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第40話 好感度より名声重視

 ダンスパーティで、この私クロリンデ・ハドリーの評判は乱高下した。性格の悪さゆえに公衆の面前で婚約者から破談を言い渡された、惨めな令嬢。踊る相手がいないからと学園の催しで外部の男を呼んだ、恥さらしの尻軽女。賢者と親密な関係である跡取り娘。そして王族とその懐刀、更には八重国の重鎮一族にコネがあるハドリー家。総合的に判断すれば、知名度はいい方向に上がったと言えるかしら。


「いやいやいや、だからってあのノーレスと婚約はマズいですよ! 大体いつの間に名前で呼ぶほど仲良くなってんですか。リリアでさえ、最後までノーレス先生呼びだったんですよ!?」

「婚約はただの噂よ。呼称も、その方が都合がいいと互いに判断しただけ。それと、食堂で騒ぐのはやめなさい」


 私の話を聞いて素っ頓狂な声を上げたルーリィを窘める。周囲のテーブルからよこされる視線は、評判の効果か蔑みだけではなかった。ローエン家との婚姻以上に話題性のある相手なだけある。


「そういう貴方こそエディトと踊ったでしょう。私の代わりに婚約する気はないの」

「私は別にエディト推しじゃないですし。ていうか、あっさりしすぎてませんか」

「彼との婚約は、家同士の話し合いによるものよ。取り乱すような仲ではないわ」


 紅茶を飲みつつ、淡々と告げる。あの夜、ルーリィは結局ホールへ戻ってこなかった。私を探しに出たものの、戻り辛くて自室に籠っていたらしい。だから、私の痴態を耳に入れる機会はなかったはずだ。


 エディトとの破談に、全く動じなかったと言えば嘘になる。ユークの前でみっともなく叫んで取り乱したなんて、絶対に知られたくない。悪魔に襲われた所をまた彼に助けてもらい、そのまま手を組んだという簡単な説明を、ルーリィは深堀りしなかった。


「クロリンデ様は、エディトと私にくっついて欲しいんですか」


 カップを傾ける動作を止め、声の主へ視線を向ける。色の薄い青瞳がこちらの反応をじっと窺っていた。いつも機嫌よく食べているデザートよりも優先された質問内容に違和感を抱きつつ、返答する。


「彼に限らず、特専クラスの方々なら全員、立場上申し分ない相手だとは思うわ」

「……ですよね。ハドリー家の為にもリリアを貴族と結婚させたいって思いますよね」


 少し言い換えられただけなのに、妙な引っ掛かりを感じた。それに目の前の表情は、どこか影を帯びているようだ。ついでに食堂の奥からは、彼女を案じる視線が突き刺さってきていた。エミリオは幼馴染に対して随分過保護だ。


 ルーリィが何を気にしているか分からないまま、カップを置いて一息ついた。どうやら何か勘違いしているようね、と前置きをしてから続ける。


「先に確認しておくけれど、貴方は特専クラスの方々を好いてはいるのよね」

「好きっていうか、嫌いではないですけど」

「なら結婚するのに何の問題もないじゃないの」

「短絡的すぎません!?」


 ぎょっとしつつ反論され、やっぱりねと呟く。生まれ故郷でも平民らしい彼女は、婚姻についての意識も貴族とは随分異なる。恐らく、感情の伴わない政略結婚へ抵抗感があるのだろう。


「私達にとっての最優先事項は、家柄の存続。その為なら感情なんて二の次よ。生理的にどうしても我慢できないわけでもないなら、十分好条件だわ」

「じゃあクロリンデ様はノーレスと結婚できるんですか」

「当然よ。賢者との婚姻なんて名誉なことだもの」

「ならミミズみたいな伯爵とでも結婚できますか」

「人間ならできるわ」


 ミミズみたいなって、どういう例えよ。人外だと子孫が断絶しかねないので補足しつつ頷くと、もっと自分を大事にしてくださいよお、と机に突っ伏される。行儀の悪い、いつものルーリィだった。


「パーティで私の立場は無事保たれたのだし、貴方にもハドリー家の存続を担わせる必要は現時点ではないわ。そこは安心なさい」

「クロリンデ様の今後の方が心配ですけど!? うーんやっぱりシエルとかをお勧めした方がいいのかな……」


 ルーリィはシエル様、トラヴィス様、ヒノのサブイベントを生き生きと語り出した。付き合うならこの三人がおススメだから、らしい。エディトを除外したのは婚約解消の件も影響しているのだろう。あれ以降顔を合わせても互いに避けているし、今更勧められても困るからいいのだけれど。そして問答無用で候補から除外している辺り、攻略キャラなのにユークの事が相当苦手らしい。やっぱりこの子は、リリアとかなり性格が異なるのでしょうね。


 攻略キャラについて力説する様子からは、先程までのどこか暗い眼差しが掻き消えていた。それにほっとしてから、私は適当に相槌を打ちつつ食後の紅茶を味わうのに専念することにした。




※※※




「最近、ルーリィの様子が少しおかしいのです」


 そうエミリオから告げられたのは、図書室でルーリィ用の資料をかき集めている時だった。丁度私が一人行動をしている時を狙ったのだろう、自然な動作で本棚の前に立つ。


「どうやら何か悩んでいるようなのですが、おれが尋ねても言葉を濁されるばかりでして。お嬢様は理由をご存じではないでしょうか」

「次の試験の成績でも気にしているんじゃないかしら」

「クロリンデ様のお陰で赤点を余裕で回避できそうだと喜んでいたので、それはないかと」


 赤点回避程度で満足されては困る。もっと問題集の量を増やした方がいいかしら。本棚からお目当ての本を取り出しつつ、何でもない風に本の整理をしている使用人を横目で盗み見た。本当にこの男、かなりルーリィを気遣っているわ。まあ身内相手と主人で対応が異なるのは、当然ではあるわね。うちの使用人は全員私と業務上の報告しか殆どした事がないのだし。


「予言の分岐点が迫っているのを、気にしているのではなくて?」


 次の試験から数週間後の祝日である、救夜祭。ルーリィ曰く、これが最後の共通イベントだとか。その後は個別ルートとなり、恋愛関係となる相手と過去やトラウマを乗り越えたり、学園の結界が破壊されたり、悪魔となった私が様々なパターンで死んだ末、世界が救われる。私の死亡回避を狙うルーリィからすれば、警戒するのも当然だろう。


 このまま私が悪魔にならないにしても、迎えるのは予言書とは違う道筋。何かにつけて『境界のシルフィールド』を妄信しがちなあの子が、予測不能な展開を対処できるだろうか。間違いなく狼狽えそうだわ。もしもの時はルーリィの相談に乗ってやりつつ、どうにかするしかない。無計画なのは百も承知だけれど、現実なんてそんなものだ。予想外の展開なんて、そこかしこに転がっている。


「クロリンデ様、どうか、ルーリィを元気づけてやってくれませんか」


 使用人にそう頼まれたのも、やはり予想外だった。本の背表紙に人差し指を当て、軽く力を籠める。自分でどうにかなさいと告げつつ、脇に新たな資料を抱えた。


「ルーリィは貴方の事が大好きなんです。おれが励ますよりずっと喜びますよ」


 推しキャラだと力説する彼女を思い出し、ゆるく首を振る。エミリオの言う好意とそれは、本当に同じものなのだろうか。腕にのしかかる重みの題名を視線で何度もなぞる。知識について端的に説明しただけの表題を見ていると、少し心が落ち着いた。


「……考えておくわ」


 無下に一蹴せず、そう返答する。以前なら無視さえしていたあの子への対応の変化は、私にとって何を意味するのだろう。それは、どの感情でラベリングされるものなのか。浮かびかけた疑問を、些末な事だとかき消す。私は死にたくない。だから多少の不満は飲み込んで、彼女の機嫌を取るのを優先すべきだろう、と。

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