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第2話 異世界転生者兼乙女ゲー主人公兼腹違いの妹兼自分の推し

「ですから、彼女は災いをもたらす娘として教会で審議のほどを」

「そういうのいいですから! これ以上冤罪をかけるなら、父に頼んで無理やり連れて帰ります!」

「しかし嫌疑が確定するまではと……、まさか教会への寄付を打ち切るという意味ですか!?」

「えーと……、まあそんな感じです!」


 少女の強気な交渉の末、とうとう私の冤罪は晴れた。そして今、家に帰るべく馬車から外の風景を眺めている所だ。久々の夕焼けが、目に眩しい。


「えへへへへ、クロリンデ様と相乗りできるなんて夢みたい……」


 そう、馬車の向かい側に座る、自称妹と一緒に。


 父の名を振りかざすなんて、この女が私の腹違いの妹というのは本当なのだろうか。隠し子なんてこちらは初耳だというのに、膝を突き合わせるほどの近距離で、爛々とした眼差しを向けてくるのはやめて欲しい。


「私は『境界のシルフィールド』のヒロイン、リリア・キャンベルです。貴方とは異母妹という設定で、この度異世界転生をしちゃったみたいでして」


 改めて訳の分からない自己紹介をされ、頭痛がしてきた。全部正直に話せとは言ったけれど、あまりにも意味不明すぎる。


「他人にも理解できるように説明をしなさい。そうでなければ、こちらも判断のしようがないでしょう」

「はい! 素のクロリンデ様って、生真面目委員長タイプだったんだ……!」


 早速話が通じない返答をされた。イインチョウとはどういう意味なのかしら。彼女の経緯には然程関係がなさそうだから、ひとまずそこはスルーしておくとして。異世界転生というのは、まだ何となく想像がつく言葉だわ。


「貴方はつまり、異なる世界から転生してきたと言いたいのかしら。まさか魔界から?」

「いっいえいえ、違います! 私は日本生まれ日本育ちでして!」


 彼女はぶんぶんと首を横に振って訂正した。人間が暮らす地上の世界と、悪魔が住まう魔界。それらとは異なる別の世界で、彼女は暮らしていたのだという。そしてある日、不運にも車(機械仕掛けで走らせる馬車らしい)に轢かれて、気付いたらこの世界の『リリア・キャンベル』の身体に意識が移動していたそうだ。それとも、別世界での前世を唐突に思い出しただけなのかしら。


「『境界のシルフィールド』とは何なの?」

「えーと、物語の名前と言いますか、そもそもこの世界は乙女ゲームで」

「オトメゲーム? 大陸の名前すら把握していないだなんて、無教養ね」

「ええーと、そういう意味じゃなくて……」


 どうやらオトメゲームとは、挿絵の載った小説のようなものらしい。『境界のシルフィールド』は数ある物語の一つにすぎず、ただし普通の小説と違い様々なルート──分岐の可能性も描かれているのだとか。


 それ、本当にただの小説なのかしら。実際私のいる世界は、こうして存在している。つまりオトメゲームとは、異なる世界について記された予言書。しかも本が出版されているのと同じくらいのノリで、様々なパターンを網羅した予言書が生産されているのかもしれない。


「さぞかし優秀な予言者や魔法師が数多く存在するのでしょうね。興味深いわ」

「そ、そんな大層な意味じゃ……そこは真剣に考察しなくてもいいですので」


 何故か目線を泳がせながら、彼女はそう突っ込んだ。正当な評価をしただけなのに心外だわ。


 そして予言書『境界のシルフィールド』は、リリア・キャンベルや彼女を取り巻く環境について事細かく記されているらしい。主な内容は、春から入学する予定の学園生活一年分。数多くの条件を網羅した予言書だなんて、とても便利と思ったけれど、たった一年だけでは、あまり当てにならないのではないだろうか。それともその一年が余程重要なのかしら。


「その間に世界が滅んだり、ヒロインが誰かと結ばれて世界を救ったりする展開になっていまして」


 とても重要だったわ。婚姻関係を結ぶのは兎も角、世界の存亡がかかっているのは、確かに予言書として記すに値する内容ね。


「それで、クロリンデ様はどのルートでも死亡しちゃうんです」

「何ですって?」


 事細かく記載された予言書から、死亡宣告をされてしまった。悪魔の寵児扱いされるのも酷いが、それはそれで酷い。


「まあ、世界を滅ぼす敵側で、悪魔として生きているルートなら一応ありますけど」

「悪魔!?」

「しかも悪魔になるのは全ルート共通です」


 なんということ、悪魔の寵児という災いの予言は当たっていたのかしら。私が世界を滅ぼしてしまうなんて話が仮に本当だとしたら、末代までの恥だ。生き恥を晒す位なら、潔く火刑に処された方が真っ当な末路に思えてくる。


「ひどすぎる未来だわ」

「本っ当ですよ! もう私もそこが納得いかなくて!」


 彼女はこぶしを握って勢いよく立ち上がり、狭い馬車の天井に頭を激突させた。額を撫でて座り直しつつ、鼻息荒く予言書への不満をぶちまけだす。


「なんで毎回クロリンデ様死ぬの!? 和解生存ルートあってもよくない!? ってすごく納得いかなかったんですよね! 性格自体も元々は普通にクールビューティっぽいのに、環境のせいで歪められまくって、不遇の色気枠悪魔令嬢化して死亡確定ってあんまりですよ!」


 勢いが強すぎて、自分の末路への主張なのに若干引いた。それに、色気枠悪魔令嬢だなんて珍妙な造語だ。私は悪魔になったら、淫乱になってしまうのかしら。これでも貴族の娘として貞淑に生きてきたし、痴女への憧れなんて微塵もないのだけれど。


「つまり、私はリリアよりクロリンデ派! クロリンデ様が推しだから、貴方を助けたいんです! 納得していただけましたか!?」

「え、ええ……。いえ待ちなさい、そもそも推しって何なの」

「貴方の絶対の味方です! 言うなればファン! 人気投票でも貴方一択です!」


 推しとは一体何なのか。やはり意味が分からなかった。というか、熱意が凄すぎて脳が理解を拒否した。


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