表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来世紀から異世界へ! ~とあるJ隊員の活動記録~  作者: としょいいん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

第08話 色々と手遅れな件について……【アリエル&エルマ】

【アリエル】


 とても、とても長い夢を見ていたような気がする。


 アルカディア王国で召喚された勇者を筆頭に、普人族の国々が連合を組んで魔王軍との最終決戦に臨むと聞いた時、二人の姉たちの静止を振り切ってエルフの軍を率いる決意をしたのは何時(いつ)の事だっただろう。


 次々と現れる魔族の将軍たちが率いる敵兵どもを蹴散らし、やっとの思いで辿り着いた魔王との最終決戦の場面で私は倒れた……。


 今から考えれば、普人族など信じた私たちエルフが馬鹿だったのだろう。


 同じエルフと言っても森の民や砂の民など色々な部族に分かれて啀み合ってるから、普人族についても同じだと知ってたはずなのに、彼らを信じて戦う事を決意してしまったのは勇者の瞳を見たからだと思う。


 彼の意思が込められた目を見て、自分でも知らないうちに普人族に対して親和的な考えを持つようになったのは、勇者が持つカリスマ性がそうさせたのか、それとも……?


 今となっては、もう確認する事は出来ないが結果として私たちエルフは普人族の軍に背後から襲われ部隊が分断され、私が率いていた近衛隊が壊滅するほどの被害を被ってしまった。


 暗殺者の凶刃に倒れた私の耳には周囲の音が何故かハッキリと聞こえていて、それによって私が信頼する仲間たちの多く傷つき倒され次々と力尽きていく姿が、例え目が見えていなくても皆の最後を感じる事ができた。


 最初のうちは胸が締め付けられるように圧迫され呼吸が苦しくて、もう死んじゃいそうだと思っていたんだけど、そう考えているうちに心の熱が徐々に奪われ身体が冷たくなって寒さで心が震えた。


 頑張れば、まだ意識を保っていられそうだったんだけど、私の為に……いや、私が勇者と共に魔王を討ち滅ぼすと決めた為に、多くのエルフたちを故郷の森から離れた戦場へと連れ回し、その結果多くの者たちを死なせてしまった。


 故郷を離れた時は二千人以上居たはずの同胞たちは、今何人くらい生き残ってくれているのだろうか?


 普人族の国から我がエルフ国へ勇者が遣わされて、普人族の連合軍へと加わるように言われた時、女王陛下の表情が一体どのようなものだったのかすら思い出せないほど舞い上がっていた。


 あの時、勇者と共に戦う使命に打ち震えて、彼と共に歩む運命を信じた私の決断は間違っていたのか? 私が率いた二千人ものエルフ戦士たちが、実は私一人を守るための護衛であったのだと今なら判る。


 私は未来永劫に渡って決して消えない罪を犯した。


 戦場の露となり消えてしまった数百名もの仲間(エルフ)たち。


 あの時、私が故郷からムリに連れ出さなければ、この先もずっと長生きできたはずなのに私の生命を守る為に一丸となって死への行進を歩ませてしまった。


 このような大罪……もう私一人の生命だけでは、とても贖いきれるものではない。


 死んで楽になりないかと聞かれれば『はい』と答えてしまうくらいには、私の精神は病んでしまっていた。消えてしまいたい。できるだけ惨めで無様で尊厳を踏みにじられるような最後が良い。

 それでも私の魂に刻まれた罪痕が消える事は永遠に無いが、それでも自分に罰を与えなければ心が平常心を保っていられる自信が無い。


 自分が犯した罪に怯え、寒さに凍えながら私の心は、暗くて冷たい湖の底へと沈んで行った。






『絶対に……助けてやる……からな』


 誰かの声が聞こえた。あれは私を呼んでいる声だろうか? でも良く聞こえないし、もしかしたら他の誰かに向けて話してるのかも知れない、きっとそうだと思う。だって私は咎人だもの。


 周りに居る皆が私を大切に扱ってくれるのは、私がハイエルフの王族の血を引いてるから。


 その誰もがみんな自分の本心に蓋を被せて優しく接してくれるけど、美辞麗句を並べて敬われる度に寂しい気持ちが広がる。でも、これは青い血を持つ者の宿命だから仕方ないよね。


 だから、みんなが優しくしてくれる私に『血以外の価値』があると示したかった。


 でもその為に勇者と共に戦おうと思った訳じゃない。もし魔族との戦いに私達エルフが参加せず、勇者と普人族の軍勢だけで勝利してしまったら、その後のエルフの未来がどのように扱われるか想像しただけで怖くなった。


 母上……いいえ、女王陛下には伝わったと思うけど、普人族との関わりを余り良く思っていない議会の長老たちは、これまで通り世俗とは距離を置いて暮らしていきたいと考えてるみたいだけど、魔王亡き後の世界では、そのように自分勝手と取られる行動によって、後でどのような仕打ちを受けるのか考えないといけない。


 議会の長老たちと言ったけど、彼ら評議員の後ろには彼らを支持する民衆たちが居るから、議会の大半の意見が鎖国政策を支持すると言う事は、即ち国民の大半がそれを望んでいると言う事に他ならない。


『さぁ覚悟しろ……救うべき人……誰かを守る……本来の……』


 まだ眠くて心の声が良く聞こえないけど、眠ってる間だけは後悔する事を忘れていられる気がした。でも徐々に戻って来る暖かさが身体に心地良く、いつまでも逃げては居られない。


 言われなくたって、覚悟はできてる。守るべき誰かを救うどころか、本来の使命を履き違えてしまったせいで……守られてしまったせいで、多くの仲間たちの生命を無為に失わせてしまった。


 私が普人族なんかを信じて、あいつらの直ぐ近くに部隊を布陣したのが原因で、戦いの最中に背後から奇襲されて精強を誇ったエルフ戦士団に甚大な被害を齎してしまった。


 最悪なのは背後から心臓に刃を突き立てられ、それでも死ねないまま私の魂がこの世に留まっているから、今のままでは世界樹に生命を返す事ができないこと。


 もし生まれ変わったら、今の記憶は完全に無くなってしまうから私と私の仲間たちを裏切ったシナジーア共和国のヤツラに報復する事が出来なくなってしまうから、このまま裏切り者の普人族どもに仕返しをしないまま死ぬ訳にはいかないし、かと言って今のままだと身体は全然動いてくれないから、このまま数百年も経てば立派なレイスに成れる自信がある。本当に悔しい。


『キミの新しい人生……だから……戻っておいで……』


 今度の声はちゃんと聞こえた。ちゃんと私に届いたよ。


 誰かが私を呼んでる声がする。戻っておいでって言われたけど、戻ってもいいのかな……って言うか、戻れるのかな? 多分だけど私の身体って重傷どころか重体だったと思うんだけど。


 理由は判らないけど、心臓の音が聞こえた瞬間に意識が覚醒して、周囲の情報が五感を通さずに直接脳へと入ってきたけど、その量の多さに左脳が驚くのを無視して右脳が敵の姿を感知した。


 それから瞼を開いて視覚情報を元に、背後から相手の腕を掴んで床に押さえつけると同時に、その首筋に氷の刃を当てて無力化を済ませる。


 周囲の状況から、ここが王族専用馬車のキャビンの中だと判る。それなら近くに味方のエルフたちが居るはずだけど、この暗殺者の男を殺す前に背後関係を聞き出しておかないとね。


「お前は何者だ。それと私の身体に何をした? あと私の下着の胸が切り開かれてるのは何故だ。もし私に何か不埒な行いをしたと言うのなら、その首、即刻刎ねるわよ!」


 戦場での人殺しを経験していた事が幸いしたのか、氷の刃を薄皮一枚の深さまで押し当て赤い筋を描いても躊躇する事はない。


「質問が多すぎて一度に答えられない。状況説明が必要なら隊長のエルマさんを呼んでくれ。馬車のすぐ外に居るはずだ……」


 ふん! あからさまな時間稼ぎね。ここで命乞いでもしたら頭に血が上って頸動脈を掻き切ってしまうところだったけど、相手の男が妙に落ち着いているから調子が狂っちゃうじゃない。


「エルマの名前を出して私を油断させようとしたって、そうはいかないから覚悟しなさい!」


 私は努めて冷静さを失わないように言葉を吐き出すけど、エルマの名前を聞いた途端、無性に仲間たちの安否を知りたくなった。


 もしこのまま何も話さないようなら、この男はここで殺しておこうと決めたその時、馬車の外に居る者たちの気配を感じたけど、この穏やかな風を纏ったような生命の揺らぎは森の民のモノに間違い無い。私は馬車の外に居るはずの仲間を呼ぶ。


「エルマ! エルメア! そこに居るの?」


 私の声が馬車の外まで響くと同時に扉が開かれてエルマが飛び込んできた! 私は大丈夫だから、そんなに焦って入って来なくても良かったのに。


「姫様! お目覚めになられたのですね!!」


「そんな事より、なぜ私の馬車に普人族の賊が居るのよ!」

「賊、ですか……私の目には姫様の恩人たるカイセ殿しか見ませんが?」


 恩人? ってコトは……もしかして私、また何かやっちゃいましたか?


 だってそうでしょ? 普人族の暗殺者に殺されかけて、目を覚ましたらまた普人族の男が居たのよ? これって誤解しても仕方がない状況よね?


 確か暗殺者の男は黒尽くめの服装だったと記憶してるけど、目の前の男は青色の変な模様の服を着てるから、確かに別人だと考えても良さそうな状況だったのは認めるわ。なので情状酌量を求めます、ねぇ何か言ってよ……。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


【エルマ隊長】


「姫様! お目覚めになられたのですね!!」


 私が姫様の呼び声を聞いて馬車のキャビンに飛び込んだ時、既に姫様の手でカイセ殿が組み伏せられており、尚且つ彼の首元には姫様が作り出した氷の刃が押し当てられているのを見て、心が凍った思いがした。


 何故って、それはカイセ殿と初めて出会った時の事を思い出せば理由は判るでしょ?


 彼は私たち近衛騎士隊が窮地に陥ってしまった時、只一人の援軍として駆けつけ敵兵のオークどもを一匹残らず倒してしまったほどの実力者なのだから。


 状況を見る限りだと、そんなカイセ殿を相手に背後から襲い掛かり無力化したつもりの姫様だけど、彼が本気になれば魔力で作り出した氷の刃なんて歯が立つものですか。


 姿を隠して敵に近づいて一匹ずつ確実に首を叩き落として行く最中に、味方の騎士たちが敵の攻撃に曝されようとした時、カイセが間に割り込んで仲間を助けてくれたのだが、腕力だけを見ても獣人族に勝るとも劣らないオーク渾身の一撃を、その身を挺して庇ってくれた時もかすり傷一つ負わずに逆に相手の首を斬り飛ばしていた。


「そんな事より、私の馬車に普人族の賊が居るのよ!」

「賊ですか……私の目には姫様の恩人たるカイセ殿しか見ませんが?」


 これは一刻も早くこの事態を収拾しなければ、次の瞬間には姫様の可愛らしいお顔が胴体と泣き別れになってしまうかも知れない。


 カイセ殿が何も言わずに俯いて、姫様に押さえつけられたままの状態なのがとても不気味に見えて背筋が凍る思いがする。これはマズイぞ! 今回の戦いで一番のピンチは今この時だと思われる。


「いいですか姫様、よく聞いて下さい──」




 私はカイセ殿が姫様の生命を救ってくれた、優れた治癒術師であると申し上げた。


 あの戦場でシナジーア国の裏切り者どもから背後を奇襲され、ご自身が暗殺者の凶刃に倒れたところまで覚えておられたのは幸いだった。


 その凶刃には呪いという名の毒が仕込まれており、刃の先で展開された極小の魔法陣の働きによって刺された本人の魔力と生命力を使って身体の組織に癌細胞を植え付けてゆく、謂わば本人が死ぬまで絶対に止まらない『死の呪い』を刻印されてしまったのだ。


 我らエルフにも優れた治癒術を使える者は多く居るが、この呪いは癌細胞内部にある自分の生体情報を隣接する組織細胞内に複製を繰り返し、その上被害者本人の血液と体液を媒介して身体の隅々にまで広がって行く効果を併せ持つ、とても厄介で確実に死を齎す呪いであったと聞いている。


 戦場で治癒に当たったマクファージ師の話だと、この呪いは普通の治癒術で決して直せない訳ではないが、こんな何も無い戦場では施せる術にも限りがあり、結果ここでは治せないと言われた。


 そんなマクファージ師が殿下をお救いする唯一の希望として示してくれたのは、彼の奥様が勤めるエルフ王都にある中央病院での施術だったのだが、呪いの症状が進行しつつある現在の状況では、殿下を病院まで搬送してる途中で身体中の組織全てが癌細胞に侵食される方が早く、とてもて間に合わないという見解だった。


 それでもエルフ戦士全員の協力と犠牲によって、殿下のお身体を運び出して王族専用馬車を停車させていた場所まで後退できたのは、味方であったはず普人族連合軍同士の争いが勃発し統制が取れない混乱状態が幸いしたのだろう。


 殿下が負傷したと聞いた衛生隊の者たちによって、緊急搬送用ベッドなどの治療用機材が馬車のキャビン内部へと運び込まれており、マクファージ師の助言では殿下の身体を冷凍して仮死状態にしておけば呪いの進行を止められるのではないかと考えたミリアリア師によって、キャビン内部に木材で急造した安置箱に医療用魔道具を改造・接続する事で、その内部温度を0度近くまで下げながら血液と体液がギリギリ凍結しない状態を維持しつつ心臓を仮死状態にして、脳と体細胞に微弱なリジェネレーションを発動し続ける仕組みを整えてくれた。


 できればマクファージ師とミリアリア師のお二人には、このまま王女殿下と共に我々近衛騎士隊がお護りして戦場から脱出して頂きたかったのだが、今も二千人以上の同胞たちが必死に戦っている状況の中で王女殿下が不在となったエルフたちを纏め上げ、できるだけ多くの者たちをここから引き上げさせる為にお二人は戦場へ残られる判断をされた。


 王女殿下の身に敵刃が届いた知らせは瞬く間に味方に伝わり動揺が広がったが、近衛騎士たちが王女の身体を守りながら後退するのを見たエルフたちは、誰の指揮によるものでも無く各々の判断によって周囲の者たちとの連携を図りながら、近衛隊の退路を開くべく最後の奮戦に身を投じていった。


「みんな恩に切る」「すまない先に逝かせて貰う」「世界樹の元で会おう」


 顔見知りの者もそうで無い者たちも、戦場に居る二千ものエルフたちが、まるで一つの生命体のように風の聲を聞いて一心同体で動き始める。


 阿鼻叫喚が揺蕩う戦場の中にあっても、同胞たちが遺す最後の言葉は風の精霊たちが大切な者へと届けてくれた。


 我々エルフの精霊信仰では、死して輪廻へと旅立つ時その魂が必ず世界樹の根本に立ち寄って、この世に最後の別れを告げると信じられている。


 そんな者たちの切なる想いを胸に、我々近衛騎士たちが姫様を搬送してきた経緯を説明し、最早ここまでと諦めかけたその時、我々の事を友人だと言って助けてくれた御仁こそ、今姫様が床に組敷いてるそのお方なのですぞ!


 姫様の視線がゆっくりと私からカイセ殿へと向けられる。


 そして「ギギギ……」と首が軋むような音が聞こえてきそうなくらいぎこちなく、再び私の目を見て泣きそうな表情をされますが……姫様、もう色々と手遅れです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ