第06話 タイム・リミット
オレが友軍兵士(彼女たちは騎士だと言ってる)らの治療に一旦の区切りがつくと、エルフの小隊長から丁寧なお礼を頂いた。
まだ治療が十分ではない兵士も居るが、それでも残った馬に全員が騎乗しており、先に進んだ馬車の安否確認を優先したいと言うので、エルフたちの助けになればと思い異次元格納庫から超小型のドローンを取り出し大空へと放つ。
ちなみに異次元格納庫から取り出すと、突然目の前の空間が開いて勝手に出てくるので、旧世紀に流行したネコ型ロボットのようにお腹のポケットから取り出すのではない。
《現地点から東へ約15キロの距離に先ほどの馬車を確認しました。馬車の周囲には6名の兵士が護衛しています》
ドローンを放ってから数分後。エルフたちが心配してる馬車の安全が確認できたと伝えると、とても喜んで貰えた。
同じ部隊の仲間たちが持つ『絆』のようなものを感じてオレも嬉しかったが、昨夜から戦い続けてきた兵士たちの顔には深い疲労の跡が残っており彼女たちの話だと、まだここから3昼夜は走り続けなければ味方の街まで辿り着けないと聞く。
今の状況で、この先に待つ馬車と合流して護衛を続けながら目的地を目指すのは厳しい状況だが、それでも敵の勢力圏内にいつまでも留まっている訳にもいかず、彼女たちの小隊は前へ進む以外の選択肢がない。
「もし、そちらの都合が良ければの話なんだが……」
このままエルフたちだけで先に行かせて、また敵に襲われて全滅でもしまったら目覚めが悪いので、先ほど隊長さんから『駆け付け警護』の了解を貰っていたので、オレはこのまま友軍に同行して街まで無事に送り届けようと思った。
別に美人揃いのこの小隊にスケベ心を起こした訳ではなく、エルフの街まで行けば軌道エレベーターの情報が手に入るのではと考えたからで、絶対にピンチを救ってモテモテなんて考えていないからな。
そんな葛藤を胸に、オレは異次元格納庫から次なる機材を取り出す。
「偵察オートが1台あったはずだ、それを出してくれ」
《了解です》
騎馬に乗ったエルフたちと同行するのに、さすがに一人だけ走るのはシンドイと考えたので、ここは『偵察オート』の名で親しまれている、自衛隊正式採用のオートバイ『KLX2500J』に乗って行こうと思う。
色はオリーブドラブと呼ばれる濃緑色のオフロードバイクで、最高出力200PSを誇り、最高時速は300キロだと説明されたが正直そこまで出した経験はない。
エルフたちからは、とても珍しい魔道具だと言われたが説明が面倒だったので、そのまま魔道具の一種だという事にしておいた。
軍馬とは言っても生き物なのでムチャな走り方をさせれば当然疲労するから、普段はそれほど早く走ったりはしない。なので今のところ時速15キロ弱くらいの速度で行ったり来たりしている感じだろうか。
歩法で例えるなら早歩程度のスピードだと思うが、未来世紀で馬に乗ってる騎兵なんて見た事無いから間違ってたらスマン。
「そう言えば、まだ貴殿の名前を伺っていなかったと思うが?」
先ほど小隊長が自己紹介してくれた時に名前を教えてくれたが、オレは治療に気が抜けていたせいかまだ名乗って居なかったみたいだった。
「自己紹介が遅れてスマン、オレの名は九條戒世だ。カイセと呼んでくれ」
名字があるので『もしかして貴族か?』と問われるのはテンプレで、地球防衛軍J隊の者だと説明したのだが、やはり意味が通じなかったので『守備隊みたいなもの』だと説明しておいた。英語だとセルフ・ディフェンス・フォースなので、きっと間違ってはいないはず。
あれから1時間も走ると、街道が小高く盛り上がってる場所に先ほど逃がした馬車と護衛騎士数名の姿が見えてきた。
ずっとドローンで周辺監視はしていたものの、それでも何かあった場合に直ぐに駆け付けられない場所で友軍の小隊が孤立している状況は、精神的に余りよろしくなかったので、これで一安心だ。
今朝方の襲撃から無事に生き延びて、これまで運良く敵影は確認されなかったが、エルフ小隊の者たちには負傷から回復したばかりの者も居て、中にはオレのバイクで牽引する運搬用カートにクッションを敷き詰め横たわっている者も居るから、周囲の警戒は専らAIと偵察用小型ドローンに任せている。
「エルマ隊長、前方(1時の方向……といっても通じないから)やや右方向で距離5キロの位置にオーク兵6匹を確認した」
「了解した。副長に部隊の者を率いて強襲するよう命令しておく」
言った後で気づいたのだが『5キロ』の距離がそのまま伝わったのは、この惑星に来てからアップデートした異世界システムのファームウェアが適切に翻訳してくれたのだと思う。
すると馬車の後方から副長らしきエルフ女性が、攻撃に参加するであろう10名の騎士を率いて部隊から離れて行くのが見えた。
エルフ兵たちは風の精霊魔法によって、ある程度の距離までなら通話が可能な術者が居るから、別働隊の兵士たちとの通信は確保出来そうだ。
ここからドローンから送られて来る映像を見ていると、副長率いる強襲部隊の10名が敵影を視認してエルフィンボウの射程だと思われる200メートル程度まで接近し、そこから一斉射撃を行った。
中には一撃でオーク兵の急所を撃ち抜いた鏃もあったが、大抵の矢は分厚い鉄板で補強された革鎧によって阻まれており、先端の鏃部分が若干貫通している程度で戦闘継続が出来ない程の大怪我ではなかった。
続けて初撃した位置から50メートル進んで第二射を行い、オーク兵の身体にダメージを蓄積してゆくが、それでも継戦能力を完全に奪うまでには至っていない。
オーク兵どもも投石紐を使った迎撃を試みていたが、時速約60キロものスピードが出せる軍馬の疾走を前に、エルフィンボウほどの命中率を出せないまま中距離戦での不利を悟ったのか、大きな戦斧を手に駆け出して接近戦での決着を試みるが、平原のように自由に駆け回れるフィールドにおいて騎馬弓兵の有利は覆せない。
第三射目は急接近して来たオーク兵の直前で迂回し、右手から背後に回った騎馬弓兵が射撃を行い後続の騎馬弓兵が同時に放つ鏃が交差し十字砲架を形成する。
これにより、前面ほど鎧に覆われていなかったオーク兵どもの背中を直撃し、今回の射撃によってかなりのダメージを与えた様に見えたが、突撃と撤退の二種類くらいしか命令が無さそうなオーク兵が相手だと、精霊魔術を用いた同時通信による連携と弓射技術に優れたエルフ兵が一方的な展開になるのは自明の理だと言える。
もしオーク兵でエルフの部隊を打ち負かす方法を考えるなら、移動の自由を制限できる地形に追い込むか、今朝みたいに待ち伏せによる包囲網を敷くのが手っ取り早い。
あと森の中みたいに極度に足場と視界が悪い場所での戦闘では、姿以外に音と臭いも消せるような魔道具を準備して相手に気付かれないように近接する必要がある。
昨日の戦闘で彼女たちエルフの部隊が敗走したのは、街の防衛設備が脆弱すぎたか、それとも敵将がエルフ兵の弱点を熟知していて対策を怠らなかったのが原因だと思う。
森を抜けて部隊が再び合流し草原に伸びる街道を進んで行く。まだこの辺りも魔王軍の勢力範囲内らしいので、負傷者を抱えたまま休憩は取らずに進み続ける。
その途中でオーク兵以外にも、野良ゴブリンやワイルドボアみたいな魔獣に遭遇したが、エルフ兵たちの実力は高く危なげない対応で上手く切り抜けて行く。
昼前頃になり周囲の安全を確認して休憩の準備を進めていると、空中を巡回していたドローンから新たな敵部隊の接近を知らせるアラームが鳴り響く。
《システムより緊急連絡です。ドローンが敵の空中戦力を探知しました!》
次にエルフの小隊を襲って来たのは『ハーピィ』と呼ばれる種族の飛行兵で、最大射程が200メートル程度しかないエルフィンボウでは到底届かない上空から、落石攻撃をされた時は対処に困ったが、敵一体につき落ちてくる岩石が一つだけだったので、とりあえず走り回って回避に専念した。
せめて実弾ライフルでもいいから手元にあればハーピィどもを狙い撃てるのだが、無い物を強請っても仕方が無いので、岩石を落とした後でハーピィが急降下して襲って来るのを皆で迎撃する。
急降下のスピードこそ目を瞠るものはあったが、航空兵力の常として質量を増やすと飛行能力に影響するせいかハーピィの体重は軽く、爪と嘴に注意しておけばオーク兵より弱かった。
まだアーミーナイフしか持っていないオレは、武器のレンジが短ければ近づけば良いと思いつき、この惑星へ来てから初となる空中戦を試みたのだが、脚力と脚部スラスター噴射によって敵の想定を上回るほどの高さまで飛び上がる事に成功する。
「あれを見ろ! カイセ殿が空中戦をしてるぞ!!」
「着地の瞬間を狙わせるな!!」
オレが空中でハーピィを斬りつけていると、それを見たエルマ隊長を始めエルフ小隊の皆も風の精霊魔法で空へ上がってきた。
最初のうちこそ空中での姿勢制御が拙く墜落する者もあったが、風の精霊が衝突を和らげてくれるので大ケガをした者は居なかった。
そんなエルフたちの精霊魔法を見たオレは、ナノマシンを制御する【SeyRay】システムを使って、スラスター噴射による姿勢制御の回数を徐々に減らした省エネ行動を習得する。
(DRNドライブを搭載してるオレには、ほぼ無限のエネルギーがあるんだけど『省エネと勿体ない』は日本人の魂に深く刻まれた行動規範の一つだからな)
それでもエルフ兵の中には負傷する者も若干居たが、精霊魔法で治癒できる程度のケガだったので今回の襲撃も一人の脱落者を出す事無く上手く切り抜けられたのは本当に良かった。
「あの、カイセさん。これをどうぞ……」
昼食はエルフ小隊の者が交代で料理を担当しているらしく、ヘルメットとガントレットを外した当番の女性たちが、魔道具だと思われる簡易コンロの上で温めたサンドイッチみたいなランチをご馳走してくれたので、ありがたく頂いた。
サンドイッチとホットドッグの間の子みたいなランチを持って来てくれた騎士の女性はフィーナさんといって、彼女の右肺に突き刺さっていた鏃を外科手術で取り除いてあげたエルフだった。
「カイセさん、これもどうぞ!」
フィーナさんがくれたサンドドッグを食べていると、今度は紅茶らしき飲み物が入った容器を持った別のエルフがやって来たんだけど、彼女はAEDで心肺蘇生処置を施したフランチェスカさんで合ってたかな?
他にも見張り以外の騎士たちが入れ替わり立ち代わりでやって来ては、これまでのお互いの健闘を称え合ったのだが、最後にやってきたエルマ隊長とエルメア副長に人払いをされると『パワハラだ~』とか言いながら退散して行った。
未開惑星だと思っていたのだが、現地の住民たちに『ハラスメント』の概念があるとは思ってなかった。別にバカにしていた訳じゃないけど、何かスマン。自分でも知らないうちに都会惑星の出身だと思い上がっていたのかな……。
「それでカイセ殿には話しておいた方が良いと、二人で相談したのですが……」
エルマ隊長たちからの『話』というのは馬車に乗ってる人物の事だったのだが、オレはまだ一度もその人と顔を合わせた事が無かった事に思い至る。
まだ彼女たちの部隊と知り合ってから半日しか経っていないから、それほど気にしていた事は無かったのだが、それにしても味方の兵士が戦っているにも関わらず、一度も顔を見せていないという事は何らかの事情があると考えて然るべきだろう。
その人物とは実はハイエルフの王族らしく、今回の戦いにおけるエルフ軍の総司令官を務めていた人物だと聞いた。
そして現女王陛下の第三王女殿下であり、エルマ隊長の親戚でもある彼女は『アリエル殿下』の名前で国の民から大層慕われているそうだ。
なんか色々な属性がある方みたいで情報を理解するのに若干の時間を要してしまったが、要はその殿下とやらが戦場で生命に関わる負傷してしまって今も馬車の中で仮死状態となっており、彼女が生きてるうちに王都の治療院まで移送しなければならない状況だと言う。
それでも昨夜から走り続けてた結果、馬車の車体が大きく揺れ続けた振動によって機材が故障し、このままだと殿下を治療院まで運ぶより先に殿下の生命が保ちそうに無いという事だった。
それで今朝の戦闘で、瀕死の重傷を負った騎士たちを救ったオレに殿下の容態を診て欲しいとお願いされたのだが、戦場での応急対応以外の知識を持たないオレに対応出来るかどうか判らないが、それでもAIとサージェリーシステムの補助があれば救える生命かも知れないと考え、とりあえず診察だけでもさせて貰う事にした。
「「本当にありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます!」」
診察する前なのに、二人から手を握られ何度も何度もお礼を言われるが、まだ救えると決まった訳ではないので逆に気後れしてしまいそうだ。そして隊長のエルマさんに案内されて馬車の中へ入らせて貰うと……。




