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第45話 救夜祭イベント

「クロリンデ様、誘ってくれてありがとうございます!」


 浮かれたルーリィが、活気に負けじと声を張り上げる。テストを無事終えたのもあってか、彼女は大変はしゃぎまくっていた。きょろきょろと街を見物しては嬉しそうに声を上げる姿は、まるで幼い子供のようだ。最近悪魔のせいで散々な目に遭ったからか、暗さを感じさせない彼女の様子を見ていると、何というか……悪くない気分になった。


「えへへ、推しとデートなんて夢みたい! あ、あの店の飾り、背景で描かれてたのと同じやつ! うわー、広場のクリスマスツリーも一緒だ!」

「くりすます?」

「えーと、元の世界での救夜祭に近いイベントでして」


 ルーリィから説明を受けつつ、設置されたツリーを仰ぎ見る。世界が異なるのに、似た催しがあるなんて不思議ねと呟くと、まあ異世界でもバレンタインデーとクリスマスは大体あるのがセオリーなので、と返された。そういうもの、らしい。 


「ルーリィ、折角の祭りなのだから、行きたい場所はあるかしら。付き合うわ」

「えっ、いいんですか!?」


 目を輝かせる彼女を見て、正しい提案だったと胸をなでおろす。つまり誰かと外出する時は、トラヴィス様の時のように用事に付き合えばいいのね。予行演習をしておいてよかったわ。


「じゃあ一緒に店を見て回りましょうよ!」

「きゃっ、もう、落ち着きなさい!」


 ぐいぐいと手を引かれ、驚きつつもついていく。以前の私だったら、馴れ馴れしくしないでと手を振り払っていただろう。まあ今回の外出は彼女の為でもあるし、特別に許してもいいかしら。


 色とりどりの飾りで彩られた屋根。通行人を呼び止めようとする出店の主人。祭り限定と値札に書かれた小物。これらをじっくり見るのが初めてなのは、私も同じだ。つい様々なものに興味を示してしまう自分に戸惑いつつも、悪い気はしなかった。


 店を見て回り、彼女の好きな八重国の料理店で食事をし、今度はケーキ屋に連れていかれ二人で祭り限定のケーキを味わう。更にまた店を巡り、と濃密な時間を過ごすうちに、日はゆっくりと傾いてきた。飾りの幾つかに光がともり、祭りはまだ終わらないと主張している。夜の星が地上に降りてきたような明るさだった。


「ライトアップ、綺麗ですねー!」

「……そうね」


 ツリーに付けられた大量の照明が、リズミカルに点滅している。トラヴィス様との予行演習を踏まえ、実用的な用事に関連した計画を立てていたのだけど、いつの間にかルーリィの勧めるままに行動していた。私が決めたのは、精々予約しておいた料理店位。でも、彼女は始終はしゃいでいたから、それでよかったのかもしれない。


 楽しそうな人々の笑い声は夜の暗さを弾き飛ばし、明るい空気を醸し出す。実家にいた時には、こんな空気を味わったことがなかった。だから今回の出来事が、とても貴重な時間のように感じて。感謝の言葉は、思いのほかすんなりと口から零れ落ちた。


「今日はありがとう、ルーリィ」

「私の方こそ、ゲーム未実装の推しとのクリスマスイベントを味わわせていただいてありがとうございます!」


 感謝し返された内容に、少しばかり眉を顰める。他の男性方に対しては流してきたけれど、いざ自分の行動を予言書と照らし合わせられると、釈然としない何かを感じる。とはいえ、私の悪魔堕ちを回避する為に彼女の知識が必要なら、仕方ない面もあるだろう。


 正直な話、彼女を誘う選択が正解だったのかどうか、確証が持てない。本来は攻略キャラと過ごすものらしいから。まあ、今まで色々と協力してくれた感謝の気持ちもなくはないのだし、ルーリィの元気が出たのなら、ひとまずは良しとしよう。


 これで本当に私のルートとやらに進むとしたら、その道筋は予言書に書かれていない。いつ独自の問題に発展するかも、まるで分からない。他の方々だと、救夜祭当日すぐ事件が起きる場合もあるみたいだから、油断はできないわ。


「クロリンデ様ルートがあるなら、やっぱり悪魔堕ちの危機乱発ですかね」

「面倒事はなるべく遠慮したいわ」


 新しい腕輪をつけてから悪魔と遭遇していないし、妙な声も聞こえなくなった。このまま何事もないといいのだけれど。服で隠した銀色のそれにちらりと視線をやってから、私はこの日の為に用意したプレゼントを取り出した。


「受け取りなさい、ルーリィ。夏よりも成績が上がったご褒美よ」

「えっ!? 私にプレゼント!? クロリンデが私に!? いいの!?」


 驚きのあまり私を呼び捨てにしつつ、おっかなびっくりといった様子で指が包装紙に触れる。早速包みを破いた彼女は、しげしげとそれを眺めた。


「これ、羽ペンですか?」

「今使っているものは大分傷んでいたでしょう。新しいペンで、次の試験はより一層頑張りなさい。上質な素材を使用しているから、指への負担も軽いわよ」

「べ、勉強関連……クロリンデ様らしい気はしますけど」


 黒い羽根のついたペンを、ルーリィはくるりと指の中で回す。それから持ち手部分をツリーの明かりにかざし、あっと声を上げた。


「これ、桜の絵が彫ってある?」

「ええ、そうよ。貴方は八重国の物を気に入っているみたいだから」


 食事も八重国料理が好みだし、ヒノとはよく八重国の文化で話が盛り上がっていたから、この花も好みかと思ったのだけれど。桜の花びらを震える爪先でなぞり、ルーリィはぐっと俯く。顔を上げた彼女は、笑うのを失敗したようにくしゃりと顔をゆがめた。


「あはは……、こんなの貰えるなんて、ゲームでも初めてで驚いちゃいました」

「それはそうでしょう。私はリリアではなくて、貴方に贈ったのよ」

「私の、ために?」


 ペンを胸元に引き寄せ、揺れた声で呟かれる。信じられない、という風に。どうして私が、ろくに知らないリリアの為に物を用意すると思っているのよ。この子、結構リリアの事を気にしているのかしら。


「少しでも勉学にやる気を出せるよう、貴方の為に作らせたの。次はより上位を目指しなさい、貴方ならやれるわ。私もついているのだから」

「え、あ、えーと……まだ付きっ切りで勉強を?」

「貴方、見張っていないとすぐ怠けるじゃないの」

「うっバレてる……」


 ルーリィは気まずそうに頭をかいてから、へにゃりと笑った。ありがとうございます、と大切そうに抱えて頭を下げられる。その目は潤んでさえいた。そんなに、推しである私に貰えて嬉しいのかしら。


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