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20.新たなる伝説の誕生

 


「やっぱり街に出てくるのは良いねっ!そう思わない?ベアトリス」

「そうですね…正直私は人が多いのは苦手なのですが、ミア様と一緒ならどこでも大丈夫です」


 その日の午後、ミアあたしはベアトリスを伴ってハイデンブルグの街にあるマリアージュ通りに来ていた。

 今日はベアトリスのお化粧とエリスの『髪染め』魔法でボーイッシュな少女に変身だっ!

 毎回変身するのは、なにげに楽しかったりする。


 ベアトリスは今日も黒っぽいシャツにジーンズという軽装だ。

 …この娘もちゃんとした格好をしたらいい線いってると思うんだけどなぁ。



 そしていつものように誰からも正体バレることなく…マリアージュ通りにあるサファナのお店『サファナスタイル』にやってきた。





 からんからーーん。「いらっしゃいませー」


 サファナのお店はなかなか繁盛しているようだった。

 特に若い娘たちが何人か来店して、いろんな服を物色している。


 サファナから貰った特別なパスを見せると、店員は無言であたしたちを奥の方へと導いてくれた。

 挨拶してくる店員に軽く手を上げて、あたしは店の奥の方へと向かった。



「あらミア姫、いらっしゃい。今日はベアトリスと二人っきりなのね」


 奥の部屋でなにやら写真やラフスケッチとにらめっこをしていたサファナが、入ってきたあたしたちに気づいて手を上げてきた。


「どしたの?写真とか見て怖い顔しちゃってさ」

「うーん、実はね…新しい若者向けのブランド立ち上げようと思ってるんだけど、いいコンセプトが見つからなくて…」


 どうやらサファナが見ていたのはモデルの写真だったようだ。

 何処かで見たことがあるモデルが何人か写っている。


「まずはモデルから…と思って、宣材見てたんだけど、なんだかピンと来なくてねぇ…

 こっちはベリーのソードダンスの創始者の『踊り子』ベリーでしょう。あと、これは…フレイスフィア王国の『歌姫』ミスティローザ。それからこっちはベルトランド王国の…」

「あー、もういいよ。わかったから」


 確かに、残念ながらあたしが見てもイマイチピンとこない娘ばっかりだった。



「なんか大変そうだね。お仕事がんばってね」

「ありがと、ミア姫。…ところで今日はどうしたの?」

「ん?あー、この前の写真が出来上がったってボロネーゼから手紙を貰ってさ。ここにあるって聞いたからコッソリ先に見に来たんだ」


 あたしがそう話すと「あぁ、そういえばボロちゃんからなにか届いてたわね」と言いながら、メガネを外して部屋の外へと出て行った。

 そして帰ってきたときには、その手に少し大きめの小包を抱えていた。


「お、けっこうでっかいね!いやー楽しみ!」

「そうね…私も休憩がてら見てみようかしら」



 そして小包を開けた三人は…


 あまりの衝撃に、言葉を失ってしまうことになる。










「な、なんだこれ…」


 あたしは一番上に置いてあったパネルを手にとって思わずそう言ってしまった。


 それは…カレンが写った写真を拡大したパネルだった。

 だが問題はそこではない。

 プロの手によって撮影されたカレンは…とてもカレンと思えない、まったく別人のように映っていたのだ。

 しかもそれは、当然のように『絶世の美少女』だった。



「…改めて思い知らされたけど、ボロネーゼってやっぱ写真家としては天才だね」

「はい…私もそう思います」


 ベアトリスが、あたしが映った写真…シルクハットを被ってポーズを決めているやつを眺めながら同意する。


 ま、まぁあたしも本当に男って感じで映されてるけどね…






「こ…これだわ…」


 そのとき、それまで無我夢中といった感じで写真を食い入るように見つめていたサファナが、突然声を上げた。


「ん?サファナ、どうしたの?」

「これよ…これこそ、私の新しいブランドイメージにぴったりだわ!」


 そう言いながらサファナが手に取ったのは、カレンが少し色っぽい目線で写っている一枚の写真だった。


「どうりでずっとピンってこないなーって思ってたのよねぇ。

 たぶん私、無意識のうちにこの前見たカレン王子のことを意識してたんだわ」


 何枚もの写真を見比べながら、サファナは感嘆のため息をつく。

 本当に夢中といった感じで、何枚もの写真を見比べていた。


「あーもう、こんなすごいの見てしまったら、他のモデルなんて使えないわー。

 あーん、どうしたらいいのよー」


 そして…ついには手に持っていた写真をばさっとテーブルの上に投げ出してしまった。



 だけどあたしには、サファナの悩みがさっぱりわからなかった。

 気に入ったなら使えばいいじゃん。

 そう思ってそのまんま伝えたら、サファナは目をまん丸にして否定した。


「そんなのダメに決まってるじゃない!

 だいたいカレン王子が写真の利用を了承してくれると思う?」

「だったら、黙って使っちゃえば良いんじゃない?」

「……えっ?」


 あたしの言葉に、サファナは激しく反応した。

 どうやら、あたしが提案したこの作戦を気に入ってくれたようだ。


「え…いやでもそれは…

 いやいや、いけるかしら…もしいけるなら…?

 あぁ、ミア姫はなんて残酷なの!私をこんなにも悩ませるなんて…」

「だったらついでにもうひとつ。

 どうせだからこのモデルに架空の名前でも付けちゃえば良いんじゃない?

 そしたらなんとでも誤魔化せるでしょ?」

「お…おお……おおおおおお!」


 サファナがぶるぶる震えながら、あたしの話に食いついてくる。

 よしよし、なんだか面白いことになってきたぞぉ!


「…どうしてもカレンのことが気になるんだったら、このモデルはあたしってことにすれば良いんじゃない?これでどう?」


 あたしのこの一言は、どうやらサファナの中で決定打となったようだった。

 パンっと膝を打つと、悩みを吹っ切った顔をあたしの方に向けてきた。



「よし、乗ったぁ!!」

「そうと決まれば話は早い!

 さっそくどうすればいいか、三人でちょっと考えてみようよ!」




 こうして三人の…というよりはミア主導の、新しいプロジェクトがスタートしたのだった。














 あたしたちは、ベアトリスが淹れてくれたお茶を飲みながら作戦会議をしていた。

 まずはブランドイメージ作りからだ。


「まず…このモデルの名前はどうしようか?」

「んー、そうねぇ…あたしのミドルネームはどう?アフロディアス」

「それじゃあストレートすぎるわ。もう少し捻らないと…」

「んじゃあ、ファーストネームのミリディアーナと合体させて…アフロディアーナとかどう?」


 あたしのネーミング案に、サファナとベアトリスが手を打つ。

 へへん、あたしのネーミングセンスすごいでしょ?


「ミア様、素敵な名前です…」

「それいいわね!ついでに…新しいブランドの名前も『アフロディアーナ』ってしちゃおうかしら」

「お、それいいねっ!」



 ブランド名が決まったところで、次はコンセプトやターゲットだ。

 でもこれは…サファナには既にイメージがあったようだ。


「実はね、あのときカレン王子に着てもらってた服が、今回の新しいブランドの服だったのよ」

「なぁんだ、サファナ確信犯じゃない」

「ち…ちがうわよ!たまたまなのよ!

 でも…あんな美人が目の前にいたら、やっぱり自分が持ってる最高のものを着せてみたくなるじゃない?」

「あー、その気持ちわかります…」


 あたしには理解できないところで通じ合うサファナとベアトリス。


「だからね、ターゲットは10代の女の子でね。

 ブランドイメージは…大人の女性への憧れと、まだ成りきれない幼さを併せ持った感じなのよ。

 なにか良いコンセプト案ある?」


 サファナのその発言に、あたしのインスピレーションがさらに刺激された。

 ビビッとなにかが脳裏に降りてくる。


「だったらコンセプトは…こんなのどう?」


 あたしは、今閃いたコンセプト案を披露した。



 〜〜〜〜

 新しく生まれたサファナスタイルのブランド『アフロディアーナ』。

 それは美の女神を連想させる…ティーンズに向けられた未来へのメッセージ。

 そしてそれを象徴するモデルは…謎の美少女『アフロディアーナ』。

 彼女が、少女たちを大人の世界へと導く道標みちしるべとなる…

 〜〜〜〜



「こんな感じでどうよ!?」

「いいわね…うん、すっごく良い感じよ!!それで行きましょう!!」


 よしっ!サファナの心にヒットした!

 思いつきにしてはなかやか良いアイディアが出たなぁ。むふふ。


「ミア様、素晴らしい才能ですね。

 私ミア様の出されたコンセプトに感銘を受けました!」


 ベアトリスも目をうっとりさせながらあたしの意見に賛同してくれる。


 それは確かに嬉しいんだけど…

 あたしゃそれよりベアトリスの服をどうにしかして欲しいよ。



「それにしてもベアトリス、あなたほんっとに服が地味ねぇ。

 ちょっとあとで別なの着てみない?」


 お、サファナが勝手に食いついてくれた。ラッキー!


「い、いえ。私はその…ミア様をお守りするのに動きやすい服装が良いので…」


 そう言い訳して渋るベアトリスに、あたしが畳み掛けるように「ここはサファナのお店なんだから大丈夫だよ。それにあたしもベアトリスの普段とは違う格好が見てみたいなぁ」って言ってみた。

 そしたら、あっさりと同意してくれた!


 むふふ、何事も言ってみるもんだなぁ。




 そんなわけでサファナと二人でベアトリスを着せ替え人形にしていると、ふらっとボロネーゼがやってきた。

 なんとタイミングの良い登場!


「あーら、なんだか楽しそうなことしてるワネェ!」

「おっ!ボロネーゼ!いいとこ来た!

 素敵な写真ありがとね!

 ところでさ、来て早々悪いんだけど写真撮ってくれない?写真!」

「あ…ちょっとミア様…」


 ストレートな黒髪に合わせた…ノースリーブのシャツにミニスカートを着せられて大人しくなっているベアトリスが、あまりに可愛かったので、あたしはついボロネーゼに撮影をお願いしたんだ。


「おっしゃー、まかしといてぇ!

 黒髪なんて珍しいワネ、撮るわよぉ!」


 ボロネーゼからそう言われて、ガックリと肩を落とすベアトリス。


 泣きそうな顔のベアトリスが、またなんか良い感じだった。










 こうして、サファナの店の新しいブランド『アフロディアーナ』と、そのブランド専用の謎のモデル『アフロディアーナ』が誕生したのだった。


 …そこに、モデル本人カレンは不在であったのだが…





 そして、この『アフロディアーナ』が…のちに大騒動を巻き起こすこととなる。









ーーーーーーーーーーーーーー








 さらにそれから数日後。


『マリアージュ通り』にある『サファナスタイル』という…有名なファッションデザイナーであるサファナ氏がプロデュースする店舗において、新しいブランドが旗揚げされた。


 その名は…『アフロディアーナ プラス』といった。






 この『アフロディアーナ プラス』は、瞬く間に世界中のファッション関係者に広がっていった。


 そして…この業界に激震をもたらした。



 若者向けでありながら、大人の上品さを兼ね備えたそのスタイルは、もちろん大いに注目を浴びた。

 だが、もっとも大きな衝撃を与えたのは…イメージモデルである『アフロディアーナ』の存在だった。


 通常であればこの手の販促活動の場合、名の知れた有名人を使うのが常であった。

 だが今回抜擢されたのは、完全無名の新人だった。

 しかも、その名前はブランド名と同じ『アフロディアーナ』。

 そして、彼女のプロフィールは全て謎。


 この革新的なプロモーションに加え、『アフロディアーナ』はこれまで見たこともないような魅力的な美少女だった。




 もちろん、この新しいデザインは若者に多いにヒットした。

 連日若者は『アフロディアーナ プラス』の話題で持ちきりだった。

 サファナの店は連日超満員となり、『アフロディアーナ プラス』ブランドの服はあっという間に売り切れてしまう状態であったのだ。



 いったいこの美少女は誰なのか。

 どういった経緯でこのブランドのイメージモデルとなったのか。

 そして、この名前とブランド名の意味するところは何なのか…


 そんな話題で、もちきりになったのだ。



 若者たちはこの現象を『アフロディアーナ旋風』と呼んだ。












 一方、仕掛け人である当のサファナのほうも、想像以上の反響に逆に驚かされていた。

 様々な取材の中で、一様に聞かれるのが…今回のブランドのイメージモデル『アフロディアーナ』のことだった。


「このモデルとなっている美少女…彼女はいったい何者なんですか?」


 この質問に、サファナは「全て秘密です。このブランドのために特別に用意したイメージモデルになります」と言うことでなんとか逃れていた。




「まいったわね…こんなに大騒ぎになるとは思わなかったわ」


 連日殺到するお客と取材の攻勢に、さすがのサファナもひとり大きなため息を付くのだった。





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