第六話「パンッ パンッ パンッ」
案内された部屋は、かなり豪華な部屋だった。
特大のベッドを中心に豪華な装飾、さらにはバルコニーまで完備されている。
「ではこれで」
銀髪のメイドは案内をするだけしてさっさといってしまった。
早くひとりになりたかったからありがたい。
きっと仕事ができる人なのだろう。
「ああああああ」
疲れを吐き出すように唸り声をあげベットに飛び込んだ。
横になった瞬間、待ってましたといわんばかりの眠気に襲われ一瞬にして眠りについた。
ーーーーーー
パンッ パンッ パンッ
・・・・・・んんん?
「おい、起きろ」
パンッ パンッ パンッ
はっ?!
聞き馴染みのない音に目を覚ますと、何者かが寝ている俺の体にまたがり顔を往復ビンタしていた。
「起きろ」
パンッ パンッ パンッ
「いたっ、起き『パン』起きたっ『パン』起きてるのわかってるよね!?」
「ああすまない、つい夢中になってしまった。人をビンタするのは初めてでな、つい」
ついじゃねーよ
ってこの声、あと暗くてよく見えないけど顔も、どこかで見たことある人物だった。
こいつはたしか⋯⋯⋯
「カルラ⋯?」
「動くな。少しでも動けば殺す」
「⋯⋯⋯は?」
首元にナイフがあてられている。
なぜだ?俺を殺しにきたのか?
誰かの命令、まさか王の?だとしたら偽物だとバレたーーー
「安心しろ、私の質問に答えるのなら殺しはしない」
「質問って⋯?」
「お前、本当は伝説の勇者ではないだろう」
やはりそれか⋯完全にバレてやがる。
いやまてよ、だとしたら寝ている間に殺せばいいだけだ。
わざわざ俺を起こしたということは⋯⋯確証がないのか?
それならまだいける。逃げ道はある。
「いやだなぁ、俺は勇者だよ?実際に召喚されたわけだし」
「嘘をつくな!見ていれば嫌がおうでも分かる。お前は勇者などではない!」
チッ⋯頑固なやつめ。
だがこれはいける。
ここから先は感情論、パッションで押せばいけるはずーーー
「本当だ!本当に俺は勇者なんだ!信じてくれ!今ここでそれを証明できるものはない。だけど、俺の目を見てくれ!お前にはこれが嘘をついているやつの目に見えるのか!?」
「あぁ、嘘つきの腐った目をしている」
「なっ」
「第一、お前の行動と勇者の人物像があまりにも違いすぎる」
「勇者の人物像ってなんだよ」
「勇者の記録にはこう書いてあった。《勇者には羞恥心が一切なく、人目を気にせず裸になっていた》と。なのにお前は裸を見られたときに恥ずかしがっていた」
「ッッッふざけんな!!いきなりだったんだから当たり前だろ!?」
「他にはこうも書いてあった。《勇者は色事に目がなく多くの女性をたぶらかしてきた》と。それなのにお前が私や他のメイドに手を出していないのも変だ」
「はあ⋯??疲れてたんだよ!今日はなんかこう、色々あってだな」
こんなふざけた理由で偽物だとバレてたまるか。
冗談じゃないぞ。
「突然勇者だなんだともてはやされたからか?」
「ああそうだよ」
「ほう?」
「あっ、ちがっ。ちがうちがう今のは違うわ。それはおかしい」
「なにがおかしいんだいってみろ」
「言わせようとしてただろ!こんなのは誘導尋問だ!俺は認めないぞ!」
「なにをわけのわからんことを⋯⋯まぁいい。他にも記録とはかなり違った人間性の持ち主のようだがそれは一旦置いておこう」
彼女はそういうと俺の首元に構えていたナイフを離し、ベットから立ち上がった。
そして手に持っていたナイフをこちらに渡し、太ももからもう一本のナイフを取り出した。
なんだ?許されたのか⋯?
「私と勝負しろ」
「勝負⋯⋯?」
「ナイフを使った一騎打ちだ。貴様が勝てば私を煮るなり焼くなり好きにしろ。ただ私が勝てば正直に全てを話してもらう。その答えが納得のいくものではなかった場合、ここで殺す」
「ちょっと待てよ意味がわからない!なぜそんなことをしなきゃいけないんだ!」
「勇者なら強いはずだろう?私ごときに、まさかビビっているのか?」
うまいこと挑発できたという顔でニヤけてやがる。
ナイフなんて料理に使ったことがある程度だ。
俺に勝ち目なんてあるわけがない。
「勇者の証明にこれ以上のものはないだろう。最初からこうするべきだったな。さあ行くぞ!」
「ちょっ、心の準備がーーー」
待ったなしだと間髪入れずに突っ込んできた。
せーので行こうとかそういう掛け声はないのか???