁ。

 知らない人がお父様を見たあとに、実は「ハインツ公王」だっ!って知ったらどう思うだろうか…




 でも、お父様が作ったバーベキューは本当に美味しかった!

 ワイルドな味付けだけど、焼き加減が最高だったんだ。みんな美味しそうにお肉や野菜を頬張っている。


「美味いだろう?わしも昔冒険者であっちこっちへ旅してたからな。料理は案外得意なんだよ」


 自慢げにそう話すお父様。

 でも、どこの世界に料理が得意な王様なんて居るだろうか…なんか複雑。




「いやー、もうお腹いっぱい!」


 しばらくして、姉さまがそう言いながらギブアップ宣言した。

 だけど、実はそれはぼくたちも同じだった。とっくに箸が止まっている。


 バーベキューの網の上には焼きかけのお肉や野菜が大量に余っていた。


「おいおい、もうおしまいか?お前たちあんまり食べないな。わしが若い頃なんかはこの倍は喰ってたぞ?」

「ちょっと、冒険者と一般人の食欲を一緒にしないでくれる?しかもこっちは女の子ばっかりなんですけどっ!」


 姉さまの抗議は大半については同意だった。最後のはちょっと?…ねえ?

 第一、ぼくは男なんですけど。


 それにしても、余った食材をどうするんだろう。

 まさかこのまま晩御飯に回したりしないよね?



「あ、あれ?なんだろう…?」


 そんなことを思ってると、沖の方を見ていたエリスがそう言いながら指を指した。


 ん?どれどれ…

 ずっと向こうの海の上で、何かが光ってる?


「むむっ、バレたか…」

「え?どういうこと?」


 どうやらお父様は光の正体に気付いているようだ。

 だけど、ぼくたちの疑問を他所に…お父様がおもむろに大皿を二つ取り出して、焼きあがった肉や野菜をその上に乗せてゆく。


 そうしている間にも、沖の方にある光の塊は…猛烈なスピードで徐々にこちらのほうに近寄ってきていた。


 あれは…チカチカ光ってて、空を飛んでいる!?

 雷光のような…って、まさかっ!?





 どどどどかーーんっ!!



 次の瞬間、ぼくたちの周りに大量の雷が降り注いだ!


「うわわわっ!」

「ぬわー!?何事っ!?」

「きゃっ!」

「ひええぇえ!」

「…っ!」


 ぼく、姉さま、エリス、サファナ、ベアトリスが、それぞれ悲鳴や絶叫を上げる。



 降り注ぐ雷の中、お父様だけが立ったまま悠然と上を見上げていた。


「思ったより早かったな」


 そう語りかけるお父様。その視線の先には…


「…こんな楽しそうなイベントに、私を置いて行くなんて…許さないわっ!」


 …怒りの表情を浮かべたヴァーミリアンおかあさまが、雷を撒き散らしながら宙に浮いていたのだった。



「お、お母様!?」

「ヴァーミリアン様!」

「あーら、ミアにエリちゃん!楽しそうねぇ!お母さんも混ぜてねぇ!」

「挨拶も良いが、とりあえず降りてこいよ」


 クルード王おとうさまの呼びかけに、鼻息荒くしながら砂浜に降り立つヴァーミリアンおかあさま。その背には大きな天使の翼が生えていた。


 …天使の無駄遣いじゃないかな?


「で、あなた。なんで私を置いていったわけ?」

「ちゃんと手紙は残しただろう?それにお前空飛べるだろうが?」

「…そうやって、私の魔力消耗させるつもりだったんでしょ?」

「はっはっは!そんなことより、ちょうどお前さんの分のバーベキューも出来上がってるぞ」

「えええっ!?あなたの作ったバーベキュー!?食べる食べるーっ!腹ペコだったんだ!」


 そう言うが早いか、ヴァーミリアンおかあさまクルード王おとうさまから皿を奪い取ると、ガツガツと食べ始めたのだった。



「美味い美味い!あなたのバーベキューなんて久しぶりねー!」

「いいけどお前、その雷…」

「あー、ごめん!私ってば興奮すると雷発散しちゃう体質なのよ!オホホホ」


 そう言いながらも、嬉しそうにほっぺいっぱいに食べ物を頬張りながら、電撃を飛ばしまくるお母様。


 いや、近所迷惑なんだけどさ…

 それにしても、この人は相変わらずご飯を食べさせてれば大人しくなるんだなぁ。

 その辺を把握しているお父様は、さすがとしか言いようがない。飼い主として。




 そんなわけで、気がつくとこの『メルキュール海岸』に、役者が全部揃ったのだった。





 …大変なことにならなければ良いんだけど。

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