俺は爺ちゃんの孫なのだろうか?
俺が小学生の時、爺ちゃんが死んだ。
一ヵ月前に死んだ婆ちゃんを負うようにあっさりと。
あまり感情を語らない人だった婆ちゃんと違い、爺ちゃんはまさに好々爺というような人で色々な人に好かれていた。
若い頃には随分とモテていたんだと爺ちゃんは自慢げに話していたが、結局のところは婆ちゃん一人に心を奪われていて、だからこそこんなにもあっさり死んだのだと俺は思う。
婆ちゃんの時と違い爺ちゃんの最後の挨拶には色んな人が来た。
知っている人も知らない人も……たくさんいた。
俺は泣いた。
爺ちゃんのことが大好きだったから。
「ほらほら。そんなに泣いてちゃいけないよ。お爺ちゃんも心配してお婆ちゃんのところいけないでしょ?」
そう言って幼馴染の少女は俺を慰めてくれたが、彼女もまた俺と同じくらい泣いていた。
後に聞けば何十歳も歳が離れているのに彼女にとっての初恋の人だったという。
――まったく、実に罪深い爺ちゃんだ。
***
さて、そんなことがあった夜遅く。
トイレのために目を覚ました俺はふと爺ちゃんのねむる部屋から声がしているのに気づく。
若い女の声だ。
それも複数。
――一体、何が?
恐怖より好奇心が勝った俺が扉を開けると、そこには若く美しい……そしてエッチな格好をした女の人が何人もいた。
「は?」
思わず声をあげると彼女達は振り返る。
皆、涙で顔を濡らしていたが俺の姿を見るなり笑い出す。
「あぁ、お孫さんだ。お孫さん」
「あー、話してたね。子供が出来るんだって」
「いや、だから孫だって。孫」
ぽかんと口をあけて見つめていると彼女達は肩を竦める。
「ごめんね、坊や」
「うん。お別れが済んだらすぐに出て行くからさ」
「あー、でも状況説明した方が良くない?」
「それもそっか」
彼女達の内の一人が俺の前に一歩進み出る。
本当に目のやり場に困るほどエッチな格好をしている。
いや、ぶっちゃけた話をすれば多分俺は彼女達のそういうところをガン見してたと思う。
まだ小学生だったし、そこら辺はとっても素直だったから。
彼女達もそれを悟っているのかクスクスと笑っていた――顔はまだ涙で濡れていたけど。
「はいはい。そういうところ見てないでとりあえず説明させてね」
彼女は少し屈む。
必然近くなるふくよかな場所。
これ、わざとやってないか?
「私達ね。全員が君のお爺ちゃんに恋していたのよ。もう何十年も前だけどね」
「そうそう」
「うん、とってもいい男だったんだよ」
「だけど、地味でぶっさいくな女に取られちゃってさぁ。本当にショックで顔も見たくないって思っていたんだけど……どうしても最期に顔だけ見たくてね」
彼女はくすりと寂しげに笑う。
「ま、今更だけど失恋女子会って奴? ま、すぐに居なくなるから今はそっとしておいてよ」
そっとしておくからもうちょい眺めていても良いかな?
そんなことを考えていた矢先、彼女がウインクをしてきて――それを見た途端、俺はそのまま何かに命じられるようにして自分のベッドへと戻ってしまった。
***
数日後、俺は『サキュバス』なる存在を知ることになる。
それから数年間は爺ちゃんの孫であることを理由に自分の下にも彼女達が来ると信じながら過ごすことになる。
――そして、十数年経った今。
「こんなにもモテない俺は本当に爺ちゃんの孫なんだろうか?」
腐れ縁の女友達に愚痴ってるわけだ。
「はいはい。分かったから。それで、そろそろ付き合う?」
「いや、もうちょっとだけ待ってほしい。もしかしたら彼女達がそろそろ来るかも……」
女友達は肩を竦める。
「ほんと、あんたはあの人の孫だとは思えないわね」