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第7話 状況説明(盗聴)

『ご存じでしょうが、かつて地上で悪魔と人間が争い合い……』


 ご丁寧に先生の解説が始まったわ。私は歴史の勉強もきちんと取り組んでいたから、そのあたりの内容は適当に聞き流した。勉学を疎かにしている学生や、かなり遠い他国からの留学生なら知らない可能性もある、という配慮かしら。


 これは歴史どころかこの世界の常識なのだけれど、地上と魔界は本来結界で遮られて、行き来できないようにされている。結界の楔は世界の各地に点在しており、シルフィールド学園がある場所もその一つ。そのため学園側は万が一の備えをしていたようだ。例えば、結界を修復できる者を内密に手配して、教師として置いておく、とか。


『ここに集められた者は、私も含めて皆白魔法の素質を秘めているのです。貴方達ならば、この学園内の綻んだ結界を再構築できる』


 白魔法。限られた者しか扱えない魔法の、更に一握りだけが扱える属性。結界を結び直せるのは、白魔法の使い手だけ。とはいえ、魔法に詳しくない私からしても、そう簡単に扱える術とは思えない。そこは第二王子も指摘した。


『素質があろうと、世界を守護する結界の再構築などという高度な魔法を習得するのは、私達だけでは少々難しいのではないでしょうか』

『殿下……』


 第二王子に続いた物静かな声は、知らない男のものだ。推測するなら、第二王子の護衛だろう。主人とそろって希少な白魔法の才能があるのかしら。すごい偶然だわ。


『難しいのは百も承知。貴方達には時間をかけて、白魔法の才能を磨いて貰います。先生も君達に教えつつ、共に切磋琢磨したいと考えていますよ』

『私も協力しますっ!』

『なんだかよく分かんないけど、世界を救えるってんなら協力するぜ!』


 前半の力んだ声は、ルーリィね。流石にあの子も緊張しているみたい。もしも彼女が、本当に世界を救えたとしたら。隠し子だから扱いには色々と困るとはいえ、少なくとも家の汚点にはならない。後半の明るい声は誰だろう。ルーリィのように花が銀へ染まった者が素質ありとみなされるのなら、もしかして八重国からの新入生かしら。これで大体全員かと考えていると、明るい声が更に言葉を発した。


『先生、ちなみに花が黒くなったらどうなんの? 入学式の時に、珍しい花の色の子が見てくるのが、ちょっと記憶に残っててさ』


 視線を送っていたのがバレていただなんて。推定八重国の彼、もしかしてかなり鋭いのかしら。


『花は魔力の属性を示す魔導具。黒は、魔界の魔力に反応するよう設計しています』

『……災いの予言、ですか』


 物静かな声の呟きに、身を固くする。やっぱり、そうなんだわ。私はまだ悪魔にはなっていないけれど、何故か魔界の魔力を宿している。両親ともに由緒正しい貴族の家系なのに、どうして。血筋は関係なく、そういう定めだとでも言うの?


『なら殺した方がいいんじゃないか?』


 推定八重国の新入生、明るい声でさらっと物騒な提案をしてくるわね。別室なのに、首元に刃を当てられたようなひやりとした心地がしたわ。


『殺すなんて、そんな……!』

『おや、何か意見がありますか、エディト・ローエン君』

『……い、いえ。殺すまでしなくても、とは、思います、けれど……』


 エディト。私の婚約者も、選ばれていたのね。懐かしい声は私を庇おうとしたのだろうか。けれど、周囲の反応に気圧されて、強気で反対するには至らなかったのだろう。お優しくて気弱な彼らしいわ。少しでも同情してくれただけ、ありがたいと思うべきなのかしら。


『先日や本日のように空が変貌したのも、彼女が関わっているのかもしれない。何らかの措置をとる必要があると思いますが』


 第二王子の声に、まあそうよね、と頷く。王族としても当然の発想だし、私もそうすべきだと思うわ。例えば、即退学にして教会送り、とか。学園生活、一日にして終わりを告げるのかしら。


『助けてあげようか』


「……黙りなさい」


 ここぞとばかりに誘惑の声が混ざってくる。見え透いた罠になんて、引っかかったりしない。このまま耐えて、我慢して、そうすれば、いつかきっと。……どうにもならなかったとしても、死んだ方がいいのかもしれない。だって私が本当に世界を滅ぼすなら、今すぐにでも消えるべきだわ。そうでしょう?


『ダメですっ!』


 場違いなほど元気な声が、ガツンと脳内で響いた。


『クロリンデ様は絶対に死なせません! 例え彼女が災いの原因だとしても、私が止めてみせます!』

『おや、何か策があるんですか、リリア・キャンベルさん』

『な、ないですけど……! でもそんな展開、私はイヤなんです! こんなのあんまりです、絶対認めたくない!』


 まるで子供が駄々をこねるみたいだった。予言書の内容を自信満々に語る時と違って、何の根拠もなく、無力な感情の発露に過ぎない。


「……馬鹿な子ね」


 本当に、訳が分からない子。勝手に私の過去を理解した気になって、勝手に憤慨して、勝手に救おうとするだなんて。……でも。


『では、ひとまず経過観察としましょう。先生の方でも注意しておきま──』


 ノーレス先生が結論を述べている途中で、声はぶつんと途切れた。ややあって廊下から騒がしい足音が響いてくる。ガチャガチャと何度もドアノブが揺れ、豪快に扉が開かれた。あの時と、同じように。


「クロリンデ様―っ! 魔物に襲われたって本当ですか、ご無事ですか!?」


 前のめりな姿勢でぐいぐい寄ってくる彼女を、後ろからノーレス先生が苦笑交じりに眺めている。本当に、引いてしまう位の勢いだわ。


「お行儀が悪いわよ。落ち着きなさい」


 私は何ともないから、と。苦笑を浮かべつつ、ルーリィへ返答する。


 ほんの少しだけ。本当に私を助けたいと思ってくれているの、だなんて。尋ねたくなった自分を、まだ認めたくはなかった。


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