第四話「どうやら失敗してるっぽい」
「ではでは勇者殿、まずは突然お呼びして申し訳ない」
「いやぁ~⋯どうでしょうねハハッ。なにがなんだかといいますか」
王様だと知るや否や緊張して上手く喋れなくなってしまった。
「困惑されるの無理もない。なにしろ約束の日とは全く違うタイミングじゃからの」
約束の日⋯⋯⋯?
まったく話が見えてこない。
「あの~⋯ちょっと言いずらいんですけど状況がいまいちつかめていなくて、なんのことだか」
「まさかなにもわからないと!?⋯ってまたまた御冗談を~、さてはいきなりだったから怒っていますな?」
「いやいやいや本当に、ここがどこなのかとか約束の日がどうこうとか」
「⋯⋯⋯本当になにも知らないと?」
王様から先ほどまでの笑顔が消え急に真顔になった。
それと同時に周りから聞こえていた談笑もピタリと止み、全員がこちらの会話に耳を傾けた。
⋯なにその反応。
なんで急に静かになるの。
王様の隣にいるメガネのお前、「聞いていた話と違いますよ」みたいな顔で王を見るな。
えっなに?俺が悪いの?
「って冗談に決まってるじゃないですかーーー⋯⋯⋯ぁ?」
『ップ、ハハハハハハハハハハ』
「いや~一本とられましたぞ!流石はあの伝説の勇者というわけですか!」
ダメだーーー
言えない、こんな空気で言えるわけがない。
「ハハッ⋯笑ってもらえてなによりで⋯」
おいメガネ、「全くこの人というお方は」みたいな顔で俺を見るな。
本気だよ。本気で言ったんだよ。
少しづつだけど状況が見えてきた。
どうやら俺は【伝説の勇者】としてこの世界に呼ばれたらしい。
彼らの様子から察するにその人となりを知っているのだろう。
物語の登場人物なのか、はたまた実在する人物なのか。
そして俺は伝説の勇者じゃないといけないらしい。
そうではないと都合が悪いのだろう。
なんともはた迷惑な連中だ。
そもそも俺にはちゃんとした名前がある。
そんな誰かも分からないやつじゃない。
この世界のこともなにひとつ知らないんだ。
このまま誤解されていてもろくなことがないだろう。
正直にいって元の世界に返してもらおう。
うん。それが一番だ。