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未来世紀から異世界へ! ~とあるJ隊員の活動記録~  作者: としょいいん


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第05話 駆けつけ警護

 街道を塞ぐ倒木を、敵のオークごと吹き飛ばしてやれば脱出路を開く事が出来るはず。そのタイミングに合わせて再び騎乗し、包囲網を一気に突破してやれば馬車を守り通せる。


 半数の騎士たちには、副隊長率いる決死隊が血路を切り開き突撃可能な状況となったら、全員が素早く騎乗して馬車の周囲を護衛しながら後に続けと命令してあるが、残りの者には申し訳ないが私と一緒にここへ残り殿軍となって敵の追撃を食い止める手筈になっている。


 この判断は傷を負って走れなくなった多くの部下たちを見捨てる判断となるが、それでもこのまま皆で仲良く全滅するよりは遥かにマシな選択だと自分に言い聞かせて戦意を奮い立たせる。


 大きな破裂音と共に副隊長率いる決死隊メンバーが突撃し、路上を塞いでいた倒木のを精霊魔術で吹き飛ばし突破口を開くと、馬車とそれを守る半数の騎士たちが包囲網を食い破りそのまま走り去って行く。その後は私と残りの騎士たちが街道いっぱいに広がって、敵のオーク兵どもが馬車を追撃できないように奴らの行く手を阻む。


 私は決死の覚悟で肉弾戦を繰り広げる部下たちに周囲を守られながら、それこそ彼らの命を湯水のように消費して馬車が逃げて行くための貴重な時間を稼ぐ。


「隊長! ここは我々が抑えておきますので、どうか馬車を追って下さい!!」


「馬車には優秀な副隊長が付いてるから心配は不要だ。ここに居るオークどもを皆殺しにしてから追いかけるぞ!!」


 昨日の戦いに敗れて敗走した時は100名ほど居た部下たちが、ここまで辿り着けたのはその半分ほどしか居なかった。これまで『たかがオーク如き』などと侮っていた訳ではないが、復活した魔王が率いる魔王軍の力を嫌と言うほど思い知らされた気がする。


 ハイエルフの王女を守る近衛隊に所属する騎士たちは全員が女性のみで構成されており、オークどもに生きたまま囚われたエルフの女が、どのような目に遭わされるかなど知らぬ者は一人も居ない。


 部下たちの尊厳を守ると言う意味でも、ここは文字通り死ぬまで戦うしか無い状況だと言えるが、もし力尽きた仲間が居れば、その遺体を炎の精霊によって完全に焼き尽くすまで、決して奪われる事なく守り続ける必要がある。


 今のところはそのような悲惨な状況には至っていない……が、それも時間の問題だと言える。


 そんな最中────。


「オレは地球連邦軍J隊の者だ。緊急事態により駆けつけ警護させて貰うので承諾をお願いする!」


 オーク兵どもとは反対側の森の中から一人の人族が出て来たが、自分たちの命を守るのに必死なこの戦況下において、外国人にまで手を差し伸べられる状況ではない。


「その姿は人族の冒険者か?! せっかくの申し出だが君一人だけでは大した助力にはならない。戦いに巻き込まれる前に早くここから立ち去ってくれ!」


 見知らぬ外国人の事まで気を配る余裕など無く、私はその後も襲い来るオーク兵どもと戦い続ける。


 私が敵兵の一人に放った大上段からの切り下ろしは、こちらの防御を捨てた最速最強の一撃だったのだが、敵が持つ巨大な鉄塊で受け切られてしまい逆に大きな隙きを晒してしまい最悪の体勢となる。


────ドガッ!!


「うぅっ!!」


 横から力任せに振り回された棍棒が私の兜を吹き飛ばす。


 一瞬だが意識が途切れたせいで防御の態勢が整わず、続けて体当たりを食らう。突っ込んで来た敵兵と同時に倒れた時、私の右腕が相手の下敷きとなり激痛が走る。


(直ぐに起き上がらなければ、ここで止めを刺されてしまう!!)


 そう考えてはみたものの、地面に背中が付いているのは判るのだが、どちらが上なのか判らない感覚に焦りだけが募る。平衡感覚が失われている事に気づいた私は、自分が負ったダメージが利き腕だけではない事に戦慄を覚えた。


(ここで私が倒れたら味方が全滅する!!)


 まだ完全に起き上がれない私に向かって、別のオーク兵が手にした長い斧を振り上げる姿が、うっすらと私の瞳に映る。


(こ、これが私の最後なのか?!)


 その瞬間、私にはそれが走馬灯のようにスロー描写で振り下ろされる映像を見た。


 だが、どうした事だろう。すると私に最後の一撃を加えようとしていたオーク兵の首が急に《ドサリ!》と鈍い音を立てて地面に転がると同時に、首を失ったオークの身体が振り上げられた鉄斧の重さとその勢いで背後へと倒れ込む。


──ズドン!!


 この時も確かに大きな音がしたはずだが、脳が信じられず目の前で起こった出来事を正しく理解できず、聴覚から伝わって来る情報を上手く処理出来なかった。


 そしてゆっくりと辺りを見れば、突然自分の首を失い次々と倒れ込むオーク兵と、それを呆然と見守る部下たち。


 気がつけば傷付き倒れた部下たちが一箇所に集められており、そこには先程の冒険者が仲間たちを介抱してくれていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 オレはアーミーナイフを高周波ブレードモードで起動したあと、まだ300秒くらい残っている光学迷彩ミラージュフィールドを展開したまま敵兵どもを背後から斬りまくった。


 ちょっと卑怯かな? とは思ったんだけど、オレの目の前で一人また一人と友軍兵士(この場合だと騎士になるのかな?)が倒されてゆく中、もう手段など選んで居られる状況ではなかった。

 既に友軍の被害が50パーセントを超えており、このままでは重傷を負った負傷兵たちの治療が確実に間に合わなくなりそうだったので時短を優先したんだ。


 それにオレたちJ隊の故郷では、旧世紀の時代にニンジャと呼ばれる暗殺のエキスパート集団が存在していたらしいから、その子孫であるオレが同じような倒し方をしても歴史が許してくれるだろう。


 AIによるメディカルチェックでは今現在までに心停止した者は一人も居ないが、このまま失血状態が続けば体温と血流が失われて死亡する者が出るのは確実だ。また、頭部や内蔵など生命を維持する為に必要な器官にダメージを受けた兵士たちへの診察も急がねばならない。


 オレはこの近くにいる敵兵の位置をスキャンして、全ての敵を攻撃するルートが一筆書きとなる様に算出していたが、その途中で今にも致命傷を受けそうな友軍兵士をカバーしながら移動したため、当初の予定よりも数秒の時間をロスしてしまったようだ。


《システムより連絡。これより光学迷彩ミラージュフィールドのカウントダウンを開始します》


 これで残り時間はあと99秒。


 オレは倒れた友軍兵士へと迫っていた敵の指揮官らしき個体を排除してから、まだ残っている敵の残存兵力を続けて一掃すると、もう一度周囲をスキャンして敵影が無いのを確認。これで治療に専念出来る!


「システムコール。周囲に倒れている友軍負傷兵のトリアージを頼む!」


《システムより了解。AR(拡張現実)により、負傷兵の状態をHPゲージを表示します。グリーンからレッドに近いほど重症です》


 オレは光学迷彩ミラージュフィールドを解除して、友軍の負傷兵のうちHP表示が真赤な者たちに対して次々と輸血パックを注入してから酸素マスクを装着し、幹部にはスプレータイプの止血剤で処理を行い最後にAEDを起動させて行く。


 オレが部隊で教わった医療技術とは、戦場でビーム兵器や巡航ミサイルが飛び交う中で大切な味方の生命を繋ぐ為の緊急医療が元となっており、出血を防ぐのは最優先で患者が大量に発生した場合でも脳と心臓を守る為の教育を受けてきた。


 だが幸いな事に脳へ取り返しがつかない程のダメージを負った者は居なかったが、折れた肋骨が肺を突き破っている者や吐血が喉に詰まりかかってる者が居たので、彼女たちが着ている金属鎧を引き剥がして直接肺へ酸素を送ったり、彼女たちの口へ吸引機を差し込んで血の塊を除去し呼吸を確保する。


 一見して流血が多かったり、四肢が折れたり欠損していたりすれば大怪我に見えるが、止血さえ出来ていれば即座に生命を落とさない者たちは後回しで良い。そうしているうちに最初にセットしたAEDから、準備完了のアナウンスが聞こえて来た。


 AEDを作動させた後、オレは予め鎧を引っ剥がしておいた兵士たちの胸部に両手を当てて心臓マッサージを始める。これは軍で習った通り心臓の真上を、肋骨の上からやや強めに押して心臓の脈動が再開するまで繰り返す。


 ちなみに鎧の下には鎧下と呼ばれるアンダーウェアを着込んでいるから、世の男性諸君が考えてるようなシチュエーションには絶対にならないから安心してくれ!


「おい! そこのお前! 私の部下たちに何をしている!!」


「うるさい! 黙って見てろ!!」


 光学迷彩ミラージュフィールドが消えて、オレの姿が見えるようになったせいで友軍の騎士らしき人物から説明を求める声が上がるが、今はそんな問答をしている暇はないので、無視したまま救護作業を続ける。


「──うぅ……、わた……し……は……」


 心臓が動き出した事で血流が戻り、それによって一時的に意識が戻りかけたのだろう。


「もう心配ない。このままゆっくり休んでくれ」


 オレは目の前の負傷兵に優しく声を掛けて、次の患者に処置を再開する。




「おおっ! みんなフランチェスカの意識が戻ったぞ!!」

「フラン、もう助からないかと思った!!」

「神よ、ありがとうございます!!」


「そんな事より、オレの真似をして心臓マッサージを手伝ってくれ!!」


 救命医療器具は格納庫ハンガーに十分な数があったが、AEDを使用した後に心臓マッサージを行う看護者がオレ一人では全員に手が回らないので、そこら辺にいる友軍兵士たちに心臓マッサージのやり方を見て手伝って貰い、オレは別の重傷患者を診る為に場所を移す。


 オレが所属するJ隊では、普通に心停止した程度ならどんな手段を使ってでも仲間の生命を取り戻す。例え蘇生させる相手が「もう戦いたくない」とか「もう死なせてくれ」などと泣き言を吐いたとしても、そんなのは認めないし認められない。


 自分の身体を構成する素粒子が一つでも残ってるうちは、そう簡単には訪れてくれない最後の瞬間まで生きて国を守るのがJ隊であり護衛官なのだから。


 だから友軍の兵士諸君も、そんな簡単に任務から逃がしてやらないから安心してくれ。


 それからオレは、街道に転がっていた兵士たちの元に向かい意識の有無を確認すると、格納庫ハンガーから手術用テントを取り出し、患者をその中へ運ぶ。


「もう大丈夫だ、よく我慢したな。今楽にしてやるからな」


 救命ボットが設営した医療用テントの中は予め滅菌処理が施されており、これは戦場で外科手術が必要な時に使用されるもので、ここにはメスなどの医療器具も一通り揃っている。


 オレは患者に酸素マスクをつけさせて、彼女の首にある頸動脈に麻酔ガンを当てて眠らせてから、徐に上半身の鎧下をハサミで切り裂き素肌を露出させると、そこには女性アスリートのような柔らかくて強靭な筋肉組織と、女性特有のカーブを持つ肋骨の間を破り肺まで届いた鏃が突き刺さっていた。


 位置的には右乳房のやや下で、肺の中央辺りだろうか。X線によるスキャンが必要だが、相手が女性の場合は腹部から下に放射線が向かないように注意が必要だ。もし子宮やその付近へのスキャンが必要であれば超音波エコーに切り替える必要があるが今は不要だろう。


 患者が全身麻酔により意識を失ったのを確認してから患部を消毒して鏃を抜きにかかるのだが、本格的な外科手術の場合は専門AIによるガイドが必要だ。


「システムコール。外科医AIによるARナビゲーションを頼む」


《システムより了解。サージャリーシステムのダウンロードを開始します。続いてドクターAIを起動中……》


 こうしてオレのメモリーにカリスマ外科医のノウハウがロードされて、眼の前のAR(拡張現実)表示により、患者の負傷した部分の解析画像と術式の手順が表示されるので、このガイドに従って出血している患部を切り開き、肺と血管に適切な処置を施して行く。






「うちの騎士を助けてくれて感謝する。先ほどは失礼な言動をして済まなかった。貴殿は治癒士だったのだな、改めて礼を言わせてほしい」


 大樹の前でフラフラしていた司令官らしき人物がやって来て、オレに頭を下げてくれたが困った時はお互い様だと伝えておく。


 ましてや友軍でオレより階級が上の方だと思うので、あまり丁寧な礼は要らないと言っておいた。それに、この女性も先程スキャンした時に肋骨を折っていたと思うので治療をしたいと言ったのだが────。


「これくらいなら大丈夫だ、心配してくれてありがとう」


 この時ヘルメットを脱いだ相手の顔を初めて見たのだが、その容貌は欧米人のような金髪碧眼でとても美人だった。

 ただオレたち地球人よりも耳が長かった様な気はするが、それはこの惑星人の特徴だと考えれば余り気にならなかった。《多文化共生》は今や普遍の概念だからな。


 そんな彼女が自分の胸に両手を当てながら、現地語のはずなのに何やら日本語っぽい発音で言葉を呟く。するとその両手に淡く青白い光が灯り、彼女の顔色が徐々に良くなって行く。


《システムより連絡。【SeyRay】システムに酷似したナノマシンによる治療行為を確認しました》


 彼女の説明では、エルフたちの一族は古くから精霊魔法と呼ばれる能力を持っており、その力は大気や水などの空間に遍く存在する精霊の力を借りて行使するスキルだと教えて貰った。

 これはよく言われる事だが、極度に発達した技術は魔法と見分けがつかないもので、この惑星ではナノマシンによる目に見えない事象等をまとめて《魔法》と呼んでいるのだろう。


 文明レベルが低く、彼女たちからすれば遥か未来の技術について、中世以前の言葉で説明するなら《魔法》が手っ取り早いのは判る。ちなみに彼女たちエルフが使う魔法は《精霊魔法》と呼ばれていて、他の種族では余り適性を持つ者が居ないらしい。


 因みに未来世紀でのナノマシンには大きく分けて2つのシステムがあり、【Seyray】とはオレたちJ隊が使用しているシステムOSを開発した聖光開発工業によるもので、もう一つは【Magical】と呼ばれて主に米国やヨーロッパ各国の軍で使用されている。


 また、この2つ以外にもナノマシンは存在するがシェアが少なすぎて割愛される事が多いのと、逆にナノマシンによって人に不利益を齎すシステムも存在するが、それらはひとまとめにして《ナノ・ウィルス》と呼称されている。


 そして目の前の者たちがオレと同じ【Seyray】を使えると知り、急に仲間意識が芽生えた訳ではないが、以前からの近しい間柄みたいな感じがしてきた。

 また彼女の他にも軽傷を負った者たちが居たが、ここに居る皆が精霊魔法の使い手で軽傷くらいなら自己治療出来るみたいだったので、オレは重傷者のみを受け持つ事が出来た。


 兵士たちの治療が一通り終わってから、ここに居る皆にオレが地球連邦軍の兵士だと説明したのだが、この惑星の人たちに理解して貰う事は最後まで出来なかった。


「カイセ様は天空人だったのですね?」


 天空人とは遥か昔にこの惑星へ降り立ち、文化や技術を伝えて文明を発展させた人々の事で、ある程度まで文明が発達するのを見届けてから天に帰ったと聞いた。


 恐らくこの惑星は、銀河連邦が未発達な文明に過度な干渉を行わないように隔離した《保護惑星》なのだろう。

 もしそうであれば、オレが先ほど行った先進医療技術も未開惑星保護法に抵触してしまう可能性はあるが、目の前の負傷兵を見過ごす事は出来なかったから、また同じ状況に陥れば治療を躊躇う事はない。


 例えこの惑星が保護惑星だったとしても、さすがに軌道エレベーターの1基くらいは何処かにあるはずだから、オレは期待と不安を胸に少しでも早く仲間たちの元へ戻ろうと思いを新たにする。

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