第03話 その名はマンダム
何やら周囲の状況がまだ良く理解出来ていないが、目の前に武器を持った未確認生命体が居て、こちらに対して敵対の意志ありと確認出来た場合に、オレたちJ隊が先ず最初に行う行動は決まっている。
「それ以上こちらへ近づくなら当方は自衛の為の行動を開始する。この通告を無視して戦闘を行うなら、それは明らかな敵対行為と判断し速やかに防衛行動に移らせて貰う!」
オレたちJ隊には古くからの伝統があり、それは例え相手が敵であったとしても可能な限り戦闘を避け、対話による問題解決を試みる事だ。
「「「Gobu! Gobu! Gobu!」」」
思った通りこちらの通告を無視した……と言うより、明らかに言語が通じていな感が半端無いが、錆びてボロボロの剣とか棒切れを振り回し叫びながら駆け寄って来る姿は、どう友好的に考えてもマトモな相手じゃない。
もしかして、こいつらは、この未開惑星の原住民なのか?
体長約130センチメートル、皮膚の色は緑色で体毛は少なく、子供くらいの胴体に年老いた男の顔を持つ、やや耳が長い人の形をした生物が3体、もうオレの直ぐ目の前まで来ている。
──ガキンッ!!
ボロボロに錆びた剣を左手のアーミーナイフで受け止め敵の筋力を計測したが、結果は腕力、そして体力ともに大した脅威では無いと判断した。
これならJ隊に居た軍用アンドロイドの方が遥かに手強い気もするが、それでもこれは立派な武力行使を受けたと言える。
オレは即座に3体の未確認生物を蹴り飛ばして戦闘を終了させるが、これは今回のケースのように例え敵意を持つ生物だとしてもその脅威性が極めて低く、相手を殺害してまで取り除く程の危険は無いと判断した場合の行動方針だ。
だって殺した後で未開惑星の住人だと判ったら取り返しが付かない事態になるならな。
こうして流血させる事無く対処した仮想敵たちがピクピクと痙攣しながら転がっているが、相手の無力化には成功したのでアーミーナイフを腰のホルダーへと戻し今回に限り見逃してやる事にした。
例え生命を狙われていたとは言っても所謂は子供くらいの力しか持っていない弱者だし、不用意に殺害すれば『1度の襲撃だけなら誤射かも知れない』なんて騒ぎ出すおバカな政治家もいるから、必要が無ければ無力化に留めておくのが無難なのだ。
それでも別の地球防衛軍の米国領出身者のみで構成された『Aチーム』の奴らなら、例え相手が子供だったとしても自分たちに刃向かった者を見逃すなんて甘い事はしないだろうが、オレが所属しているJ隊はキチガイヤンキー揃いの『Aチーム』ではなく、何より人道的行動を重んずるから無用な流血を避けるのはモットーなんだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その後もオレは深い森の中を延々と歩き続ける。
とりあえず最初の行動目標と定めた街道発見には至ってないが、まだ歩き始めてから、それほど多くの時間を費やした訳でもないので焦らずに歩んで行こう。
幸いな事にオレたち兵士の体内にはオートエネルギーシステムが搭載されているから、行軍するだけなら水を飲むだけで活動し続けられるだけのエネルギーを得られるのは有難いが、それでも内臓などの生体部分があるので最小限の食事は必要だ。要するに腹が減るということ。
「システムコール。異次元格納庫の中にある備蓄の状況報告を求む」
《システムより回答。現在のハンガー在庫を報告します。経口補水液500ml×1コンテナ、ミネラルウォーター2L×5コンテナ、カロリーブロック×2コンテナ、カップ麺×2コンテナ、AED及び応急セット×100ケース、野営用コテージ及び備品類一式を格納中です》
これらのサプライ品は部隊から支給された標準装備品の内容で、飲料水以外にカロリーブロックやカップ麺などもあり、当面の間はこれだけで生き延びる事が出来るとは思うが、これから先の事を考えると必ず何処かで物資の補給をしなくてはならない状況だ。
また、重火器とは言わないが、それでもハンドガンやライフルなどの火器装備が無いのはとても心細い気がする。
もしあったとしても、火器管制システムに復旧不可能なERRORが発生している今の状況では、満足に使用する事は出来ないけどな。
それにこの惑星に侵略者が居るとは限らないが、先ほどの『ゴブゴブ』としか言わない未確認生物が存在するのは判ったので、一刻も早くこれらのシステムエラーを復旧して火器管制が可能な状態に復旧しておかないと不味い。
時折り頭上から聞こえて来る変な鳴き声が聞こえる。樹々の間に切り取られた青空は澄み切っており、今のところ雨の心配は無さそうだ。
「クァアアアアーーーー」
「キュンキュン」
色々な鳴き声を発しながら飛翔する鳥類や竜属の姿を確認したが、今はアーミーナイフしか仕えない状況なので、あれらの獲物を狩って蛋白源を入手するのは少し難しい状況だと言える。
(あ~、何でも良いから肉が喰いたくなってきた)
そう言えば、ハンガーに格納されてるカップ麺の中に、サイズは極小だが【謎肉】が入っていた事を思い出すと何故か急に食べたくなった。
「システムコール。カップ麺を1つ、それと野営用備品から椅子とテーブル、あと湯沸しセットを出してくれ」
《システムより了解。ユーザーより12時方向、距離1メートルの位置に出力します》
体内にエネルギー炉を持つオレだが、脳のような有機化合物の部位と普通の内臓を持っているから腹が減る感覚が残されている。
俗に言うところの『機械の身体』を持つに至っても人間の三大欲求が消える事は無く、それらの欲求に関連する臓器は人格に与える影響が大きいため残されるケースが多い。
やや開けた森の中でアルミ製のテーブルセットの椅子に腰掛け、ポットの中にミネラルウォーターを注いでコンセントプラグを握り電圧を100ボルト、周波数を60ヘルツに設定して右手のコネクターから8アンペアの電流を流す。
(以前に電圧や電流値を間違えてポットを破裂させてしまい、上官殿に追いかけ回されたのは今では良い思い出だな)
一見するとただのティータイムにしか見えないが、こうしてゆったりと寛ぎながらレーダーとセンサーをフル稼働させて周囲の状況を常に把握すると同時に、ポケットサイズの小型ドローンを飛ばして付近の偵察を行う。
「システムコール。表示可能な範囲のマッピングデータを出してくれ」
『システムより了解。こちらがユーザーを中心とした半径10キロメートルの現況マップです』
(たった10キロくらいの索敵範囲では何も映ってないか……)
こんな何も無い辺境惑星でも、もしこの星がオレたち銀河連邦に所属する惑星であればGPSや星間ネットワーク、それにナノマシンを始めとした各種のインフラ設備が整っているはずなのだが 、何故か先ほどから通信すら確保されていない。
《システムより連絡。現在、惑星通信は依然として回復しませんが、不明なネットワークを検出しており、新たなIP接続を確立させるためのID及びパスワードを要求されています》
「システムコール。オレのネットワークIDはJアカウントを選択、パスは『J-hyuga1302』で試してみてくれ」
《システムより了解。現在、通信を確立中です。今回使用したアカウントとパスワードを管理マネージャーに保存します。システムより連絡、通信ネットワークは確立されませんでした》
(やはり、ここは未知の辺境惑星なのだろうか? とりあえず部隊との通信は先送りだな)
ここが辺境過ぎてオレたち軍のプロトコルと種類かバージョンに差異があり、機器の相性が悪くて通信が確保されないのではないかと考えるが、今はこれといった打開策はない。
《システムより連絡。メインメモリー内に新たなファームウェアの更新ファイルが保存されています。このデータを適用してシステムの更新を行いますか?【Yes or No】》
オレのシステムは、月面ラボへ入院した時に移植された臓器と合わせて更新されているはずなのに、ここへ来て直ぐにアップデートがあるのは少し違和感がある。でもそれが必要なアップデートなら受け入れる以外の選択肢はない。
「システムコール。ファームウェアの詳細を明示してくれ」
《システムより回答。ファームウェアのヴァージョンは『Rev9801-05-05-00A』です》
オレはファームウェアのバージョンナンバーに疑問を覚える。
何故なら今示されたファームウェアの最初にある『Rev』に続くシリアルナンバーは宇宙世紀を表す年と日付なので、あの日入院したラボで最新版へと更新されているのなら、その数字は『6969』で始まっていなければならないからだ。
だがそう考えるオレの認識の方が間違っている可能性もあるから、最初の4桁が日付ではなく、この場所で必要な情報の種別が記載されているとするなら、このアップデートを行う事で現在悩まされているシステム関連のエラーが改善されるかも知れない。
「システムコール。ファームウェアの更新とシステムのアップデートを承認する。あと、この惑星で必要な拡張パッチがあれば、それらも一緒に更新を頼む」
《システムより了解。これよりファームウェア更新及びこの惑星において必要と考えられる拡張パッチファイルの適用を開始します》
オレはカップ麺をすすりながら、システムの更新を待つ。
そう言えばシステムAIのランクを上げれば今のような『いかにも』機械的な会話から、まるで生きてる人と話してるような会話へと変更する事が出来た事を思い出す。
以前なら戦闘の最中に冗長な会話などもってのほかだと考えていたので、これまでその機能を使用する機会は無かったのだが、もしかするとこの会話用AIは現在の様に一人ぼっちで孤立した状況を想定し、兵員のメンタルケアを考慮して実装されていたのだろう。
「システムコール、周囲に敵影が無ければ第二戦闘配備へ移行する。AIのコミュニケーションレベルを通常会話モードに変更して、報告と連絡以外に予測的見解なんかも含めた、口語訳優先の会話方式に切り替えてくれ」
《了解しました。会話モードを日常報告レベルに変更します。現在ファームウェアの更新が完了して拡張パックのダウンロード準備を進めているのですが、これまで使用した実績が無いアーカイブを確認したので、システムへ組み込む前にユーザーの最終確認をお願いします》
「この異世界システム『MANDAM』と言うのは何だ?」
《はい、恐らくですが【異世界システム】と言う呼称は、言語翻訳の際に自動変換された当て字ではないかと推測されます。この惑星が辺境すぎて銀河連邦の管轄システムとは異なる言語体系に属するか、それとも過去に廃棄された惑星などのように、旧世紀の統治システムが残ったままでプロトコルが異なるのが原因だと思われます。ただ、このシステムを組み込まなければ、この惑星での環境データを始めとした各種サービスを受けられないようですから、ここで作戦行動を行うには必須のアーカイブだと思われます》
「それなら組み込むしか無いか。アドミニストレーター権限での実行を許可するのでやってくれ」
《はい、システムのアップデートを行いますので、あと5分程度のお時間を頂きます》
こうしてオレに新たなシステムが組み込まれる事となった。
《【異世界パック】Majical Unsubdued Neuro-link Drive Action Module(魔法による制限解除型脳思考連動行動用モジュール)の適用により、現システムを【異世界システム】へバージョンアップを行います。これにより【経験値取得適用】【ステータス再構築】【魔法&スキル対応】【ジョブ適用】がアクティベートされました。またナノマシン制御モジュール【Seyray】の設定更新も終わっています》
AIが次々と新たなシステムについて概要を説明してくれるが、そのどれもがこれまで聞いた事が無いモノばかりで戸惑いを隠せない。もしかして【異世界パック】とはオレたち兵士には不要なアーカイブだったのではないかと疑ってしまう。
《マスター、【ステータスオープン】と唱えて下さい》
まだ理解が追いついていないが、とりあえずAIの指示に従ってみる。
「ステータスオープン」
するとオレの網膜の内側に移植されているスマートモニターに、各種のステータス情報が表示されたのだが……。
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名 前:カイセ・クジョウ
年 齢:18歳
職 業:ジエイカン(銀河連邦・地球防衛軍・J隊・第3艦隊所属)
階 級:3曹
レベル:1(経験値:15)
属 性:N
耐久力:999
腕 力:75
敏捷性:70
器用度:55
精神力:80
魔 力:1
M P:1
S P:999999
スキル:亜空間格納庫、DRNドライブ、ナノシステム、レーダー・センサーなど
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オレだって子供の頃にゲームをプレイした経験くらいはあるから、これらの数値が何を表しているのか推測は出来る。
それで【レベル】が『1』で職業が『ジエイカン』なのは良しとしても、オレの他に比較対象が無いので、これらのステータスが高いのか低いのか全く判らない。
それに地球防衛軍に所属して階級が3曹なのはそのままだな、うん。あと【経験値】が『15』となっているのは、あの緑色の生物を殺さずに退けたのが理由だろう。なので3で割り切れる数値なのは納得だ。
《残念ながら現在の経験値はこの惑星へ来てからの数値で、以前までの戦績は反映されていないようです》
入隊してからこれまでの戦績が反映されていないという事は、もしかしたら大ケガしてJ隊から離脱した事が原因で、離隊処理をされた可能性すらありうるな。
とりあえずカップ麺も食べ終えた事だし、先ずはこの惑星の探査を行い軌道エレベーターを探す行動方針に変更は無い。それに月面基地での治療のお陰で身体の傷は全回復してるみたいだから、後は一刻も早く行動を開始しよう。
それと【異世界システム】をインストールしたせいでレベルが1からのスタートになってしまったが、道中で遭遇する敵性生物を撃破すれば元に戻せるのだろうか?
またシステムがアップデートされた事で、OS全体に不具合が発生していないかも確認しておく必要がある。特に重要なのは【レーダーシステム】【火器管制システム】【衛星通信システム】【亜空間格納庫】【ナノシステム】などの基幹モジュールだ。
【DRNドライブ】は従来の超小型核融合炉とは違う方式のリアクターみたいだが、今のところ問題無く作動している。
オレはそれらのシステムを次々と起動しテストを繰り返していくが、今回のアップデートでも【火気管制システム】のエラーは消えていなかった。
だが新たにインストールされたナノマシン制御モジュール【Seyray】については、アクティベートが成功し使用可能な状態となっていたので、これから色々と試していこうと思う。
こうしてオレはAIのナビゲーションを頼りに、この深い森の中を再び歩き続けるのだが、惑星ネットワークからの支援も無く歩き回ったせいで、この街道まで辿り着くのに3日間もの時間を要していた事になる。
「お、やっと街道を見つけたぞ!」




