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第18話 特別課題(ゲーム設定)

 ユークレース・ノーレステッド。史上最年少で、魔術師として最高位の称号である賢者となった天才。白魔法の一種である結界の操作や修復を行えるだけでなく、多様な属性の魔法も扱える。どの国にも中立的な立場を取り、世界中の結界の修復に努めているのだとか。ここまでは、普通に調べる範囲で得られる情報だ。


 恐らく彼はその能力を見込まれ、教師として雇われたのだろう。魔法で姿を変えたのは、賢者の正体がバレて騒ぎになるのを避けるためか。学園側としても結界の崩壊という危機が迫っているから賢者を頼ったなんて、隠しておきたいに違いない。


「本性があんなに適当なちゃらんぽらんだなんて、賢者の推薦基準に人格も付け足すべきではないかしら」

「あれで能力はチート級だから猶更厄介なんですよねー……」


 私のぼやきに、ルーリィが遠い目をして同意する。彼女はすっかり私の部屋に押し掛けるのがお馴染みになっていた。私も大分抵抗感が薄れてきたので、慣れとは怖い。


「あの人もリリアと恋に落ちる可能性があるの? 悪魔もだけど想像ができないわね」

「リデルは結構分かりやすいから、まだいいんですよ。でもノーレスは選択肢による好感度変動が若干ランダムだから傾向が分かり辛いんですよね。独自性を演出したかったんでしょうけど、正直面倒だったなあ」

「受け答え時の反応が時と場合で変動するなんて、よくあることでしょう」

「えーと、乙女ゲーだから本来その辺は固定と言いますか」


 どのような会話をすれば相手から好かれるかほぼ分かるなんて、とても便利な予言書ね。まだまだ異世界の予言書への理解が及ばない面が多いわ。


「まあノーレスは好感度低めでもエンドは目指せる代わりに、ラブラブ度も控えめ、みたいな」


 らぶらぶ……あの男が……やはり私の脳では、まるで想像できなかった。


「特別課題についても、『境界のシルフィールド』に記されているの?」

「はい。ヒノについていくか、主従コンビと行動するか、それとも先生の調査を手伝いつつ、リデルのちょっかいに遭うかの分岐があるんですよ。一緒に行動する相手の好感度も上がる固定イベントです」


 最後の分岐は厄ネタ満載な予感がすごくする。それにしても、一緒に行動する相手の好感度が上昇する、ね。薄々予想してはいたけれど……。


「まさかリリアは、私の婚約者と恋仲になる可能性もあるの?」

「そ、それはえーと……。私はエディトルート好きじゃないですから、絶対にフラグは回避します! ご安心ください!」


 家族同然の幼馴染はまだいいとして、八重国の新入生や第二王子にその護衛、悪魔に賢者、果ては私の婚約者とも関係を持つなんて、節操がなさすぎじゃないかしら。私の腹違いの妹は、とんでもない魔性の女なのね。婚約者略奪なんてスキャンダルを回避しようとする辺り、ルーリィの方がまだまともなのかしら。まあ、ハドリー家の不名誉とならないのなら、あの男を取られようと、気にするつもりはないけれど。


「予言書にもあるなら、見回りで何かあっても無事解決できそうね」


 私の言葉に、ルーリィは困ったように視線を泳がせた。ちらちらと私を窺いつつ、大筋は分かるんですけどと答える。


「最終的に、学園のどこかに結界の崩壊を促進させる呪いのアイテムがあると判明するんです。それを破壊できればイベントクリアなんですけど、ゲームだとそれを隠したのはクロリンデ様なんですよ」


 当然ながら、身に覚えは全くない。つまり予言書を当てにできなくなってしまった。流石に全てさくさく解決とはいかないものね。


「多分、リデルが代わりに隠したと思うんですけど……隠し場所はそのままかもしれませんし、一応念入りに確認してみる予定です。エミリオにも調べてもらうよう頼んでいますし」


 そう言えば、彼に何か頼んでいたわね。うちの使用人にあまり危険な仕事をさせて欲しくないのだけれど、エミリオならリスク管理が上手だし大丈夫です、とルーリィは自信満々に言い切った。主人の私より理解しているというか……まあ予言書と幼馴染としての記憶があるのだから、そんなものかしら。


「結界が完全に壊れてしまう前に、急いで全てのアイテムを見つけなくてはならないのね」

「シナリオ通りなら夏までには終わりますよ。遅くなっても、最悪ノーレスがどうにかしてくれるんじゃないでしょうか。ルート外でも一人で幾つかアイテム回収しているみたいですし」


 独自調査だと格好つけていた癖に、やっている事は私達と同じじゃないの。場合によってはリリアを同行させていたみたいだし、おねだりしたら教えてやる、なんてしょうもない取引をしようとした位だから、そこまで秘匿してはいないらしい。あの男について真面目に考察すればするほど、なんだか馬鹿らしくなってくる。彼の調査に協力するのだけは避けよう、と私は心に誓った。




※※※




 先生となるべく別行動をとりたい、とは願ったけれど。残念ながら私は特専クラスであまり歓迎されていない立場だった。


「俺達と一緒に? エディト先輩に文句を言わないって約束できるならいいけど」

「…………」


 ヒノの提示した条件に、無言で返答する。無理だわ。事あるごとについ小言をぶつけてしまうのが目に見えている。今だって、おろおろとした態度でこちらの様子を窺っている彼に、口がムズムズしてきたもの。


「ご、ごめん、クロリンデ。僕と一緒にいるのは嫌だよね。婚約者だからって無理に構おうとしなくても、いいから……」


 私を気遣っての台詞だろうけれど、第三者からすれば、婚約者に怯えて避けているようにしか見えないわ。言い返したくなったものの、余計に心証を悪くするだけなので、黙って二人を見送った。そしてシエル王子殿下は、今日も私に塩対応だった。


「貴様のような場の空気を悪くする者とは、協力などできん」

「そうですわね。シエル様が私に先輩として大人の対応をしてくださるなら、剣呑な空気にはならずにすむのですけれど」


 いけない、ついこの人相手だと喧嘩を売り合ってしまうわ。同族嫌悪なのかしら、相性が悪いわね。一応先生は途中でギスギスした雰囲気を取り繕うべく、皆さん仲良くしましょうねと声をかけてきた。勿論、大して効果はなかった。埒が明かなくなってきたところで、ルーリィがとうとう私にしがみついてきた。そして雨に濡れた子犬のように目を潤ませて、王子を見つめる。


「シエル様、私はクロリンデ様とも一緒に課題を頑張りたいんです。どうか私に免じて、先日の禍根は水に流していただけませんでしょうか」

「禍根だけの問題ではない、ただ彼女の容疑や人格を危惧して」

「なら、俺達が間近で見張っていればいいでしょう、殿下」


 続けて助け船を出してくれたのは、黙って聞いていたトラヴィス様だった。護衛役と後輩両方から説得され、彼はようやく渋々と私の同行を許可したのだった。



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