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第14話 決闘イベント

 決闘当日、指定された時刻に校舎裏へ向かうと、案の定人だかりができていた。場の主人公の如く仁王立ちするシエル王子殿下と、隣でなるべく気配を消して佇んでいるトラヴィス様。戦うのは護衛の彼だから、もっと存在をアピールしてもいいと思う。


「逃げずに現れた事には褒めてやろう、クロリンデ・ハドリー」

「シエル王子殿下直々のお誘いですもの。お受けしなければ無礼というものですわ」


 悪役みたいな言い方のシエル様に負けじと、口元で笑みを浮かべつつ強気で返す。すぐ後ろではルーリィがきょろきょろ辺りを見渡していて、当事者の私よりも心乱れているようだった。


「クロリンデ様、代理人問題をどうにか解決できそうって言っていたじゃないですか、もう始まっちゃいますよ!?」

「落ち着きなさい、行儀が悪いわよ。もう直に彼が……」


 ちらり、とさりげなく視線を巡らす。お目当ての姿はない。代わりに、見物人の中に悪魔の姿を発見してしまった。しかも、これみよがしにウィンクをされた。こちらが望めばいつでも助けてやる、という事だろう。絶対にお断りよ。


 悪魔から目を背け、こほんと咳払いをする。最後のあがきにもう一度あの姿が近くにないのを確認してから、声を上げた。


「先生、約束通り、お願いしますわ!」


 土を踏む音を、唐突に耳が拾う。私が呼んだのを合図に、ノーレス先生はよそ行きの笑顔で現れ出た。こっちが頼まないと出てきてくれないだなんて、近くで様子を窺っている悪魔より意地悪だわ。


「貴様、教師を盾にするとは卑怯だぞ!」

「あらぁ、決闘のルールに、大人の協力は禁止とは書かれていませんでしたわよ!」


 シエル王子の突っ込みに、ここぞとばかりの態度で言い返す。大人げない真似をしてごめんなさいと、ここで下手に弱気になっては負けてしまうので。


「ちょ、ちょちょちょ、クロリンデ様、あの先生を本当に頼ったんですか!? なんかやばい事要求されてません!? そのルートは地獄ですよ!?」


 青ざめたルーリィから小声で詰め寄られたのには、さっと視線を逸らした。得体のしれない要求はこの後される予定だし、ものすごく嫌な予感はするわ。決闘をどうにかするのが最優先だったから、仕方ないじゃないの。


 ノーレス先生は純粋そうな笑顔で周囲に手を振ってから、トラヴィス様達に向き直った。まるで今から遊びに出かけるような気軽さで、口を開く。


「クロリンデさんに、どうしてもとお願いされましたからね。いい機会だから、特別に個人授業をしてあげましょう、トラヴィス・ガトー君」

「……ありがたく、先生の胸を拝借します」


 代理人同士、前に出る。トラヴィスは姿勢を正してお辞儀をし、剣を構えた。柄部分に描かれているのは、王族の紋章かしら。かなり由緒正しそうな武器まで持ち出すなんて、全力でこちらを叩き潰す気満々すぎるわ。


 対して、ノーレス先生が懐から取り出したのは、杖ではなく木製の剣だった。教師としては生徒に刃を向けるのは避けたかったのかしら。よければ代わりの剣を用意しましょうかとシエル様に言われ、これで十分ですよと返したので、ただの慢心のようだ。


「君は確か、魔法学も履修していましたね。では、先生が今から使う魔法の属性を当ててみましょう」


 ノーレス先生はのんびりした口調で言ってから、剣を杖のようにしてもたれかかる。問題を出しておきながら相手の態度を待つなんて、嫌らしいわね。すごく罠っぽいわ。トラヴィス様も警戒はしつつ、埒が明かないと踏んだのだろう。決闘相手へ一息に詰め寄ろうとして──突然、動きをぴたりと止めた。まるで、透明な縄にでもがんじがらめに縛られたようだ。トラヴィス様の顔が苦しそうに歪み、振りほどこうともがいていたから、全く自由が利かないわけではないらしい。


「さあ、この魔法の構成は何でしょうか」

「……っ」

「はい時間切れです」


 先生は無防備に彼へ近づき、剣でぽこりと頭を叩いた。途端、硬質な何かが割れる音が響く。解放され地面に膝をついたトラヴィス様は、苦しそうに咳をした。もしかして魔法のせいで、上手く喋られなかったのかしら。最初から時間内に答えさせる気がなかったなんて、味方でなければものすごく卑怯だと内心罵っていただろう。


「光と、土ですか」

「風もです。複合属性を含む魔法についてのレポートを提出するように」

「……はい」


 さらっとレポートを要求してきたわ。トラヴィス様は突然の宿題に嫌な顔一つ見せず頷くあたり、随分と素直な方なのね。勝負が反則じみていたからか、敗北にそこまで悔しそうでもない。反対に、シエル様は怒りを込めた目で先生を睨みつけていた。


「さあ、これで特別授業は終わり。皆さんもそろそろ寮室に戻りましょうね」


 想像していたよりも手早く終わった決闘にギャラリーが肩透かしを食らっていたところで、先生がぽんと手を叩く。それで本当にお開きだと察し、人だかりはぞろぞろとはけていった。


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