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ずるい女短編集  作者: すずき


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3/5

スーパーで買える卵からカッコウは孵らない

結婚してから気付いてしまった。

結婚したい相手と、子供をつくりたい相手は別だ。


「茜さん、おはよう」

お弁当作りも最終段階。今焼いている卵焼きを入れればお終いというところで、茜の夫である弘高が寝巻き姿でリビングに入ってきた。


「おはよう」

茜は一度視線を夫に移す。

三十三歳だが二十代に見られることも多い。それなりにケアをしてその見目を保っている茜と違って、夫の弘高は年相応の中肉中背である。


しかもここ数年で腹回りの肉は一周分は増えた。元々ふくよかで茜よりも身長が低い孝弘の見目は、ところどころの白髪も目立ち、四十代には見えないほどの貫禄があった。


──貫禄っていうか、老けてる。

茜は自分の夫から目を逸らす。フライパンの上の卵焼きに視線を戻したときには少し焦げてしまっていた。


……まあいっか、焦げが多いほうが、体に悪いんだったよね。

いつかのテレビで聞いた話を思い出し、焦げ目の目立つ卵焼きをお弁当箱に入れた。


「もう私は朝ごはん食べたから、お弁当できたら仕事行くね」


目ヤニが視界の邪魔なのだろう。目を擦る孝弘に視線を投げず、卵焼きを焼くのに使っていた菜箸を流しに置いて、エプロンを抜いだ。


「あ、ありがとう、茜さん」


孝弘の弁当を完成させて、軽く微笑みかける。


「うん。お仕事がんばってね」

「茜さんは、今日は昼頃まで?」

「そう。開店前の品出しと午前中レジ業務して終わり」


シフト制のパートで、茜のバラバラの勤務時間を孝弘はほぼ毎朝聞く。壁に貼ってあるシフト表は共有するためのものだが、一度も「今日は早番だね」など孝弘が把握していたことはない。


玄関に繋がる廊下側に立つ孝弘こ脇を通る時、茜は息を止める。


──くっさ。

結婚当初は気にならなかった体臭は、彼が三十半ばを過ぎて顔を顰めてしまうほどになった。

手入れをしろと言っているのにそれを怠るのだから世話がない。


茜が玄関で昨日洗ったばかりのスニーカーに足を通していると、孝弘が後ろに立った。

ぞわりとする感覚を覚えながらも、茜は微笑みを消さない。


靴を履いていると、孝弘がこれから履く安全靴が目に入った。運輸会社の荷物管理をする弘高は、仕事柄つま先を保護してくれる安全靴を愛用している。


一切手入れされることのない、数ヶ月で履き潰されて捨てられる靴。砂埃が目立つ。


茜は洗ったばかりで新品とはいかないまでも、そこそこ綺麗になった自分の靴に意識を戻した。

──昔は磨いてあげたけどね。


「茜さん、いってらっしゃい」

「行ってきます」


玄関まで見送りに来た孝弘に優しく微笑んだ。

それから、何も言われないうちに茜は玄関を出て職場に向かった。



「茜さんところは子供まだなの?」


結婚して五年近くもなればそう言われることは公私共に稀ではなかった。年配の女性ばかりというスーパーのパートの環境下では殊更。


「そうですね、まだですね」

しゃがみながら缶詰を売り場に並べる隣の女性に茜は返事をする。


別に気まずくなる質問ではない。

不妊治療をしているわけでもなく、セックスレスなわけでもない。茜は正社員でもないから、時間的な余裕もある。


なのに結婚して五年。子供がいない。

質問したくなるのは当然だ、と茜は思う。


茜に聞いてきた年配の女性が口を開いたその時、若い男性の声がかかってくる。


あ。

今の会話を聞いて出た感嘆符はまずそれらしい。


「今はそういうのデリケートなんだから聞いちゃダメですよ」


諭すように言いながら現れたのは、茜よりいくつかだけ若い男性の店長だった。

ごめんなさい、とまるで女学生の気分に戻ったように女性が言った。


「なんでなのか気になっちゃって」

「ご家庭ごとに考え方があるんです。じゃあ次はあっちをお願いしますね」


店長が指示を出すと、女性は軽口を言いながら素直に向かった。


「鳥飼さんも、答えたくなかったら答えなくていいんですよ」


別にそんなわけはない。

ただ子供がほしくなかっただけだ。──夫との。


夫以外との子供だったらほしかった。



茜は二十八の時に夫となる孝弘と出会い、半年ほどで結婚した。


あって困るほどではない商材を売るその会社において、茜は元々優秀なセールスマンだった。

茜より七つ年上の孝弘は、他業種からの転職組だ。


いま一押し足りない。

そんな営業スタイルで、孝弘の営業成績は良くなかった。

直属の指導係ではなかったが、同じ部署で働いているうちに、孝弘の方からアプローチをしてきた。


平均より少し良い見目。押しの足りない気弱な性格。そんな茜は、本来なら小さな会社の中でも見劣りする見目の孝弘を相手にはしなかった。

本来なら相手にしない同じ会社──この程度の年収の男。

そんな茜が、孝弘を相手にしたのはタイミングだった。


三十手前で交際相手と別れたタイミングだったからだ。

高学歴で女に対して強気な男。そんなフェミニストに叩かれそうな男でも、茜からすれば男らしく勇ましい──愛した男だった。

くだらないプライドのぶつけ合いで別れしまった茜は、数年ぶりに弱っていた。


私のこと好きなんでしょ? とい背中を押すような言葉を言われてやっと、隆弘は茜の肩を抱いた。


「僕、タイミングよかったんですね」

茜さんに付き合ってもらえるなんて──。


剃り残しの目立つ顎、整えられていない眉毛。

自信なさそうに、けれども嬉しそうに言う孝弘のことを、茜は可愛いと思った。


確かにそのときは思っていた。


交際の申し込みは孝弘から。

結婚の提案は茜からだった。


営業成績の維持に疲れ、惚れた腫れたに疲れ、茜が仕事を辞めたいと申し出ると、孝弘は快く了承した。

言われるがままで、愛を報酬にした奴隷のように孝弘はよくいうことを聞いた。


きっとこれくらいでいいのだ。

女が尻に敷く方が上手く行くって誰かが言っていた。

──これで楽になる。

茜は深く息をついて、週の半分ほどパートをするだけになった。


三十後半の孝弘が結婚当初から子供をほしがるのは当たり前だといってもいいだろう。


とりあえず新婚生活を楽しもう。少なくとも私が三十になるまでは──そう言ったのは茜だった。

そう言った時には、子供がほしいと思っていたのだ。

まぎれもなく夫である、孝弘との。


三十を過ぎて集まる友人に独身がいなくなった頃、茜は気づいてしまった。


──子供が夫に似るかもしれない。

当たり前のことを。

──そんなの嫌だ。

それを嫌だと思うことを。


集まる友人の中に、茜が一目おく美人の友人がいる。製薬会社勤務の高年収の男だったが、なにぶん不細工だった。……孝弘よりも。

美女と野獣の結婚だったが、年一のブランドバッグと豪華な家族旅行。友人は不満はなさそうだった。

そんな友人が子供を産んだ。


友人の旦那によく似た厚ぼったい一重瞼。上を向いた鼻の穴。

可愛い無垢な存在。

可愛くない無邪気な笑顔。

羨ましかった高年収の結婚相手。

美人の友人が抱く、可愛いとは言い難い赤子の顔がまるで合成のようで、心からの笑顔を浮かべることができた。


「おめでとう。旦那さん似の、優しそうな子だね」


彼女の旦那が優しいかなんて本当のことは知らない。優しそうだね、は無条件に使える万能な言葉なのだ。

ありがとうと笑う友人の顔は、寝不足でもやはり綺麗だなと茜は思った。


茜は知っている。

美は説得力であることを。

とても美人というわけではないが、そこそこ美人で、得をすることも多かったから──美が優しいことを知っている。

生まれた瞬間から美醜は運命づけられていると知っている。



結婚は二人だけのことではない。

家と家。家族同士の問題。

──ああ確かに、そうね。

いずれ自分と夫の間に生まれる子供の顔を想像して、茜は激しく後悔した。


都合がよく現れた優しい男。

目を瞑れば鼻を摘めば許せるけれど──目ん玉かっぴらいて歯を食いしばって遺伝子を残す出産を、この男の子で許せるのだろうか?


疑問に思ってから、茜は子作りに、それに伴う行為に後ろ向きになった。


孝弘は事後に毎回祈るように茜の腹を撫でる。慈愛からくるだろうに、茜はぞっとした。

触られるだけでゾッとするようになった。

──この男の遺伝子が腹に残ってしまったら。


きっと孝弘は生まれる子供を愛するだろう。

もしかしたら私に似て可愛い可能性もある。

けれど、第一子。特に女の子は父親に似るという。

父親に──一重で細い吊り目の、鼻の低い顔に。

後退した顎、太り気味の体型の遺伝子。

……女の子がこれに似たら?


私は愛せるだろうか。

他人に劣る外観の子を──自身を持って勇気を持たせて世間に送り出せるだろうか。


考えた。

考えた末に──折れた。

無理だ。

かわいそう。見た目が悪い女はかわいそう。

それでも自信に溢れ性格が良い子を育てられる自信はない。


元彼に学歴を馬鹿にされたけれど、女社会において──私は馬鹿ではないのよ。


有名私大に実力で入った元彼。自身家でそれに伴って女には少し乱暴だったけど、それを許せたのは整った見目と頭の良さを認めていたからだ。


とても結婚相手にはならなかった、と茜は思う。

お互い多分そう思って、だから適齢期に別れたのだ。

──それだけでは惜しい男だったから、別れた当時茜は落ち込んで、ヤケになって他の男と結婚してしまったぐらいなのだけれど。

そんな後悔はともかく、この男だ、と茜は思う。


この男だ。

出身大学も見た目も文句のつけようがない。

そう思って連絡をとった。


──翔太って、A型だったよね?


なんて聞いて。



「よりを戻したい訳ではないのね。安心した」


再会した男は、モーニングのトーストについてくるゆで卵を一口齧った。

二重で目頭の開いた大きな目に見つめられて、茜は怯みそうになる。昔から、この目に見つめられる言えないことばかりになった。

それでも伊達に歳を重ねていない。──別れてから過ごした五年は茜を強くさせた。あるいは鈍感にさせていた。

だから茜は、澄ました顔で頷いた。


「そう、別れる気はないけど、ただ翔太が恋しくて」


かつてはできなかった馬鹿な女のふりができるようになったぐらいには、強かな女になったと、自分で思う。


早朝の喫茶店。

早番だと嘘をついて店に来た茜が頼んだのはエスプレッソだけだった。

目の前の男──翔太はコーヒーとトースト、ゆで卵のモーニングセット。仕事に早く行くと言ってかなり早く家を出たから、朝食のつもりらしい。


──どんな女と結婚したのだろう。

その話を聞いた茜は思った。

きっと女子大出の女だ。

少なくともF欄ではないのだろうな。この男はそういう男だ。


「……金曜の夜ならわりと時間つけやすいけど」

金曜の夜なら飲み会など言い訳が立ちやすいのだろう。胸元の社員バッジは茜が知っている頃のままだった。

茜は一つ年上のこの男の言うことにすべて頷き、かつては言われるがままだった。


「ごめん、夜は都合つけずらいの、昼間がいいな」

「まあできなくもないけど」

翔太はそう言ってゆで卵を食べ終える。


「俺マネージャーになったから、昼間の仕事中単独でわりと時間取れるし」

「さすが、もうアシスタントじゃないんだね」

「おー。同期の中で一番早く出世した」


自慢げな言葉も、嫌ではない。強く見せようと言ってくるなんて、まだ女として思ってもらえてるのかと、悪くない気分にさえなる。茜はエスプレッソに口をつける。


──まあ女らしい甘ったるい願いをしたから何だろうけど。


出会って早々、モーニングが届く前に茜が翔太に言ったこと。


──翔太のセックスが忘れられないから、また抱いてほしい。

そんな甘言に翔太はごくりと唾を飲み込んだ。

別れてからのことをあまり聞いてこなかったのはプライドだろう、と茜は思う。この男はそういう男だ。──どうせ俺より下の男だろうと。

それならしょうがない。俺が満足させてやる。

ただ俺にも秘密にしたい相手がいるから、都合はあると翔太は言った。


茜はその言葉に傷付かなかった。もう翔太に愛がある訳ではない。ただ都合がよかった。

翔太は夫の孝弘と同じA型。なんの問題もない。

むしろ翔太にも本命の女がいるのなら、お互い秘密裏に会える。


血液型でバレなければ、生まれたら私似だと言い張れば良い。

学歴も夫より上。顔も夫より上。

人となりも知ってるから危険でもない。

子を産むならこの男の方が優れているに決まってる。


この男とは結婚はできなかったけれど──それでいいけれど、この男の子の方が人類にとって有益だ。

人類の発展なんて今まで想いを馳せたことがないのに、エスプレッソを飲みながら茜はぼんやり考えていた。

久しぶりに飲むエスプレッソは、思ったより苦かった。



茜は時折翔太に抱かれることになった。

避妊具を着けたがる翔太に、大丈夫だからと言って中で出させた。

なんで男って、女の「大丈夫」を容易く信じられるんだろう。

女はそう言われるほどに信じられないのに。


翔太の引き締まった体に抱かれるほど、茜は孝弘に生理的な嫌悪を抱くようになった。


生来の見た目より何より、自分自身に身だしなみを配ることは触れる相手への尊重でもある。

磨かれている靴に、それなりに気合を入れてくれているのだと思ったし。

整えられた髪には女として見てもらえてると安心した。

昭和生まれの孝弘は男が身だしなみを整えることを「男らしくない」と厭うが、むしろ人間らしくないとさえ茜は思う。


鴉でさえ体を綺麗にして求愛するのに!

人以下だ鳥以下だ。

結婚当初はそんなところが、きっと浮気はしないだろうと安心できるポイントだったのに。


孝弘に与えた愛情のポイントが今全て嫌いな理由のポイントになっている。

けれどそれでも都合が良い。結婚相手としては、言うことを聞いてくれる男の方が都合が良い。


茜の方が「上」で、それを認めて尻に敷かれる「下」の孝弘の態度自体は──時折卑屈すぎるとさえ思うが──まあ悪くはない。離婚を踏みとどまるくらいに。


パートになりキャリアもない。

三十半ば近くなった。離婚する手間よりも継続する緩い努力のほうが楽だ。

……それでもこの男の子は産みたくない。


もっといい遺伝子の子供が産みたい。

女なら……人である以前に獣である以前に生き物なら。

──それって当たり前でしょう?


こっそりと翔太に抱かれるようになり半年。

しっかりその日の夜には孝弘にも抱かれている。

生理の来た体にうんざりしながら、茜は思った。


──より「上」の男の子を産むことが女の本能。

たとえそれが結婚相手じゃなかったとしても。



「鳥飼さんところ、子供はまだなの?」

パートのシフトが終わり、更衣室で着替えながら言われた言葉に、茜は軽く苦笑して答える。

「こればっかりは授かりものなんで」


年配のパート仲間が、茜にそう言われると深く聞いてこなくなったのはあの若い店長の教育の賜物か。


──翔太に抱かれるのはいい。そのアリバイのために孝弘に抱かれるのが苦痛だった。

そろそろできてくれないかな、とスマホのカレンダーを見て排卵日予想を確認する。

妊娠しやすい排卵二日前……日曜日か。

翔太に会う予定はない。孝弘に抱かれる必要がないのは楽だが残念だ。卵を無駄にする。


タイムカードを押して裏口から出ようとしたところで、大きな声で呼び止められた。

鳥飼さん、と呼ぶ声は店長だった。


「日曜日休みになっちゃった人の代わりに出られますか?」

大丈夫ですよ、と頷く。

翔太と会う予定もなく、夫の孝弘は休みだ。孝弘は寂しがるだろうが、一緒に過ごさないほうが茜は気楽だった。


もう共通の話題は語り尽くし、お出かけスポットも行き尽くし、孝弘の見た目も呆れ尽くした。映画を見るしかない日曜日。一緒に過ごすのが苦痛だ。


「ありがとうございます。ただ、ご都合悪くなれば教えてくださいね」


そう言ってきた店長の身長が、夫の孝弘はもちろん翔太よりも高かったことに少し驚く。

話す時は座っている時が多かった。立っている時も、いつも腰を屈めてくれていたのか──見上げると喉仏がやけに目につく。


「都合ねえ」

シフトに入って突然休むような事情、今のところ茜にはない。


「ええ」

微笑んだ店長の目が、幅の広い二重なことに気がついた。

「個人の都合は大事ですから」



日曜日。

職場のスーパーに裏口から入ろうとする。

いつも通りのその場所に、見慣れない人影に気がついた。


「ああ、鳥飼さん」

声をかけられてやっと気がついた。私服姿の店長だった。

「あれ、店長」

どうなさったんですか、と茜は聞く。

こうして私服姿を見ると、そんじょそこらの青年となんら変わりはない。

事実勤務時間外はそんじょそこらの青年だろう。茜が知らないだけで。


「休み予定だった人が来れることになって、来てくれたんですよ。だから鳥飼さんが着替える前にと思って」


言われて驚く。そんな都合いいことある?


「ああ、そうですか、それはご親切に」

今から自宅に帰る気にもならない。

帰ったとて、目ヤニをつけたままの孝弘と時間を浪費するだけだ。

せっかく晴れた日に外に出たのに──一体どうしてくれようか。

茜は少し笑ってしまう。

「残念」


「……お詫びと言ってはなんですが、プリンが美味しい喫茶店知ってるんですけど、どうですか?」

もちろん、奢ります。


──待ってこれ。

茜が見上げた店長の顔は、いつもの物分かりのいい気弱な男の顔ではなかった。茜はその顔の種類を知っている。

──狩りに行く男の顔だ。


罠にかけられていると気がついた。それに胸が躍ってしまう、女としての本心。

久々にかけられた若い男からの誘いに理性がぐらついた。


日曜日に。なぜ。こんな。

今さら自分を。なんで。

千切り絵のような思考で、けれども茜は頷く理由を見つけてしまった。

「甘い物好きなんです」


断らなかったのは、多分店長がつけていた香水の匂いのせいだ。

仕事中に一度も感じたことがない匂い。

餌を見つけた獣はきっとこういう気分なのだ。



喫茶店は一駅先らしい。

日曜日にこんな堂々と一緒に歩くのは気が引けたが、人混みに思考も埋もれた。


「茜さん、最近お元気なさそうに見えて」

いつのまにか苗字呼びではない言葉に、、店長の──男の気持ちを茜は容易に察した。


「……店長って、何型ですか」

「え? O型」

「そうなんですね」


何型に見える? なんて笑う顔が茜に眩しい。


「……大学ってどちらに行かれてたんですか」

「地方の国立だよ」

「どうしてあんなところで働いてるんですか?」

不躾な茜の言葉に、店長は喉を鳴らして笑った。

あんなところって、と言った声は面白がっているようだった。

「店長は本社勤務の前の経験積み」


──日曜日。駅構内の窓から見える晴れた空は鳥が飛んでいる。


茜と店長がホームに向かって階段を降りるその時。人混みの中で茜の隣に並んでいた店長の体が前に飛んだ。


「最近こそこそしてたね」

落ちた体に、階段下から悲鳴が聞こえたが、それよりクッキリと聞こえた声に茜は振り向いた。

そこには夫の孝弘がいた。


「これで一押しが足りたかな」


店長の頭から茜と同じO型の血が流れる様は、まるで卵が割れているようだった。

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― 新着の感想 ―
成程、駄魔誤は2個あった訳ねと。(•▽•;)(ササッもう1個キレイに割らないとね♪)
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