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第20話 シエルルートとは

 寮へと戻り、自然な流れで私の部屋に入ったルーリィは早速詫びてきた。


「特別課題は本来魔物が出現しない割と平和なイベントだったから、油断しちゃいました……すみません」

「謝らなくてもいいわ。別に貴方のせいではないでしょう」


 予言書と食い違う展開になるたびに謝る気かしら、この子。そもそも予言から外れるべく試行錯誤しているのだから、未知の事件が起きるのはむしろ喜ばしいと言えるでしょうに。知らない展開だと不安になる気持ちの方が大きいのかしら。


「では今後どうなるかも、予測はつかないのね」

「力及ばず申し訳ないです……」

「責めていないわよ」


 トラヴィス様が先生に情報伝達はすませているし、とりあえずやれることはやった。後はシエル様がその後の調査次第かしら。そう言えば魔物が出る直前に、彼が何かを発見したと報告していたような。


「シエル大丈夫かな……。一人で残るなんて、ホラーだと絶対死んでるよ」

「し、死ぬですって? まさか彼、相当危険な状況に」

「いえ、お約束の死亡フラグっていうか、まあ大丈夫とは思います、普通なら」


 やけに不安をあおる言い方に、尋ねようと思っていた内容が頭から消し飛んだ。お約束の死亡フラグというのも、予言の一種なのかしら。


「うーん、好感度を上げ過ぎたせいで、逆に同行を断られちゃったのかな……」

「第二王子をそこまで虜にするだなんて、貴方何をしたの?」

「大したことはしていませんよ。シエルの過去とかトラウマはルートで把握済みなので、それを参考にしただけです」


 相手の弱点を詳しく知れるだなんて、ルートって便利ね。シエル様の弱みを彼女に聞いていれば、決闘を取りやめにできたかもしれないわ。


「シエル様の過去というと、王位継承権の立場に関係する事かしら」

「はい! 本人の気持ちをよそに渦巻く陰謀、天才な兄へのコンプレックス、それが彼のルートのメインテーマです!」


 この子、オトメゲームについて話す時は、やけにテンションが上がるわね。予言書ってそんなに人に語りたくなるものなのかしら。


「シエルは人一倍努力してきたのに、いつも目立つのは兄の方。トラヴィス以外は、自分を利用しようとする連中ばかり。そんな中リリアが寄り添い支えとなって励ます事で、吹っ切れて自信を取り戻していくんです! 兄との決闘からの和解シーンは、結構好きなんですよねー」

「そ、そう……」


 つまり、ルートでは相手がどのような過去を抱えているかだけでなく、リリアによる昇華方法も記されているのね。


「待って、世界の滅亡はどうなったのよ」

「ちゃんと解決していますよ。どのルートも、最後はリリアと攻略キャラで協力して結界を修復させるのは、大体同じですから」


 シエル様について語っていた時より、若干雑な説明ね。結界の修復が恋愛成就のついでみたいなノリじゃないの。色々と気になるところはあるけれど、私が悪魔堕ちせず、ルーリィがシエル様と結ばれたら、結界問題は無事解決され、私も死なないわよね。隠し子とはいえハドリー家と王家が婚姻関係を結ぶのも、悪くない展開だわ。そうと決まれば今から準備を始めておくべきかしら。


「王妃として選ばれるなら、私も貴方を認めざるを得ないわね。まずは相応しい品格を身に付ける為に、貴族としてのマナーを直々に教えましょう」

「未来予想図が先走り過ぎでは!? シエルルートは結構好きですけど自分が恋愛したいって意味じゃないって言うか、クロリンデ様の為に好感度を稼ぎたかっただけで」

「使えるだけ使って後は用済みだなんて、罪な女ね」

「うう……からかわないでくださいよ、もうー!」


 こちらは大真面目だ。ルーリィだってシエル様を嫌ってはないのなら、何も問題ないわよね。本当に彼女が彼に嫁ぐのなら、ハドリー家の恥とならないよう、しっかり教育しないといけないわ。こちらがやる気を出しているのとは裏腹にルーリィは及び腰で、その日は珍しく、彼女の方から早々に自室へ逃げ帰っていった。今後部屋から速やかに追い出したい時は、勉強書を渡せばいいのでは、と私は閃いたのだった。




※※※




 少し聞きたい事があるのだが、とシエル様に呼び止められたのは、裏庭の件から数日後の事だった。決闘の宣言をつい思い出して、身構えてしまう。しかも珍しい事にトラヴィス様を同伴しておらず、私も丁度一人でいる時だったから、余計に目的が分からず警戒した。


「先日の探索の時に、何かが落ちているのを見かけなかったか」

「何か、とは何ですの?」


 そんなふわっとした情報だけでは分からない。私が何度も問い返すと、ようやく彼は渋々といった体で口を開き直した。


「……ブローチだ。王家の紋章が刻まれている」


 見かけていないと正直に伝えると、そうかとシエル様は目を伏せる。あの時に落としてしまったのなら、彼と一緒に行動していたルーリィの方が、心当たりはありそうよね。そう伝えるも、そこまではいいと拒まれた。


「リリアなら気付いた時点で私に伝えてくれただろう。知らぬままなら、それでいい。無暗に気を遣わせるのも忍びない」


 ルーリィへの信頼が高すぎるわ、殿下。そしてうっかり落とし物をしてしまったなんて、彼女にはバレたくないのかしら。私相手なら知られてもいいかという扱いの差を感じるわ。


「裏庭でなくされたなら、あの後ノーレス先生が拾われたかもしれませんわね」

「それはもう確認済みだ」


 トラヴィス様の話を聞いた先生はもう一度結界を修復した後、ここは先生が調べますと自ら申し出た。あまりにすぐ結界が駄目になりかけたのを、不審に思っているのでしょうね。そのまま先生が呪いのアイテムを発見してくれたら、楽に終わるのだけれど。


「まあいい、どの道大したものではないからな。突然呼び止めてすまなかった」


 口早に告げ、シエル様は速足で去っていった。


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