第五話「偽物には死を」
「正直焦りましたぞ、裸で現れて何かと思えば今も知らないとかなんとか、まるで偽物みたいでしたから」
とりあえずその偽物っていうのやめてほしいな。
本物を知らないから偽物だという実感が湧かないんだよ。
もういい今言おう。
こういうのは後になればなるほど言いにくくなるものだ。
「あのですね、実は本当になにも『偽物だったらそなたを殺さないといけないところでしたわい』しらないフリをしたらウケるかなーって思っただけでして特に深い意味はありませんよハハッ」
あぶねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
今このジジイとんでもないこと言わなかったか?
え、偽物なら殺す???殺すって???
「なっ、なんで殺すんですか⋯⋯?いくらなんでも殺さなくても~、ねぇ?わけもわからずここに連れてこられて混乱してるでしょうし??いや僕は本物なんですけどね?」
「いやいや勇者殿。それが呼べるのは同時に一人までなんじゃよ。呼ぶのもこれまた大変で、せっかく呼んだのに無意味になったらたまりませんわい!ハハハッ」
ハハハじゃなくて。同時に一人しか呼べないから殺すって。
それ理由になってないから。
もう偽物ですなんて言える空気じゃないじゃん。
言ったら殺されるし。
俺の人生、終わったーーー
ーーーーーー
その後の食事は一切味がしなかった。
勇者の話題が出る度に食事を喉に詰まらせ咳混んだ。
「それでは勇者殿、今夜はゆっくりとおやすみくだされ。明日が本番ですから」
「えぇ⋯ぜひともそうさせてもらいます⋯」
「それと勇者殿、いい加減その言葉遣いは辞めませんか?」
背中に突然電流が走ったような気がした。
そうだ、途中からそれどころではなくなり忘れていたがこの人は王様なんだ。
建物の雰囲気的に、おそらくここは中世ヨーロッパ。
物語によくある時代だ。
この時代の貴族たちはなにかと首をはねたがる。
俺の下手な敬語は無礼だったかーーー
「伝説の勇者は無礼で不躾で、目上の人相手にも物怖じしない肝っ玉が座ってらっしゃるお人でしょうに。敬語はなしでいきましょうぞ!そのお気持ちだけで私は十分ですよ」
あ、そっち?そっちなの?
助かった⋯⋯⋯てか伝説の勇者ろくでもないじゃないか。
「そうだった、これからはそうします⋯ぜ」
「ハッハッハッ。よいよい。カルラよ、彼を部屋に案内してやりなさい。では勇者殿、私はこれで」
メイドに指示を出しこの場から立ち去っていった。
王様というよりこの国にとっての伝説の勇者というのは、どうやらかなり癖の強い人物らしい。
もしかして俺みたいにいきなり連れてこられた人なのかな?
だとしたらなにをして伝説になったんだ?
うーん、気になる。
でも聞けないよなぁ、俺ってどんな人でした?って聞くようなものだしな⋯。
偽物なら殺す、か。
「勇者様、お部屋に案内いたします。こちらへ」
「はい⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
カルラだっけ、王様がそう呼んでたよな。
髪の色は、銀色?白か?初めてみた。
本来ならここで話しかけてお近づきになるのが異世界あるあるだよな。
でも今はその選択肢が一切ないほどに今日は疲れた。